もう異世界は懲り懲りだ⁉︎   作:葛城 大河

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遅くなりました。最新話です‼︎


第九話 勇者達の戦い

エルステイン皇国。世界でも有名な五大大国の一つで、人の活気に溢れる国だ。本来なら、活気だつ城下町は、しかし阿鼻叫喚の地獄に変わっていた。国の東門を破壊した異形の怪物は、蹂躙の限りを尽くして、建物を破壊している。住民達は、怪物に矛先を向けられないように、隠れて逃げていた。だが、一人の子供が、足を躓き転んでしまった。

 

 

「…………うっ‼︎」

 

「キクリっ⁉︎」

 

 

それに子供の母親が、駆け寄り立ち上がらせる。早くこの場から離れようと、母親は子供を抱えて移動しようとした。しかし、彼女達はあまりに行動が遅かった。ズシンッ‼︎ と音を鳴らし、怪物が二人の前に現れる。獲物を見つけた怪物は、獰猛に嗤う。母親はそんな笑みを見て、逃げられない事を悟った。怪物がゆっくりと二人に近付く。母親は子供だけでも助けようと思ったのか、強く抱き締めて怪物から隠した。まるで、自分が盾になるように。

 

 

そして、怪物は立ち止まり、子供を庇う母親に向けて腕を振り下ろした。無慈悲に一人の人間に凶刃が襲う。あと、数秒後に肉塊へと変わるだろう。しかし、そんな事にはならなかった。ベゴガッッッ‼︎ なにかが、ひしゃげた音が響き渡る。次いで、爆音が辺りに木霊した。あまりの音に驚いた母親は、怪物の方にへと視線を向けると、いっそうに眼を見開いた。

 

 

そこには、一人の女性が怪物の顔に蹴りを入れて吹き飛ばしている光景であった。女性は着地し、黒髪を靡かせて彼女は呆然とする母親に声をかけた。

 

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい‼︎」

 

「そうか。よし………お前達っ‼︎ この人達も避難させろ」

 

 

安堵の息を吐いてから、女性がそう大声を上げると、数十人の少年少女が現れた。すると、彼等は住民を急いで避難させる。そんな年端もいかない少年少女に、呆然となる女性だが、ハッと気付いた。この国に勇者が召喚されたという事を。まさか、と思い恐る恐る母親は、目の前の女性に尋ねる。

 

 

「………勇者様なのですか?」

 

「……………勇者、か。まぁ、確かに私達はそう呼ばれているな」

 

 

肯定と取れる発言に母親は、やっぱりと希望を瞳に映した。この国は助かるのだと。そんな思いが込められた視線に気付いたのか、女性はため息を吐いた。勇者は確かに希望なのだろう。しかし、来たからといって、安心するのはいただけない。まだ怪物が居るというのに。だが、それが勇者の役割だと彼女も分かっている。

 

 

「さぁ、貴女達も早く避難してくれ」

 

「は、はい‼︎ 勇者様っ‼︎」

 

 

彼女がそう言うと、母親は我に返り、そそくさと移動を開始した。それを見届けてから、女性────黒原柚木は、東門の方にへと視線を投げた。

 

 

「全く、一体なにが起きてるんだ?」

 

 

困惑気味な声を込められた呟きが、静かに木霊した。

 

 

 

 

御手洗和樹は、魔力で全身を強化させ、城下町を駆け抜けていた。数分前に起きた、突然の来襲。王城に居た和樹を含めた生徒達は、少し遅れて、住民を避難させるのに参加していた。彼もまたその一人だ。周りでは国の騎士達が怪物と戦っている。すると、和樹の前に怪物が疾走して鋭く尖った鉤爪を振るう。しかし、あの日から必死に訓練した和樹には無意味だ。黒いユニコーンに襲われ、そこから異常な訓練をしてから数日。

 

 

彼は強くなった。振るわれた鉤爪に対して、和樹は避けずに直進する。そして、体に衝突する直前───怪物の鉤爪が勝手に地面に落ちた(・・・・・・)

 

 

『……………Gu?』

 

「はっ‼︎」

 

 

突然、自身の腕が地面に落ちて、そこから動かない事に首を傾げる。その一瞬を逃さず、和樹は国から支給された剣を首に振り抜いた。魔力強化された膂力により、怪物の首を容易く斬り裂く。人ではないとはいえ、嫌な感触が手に伝う。これが初めての実戦。だが、和樹は怖いとは感じなかった。すぅ、と息を吸って彼は、首を斬り裂いて絶命した怪物に視線を向けずに、足を先に向けた。

