もう異世界は懲り懲りだ⁉︎   作:葛城 大河

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第一話 異世界召喚

眩い光。余りにも強烈な閃光に、篠宮零士(しのみやれいじ)は眼を瞑った。突然に起こった出来事に、彼以外の生徒達は大きな声を上げ、戸惑いを見せている。なにが起こったのか分からないのだろう。それも当然と言えた。代わり映えのしない教室で、会話を楽しんでいたら行き成り教室が光に包まれたのだ。例え頭脳明晰な人物でも理解するのは難しい。

 

 

そうこうしていると、眼が開けられない程の眩い光が収まって行き、視界に色が戻っていく。そこで一番最初に眼にしたのが大理石で作られた部屋だった。先程まで教室に居たのにも関わらず、眼を開けたら別の場所に居る状況に、生徒達は呆然とする。すると、呆気に取られている彼等の前に一人の少女が歩いてきた。金髪の髪を腰まで伸ばし、エメラルドグリーンの瞳をした少女。彼女が着ている真っ白な服の所為か、より神々しく映った。プロポーションも良く、服越しからでもスタイルが良い事が分かる。

 

 

男子達はそんな少女に鼻を伸ばしていた。そして少女は、生徒達を見渡して口を開いて言ったのだ。

 

 

「ーーーお待ちしておりました勇者様。私はエルステイン皇国が第二皇女ステラ・ウィル・エルステインと申します」

 

 

恭しい態度に戸惑う生徒達だが、それよりも困惑する言葉(ワード)があった。彼女は自分達の事を勇者、と呼んだのだ。それにより困惑する生徒達に隠れて、篠宮零士はまるで残業続きのサラリーマンの如くため息を吐いた。その心境にあるのは、ただただ厄介な状況に対するめんどくささと、そしてなによりも、

 

 

(………あぁ、またなのかよ)

 

 

自分の運命に対して吐かれた物だった。何故、また召喚(・・・・)されたのかを、零士は思い出そうと数十分前までの事を回想するのだった。そう事の起こりは数十分前までに遡る。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

篠宮零士にとって、学園生活は平和そのものだ。だからこそ、この彼が通う紅葉学園では、一生懸命に青春を謳歌しようと奮闘したりもした。まぁ、その全てが失敗に終わったのだが。それでもだ、彼は諦めるつもりはなかった。だが、そんな青春を目指そうとする彼は、とある問題にぶつかっている。それは、

 

 

(くっ、どうやって話しかければいいか分からねぇ)

 

 

紅葉学園に入学してから二年。零士には友達が一人も居なかったのだ。それもこれも、全てはある事件の所為なのだが、今更思った所で如何しようもない。もはや、終わってしまった出来事なのだから。とはいえ、青春を送りたいと思う零士にとって、それは由々しき事態だ。思えば、紅葉学園で楽しんだ事がない。もう二年生になっているのにだ。

 

 

(こ、これは駄目だ。この状況はいけないっ‼︎ 打開しなければ)

 

 

だが、どう話して良いものか。ゲームの話に割り込んで、自分もゲームの話をすれば良いのか? しかし、それは少し図々しくないか。零士はこれまでの事件の所為で、生徒達とどういう風にコミュニケーションを取れば良いか分からなくなっていた。所謂、生徒限定のコミュ症である。自分の家族とご近所相手なら、普通に話せるのに、何故か生徒達と話そうとすれば、話題が見付からず、言葉が出ない。話題を探そうと脳内で、過去を思い出すが如何せん血生臭い(・・・・)光景しか映らなかった。ならば、如何すれば良いんだっ⁉︎ と自分の教室である2-Bの自分の席で頭を抱える少年だ。

 

 

(くそぉ、早く考えないと、こうしてる内にアレ(・・)が起こるかもしれないのに)

 

 

悩んでも悩んでも、彼は仲良くなる方法が思いつかない。脳裏に肉体言語の言葉が過るが、それはもってのほかだ。あり得ない。うぅ〜と項垂れていると、教室がざわついた。気になった零士は顔を上げて、ざわついている場所に視線を向けて、そう言う事か、と納得した。教室の扉の前、そこに居たのはこの学園でも有名な男女だった。

