もう異世界は懲り懲りだ⁉︎   作:葛城 大河

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お久しぶりです。新しい話を投稿します。

一ヶ月以内に投稿出来て良かったぁ。ってか、なんで俺は日曜も仕事をしているんだろうか?


第一話 連盟の使者

 

魔人が襲来した事件から数日が経過していた。怪物達が一掃され、この出来事が魔人の仕業だと御手洗和樹からの証言により告げられた事に誰もが驚愕した。しかし、その魔人はもう何処にも居ない。だが、和樹からの発言に、その魔人と戦っていたという事が分かると、和樹達、勇者が国に怪物を放った魔人を倒した事を公表したのだ。その事に、初めて魔人が倒された事に民主達は喜び、勇者達を讃えた。

 

 

とはいえ、それに納得していない者が居た。讃えられた和樹である。彼は自分が魔人を倒してはいないと知っているからだ。あの時、意識が暗転する前に、自分以外の誰かが側に居た事を覚えている。恐らく、その人物が魔人を倒したのだろう。和樹はその人の手柄を横取りしたようなものだ。それに納得がいっていない彼は、何度も皇王や貴族達に言っても、謙遜をしていると思われるばかりだった。

 

 

そして今、和樹は謁見の間で膝をついて頭を下げていた。彼の目の前に居るのはガリウス王と、近衞騎士や貴族達である。怪物によって、壊された物を直すのに忙しく、大変だったが、一段落がついた今、魔人を倒したと思われている和樹に、勲章を渡す義を行っていた。

 

 

(なんで、俺がここに居るんだよ)

 

 

目の前に居るガリウス王の言葉を左から右に流し、和樹は胸中で呟いた。自分はあの魔人に負けたのだ。勲章を貰う資格などない。こんな所に居るより、早く『重力魔法(グラビティ・コア)』を使いこなす為の訓練がしたい。そして、思い出すのは、意識が失う前の言葉だ。彼はなんとなくだが、あの声が何者なのか分かった。確証はない。

 

 

安心するような断言した言葉。あれから、何度考えても脳裏に思い浮かべるのは、この世界に来てから仲良くなった一人の少年だ。

 

 

(…………今、なにしてるんだろうな零士は)

 

 

皇王の長い言葉を聞きながら、和樹は勲章を授かるのだった。

 

 

 

 

 

「おぉ〜、大分、活気が戻ってきたな」

 

 

そして(くだん)の少年である篠宮零士は、呑気に串焼きを頬張りながら城下町の中で最も賑わう露店が多くある一画に来ていた。国民は、数日前の事など忘れたかのように騒いでいる。勿論、騒いでいる原因は勇者が魔人を退治した事だ。そんな国民に零士は苦笑を浮かべて、強いなぁと呆れた声を漏らす。

 

 

彼の視線の先では、勇者達を賞賛する声を上げる人々が居る。その中で取り分け賞賛されている勇者が居た。名前はカズキ・ミタライだ。突然の友人の名前に、ぶふっ⁉︎ と零士は笑ってしまった。和樹は今では、国で知らぬ者は居ない勇者の一人だ。他にも複数の名前が上げられている。ユズキ・クロハラや女生徒が賞賛されていた。

 

 

その中でも一番賞賛されていた女生徒に、零士は驚いた。ユイ・クサカベ。あのオドオドしていた少女が、活躍していたという。といっても、戦闘面ではなく、回復面ではあるが。なんでも、凄まじい回復魔法を使って見せたのだとか。国民の一部では傷を負った兵士や民に対して、 一生懸命に回復を務め、その美しい姿から『白髪の女神』と呼ばれているらしい。何人かファンも居るとか。

 

 

その事に、苦笑するしかない零士である。すると、零士の視線の先に、国民達に囲まれて困ったような表情をした黒原柚木が居た。

 

 

「あれ、先生?」

 

「篠宮‼︎ ちょうど良い所に来た‼︎」

 