 

 

向かうのは東門。怪物に破壊された、あそこさえ抑えれば、怪物達の進撃が止まる筈だ。故に、彼は急いだ。魔力で強化された脚力を最大限利用して、跳躍して屋根の上を駆け抜ける。そしてより強く、踏み込んで駆け抜けようとした和樹の視界の端にソレは映った。

 

 

「ッ⁉︎ あれは…………?」

 

 

その場で足を止めた和樹は、鋭い視線で上空を見上げていた。彼の視線の先に、ソイツは居た。歪な翼を背中から生やし、額には捻れた角が天に向かって伸びている。分かる。実物を見ていなくても、和樹はあの存在がなんなのかを理解した。

 

 

────魔人。

 

 

“魔神”によって一から生み出された世界の敵。何故、彼処に魔人が居るのか疑問に思ったが、すぐにこの国の状況を作った元凶だと察する。そう思ったら、和樹は東門に視線を向けてから、改めて上空に居る魔人に視線を移した。そして、彼は少し躊躇したが、一人で魔人に足を向けた。あの元凶さえ、倒せば全てが解決する。そんな推測をして。

 

 

怪物と戦っている皆には悪いと思う。だが、恐らくあの魔人が居なくならない限り、戦いは終わらないだろう。故に、怪物を倒す者と、魔人を倒す者で別れなければならない。誰かが行かなければならないのだ。そして今、魔人の存在を認識したのは、この状況を見る限り自分一人だけ。ならば、行くしかない。ブルッと全身が今になって震えた。

 

 

確実に魔人は、あの怪物よりも強い。自分は負けてしまうかもしれない。しかし、それが如何した? もう人を囮にして見捨てる事しか出来なかった自分が嫌で、鍛えたのではないか。ならば、その鍛えた所為かをここで発揮しないで如何する。

 

 

「………零士は、まぁ、大丈夫か」

 

 

数日前に出来た自分の友人の顔を思い出して、心配そうな声を上げようとしたが、途中で杞憂だなと思い直す。何故そんな風に思ってしまったのかは分からない。しかし、あの少年、篠宮零士が誰かに倒されるイメージが全く浮かばない。どんな状況でさえ、生き延びると零士はあの時から思ったのだ。そして彼は、王城の方に向けて飛ぶ魔人の方へと再度、駆け始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

東門で数十を超える怪物が破壊の限りを尽くす。だが、次の瞬間。疾風と共に周りに居た怪物達が、一斉(いっせい)に斬り刻まれた。肉と肉が切断され、ボトボトと肉塊となる。それに必死に戦っていた騎士や冒険者達が呆気に取られた。次いで、再度、突風が吹いた。その瞬間には、怪物達は先程と同じ末路に至る。なにが、起きているんだ? 彼等は理解出来ない。突然起きた現象に、理解出来る筈がなかった。

 

 

はたして、誰が気付くだろう。それが一人の少年(・・)によって作り出された光景だと。次々と破壊された東門から侵入する怪物は、しかし、その場で細切れになった。何度も何度も繰り返される光景。すると、一人の男が、東門を守護するように立つ少年の姿を瞳で捉えた。黒髪黒眼の何処にでもいるような容姿の少年だ。そんな少年に、怪物が腕を振り下ろす。危ないッ⁉︎ と誰かが叫ぶが、距離が離れている為に間に合わない。

 

 

しかし、次の瞬間には、その場から少年が掻き消えたと思ったら、怪物の背後に移動しており、次の瞬間───全身が斬り刻まれていた。その早技に、息を呑む声が響いた。彼は一体、何者なのだ。そう思うも、まだ居る怪物によって考える事は後にして、倒す事を優先させた。

 

 

何体目かの怪物を斬り裂いて少年───篠宮零士は、東門に視線を向けた。

 

 

「粗方、片付いたな」

 

 

彼の周りには怪物の死体が多く転がっている。斬っても斬っても、数は減らず、東門から現れる怪物に舌打ちをした。やはり、元凶を潰さなければいけないみたいだ。しかし、その元凶が何処にも見当たらない。その事にイラつくが、すぐさま冷静になる零士だ。怒り、冷静さを失うのは馬鹿のする事だ。まずは考えろ。元凶が何処に居るのかを。この国に来て、最初に狙う場所を。

 

 

「ッ⁉︎ 王城か⁉︎」

 