 

 

一人は茶髪の髪に爽やかな笑顔が似合うイケメン、煌崎信也(こうざきしんや)である。誰にも分け隔てなく付き合い、その甘いマスクによりファンが多く一日に数十通ものラブレターが届くのは日常である。まぁ、簡単に言うと男の敵だ。よくゲームに出てくるようなハーレム主人公の持ち主だ。

 

 

二人目は煌崎信也の親友ポジションにいるバスケ部のエースである、赤石剛毅(あかいしごうき)だ。赤毛の髪と制服からでも分かる筋肉質な体をした俺様系イケメンだ。何時も煌崎と一緒に居る所をよく見かける。三人目は艶のある黒髪をすらりと伸ばす、大和撫子のような女生徒。橘 夏美(たちばな なつみ)、スタイルも良くそしてなによりも、性格も良いという美少女だ。紅葉学園でも多くのファンクラブが作られている程だ。彼女も煌崎同様にラブレターや、告白されるのが当たり前の日常となっている。

 

 

そして最後の四人目は、椎名 渚(しいな なぎさ)。肩までかかる赤髪に、スタイルが良く大和撫子である橘 夏実とは正反対な活発系の美少女だ。そしてなにより、零士にとって羨ましくある誰とでも仲良くなるのが早い特技のような物を持っている。元気良く飛び跳ねたりと、自分の気持ちを体で表現したりして、その豊満な胸が揺れ動くのは、2-Bの男子達のとって最大の悩みだ。

 

 

さて、こうして四人のリア充を説明したが、零士とは別次元な存在だ。そもそもすぐに友達が作れるとはなんだそれは、くっ俺とも友達になって下さい‼︎ などと馬鹿な考えを抱いた。

 

 

(それよりも、良く良く考えたら、このクラスはレベルが高いよな)

 

 

そして改めて四人の男女を見た後、教室に居る生徒達を見渡して前々から思っていた事を考えた。そうレベルが高い。零士の在籍している2-Bには美少女しか居なかった。男子生徒もイケメンしか居らず、フツメンは自分一人だ。噂でも自分のクラスの女生徒は、二学年の美少女が全員集まったのではないかと言われている。まぁ、確かにと納得する程にこの教室は美少女が多かった。しかし噂ではその全員が告白を受けるのは当たり前らしいときた。

 

 

(なんか、それもあってか話づらいんだよなぁ)

 

 

なんでこんな教室になったんだと憂鬱になる。全く自分だけが場違いだ。すると、教室の扉が勢い良く開けられ、そこから一人の女性が教卓の前まで歩いてきた。

 

 

「全員、席に着け‼︎ 今からホームルームを始める」

 

 

そう声を上げるのは、零士達の担任教師である黒原 柚木(くろはら ゆずき)である。クールビューティー美女なそんな我らが担任を見て、担任もレベル高いなぁと感嘆する零士だ。

 

 

「おい、煌崎、赤石なにをやってる? 早く自分の教室に戻れ」

 

 

すると、この教室に遊びに来ていた煌崎と赤石が、未だに教室に居る事に訝しみ声をかける。彼等は夏実と渚に会いにこの教室に来るのだ。まぁ、それは兎も角。柚木教諭の言葉に赤石は焦って扉に手を掛けて開けようとするが、何故か開かない。それに零士達も眉を寄せた。

 

 

「早く戻れと私は言っているんだぞ? 赤石」

 

「は、はい分かってますけど先生。あ、開かないんですよ⁉︎」

 

 

少し怒気を込めた柚木教諭に、冷や汗を流しながら教室の扉が開かないと口早に答えた。それに煌崎が言う。

 

 

「開かない? 剛毅。僕に代わってくれないかな」

 

「お、おう信也」

 

「んっ‼︎ あ、あれ本当に開かないぞ? 如何なっているんだ」

 

 

