アナこれ!『another fleet collection』   作:鉢巻

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第三話 一方その頃遠征組は…

「あ``~~疲れた~」

 

とある工場の食堂にて、テーブルに向かって頭を垂れる艦娘が一人。ツインテールと迷彩柄の弓道着が特徴の、翔鶴型二番艦瑞鶴だ。

 

「お疲れ様です。と言いたいところですが、まだ午後の業務も残ってますよ」

 

彼女の前には黒い和服姿の女性、戦艦ル級が弁当を机の上に置いて座っている。

 

彼女達は提督の命を受け、鎮守府から数十キロ離れた海の上にある巨大なガスプラント施設にきていた。

午前中何事も無くタンカーの護衛を終え、提督の指示通りそのまま工場で業務の支援を行う事になった。

この二人は書類やパソコンの処理を任せられていたのだが、普段デスクワークをする事が無い瑞鶴にとってはなかなか辛い時間だったようだ。

 

「そうよね。昼食終わってからまた二時間…あー嫌だ。遠征がこんなにキツイとは思わなかったわ」

 

「でも、何だかんだ言ってちゃんと仕事できてたじゃないですか。案外向いてるのかもしれませんよ、こういう仕事」

 

「ぜっったい無い。同じ場所にずっと座って机と向き合うなんて、どう考えても続けられる気がしないわ」

 

「何の話をしているんだ?」

 

不意に訪れた第三者の声。二人がその声が聞こえた方に目を向けると、そこには片手に包みをぶら下げた、露出度が高いSFチックな服を着た女性が立っていた。

彼女は長門。長門型一番艦、ビック7と謳われた戦艦の一人だ。

その後ろには同じように包みを持った金剛型姉妹の金剛と比叡、空母のヲ級の姿も見える。

 

「Hey!二人で何secret talkしてるデスカー?」

 

「隠し事はよくないですよ!気合!入れて!暴露!」

 

「別に隠し事をしてるわけでは……」

 

「人には向き不向きがあるって話してただけよ」

 

四人は瑞鶴とル級がいるテーブルの空いている席に座る。六人用のテーブルが丁度埋まる形となった。

 

「長門さんとヲ級は別として、アンタ達は私と同じで事務仕事とか苦手そうよね」

 

「そんな事ないデース。professionalな私はどんな仕事もperfectにこなしてみせるネー!」

 

「その通りです!たとえどんな苦難が待ち受けようと、気合と!根性と!熱い魂があれば!乗り越えられない物はありません!」

 

「比叡、アンタその根性論いい加減どうにかしたら?見てるだけでこっちが暑苦しくなってきそうだわ」

 

「止めても無駄だろう瑞鶴。こいつのこれは今に始まった物じゃない」

 

「確かにそうかもしれませんね…」

 

「ヲ」

 

「そうね。ヲ級の言う通り、これは遺伝子とかそういうレベルの問題かもしれないわ」

 

「ヲ」

 

六人は昼食を取りながら会話に花を咲かせる。内容は今日の任務の事だったり、近頃の女の子らしい話題だったり。

 

「それで比叡がコンテナを素手で持ち上げて運ぼうとしてな」

 

「いやホント何やってんのアンタ」

 

「ひえ~、いい案だと思ったんですけど…」

 

「さすがの私もあれには苦笑いネー。積み荷がbreakしたらどうするつもりだったデースカー」

 

「ひえ~…すみません…」

 

「え、ていうか持ち上がったんですか?」

 

中には女の子らしからぬブッ飛んだ話題まで。彼女達艦娘にとっては、これも何気ない日常の話題の一つである。

 

「それにしても…」

 

昼食を終えた瑞鶴がふと呟く。その視線は斜め前方に座る長門―――の手元に向けられている。

 

「? どうかしたか?」

 

何かおかしい事があったか、という風な具合の長門。長門の手元にあるのは空になった十段重ねの弁当箱、もとい重箱。しかもこれが二つ。彼女は今し方これをぺろりと平らげた所である。

 

「よく食べるなぁ、と思って」

 

「何を言う。艦娘なら大体こんな物だろう」

 

戦艦や正規空母は他の艦娘に比べて食べる量が非常に多い、というイメージがあるが、実際の所はそうでもない。出撃などで艤装を使用した後ならともかく、普段の食事量は、駆逐艦、または一般の女性と比べてもそれ程変わりはない。

しかし、中には例外として艤装の使用の有り無し関わらず多大な燃料を必要とする者もいる。長門や赤城がそのいい例である。

 

「むしろ私からすればお前達は食が細すぎる。たったそれだけでよく体が持つな」

 

「これが普通よ。同じ戦艦の金剛やル級を見てみなさい。どっちが異常か分かるから」

 

長門は金剛とル級の昼食を見て、納得がいかないのか「むぅ…」と呻る。当然、二人の弁当のサイズは瑞鶴の言う普通の物と同じサイズだ。ちなみに比叡は…

 

「気合!入れて!食べます!」

 

これ以上の説明が必要だろうか。

 

「まあ、食べる量は人それぞれですし」

 

ここでル級が仲裁に入る。しっかり者の彼女は、鎮守府でもこうやってややこしくなった事態を収拾する役割をしている。

 

「ヲ」

 