 

そしてすぐに顔を、王城に向けた。国を襲い、最初に狙うとしたら恐らくそこだろう。思い至った彼は、すぐさま東門から王城にへと足を向ける。ここはもう大丈夫だろう。侵入している怪物の殆どは自分が倒した。後は、門から入ってこようとする怪物を相手にするだけだ。自分は城下町の奥まで入った怪物を倒しながら、王城に使うとしよう。

 

 

足を踏み出すと、前方から怪物が迫る。しかし、それを冷静に彼は無骨な剣で一刀両断した。すると、全身に覇気を纏い零士は物凄い速度で駆けるのだった。

 

 

 

 

同時刻。生徒達は住民達の避難誘導をしながら、怪物達と戦っていた。少し怯えた生徒も居たが、戦えているのは訓練の賜物だろうか。そんな生徒達の中で、別格な者達が数人居た。

 

 

「…………焼き払え『炎獄の円』」

 

 

詠唱破棄で繰り出される、火属性の中で上位に位置する炎魔法が怪物達に襲いかかる。逃がさないように炎の(サークル)で囲い、燃やし尽くす。少し漏れた怪物には、剣と拳で殲滅した。傷を負えば、後ろに居る少女が光魔法で回復させる。実戦だというのに、彼女達には緊張がなかった。

 

 

「彩さん‼︎ そちらに行きますっ」

 

「…………了解」

 

 

未来予知に匹敵する『危険察知魔法』で、夏美は彩に怪物が来る事を告げた。頷いた彩は、炎魔法『炎熱の衣』を発動させた。彩の体に触れた怪物は、絶叫の声を上げて触れた所から炎に包まれる。超高温度の炎の衣を身に纏う炎の防御魔法だ。その魔法に、周りの生徒達が凄いと感心の声が上がった。と、今度は夏美の方に怪物が襲いかかった。しかし、彼女は冷静に剣を青眼に構えて、息を整える。そして、

 

 

「………橘一刀流───五月雨」

 

 

眼にも止まらぬ斬撃が五度。怪物の関節部分を斬り裂き、動きを止めて最後に首に一閃を放った。鮮やかな技に、柚木が感嘆の声を漏らす。

 

 

「流石は橘一刀流の後継者だな」

 

「いえ、私なんてまだまだです」

 

 

対して謙遜の声を上げる夏美である。彼女の家は古くから伝わる武家で、幼少の頃から刀術を教わっていた。こうして、謙遜しているが、彼女の実力は一族の中でも随一とされている。そんな刀術の腕と『危険察知魔法』が合わされば鬼に金棒というもの。夏美は自分の技を褒める、担任教師に呆れた視線を飛ばして言う。

 

 

「そう言う黒原先生も凄いですね」

 

「ん? そうか?」

 

 

彼女の視界に、怪物を相手に素手で戦う柚木が映っている。拳で殴り飛ばし、足で踏み砕く。はっきり言って凄まじいの一言だ。時折、柚木の体がバチッと静電気が発生するのは、彼女の属性が雷だからだろう。周りで戦う生徒達を見てから、夏美も戦闘に参加を始めた。どんなに倒しても怪物は居なくなる事はなく、次々と現れては襲ってくる。このままでは、こちらの敗北が確定しまう。

 

 

それは時間の問題だ。如何する? 教師として、生徒を守るには如何すれば良い。柚木が考えたその時だった。

 

 

『■■■■■■■■■──────ッッッ‼︎』

 

「…………なにっ⁉︎」

 

 

巨大な、そう余りにも巨大な叫び声が皇国全土に、響き渡った。そちらに振り向くと、一体、何時の間に現れたのか、他の怪物達とは一線を画す巨大な存在が居た。全長は十五メートル程だろうか。とんでもなく大きい。その怪物は、突然、膝を曲げた。それに訝しむ柚木だが、次になにが起こるのか理解した。それは夏美も同じだ。

 

 

「この場から離れろっ⁉︎」

 

「この場から離れて下さいっ⁉︎」

 

 

同時に放たれた危険を知らせる叫び声。夏美の魔法をよく知る翡翠、那月、渚、彩を始めとする者達は、なにか来るのだと理解して急いで離れる。他の生徒達も教師の言葉に従った。次の瞬間。怪物は大きく跳躍して、柚木達の居る場所にへと落下した。大地を揺らす衝撃と、大きな轟音が鳴り響く。地面は陥没して、周りの建物は瓦解する。数秒の時間で起こされた災害。察知していた柚木達は、呆然と破壊された建物を見ていた。

