もう異世界は懲り懲りだ⁉︎   作:葛城 大河

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仕事が忙しい今日この頃。早く投稿したいと思っても、中々、投稿が出来ない。


そう全ては仕事の所為だ。なんだよ残業八時間って、もうそれは残業とは言わねぇよ。

………………すいません‼︎ 言い訳でしたッ‼︎ 他の作品も近日中に投稿するので、許して下さいっ。


第三話 谷底での戦闘

 

黒原柚木にとって、篠宮零士は何処までも不思議な少年であった。彼女が初めて彼を不思議に思ったのは一年前の夏の日である。蝉が騒がしい程に鳴いていた季節。そこで柚木は、街の一角で少年を囲むゴロツキを見掛けた。一人に対して行われようとしている行為に、それが許せない彼女としては、そちらに足を向けるのは当然と言えた。しかも、囲まれている少年が自身のクラスの生徒なら尚更である。

 

 

だが、柚木が彼等の所よりも早く一人の少年が割って入ったのだ。

 

 

「いや〜、遅れて悪かったな」

 

「……………え?」

 

 

知り合いに向けて言うように気軽い声と共に、ゴロツキ達の間を通り抜けて、絡まれていた少年の前に立ち止まる。黒髪黒眼の何処にでも居そうな、ごく普通の少年だ。彼は突然に友人のように声を掛けられた事に戸惑う少年など関係ないとばかりに、手を掴んだ。

 

 

「それじゃ行こう」

 

「え、えっと」

 

 

戸惑う少年は困惑の表情を露わにしながら、目の前の彼に視線を向ける。その表情を見れば、誰だってこの二人に関係性がない事が分かるだろう。離れた場所から、ことの成り行きを見ていた柚木もそれには気付いた。と、同時に間に入った少年の服装にも気付いた。

 

 

(…………あの服は紅葉学園の制服)

 

 

自身が教師として勤めている学園の制服だ。という事は、彼は紅葉学園の生徒だという事だ。柚木は彼の制服の左胸にある学園の校章の色を確かめた。校章の色は青。この校章の色で、どの学年か分かるようになっており、青色は一年生の証拠である。一年生か、と納得していると彼女の耳朶に怒声が響き渡った。如何やら会話が進んでいたみたいだ。

 

 

「オイオイオイ、何処に行こうとしてんだよぉッ」

 

「勝手に俺等の財布ちゃんを連れて行こうとするんじゃねぇよ」

 

「なんならテメェが、俺等の財布になるかぁ?」

 

 

連れて行こうとする少年の前を遮り、ゴロツキ達が声を荒げる。対して少年達の方は対照的であった。後ろに居る弱気な少年は、ゴロツキの怒声に全身をビクッと震わせて怯えていた。しかし、もう一人の少年は怯えもせず、ただ呆れたようにため息を溢しているだけだ。その態度が余計にゴロツキ達の怒りを買う事になる。そしてゴロツキが少年の胸ぐらを掴んで、叫んだ。

 

 

「テメェなめんじゃねぇぞっ‼︎」

 

「殺されてぇのか‼︎」

 

「…………殺す?」

 

 

だが、次の瞬間。周囲の空間が凍り付く。ゴロツキの一人が言った言葉に少年が反応したと同時に、押し潰すかのような圧迫感が襲ったからだ。突然の圧力に少年の胸ぐらを掴んでいたゴロツキの表情が硬直する。彼だけではなく、他の二人も一歩後ずさった。それは目の前の少年を恐れた事を意味していた。後ずさるゴロツキ達に、少年はゆっくりとした動作で顔を上げた。

 

 

「殺す? お前、今殺すって言ったか?」

 

 

確かめるように静かに尋ねる少年だ。別に少年は何処も変わっていない。ただ変わらない表情で言っただけの事。しかし、何故かそれが彼等にとって恐怖に映った。蛇に睨まれた蛙の如く、全身に金縛りが起こりゴロツキ達は身動きが取れない。それだけ少年から放たれる威圧感が凄まじいのだ。硬直するゴロツキ達に彼は近付いていく。まるで怪物とでも遭遇したかのように、表情を青褪めさせて三人のゴロツキは後ずさる。