赤石に代わって扉を開けようとした煌崎だが、ビクともしない。そんな意味も分からない現象に、何度も開けようと試みるが、やはり何度やってもビクともしない。その光景に零士は嫌な雰囲気を感じ取った。

 

 

(お、おい待て。この展開ってまさか)

 

「なにをやってるんだ。お前ら退け‼︎ 私がやる」

 

 

零士が考えたくない物が脳裏に過ぎり、柚木教諭は扉を開けようと奮闘する二人に近付き、自分がやると告げて扉に手を掛けた瞬間だった。零士は久しく感じた魔力(・・)の波動を感じ取った。そして次の瞬間ーーー教室に閃光が迸った。

 

 

(や、やっぱりかぁーーーーーッッッ⁉︎)

 

 

光に覆い隠され、嫌な予感が的中した事に胸中で、彼は叫ぶのだった。そうして時間は最初に戻る。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「…………ゆ、勇者ですか?」

 

 

ステラの発言に最初に答えたのは、近くに居た煌崎信也だった。彼等はなにがなんだか分からず、眼を点にしていた。あのクールな柚木教諭も呆然としている。

 

 

「はい。貴方方は私達が呼んだ勇者様です」

 

「ぼ、僕達がですか」

 

「はい、そうです」

 

 

煌崎が口にした疑問にステラは言葉を返す。それに対して、未だに眼をパチクリさせている煌崎が自分に指を指して尋ねるとステラは笑みを浮かべて肯定したのだ。それでも突然の事で頭が回らない。だが、すぐに冷静になった柚木教諭は、すくっと立ち上がりステラに言った。

 

 

「あの、私達はまだなにが起きたのか理解出来ていません。教えて頂いてもよろしいですか?」

 

「あっ、そうでしたね。分かりました。ですが、今から貴方方にはお父様に会って貰わないと行けません。ですから、説明は歩きながらですが良いですか?」

 

 

柚木教諭はその立ち振る舞いや、皇女という言葉に目の前の少女が、身分の高い者だと気付き丁寧な言葉で聞いた。それにステラは忘れていたとばかりに言ってから、歩きながらだが話すと言うと柚木教諭は、頷きを一つして生徒達に向き直ると口を開いた。

 

 

「という事だ。歩きながらだが、今の状況を説明してくれる。お前達も早く立て」

 

 

その言葉に生徒達は混乱していた頭を冷静に戻して、立ち上がる。柚木教諭のお陰で如何いう状況か説明して貰えるのだ、目の前の綺麗な少女に。

 

 

 

少女ーーーステラ・ウィル・エルステインに連れられ、零士含めた生徒達は長い回廊を歩いていた。そんな中、零士はステラが行った説明に頭を悩ませていた。

 

 

(はぁ、次は(・・)“魔神”かよ)

 

 

悩ませているのは、自分達を召喚した理由にある。ステラが言うには、今この世界。名を幻想世界アールスは危機的状況に陥っているらしい。その元凶であるのが先程零士を悩ませていた“魔神”である。なんでも説明によれば、“魔神”は数年前に突然この世界に現れ、魔人を生み出して世界に進撃したのだと言う。各国は争ったが“魔神”の血肉によって作られた魔人の余りの強大な力に、為す術もないまま蹂躙されたらしい。

 

 

それに恐れを抱いた国々は、この現状を如何にか打破する術を探し、見付けたのが勇者召喚の魔法だとか。そう勇者召喚の魔法だ。即ち自分達は“魔神”を倒して貰う為に呼ばれた勇者と言う訳だ。勇者と言えば聞こえは良いが、無理矢理呼ばれた挙句に“魔神”と戦わせる為の道具にされるとしか思えないでいた。

 

 

(はぁ、また厄介な。この中に納得している奴が何人居る事か)

 

 

チラリと後ろから生徒達の顔を見れば、分かりやすく別れていた。興奮と歓喜の感情を浮かべる者、不安の感情を浮かべる者など様々だ。柚木教諭は、眉根を寄せて不信感を露わにしていた。まぁ、あの人ならそう思うだろうなぁ、と零士は頷く。それにしても、と興奮と歓喜の表情をしている男子生徒(馬鹿共)に視線を向ける。その気持ちは確かに分からんでもない。異世界召喚と言えば、確かに高校生男子にとっては興奮するだろう。