「…………え?」

 

 

零士の呟きが聞こえたのか、こちらに振り向いた柚木は、彼の元に近付くと手を掴んだ。いきなりの事に、困惑する零士を尻目に、柚木は国民に向けて言った。

 

 

「みんな、すまないな。私は篠宮と用事があるから、行くとする」

 

 

そう告げて、早足で零士の腕を引っ張る柚木である。その際、残念そうな声と、何処か殺気が篭った男達の視線が背中に突き刺さる。

 

 

(うわっ怖⁉︎ ってか、なんで殺気を向けられてんだ俺? 魔力がなくても、一応は勇者だよな?)

 

 

なすがままに引っ張られながら、零士は疑問を浮かべた。とはいえ、それは仕方のない事だった。一応、召喚された零士は勇者の中に数えられているが、勇者の一人が魔力がないなど知られたら大変だと思った貴族達は、彼の存在を秘匿したのだ。故に、国民達は零士以外の勇者達生徒の名前を知っていても、零士の事は全く知らないのである。

 

 

だから、今の状況は誰とも分からない少年が、美女と呼べる女性と手を繋いでいる状況だ。これが他の勇者なら、仲が良いで通るが、彼になれば嫉妬の視線を受けるのは当たり前といえた。現在、零士が勇者と知っているのは、同じく召喚された生徒達と、王宮の人間だけである。その事を書庫に入り浸っていた零士が、知る由もない。

 

 

 

 

零士と柚木が離れて、誰も居ないと確認すると、彼女は掴んでいた腕を離した。

 

 

「すまないな篠宮。少し困っていたんだ」

 

「いえ、別に俺は大丈夫ですよ。それにしても、凄い人気でしたね先生」

 

 

逃げる為に利用した事に謝罪を口にする柚木に、苦笑してから平気だと零士は告げる。そして余りの人気ぶりに彼は聞いた。すると、柚木は疲れたようにため息を吐いてから言った。

 

 

「あぁ。如何やら、何人かが私達の戦闘を目の前で見ていてな」

 

 

それであの人気だ、と柚木は語る。如何やら彼女達は、怪物達と戦っている姿を見られていたらしい。まぁ、それは当たり前だ。話に聞くと柚木達は、率先して住民達の避難をさせたと聞く。ならば、目の前で戦う姿を見るのはごく自然だ。そして住民達は、目の前で勇敢に戦う勇者達の姿に、感激したのだろう。勇者しかも美女とくれば人気が出るのは当然と言えた。まぁ、柚木は困っているみたいだが。

 

 

「篠宮は何故ここに?」

 

「俺はなにか食いに来たんです」

 

「そうか。…………篠宮、私も着いて行って良いか?」

 

「え?」

 

「私も食事はまだでな」

 

「別に構わないですけど…………」

 

 

特に理由がなかったが、先程、串焼きを食べたばかりだと言うのにお腹が空いた事に気付きそう言った。すると、柚木が自分もお腹が空いているから、一緒に食べようと提案する。別に断る理由がなかったので、零士は頷いた。それに笑みを見せて、柚木は「良い店を知っている」と言い、先頭を歩き始める。零士は彼女の後に着いて行った。

 

 

二人が歩いてから、そう時間がかからずに目的の場所に着いた。零士の視線の先に、自分には敷居が高そうなレストランがあった。

 

 

(なんか、値段が高そうな店だな。如何しよう。今の手持ちで足りるか?)