 

 

「………余り、殺すなんて物騒な言葉は使わない方が良いぞ」

 

 

────それで殺されたら、文句は言えないからな。

 

 

一人のゴロツキの横で立ち止まり、小さくそう呟いた。耳元で言われた言葉に、背筋に寒気が奔る。すると、彼は何事もなかったかのようにもう一人の少年の手を引いてその場から離れたのだ。それが柚木が零士を一番最初に見た光景であった。それからと言うもの、彼女は幾つか、その少年が色んな所で人助けをする現場を目撃する事となる。それを見て、心優しい少年だと興味を抱き、視線を向ける事となったのだ。しかし、時折、彼女は少年、篠宮零士を不思議だと思う所を見付けた。

 

 

まずは、少年が発する謎の威圧感。そしてやはり気になるのは、彼の格闘技術である。とある時に、偶々目撃した現場では複数人の男達をたった一人で倒したのである。しかも、危ない所など一度もなく、圧倒的と言える程の力でだ。一体何処でそれ程の技量を手に入れたのか。疑問は尽きない。そんな見続けた結果、何処か不思議な少年だと行き着いた。そして時は遡り、柚木を含めたクラスの全員が異世界に召喚されたのだ。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

深い深い、谷の底の底。周囲が暗闇で覆われ、目の前すらも見えない闇の中。そこに、まるで存在感を主張するかのように、暗闇の一角が照らされていた。照らされている場所には三人の人影が映る。気絶している白髪の華奢な少女と、スラリと艶のある黒髪を伸ばす女性。そして黒髪黒眼の少年だ。

 

 

(…………なんだ、これは)

 

 

黒髪の女性────黒原柚木は目の前の光景に呆然とする事しか出来ない。三人を囲むように距離を縮める、怪物達。なにかの動物の特徴は持っているが、しかし、明らかに生物と言うには悍ましい姿をしている。数日前にエルステイン皇国を襲って来た怪物達以上の醜悪さだ。この世界に来て、訓練を積み強くなった柚木は見ただけで、どれ程の力があるのかを分かるようになっていた。

 

 

だからこそ分かる。目の前に居る怪物達の力は、恐ろしい程に強大だと。しかし、だから柚木は混乱するしかない。眼前で行われているモノに。柚木の視線の先で、斬線が走った。ズルリと五メートルを超す巨人の体が上下に別たれる。次いで拳が振り抜かれると、防御しようとして狼に似た異形が前方に展開した障壁など、まるで無かったかのように、意図も容易く突き破り頭蓋が粉砕する。

 

 

近付くのは危険と判断したコウモリの異形は、口から音波を発生させて遠距離から音の弾丸を繰り出す。だが、無造作に振るわれた剣から衝撃波が放たれ、音の弾丸ごとコウモリの異形は叩き潰された。次々に行われる光景。前から襲えば、斬撃が奔り、背後からの奇襲も、後ろに眼があるのか触れる事さえさせずに叩きのめす。

 

 

ならばと、遠距離からの攻撃でさえ、斬撃を飛ばされ無意味と化す。力押しをしようにも、それ以上の力で消し飛ばされる。それ等を引き起こしているのは、柚木達の前で守るように立つ一人の少年だった。彼が足を踏み出せば、もうそこには()らず異形の前に立っている。剣を振れば、簡単に斬り裂け、拳を振り下ろせば触れるモノは粉砕する。と、鱗を持つ異形に少年の剣が弾かれた。

 

 

今まで同胞を屠った斬撃が効かない事に、全身に鱗を持つ異形が醜悪に嗤う。しかし────

 

 

「もう少し、強く斬るか」

 

 

少年が一言を呟いたと共に、鱗の異形は一刀両断された。先程のように弾く事も出来ず、すんなりと剣閃が異形を斬り裂いた。余りに疾い斬撃により、異形は斬られた事など気付かずに絶命する。ドチャリと動く事がない肉塊となり、地面を転がる。

 

 

「ふぅ、結構倒したな」

 