 

 

しかし、零士はその感情が後になってミスを起こす事を知っていた。だが今ここで指摘しても信じて貰えないだろう。さて、如何したら良いか、と考えていたら先頭を歩いていたステラが立ち止まり、前にある荘厳な扉に手を向けた。

 

 

「皆様、この中に私のお父様が居ります。くれぐれも粗相のないようにお願いしますね」

 

 

お父様。所謂、この国の王と言う事だ。何処からかごくっと唾を飲み込む音が聞こえた。そしてステラはゆっくりと、扉に手を掛けて開いた。視界に広がるのは紅い絨毯が広がった謁見の間だ。両端の壁には甲冑を着た兵士達が武器を持ち、微動だにせず立っていた。そしてその先、玉座に座るのは一人の老人この国の皇王だ。その皇王の後ろに居るのが、宰相とお付きの護衛騎士達である。

 

 

またステラの後を歩き絨毯を踏み締める。そして皇王の前に着くと、ステラは頭を下げた。

 

 

「お父様。只今、異界より召喚された勇者様達を連れてまいりました」

 

「うむ、下がって良いぞステラ」

 

「はい。分かりました」

 

 

皇王の言葉に頭を戻し、ステラは離れた場所に移動した。残ったのは三十数名の生徒と皇王である。王の鋭い視線に生徒達は緊張した。そして皇王が口を開く。

 

 

「初めましてだの。異界の勇者よ。儂はエルステイン皇国の王であるガリウス・ウィル・エルステインだ」

 

「私は黒原柚木と申します。いや、此方の世界風で言うのならば、ユズキ・クロハラでしょうか」

 

 

皇王ガリウスの言葉に生徒達の中から柚木教諭が、出てきて頭を下げて自己紹介した。

 

 

「うむ、お主がその者達の代表か?」

 

「はい、一応そうなります」

 

「ならば、お主達がこの世界に呼ばれた理由は、もうステラに聞いていると思うが」

 

「はい、そこは理解しました」

 

「では、我等に協力してくれるな」

 

「………それは」

 

 

ガリウスの有無を言わさない言葉に、柚木教諭は言い淀む。これは考える迄もない。普通なら断るべきだ。しかし、周りに居る兵士達に視線を向けた。自分は今や生徒達の代表であり保護者だ。無事に御家族に返す義務がある。もしも、ここで断れば目の前の王がどう出るか分からない。ステラは少し話した程度だが、良い子だと分かった。彼女なら、もしもの時は止めてくれるだろう。だが、それよりも確認したい事があった。

 

 

「お、お言葉ですがガリウス陛下。私達には戦う術はありません。そこの所はどのようにお考えですか?」

 

「おぉ、その事か。ならば、安心すると良い。お主達がこの世界に来た瞬間、戦う力はもう備わっている。その為の勇者召喚だ」

 

「そうなのですか。で、では陛下お願いがあります」

 

「ほぅ、お願いとは」

 

「もしも、戦いを望まない者が居たら、戦わせる事を強制させないで貰えますか」

 

 

ガリウスの答えに戦う事は避けられないと感じた彼女は、苦肉の策としてそう提示した。流石に一国の王に願うのは無礼だと思ったのか、周りで不穏な気配が放たれたが、しかし、ガリウスは柚木教諭の願いを聞き入れた。

 

 

「その事か。良いだろう。もしも戦いを拒む者が居れば、その者達は安全な場所で守ると誓おう」

 

 

その発言にホッと胸を撫で下ろした。これで、生徒達は全員が戦いたくないと意思表示をしたら良い。戦いは自分一人だけでやれば良いのだ。黒原柚木にとって生徒達を守られるなら、自分が傷付いても問題なかった。それ程までに彼女は生徒思いの教師だった。しかし、そんな彼女の思いを無駄にするものがいた。ステラから聞いた世界事情に、如何にかして助けたいと感じた者が。その者が生徒達の中から足を踏み出す。