 

「心配するな篠宮。私が奢るぞ」

 

 

自分の持つ金の心配をしている事に、柚木は気付いたのかそう言ってくれた。それは助かると思う反面、少し申し訳なくなる零士だ。だが、彼女は気にしないのか零士の腕を引き店内に足を進めた。

 

 

「あっ、先生‼︎」

 

「あら? 篠宮君」

 

 

店内には二人の美少女が居た。椎名 渚と橘 夏美である。如何やら、彼女達もここで食事をしているらしく、席についていた。

 

 

「なんだ、お前達もここだったのか」

 

「うん。ここの料理はすっごい美味しいからねっ」

 

「私は渚さんの紹介で来たんですが、ここのデザートが美味しくて、何度も来るようになりました」

 

 

席に着く二人の少女に、そう尋ねると返ってくる答えは、二人とも似たようなものだった。話に聞く限り、渚と夏美はこの店の常連らしい。と、柚木が二人に相席は良いかと聞き、渚達が頷くのを見ると空いている席に座った。

 

 

(えっ⁉︎ 先生、普通に座ったけど。俺も相席して良いのか? いやでも、幾らクラスメイトでも、そこまで親しくないのに駄目だろ。いや、だけど、今日は先生が奢ってくれるらしいし、やっぱり、近くに座った方が。…………いや、だけど)

 

「如何した篠宮? 早く座れ」

 

「あ、は、はい」

 

 

零士が悩んでいると、柚木が首を傾げながら座るように告げる。それについ、頷いた。しかし、座ると行っても空いている席は一つしかない。円卓状の席で、そこに座ると、渚と夏美の間になってしまう。だが、早く座れと眼で訴えてくる柚木に負けて、零士は座る事にした。いざ、座ると二人の距離が近く、良い匂いが漂ってくる。が、すぐに顔を振り邪念を飛ばす彼だ。

 

 

(お、落ち着け俺。そう、冷静になるんだ。なに、簡単な事だろ)

 

「ねぇねぇ篠宮君っ‼︎」

 

「っ⁉︎ な、なんだ?」

 

「なに食べるか、決まった?」

 

 

メニュー欄を渡して笑顔を浮かべる渚。おずおずと受け取りながら、視線を動かすと、隣に居る渚が続けてオススメメニューを教えてくれる。…………体を寄せて。殆ど話した事もなく、初対面にも関わらず、零士に笑みを向ける姿は、コミュ力が高いと言わざるを得ない。そして、それは彼に衝撃を与えていた。

 

 

(す、凄ぇ⁉︎ これがリア充の力かっ⁉︎)

 

 

その渚に尊敬の念を抱く程だ。心の中で、師匠と呼びながら彼女のオススメ料理を零士は頼むのだった。

 

 

…………今の自分は、少しコミュ力が上がった気がした。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

エルステイン皇国の王城。その城門前に、純白のローブを着た者達が居た。数は五人。その者達は、城門を警備する兵士に近付いた。

 

 

「止まれっ‼︎ ここに………ッ⁉︎」

 

 

近付いてきた彼等に、兵士が気付き止まるように言うが、途中で言葉が途切れた。驚愕に眼を見開き、彼等の左胸に記されている文様に視線が向けられている。満開に咲く花弁、盾と剣が一つずつ。そんなシンボルを持つ国など、一つしかない。

 

 

────アルビオン連盟共和国。

 

 

皇国と同じ五大大国の一つに数えられ、そして数々の聖女を輩出する国であり、皇国の同盟国でもある。驚愕する兵士に、一人のローブを着た人物が前に出て、フードを取る。サラリと蒼い髪が舞う。続けて後ろに居た者達もフードを取った。そこに居た五人は、なんとも美しい少女達であった。五人の内の一人。前に進み出た蒼い髪を持つ少女が、口を開く。この国に来た目的を込めて。

 

 

「なんの連絡も無しに、訪れた事は詫びましょう。しかし、今は我が国に、危機が迫っています。ガリウス王にお目通り頂けますか」

 

 

凛とした言葉が、少女から発せられる。驚いていた兵士達は、我に戻り、少し待つように告げると、急いで王宮の中に走って行ったのだった。

 

 

 

「…………連絡も無しに訪れるとはな。して、何用だ?」

 

「それは、申し訳ないと思っております。しかし、こちらも何分、急いでいたもので」

 

 