 

一息付いて周囲を見渡し、呆れた声を漏らす少年だ。彼の周りには、何体もの怪物達の亡骸がある。一体、どれだけ殺したのか。何体も重なるように転がっており、最早、数え切れない。だが、こんなに殺したにも関わらず、周りの異形の数が少なくなってはいない。そんな事に、ウンザリしたように肩を落として、鋭い視線を異形達の奥に向けた。

 

 

そこに存在する怪物に向けて。腐臭を撒き散らしながら、ドロドロと液体を垂らし、全身から赤い、紅い、赫い瞳をギョロギョロと動かす瞳の異形の姿があった。まるで周りの異形達を指揮するように存在する怪物。恐らく、アレがこの集団のリーダー的な役割なのだろうと、簡単に推測出来る。

 

 

(それにしても、アレは生物というよりも、怨念が具現化した存在だな)

 

 

瞳の異形を見据えて、確信を込めた言葉を胸中で呟く。零士はアレが放つモノを知っていた。己の内に秘める『聖剣』とは全く逆の性質だからだ。『聖剣』が希望や正の性質を持つなら、アレは怨念や負の性質を持っている。『聖剣』の担い手たる彼は、その怨念や負の性質に敏感だ。いや、零士の場合は、自分が昔にそこに堕ちた(・・・)事を経験しているから、より敏感なのだろう。

 

 

(…………ハッ、そんなのは如何でもいいな。ようは、彼奴を殺せば良いだけだ)

 

 

嫌な過去を思い出したというように、顔を顰めると剣を数度振るった後、両足に力を込める。瞳の異形の姿を視界に入れ続けるだけで、思い出したくもない光景が脳裏に過る。自分が行った(あやま)ちの数々。少年が絶望して、道を踏み外した過去の出来事。知らずのうちに剣の柄を力強く握り締める。

 

 

「お前を見てると、嫌な事を思い出す。だから、ご退場願おうか」

 

 

そして零士は地面を蹴った。たったそれだけで、彼の体は掻き消えて、周囲に居る怪物達の横を通り抜けて、一瞬で瞳の異形の眼前に肉薄する。だが、異形は零士の姿を捉えていたらしく、全身から現れている赫い瞳が全て、少年の方に向けられていた。すると、赫い瞳が光った。赫い閃光が放たれ、零士を襲う。しかし、その程度で零士が怯む筈がない。右手に持つ剣を横一閃に振るう。それだけで、閃光が斬り裂かれる。

 

 

だが、異形は関係ないとばかりに続けて閃光を放ち続けた。一つ一つが馬鹿げた威力を持つ閃光は、少年の持つただの剣によって斬られていく。例え閃光の数が増えようとも、少年に隙はない。その事を理解した異形は、閃光を放ち続けながら、自身の中心部からギョロリと大きな赫眼を露わにした。と、同時に赫眼が怪しく光る。

 

 

「────ッ⁉︎」

 

 

変化はすぐに起きた。変わらずに閃光を斬り裂いていく彼の体が異常を来たした。全身が冷えて行き、グラリと体を崩す。そんな自分の状況に、彼はすぐになにが起きているのかを瞬時に見破った。

 

 

(くそっ⁉︎ 魔眼かっ)

 

 

魔眼。数々の能力を秘める瞳の事だ。弱いものなら、些細な力しか発揮出来ないが、強力なものは見ただけで生物を殺すという危険なものまである。故に魔眼保持者は、例えどんな能力を持っていたとしても、貴重な人材として国に保護されるのだ。まぁ、国によっては化け物と罵る場所があるが。一体、どんな魔眼の能力かは知らないが、このままでは危険だと自身の直感が告げている。

 

 

ならばやる事は一つだけだ。そう思うやすぐに集中力を高めていく。魔眼の力を破るのは幾つもある。一つは、他者の力を借りてなんとかしてもらうか。一つは、同じ魔眼の力を用いて相殺させるか。一つは、その魔眼が放った力とは逆の力をぶつけるかだ。だが、零士は今述べた方法を取る事は出来ない。唯一、他者の力を得る方法は取れるが、まだ異世界に来て数週間の彼女達が魔眼の知識に詳しい筈がない。