 

 

「ガリウス陛下っ。僕は戦いに参加します‼︎」

 

「…………なっ‼︎」

 

 

膝を付いて叫んだのは煌崎信也だ。その発言にガリウスと他の兵士達からおぉ〜と言う声が聞こえ、柚木教諭は馬鹿なという表情をした。そして彼女が止めるよりも早く、煌崎は立ち上がって生徒の方に向き直り、まるで演説でもするかの如く語った。

 

 

「皆っ‼︎ 皆も参加しよう。僕はステラからこの世界の事を聞いて胸を痛めた。確かに僕達は別世界の人間だ。だけど、傷付いている者達を見て見ぬ振りは出来ない。だから皆も僕に協力してくれないか」

 

 

そんな煌崎の発言に数瞬、生徒達が湧いた。主に男子生徒だが。「俺もやってやるぜぇ‼︎」「異世界来たぁぁぁっ‼︎」「煌崎と居れば負け無しだぜ」などなど随分と抜けた言葉を叫んでいた。そんな中、零士はやっぱりこうなったかと予想が的中したように頭を抑えていた。だが、それでも冷静な者達も居るようです零士は視線を向ける。そこには我等がクラスの美少女生徒達が男子に呆れの瞳をしていた。恐らく彼女達は気付いているのだろう。

 

 

戦いの意味を。分かっているからこそ、賛同しかねるのだろう。そう殺し合いだということを。叫んでいる彼等は戦うという意味を完全に理解していないのだ。零士は如何してあんな事を柚木教諭が言ったのか全てを理解していた。あの教師は、確かに自分達には厳しい人だ、しかしそれ以上に大事にしている事は知っていた。だからこそ、心優しき教師の思惑は理解した。にも関わらずこの男(煌崎)は柚木教諭が提示した願いを意味をなさなくしたのだ。

 

 

これで半数のとはいえ、殆どが男子だが戦うを選択すれば、自分も含めて女子達も戦う選択を取らなければならなくなった。もしも、こんな雰囲気で戦わない選択を取れば、この場に居る者達から、糾弾されるのは必至だ。まぁ、零士にとって糾弾されたとしても意に介さないが、これからの生活に支障がきたすのは眼に見えている。故に、戦う選択を取るしかなかった。

 

 

(本当に厄介な事をしやがって)

 

 

零士はそんな元凶を作った煌崎に、女子達の分も含めて睨み付けるのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「では魔力検査をしよう。ロイド持ってきてくれ」

 

「かしこまりました」

 

 

騒いでいる煌崎達を一瞥してから、ガリウスは控えていた宰相にある物を持ってこさせた。それは綺麗な水晶だ。水晶を宰相ロイドは、煌崎達の所に持って行った。

 

 

「………これは?」

 

「それは魔力検査に用いる水晶だ。それに手をかざせば、その者の魔力と属性が分かる」

 

「なるほど」

 

 

疑問を浮かべる煌崎に、ガリウスは答えた。それに納得して、早速と言わんばかりに赤石が出た。

 

 

「良し、じゃあ俺から先だな」

 

「あ、剛毅」

 

 

煌崎の声を無視して赤石剛毅は、水晶に手を置いた。すると、水晶の中に変化が現れる。水晶が光り輝いたと思えば、その次に炎のような赤が浮かび上がった。その光景に兵士達から感嘆な声が上がった。

 

 

「おぉ、なんという魔力量だ」

 

「これが勇者様か」

 

「ん? 良く分からねぇが凄えのか?」

 

「はい、凄いです。魔力検査が終わった後、先程の事は説明しましょう」

 

 

兵士達のどよめきに首を傾げる赤石に、先程の事は凄いのだと教えた。どうも魔力量が尋常ではなかったらしい。そしてその次に煌崎が試した。瞬間。赤石の時が小さく思える程の閃光が発生した。後に多種多様な色が浮かび上がっては消えた。その光景に謁見の間に居た兵士と皇王、ステラが呆然とした表情をする。