場所は謁見の間に変わり、少女達と皇王が向き合っていた。少し苛立ち気味に告げる王に対して、少女達は頭を下げて冷静に答えた。その事に考えるそぶりを見せるガリウス王だ。

 

 

「成る程。聖女を寄越す程の事という事か」

 

 

王は目の前の少女達を見下ろして、そう呟いた。彼女等五人は、アルビオンが誇る聖女だ。神に祈りを捧げ、その恩恵を授けられた乙女達。そんな希少とも言える聖女を、なんの護衛もなしに送りつけるなど、余程の事がない限りあり得ない。まぁ、護衛が要らない程の強さを持っていれば別だが。

 

 

「はい。我が連盟の、いや、至高の聖女の命に関わる事です」

 

「っ⁉︎ あの至高の聖女か⁉︎」

 

 

一人の少女から出た、とある単語にガリウスは眼を見開いた。ガリウスだけではなく、控えていた宰相や騎士達も同様に眼を見開いている。至高の聖女。それはアルビオン連盟に居る、一人の少女の呼び名だ。他の聖女と比べものにならない程の恩恵を授かり、神々の光を行使する神聖術を使いこなす者。その外見も、女神の如く美しいと呼ばれる程の容姿をしている事から『女神の寵愛を受けし者』とも呼ばれている程だ。

 

 

間違いなくアルビオン連盟に存在する聖女達の頂点である。そんな彼女の命の危機と知らされれば、驚くのは当たり前だ。至高の聖女は失ってはならない。彼女以上に、女神から恩恵を貰える者が存在しないからだ。故に、ガリウスは答えた。

 

 

「分かった。アルビオンの方に、勇者達を送ろう」

 

「本当ですかっ⁉︎」

 

 

皇王の発言に聖女達は顔を上げる。エルスティン皇国に召喚された勇者達の事は、アルビオンでも聞き及んでいる。魔人を倒した者達という事を。その存在を、至高の聖女の護衛に回すと言ったのだ。しかも、勇者達全員をだ。この国に何人か残さないのかと尋ねると、ガリウスは平気だと頭を振るう。

 

 

それに聖女達は、嬉しさが篭った息を吐く。魔人を倒した実績のある彼等ならば、守ってくれるだろうと思ったからだ。そして出発する日と時間を決めて、謁見は終了した。

 

 

「…………ロイド」

 

「はい。ガリウス陛下」

 

 

聖女達が出て行くのを見届けてから、彼は口を開いた。すると、返事が返ってきて一人の人物が近寄る。

 

 

「勇者達に騎士を付けろ。それと、あの魔力なしもな。奴も一応は、勇者の一員だ」

 

 

忌々しそうに顔を歪めて、ガリウスは紡ぐ。魔力なしなど、本来ならばその場で斬り殺されて当然な存在だ。それだけ、魔力なしは人間扱いされない。しかし、勇者達は仲間意識が強く、そうしようものなら、噛み付いてくるだろう。だから、今の今まで、なにも出来なかったのだ。

 

 

だが、このアルビオンに向かう機会は絶好のチャンスだ。

 

 

「ロイド。儂に考えがあるのだ」

 

「考えですか?」

 

「うむ。我が国から、アルビオン行く途中に、大きな渓谷があるのを知っているな?」

 

 

口元に笑みを浮かべて、その続きを紡いだ。

 

 

「事故に見せかけて、殺せば良いのだ」

 

「陛下それは良い考えですっ」

 

「故に、その連れて行かせる騎士は、儂の息のかかった者にしろ。間違ってもステラの騎士を付けるな。あの娘は、儂に反抗的だからな」

 

 

はは、分かりましたと恭しく頭を下げて、ロイドは早速準備に取り掛かり始めた。一人、玉座に座ったままのガリウスが残されて、

 

 

「これでやっと、ゴミを片付けられる」

 

 

呟かれた皇王の言葉が謁見の間に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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