 

 

故に無理だ。ならば、彼は如何するのか。そもそも彼が魔眼に取れる手段は一つしかなかった。自身の奥底に眠る『聖剣』に意識を向ける。顕現させる必要性はない。ただ力の一端を使えればそれで良いのだ。瞬間。零士の全身から極光が迸った。辺り一帯を照らす程の凄まじい輝き。それは一瞬だけ、『聖剣』の力を行使した時のもの。『聖剣』の力が自身に及ぼしていた魔眼の能力を問答無用に無効化する。

 

 

それが数ある『聖剣』の力の一つ。魔法や魔眼、能力といった全ての神秘の否定。消えた熱が自分の体に戻ってくるのを自覚する。異形の方に視線を向ければ、赫眼が見開かれていた。魔眼が破られた事に驚愕しているみたいだ。しかし、それも一瞬の事。再度、魔眼の力を放とうとする異形だ。

 

 

「………もうさせるかよっ‼︎」

 

 

魔眼を発動されるよりも早く、覇気で身体能力を強化して一気に駆け抜ける。先程の速さを超えた速度を持って、肉薄する。

 

 

「ふっ…………‼︎」

 

 

そして一息吐いて、剣を振るった。覇気を纏った斬撃が、異形の体を両断する。だが、それだけでは終わらない。覇気の強化と同時に身体能力を上書きして、再度、剣を一閃させた。両断された異形を、またもや両断しても動きは止まらない。斬れ味や身体能力など上書きし続けながら、剣を振るうのを辞めない。両断され、両断され、両断される異形。遂には、肉片の一つも残さずに斬り刻まれていった。

 

 

後に残るものはなにもない。瞳の異形が居た場所には少年が一人のみ。文字通り異形の姿を斬滅させた零士は、残りの怪物達の方に視線を投げた。指揮官は殺した。後は困惑する怪物を駆除するだけだ。幾分か楽となった作業を、零士は開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

予想通り瞳の異形が居なくなったおかげで、統率が取れなくなった怪物達を、零士は一体ずつ苦もなく殲滅させた。足元には怪物達の成れの果てが転がっており、死屍累々といった惨状だ。零士は剣に付着している血を振るう事により落として、鞘に収めると、背後に居る柚木に近付いた。

 

 

「大丈夫ですか先生?」

 

「あ、あぁ私は大丈夫だ。そんな事よりも…………」

 

 

心配する声音で尋ねる彼に、柚木は呆然としながら頷きを返して、少年とその先に広がる死屍累々の光景を視線で行ったり来たりさせている。そんな顔の動きに柚木が、なにを聞きたそうにしているか気付き、零士は頭を掻いて取り敢えず、この場所から離れる事を提案した。

 

 

「先生が言いたいは分かります。だけど、まずはここから離れる事が先決です」

 

「…………そうだな。確かにまた、あの怪物達が来るかも分からない。ここから離れるとしよう。だが、」

 

 

そこで一旦区切り、彼女は言った。

 

 

「絶対に説明してもらうからな篠宮」

 

「分かってますよ。俺ももう隠し通せるとは思ってないので」

 

 

ため息を溢して零士は答える。それを聞いて柚木は視線を外し、腕に居る唯をか抱えようとするが、痛めている足の所為で抱えられない。すると、零士が柚木の腕の中から軽い動作で、唯の体をヒョイッと横抱きする。

 

 

「それじゃ、行きますか先生」

 

 

安心させるような笑みを浮かべて、柚木に向けて告げると歩き始めた。それに柚木も何処か、この状況に慣れているような少年の背中を見ながら、着いて行く。彼等の動きに連れて、零士が作り出した光球もふわふわと浮きながら動く。そして後に残ったのは、少年が斬り捨てた怪物達の亡骸だけである。

 

 

零士達が歩く事、数十分が経過した。草壁 唯を横抱きにしているが、彼には疲れなどなく軽い足取りで歩いている。しかし、チラッと後ろに視線を向ける。

 