 

 

「す、凄まじい」

 

「伝説の勇者の力がこれ程とは」

 

 

呆然と呟かれた言葉に、煌崎は自分が凄い事をやったのだと自覚した。それから次々に現れる生徒達の異常な魔力量に、最早驚くのも疲れてきたらしい。ステラは呆れていた。そしていよいよ零士の番が訪れた。

 

 

「貴方が最後ですね」

 

(はぁ、とうとう来ちまったなぁ。俺の番が)

 

 

もう結果は分かり切っている。が、ここでやらなければ、面倒な事が起こるだろうと予想してロイドの元に足を進めた。そして差し出された水晶の上に観念したように右手を乗せる。…………さて、何秒経過しただろうか? 幾ら時間が経っても水晶には変化が見られなかった。その結果に、あぁやっぱりなと零士は分かり切っていた事を再確認する。

 

 

「これは如何いう事だ?」

 

「可笑しいですね? 故障でしょうか?」

 

 

なにも起きない現象に、ロイドとガリウスの二人は訝しむ。だがステラだけは、まさかといったような表情を見せ、その次に申し訳なさそうな顔を向ける。それに零士はこの子は本当に優しいのだなと思った。そして水晶を調べていたロイドは、原因が分かるとあり得ないと口にした。

 

 

「如何したロイド? なにか分かったのか」

 

「は、はい陛下。とても信じられないのですが、この者は魔力なしです」

 

「なんとッ⁉︎ 魔力なしだと‼︎」

 

 

信じられずもう一度尋ねるガリウスに、ロイドはそうですと頷いた。すると、すぐにガリウスの表情が変化した。それはまるで出来損ないを見るように、ゴミを見るように冷徹になったのだ。それは結果を聞いていた兵士達も同様だ。魔力なし。それはこの世界において落ちこぼれの烙印を押される程のものだ。そもそも、幻想世界アールスでは魔力がない者など居ない。それが例え平民でも、スラムの子供ですら魔力は少なからず存在する。そんな魔力が一切ない者は、この世界では忌避の対象とされた。

 

 

(何処の世界でも一緒だな。魔力がない奴の扱いは)

 

 

その石ころを見るような視線に、零士は呆れる。もう慣れた視線だ。しかし、他の生徒達は何故皇王がそのような視線を向けているのか理解出来ていない。いや、何人かは勘付いている。

 

 

「如何したのですか? ガリウス陛下」

 

「いや、なんでもない。勇者達よ。召喚されたばかりで、疲れただろう。部屋を用意した、そこでゆっくりと休むが良い」

 

 

柚木教諭もその勘付いた一人だ。だからこそ、前に出てなにか問題でもあるのかという風にガリウスを見据えた。その視線にガリウスも意図を読んだのか、視線を逸らしメイド達を呼ぶと部屋に案内するように告げた。男子の一部がメイドを見た瞬間、叫んでいたが無視する。

 

 

「…………これからが、面倒だ」

 

 

皆と一緒にメイドの後を追いかけて、零士は心の中ではなくポツリとそう呟いた。後ろから睨み付けてくる皇王の視線に憂鬱な気分になった。が、

 

 

「ま、如何やら前の世界(・・・・)とは違って、優しい姫様で良かった」

 

 

未だにこちらを心配そうな眼差しで見詰めるステラに、苦笑してそこだけは良かったと口にする。そしてーーー

 

 

メイドの後を歩き、窓から見える青空を見据えて一言呟いた。

 

 

「ーーーただいま、異世界(・・・・・・・・)

 

 

新たな世界に、自分の帰還を告げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、主人公は魔力なしです‼︎ 魔法は使えないが、それに代わって別物の力と特異な力があります。
そしてステラちゃんは、王や兵士達と違って優しく良い子です。まぁヒロイン一号ですかね。
次にタグ通りヒロインが多くなるかもしれません。さぁて、柚木先生もヒロインにしようか迷うねぇ。

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