もう異世界は懲り懲りだ⁉︎   作:葛城 大河

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今回は短いです。


アルビオン連盟編
プロローグ


 

とある廃れた城。そこに人が住んでいる名残りはなく、所々に亀裂が入っており、完全に無人と化していた。そんな無人の場所に、複数の影が現れた。人の形をしたソレ等はしかし、確実に人とは違う存在だ。闇を彷彿とする翼に、捻れた角。鮮血の如く朱に染まった瞳。彼等は魔人と呼ばれる者達である。

 

 

城の中にある壊れかけの椅子に座り、一人の魔人が口を開いた。両腕に(いびつ)な刺青が刻まれている。

 

 

「グランの野郎が殺られたらしいな」

 

 

ククククと己の同胞が倒された事に笑う男の魔人だ。対して、離れた場所で壁に寄り掛かっている魔人が、ため息を吐いて言った。

 

 

「同胞が殺られたというのに、随分と嬉しそうだなラジス」

 

「そりゃ、嬉しいに決まってんだろ‼︎ グランが殺られたって事はよぉ。オレ達、魔人を殺せる奴が居るって事だろ?」

 

 

なら、嬉しくない筈がねぇ、とラジスと呼ばれた魔人は、愉快げに笑った。それに彼の性格を理解しているのか、やれやれと首を振る魔人だ。すると、二人の会話に参加せず見ていた最後の少女の姿をした魔人が口を開いた。

 

 

「…………それで? 私達は如何するの」

 

 

これからの方針は、と壁に寄り掛かる魔人に視線を向ける。それに顎に手を持って行き、考える素振りを見せると、言葉を紡いだ。

 

 

「グランが殺されたのは想定外だ。恐らく、グランを倒したのは噂の勇者で間違いないだろう。まさか、勇者がここまでの力を持っていたのは驚いたが、我等がやる事は変わらん」

 

「するってぇと、アルビオンの聖女を殺す事か?」

 

「あぁ、そうだ。今、我々にとって邪魔な存在は、アルビオンの聖女とグレスティアの姫巫女だ」

 

「………“魔神”様が動きやすいように、その二人を始末するって事で良いの?」

 

「そう言う事だミティス」

 

 

少女────ミティスは、静かに頷いた。確かに勇者は危険極まりない存在であるが、それよりも危険視する者が他に居た。それが先程言ったアルビオン連盟に居る聖女と、グレスティア王国に居る姫巫女である。彼女達は、神々の聖光を武器とする神聖術と呼ばれる秘術の使い手である。そんな彼女達だが、現在居場所を確認されているのは聖女だけだった。

 

 

姫巫女も探しては居るのだが、全くもって見つからない。それもその筈だ。姫巫女は数少ない時空魔法の使い手でもある。恐らくは、時空を歪めて何処かに身を潜めているのだろう。流石の超常的存在である魔人も、時間や空間を使われれば探す事は不可能に近かった。幾ら強大な力を持っていたとしても、生物であるなら時間には抗えないのだから。故に、本来なら最初は姫巫女を殺したい所だった。

 

 

「本音を言えば、聖女よりも姫巫女を如何にかしたかったんだがな」

 

「………でも、時空の狭間に籠られれば、私達では如何しようも出来ない」

 

「全くその通りだ」

 

 

ふぅ、と息を吐いて首を振る仕草はなんとも魔人とは思えない。と、椅子に座っていたラジスが勢い良く立ち上がった。

 

 

「そう難しく考えるなよラード。聖女をぶっ殺した後に、姫巫女も殺せば良い話だろ」

 

「その時空の狭間に居る姫巫女を殺すのが大変なのだがな」

 

「平気だっつぅの。それにいざとなれば、オレが無理矢理にでも時空の狭間を抉じ開けてやるよ(・・・・・・・・)

 

 

獰猛に笑みを浮かべて自信満々に告げるラジスに、壁に寄り掛かっていた魔人ラードが、視線を向けてラジス同様に笑みを浮かべた。

 

 

「それもそうだな。いざとなったら、ラジスの刻印(・・)に頼るとしようか」

 

「あぁ、任せろ」

 

「…………それで、何時、聖女を殺しに行くの?」

 

 

そして、笑みを浮かべる二人の魔人にミティスが、そう尋ねた。それにラードが答える。

 

 

「各地に居る同胞を集めてからにしよう」

 

「相変わらず、テメェは用意周到だな」

 

「当たり前だ。グランが倒された一件もある。我は相手が人間とはいえ、油断をする気はない」

 

 

魔人ラード。彼は魔人達の中でも特に例外だ。己よりも遥かに劣るであろう人間に対して、見下すどころか感心しているのだから。故に、彼は知っている。人間が持つ可能性という物を。だからこそ、油断が出来る筈もない。力がないからこそ、その知恵で上り詰めた種族。力がないからこそ、他から強くなる為に技術を吸収した種族。時に醜く争い、失敗を繰り返しながらも成功に導く。

 

 

ラードは人間が、恐ろしい種族だと理解していた。そして、彼等三人は、お互いに話し合いを終えると、一瞬にして姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

 


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