 

(先生はそろそろ限界だな)

 

 

我慢して耐えているが、柚木の額には汗が出ていた。それもその筈だ。直撃しなかったとはいえ、竜種の一撃の余波を叩きつけられたのだ。それだけでも肉体的なダメージは凄まじいだろう。足も痛い筈なのに、泣き言の一つも言わないのは、自分に心配させない為だろうと、簡単に予想が付く。この教師は何時もそうだと苦笑してしまう彼だ。

 

 

歩を進めながら、休める場所を探していると、零士の耳朶に微かな水の音が聞こえた。その事に零士は笑みを浮かべた。水が流れているという事は、何処かに繋がっているという事だからだ。もしかしたら、すぐにこの渓谷から抜け出せるかもしれない。しかし、まずそれよりも柚木の手当てが先だ。魔力がない零士には勿論、回復魔法など使える筈もない。唯が起きていれば、すぐに問題は解決するのだが、今はそう言っても仕方がない。

 

 

水があれば、応急手当てぐらいは出来るだろう。汗を流す柚木に声をかけて、離れない程度にゆっくりと足を進める。そこからまた数分が経った時、柚木にも水の音が聞こえたのか、顔を上げていた。

 

 

「…………篠宮」

 

「はい。そろそろ、水がある場所に着きます。そこで一旦、休憩しましょう」

 

 

すぐに自分達が無事である事を、皆には知らせたいが、焦っては良くない事が起きる。その事を零士は良く知っていた。だからこそ、休める時は休むのだ。それに彼女の怪我を放ってはいけない。一歩を進む度に、水の音が大きくなっていく。そして、零士達は広い空間に出た。まぁ、出たと言っても、見えるのは彼が生み出した光球が照らす場所だけだが。それでもこの場所が、広い空間なのは感じ取れた。と、そこで水が流れている所に零士は光球を飛ばして照らして見せる。

 

 

その部分だけが明るく照らす。しかし、そこには零士が望んでいたものはなかった。

 

 

「ま、そんな簡単には行かねぇよな」

 

 

水は流れていた。ただし、上からだが。頭上を見上げると、数十メートルの所に大きな穴が空いており、そこから水が勢い良く流れ落ちていた。この事も予想していた彼としては、当然の反応だ。そう簡単にこの渓谷から抜け出れる筈もない。何故なら、今自分達が居るここは入ったら二度と出る事が出来ないと言われている場所なのだから。

 

 

ため息を吐きつつ、安全な場所に零士達は移動する。すると、空洞を見付け、取り敢えずはそこで一休みする事にした。

 

 

「取り敢えず、先生はここで草壁と一緒に休んで下さい」

 

「待て篠宮っ‼︎ お前は如何する気だ?」

 

「俺はこの辺りを見て来て、使えそうなものを持って来ます」

 

 

あ、それと光がないと心細いと思うので残して起きますね、と掌から新たな光球を放って、零士は空洞から出て行った。残ったのは、足を痛めた柚木と気絶して横になっている唯の二人だけ。零士が居なくなって静かな空間となった場所で、柚木が息を吐く。

 

 

「………まるで、この状況に慣れているような動きだったな」

 

 

これまでの少年の動きを思い出して、静かに呟く。焦った表情など見せず、何処までも冷静に行動していた。何度も経験(・・)しているかのように。それにあの戦闘能力。この世界に来て柚木は、どれだけ魔力が大事なのかを身を以て知った。ただ魔力で強化しただけで、超人になれるのだ。にも関わらず、彼は魔力を持たない筈なのだが、尋常ではない実力を目の前で見せ付けたのである。

 

 

気になる事だらけだ。ジクジクと痛む足に手を添えて、柚木は自分の生徒である篠宮零士の顔を脳裏に思い浮かべた。今は一休みの時。何時、あの怪物達が現れるかも分からない。しかし、それでも彼女はこの時間がチャンスだと思った。

 

 

「篠宮………帰って来たら話してもらうからな」

 

 

言い逃れも、逃がす事も許さないと言った声音で告げた柚木の言葉は、空洞内に木霊するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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