 

 

あの怪物は、他のとは違う。それを理解させられた。慎重に行かなければ危ないと。しかし、柚木の思いは関係なく、前に出る者が居た。

 

 

「よくも街をっ‼︎」

 

「ま、待て煌崎っ‼︎」

 

 

煌崎信也だ。彼は全身に魔力強化を施すと、一気に巨大怪物に向けて駆けた。後ろからくる制止の声など無視して、足を動かす。それに親友が行くなら自分もと、赤石剛毅も追い掛けた。近付く二人にギョロリと眼を向ける怪物。その怪物は獰猛に歪んだ笑みが浮かべられた。まるで、馬鹿な獲物がやって来たとでもいうように。

 

 

「くそっ‼︎ 長谷部、橘、皇、私と一緒に来い‼︎」

 

「………分かった」

 

「はい‼︎」

 

「分かりました」

 

 

なんにも作戦を立てずに突っ込んだ二人に、悪態をつきたいのを我慢して、三人の少女の名前を呼ぶ。頷きを返す少女達を見てから、二人の生徒を追う為に地面を蹴った。

 

 

「早瀬、椎名‼︎ お前達は援護だ‼︎」

 

 

ドンッ‼︎ と加速した柚木は、早瀬那月と椎名 渚に援護を頼む。三人の少女を引き連れて、柚木は駆け抜ける。進行の邪魔をしてくる怪物達を、夏美の剣で、彩の魔法で、翡翠の光魔法で道を切り開く。時折、離れた所から放たれる渚と那月の魔法により、怪物が吹き飛ぶ。そんな二人の魔法を当てる腕に、感心しながら、遂に巨大怪物の前に辿り着いた。煌崎と赤石を探すと、彼等は怪物の腕を駆け上がっていた。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ‼︎」

 

「おらぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ‼︎」

 

 

煌崎は光属性を剣に纏わせて、魔剣技『光閃斬』を放つ。赤石も最上級炎魔法『炎瀑掌(えんばくしょう)』を繰り出した。二つの力が、怪物の頭に直撃する。爆音を轟かせ、手応えを感じた二人は笑みを浮かべた。しかし、次の光景に顔を強張らせた。彼等の力が直撃した筈なのにも関わらず、怪物は傷を負っていなかった。ニヤァと怪物は嗤うと、煌崎達に腕を振るった。ゴォォォォォッッッ‼︎ と質量を伴った一撃に、二人はすぐに防御魔法を展開させた。

 

 

が、そんな魔法など、怪物にとっては紙細工のようなものだ。意図も容易く砕かれ、彼等に腕が衝突する直前───

 

 

「────はぁッ‼︎」

 

 

バチバチバチッ‼︎ という雷音と共に、ズガンッと音を鳴らし、煌崎達に迫っていた腕が浮き上がった。なにが起きたのか、音が鳴った場所に視線を向けると、柚木が綺麗に足を振り上げている光景が映った。それはつまり、彼女が巨大な腕を蹴り上げたという事だ。驚いている煌崎と赤石を気にせずに、彼女はそのまま怪物に向き直り、全身をまたバチバチバチッと雷音を響かせる。

 

 

そして右手を、長ものを持つように構えると、そこに怪物と同じぐらい巨大な雷の槍が現れた。柚木はその雷槍を怪物の体に投げつける。雷の速度で飛来する雷槍を止められる筈もなく、体の中心に突き刺さり、勢い良く怪物の巨躯を数十メートル後退させた。

 

 

「………凄い」

 

「黒原……先生………」

 

「無茶苦茶ですよ………」

 

 

煌崎と赤石を無事に助けた出した彩、夏美、翡翠は、さっきの一連の出来事に呆然の声を上げるしか出来ない。いや、彼女達だけではなく、援護していた渚や那月、または遠くから見ていた生徒達までもが、自分等の担任教師が行った非常識さに、なんと言えば良いか分からないでいた。

 

 

「油断するな」

 

 

呆然とする彩達は、柚木のその一言にハッと我に戻る。柚木は、一瞬だけ煌崎達に視線を向けるが、説教は後だという風に怪物に向き直した。そこでは怪物が立ち上がろうとしている。こうして、柚木達の戦闘は激しさを増して行く。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

王城内をソイツが、歩いていた。人々から魔人と恐れられる化け物。グラン・エルディール。それが魔人の名だ。彼は警戒する事なく、回廊を歩いていく。向かう場所は、この国の王の元である。“魔神”の敵対者である勇者の事を知る為に、向かうのだ。王ならば、全てを知っていると推測したからだ。

 

 

「それにしても、誰もいませんね」

 

 

グランは歩きながら、周りを見渡して呟いた。この城の中に入ってから、一匹も人間には出会っていない。まだそこまで、時間は経っていないのだが、如何やらここの人間は逃げるのが上手いらしい。この分なら、謁見の間に行ったとしても、王は居ないだろうと予想が付いた。しかし、彼は獰猛に笑う。だから、如何したと。

 

 

逃げたといっても、この国に居るのは間違いないのだ。ならば、国を蹂躙して行けば、自ずと見付かるだろう。意識を外にへと向けて、『種』が如何なっているかを確認する。

 

 

「おや? まさか、苦戦しているとは」

 

 

すると、驚くべき事に『種』の怪物が、思いのほか苦戦しているという事態に驚く。しかし、それでも彼はその程度だった。例え、『種』の怪物を何体か倒しても、時間の問題だ。こちらの方が数が多い。このまま行けば、物量の問題で、こちらが勝利するだろう。自分が倒されない限り、『種』は湧いてくるのだから(・・・・・・・・・)

 

 

「おっと、ここが国の権力者が居る所ですか」

 

 

そうしていると、グランは謁見の間の扉の前に着いた。硬く閉じられている扉を前に、彼は笑みを浮かべる。と、周りに闇の球体が現れ、閉じている扉に向かって突っ込んだ。次の瞬間。まるで、くり抜かれたかのように、扉に丸い穴が出来た。途端、扉が崩れ、グランの前に遮るものがなくなる。目の前に広がる謁見の間に足を踏み入れる。しかし、やはり予想通りだったのか、そこには誰も居なかった。

 

 

玉座まで足を進めると、右手に闇の魔力で剣を創り、玉座を斬り裂く。

 

 

「やはり、居ないですね。まぁ、それも良いでしょう。この国を蹂躙した後で、改めて探せば良いのですから」

 

 

うんうんと頷いて、言葉を紡ぐ魔人。そして、もうここに用事はないと立ち去ろうとした時、彼の聴覚が背後の足音を聞き取った。視線を鋭くさせ、体を謁見の間の扉があった場所にへと向ける。そこには一人の少年が居た。黒髪黒眼で、容姿が整っている少年。瞳に覚悟を決めた意思を灯して、こちらを見据えている。そんな少年に、魔人は「ほぅ」と興味深そうに息を吐いた。そして理解した。少年の体から放たれる魔力の残滓。それに勇者が持つとされる光属性の上位。聖属性があるという事を。

 

 

それを持つという事は、即ち────

 

 

「もしや、貴方が勇者ですか?」

 

「───だとしたら、如何するんだ?」

 

 

魔人の質問に、視線を固定させて少年───御手洗和樹が言う。それに笑みを浮かべて魔人は、肩を竦めてみせた。

 

 

「そんなのは簡単ですよ。もし、貴方が勇者だったら…………殺すだけです」

 

「────ッ⁉︎」

 

 

次の瞬間。背筋が凍る程の殺気を感じた。ここに居たら危険だと直感して、すぐさま後ろに跳躍する。と、彼が立っていた場所に数十もの闇の球体が殺到していた。その球体によって幾つも丸くくり抜かれた床を見て、和樹はゾッとする。

 

 

「やはり、この程度では避けますか」

 

 

何処か楽しみを込めた声が聞こえ、そちらに眼を向ける。グランはなにが面白いのか、笑みを絶やさずに、右手を頭上に上げた。次の瞬間───なんの気配もなく、辺り一帯が漆黒の球体に覆い尽くされた。和樹は眼を見開き、瞬時に逃げ場を考える。しかし、隙間は数センチ程度でしかなく、逃げ道などない。恐らくこの球体には、防御魔法など意味を成さないだろう。如何する?

 

 

逃げ道を模索する和樹に、魔人が声を掛ける。

 

 

「さて、これを如何やって避けるかな」

 

 

そんな言葉と共に、浮遊していた球体が一斉に和樹に飛来した。辺りを埋め尽くす球体が、次々と情け容赦なく凄まじい速度で迫るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




零士君以外の勇者は全員、聖属性の持ち主です。

それでは次回、終結の光でお会いしましょう‼︎

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