「む、ヲ級もそう言うか」

 

「確かにそうなんだけど…やっぱり気になっちゃうじゃない?こんなに目の前で食べられてると」

 

「気にしたらloseヨー瑞鶴。家は家、よそはよそと言うmotherの言葉を思い出すネ」

 

「…そうね。結局私には関係ない事だし……って長門さん?その新しい包みは何?」

 

どこから取り出したのか、長門は新しい包みを開こうとしていた。

 

「何って…デザートのアイスに決まってるだろう」

 

「ああそうなの。ごめんね、私七段重ねの重箱に入ったアイスなんて見た事なかったから驚いちゃった」

 

「上からバニラチョコストロベリーメロンアップルソーダとなっていてな、一番下は保冷のため氷を詰めている。ちなみに保冷用の氷も削ればかき氷にできる。ちゃんとかき氷機も持参済みだ」

 

「準備良すぎでしょ!ていうかアンタ来る時手ぶらだったわよね?一体どこに隠し持ってたのよ⁉」

 

「ビック7の力、侮るなよ」

 

「ドヤ顔やめい!」

 

ビック7の力とは一体何なのか…

そんな具合で時間は過ぎ、昼休みも終わりに近づく。

 

「さて、そろそろ行こうか」

 

そう言って長門が立ち上がった。重箱の中身は…案の定空になっている。

 

「休み時間あっという間だったわねー。…たるいなぁ」

 

「ヲ」

 

「分かってるって。ちゃんと仕事はしますよーっと」

 

名残惜しそうにする瑞鶴や、他のメンバーもそろって席を立つ。

 

「午後も!気合!入れて!頑張りましょう!」

 

「比叡さん。頑張るのはいいですけど、無茶しないで下さいよ?」

 

「分かりました!気合!入れて!気を付けます!」

 

「それ大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫ネー、ル級。比叡は何だかんだ言ってやってくれる子デース。……maybe」

 

「そこは確証持ちましょうよ⁉」

 

そうして六人は食堂を出た。するとそこで、二人の少女と鉢合わせた。

蒼髪をセミロングで揃えたいかにも勤勉そうな子と、金色の髪をポニーテールで結った明るい雰囲気の子。お揃いの制服を着た二人は、このガスプラントの警備隊に所属する艦娘である、陽炎型駆逐艦の初風と舞風だ。

 

「! お疲れ様です」

 

食堂から出てきた六人に気付いた二人は姿勢を正して海軍式の敬礼をする。

 

「ああ、お疲れ。二人もこれから仕事か?」

 

「はい。ここの周辺の海域を巡回してきます」

 

「What?たった二人でデスカー?」

 

「他の人達大本営へ研修に行ってて、今日は私達二人しかいないんですよ~」

 

警備隊には他にも数名艦娘が所属しているが、舞風の言う通りの理由で今日はいない。

 

「あ、なら私手伝うわよ。艦載機飛ばせるから絶対役に立つわよ」

 

「逃がさないデスヨー瑞鶴。比叡!lock!」

 

「はいお姉様!」

 

「あ、ちょ、いたたたた!」

 

「Good!比叡、絶対離しちゃNoデスヨー!」

 

見事に関節技を決められる瑞鶴。その光景を見て初風はどこか居心地悪そうに顔をしかめる。

 

「あ、すみません。気にしないで下さい」

 

「悪いな。うちの空母が…」

 

「あぁ、いえ、別に」

 

「えー。でも、瑞鶴さんが手伝ってくれたらすっごい助かると思うんだけどなー」

 

「舞風…!」

 

「だって~、いつも六人で分かれてやる所を今日はたった二人でやるんだよ?何時間かかるかわかったもんじゃないじゃん」

 

「でしょ⁉そう思うでしょ⁉っていたぁ!」

 

「往生際が悪いですよ瑞鶴さん!仕事をサボろうとする悪い子はお 仕 置 き です!」

 

「分かった!分かったから離して腕取れる!」

 

「その辺にしろ二人共。さて、呼び止めてしまって悪かったな。私達はそろそろ行くとするよ」

 

「分かりました。失礼します」

 

そうして六人と二人はそれぞれの仕事場に向かって行った。結局瑞鶴は最後まで抑えられたままだった。

 

 

 

 

「いやー皆いい人達だったみたいでよかったね」

 

六人と別れた後、出撃準備を整えながら舞風はそう言った。

 

「いつもと違って、戦艦四人に空母二人って、どっかに戦争でもしに行くような編成だったからさー。ちょっと緊張してたんだよねー」

 

「そうね。確かに、思ってた印象とは違う人達だったわ」

 

初風にとって彼女達の第一印象はあまり良い物ではなかった。

悪い人達ではないのは分かっている。ただ、彼女達には上に立つ者の覇気という物が感じられなかった。

放てば一撃必殺の火力を発揮する戦艦。索敵や先制攻撃で戦いの運命を決める空母。どちらも大規模作戦などでは要になる重要な艦種だ。

そんな存在がのんきに遠征、しかもあの体たらくだ。初風から言わせてみれば、

 

「所詮あの程度…か……」

 

「? 何か言った?」

 

「何でもないわ。…さあ、準備はいいわね?それじゃあ…出撃よ!」

 

ガスプラントの埠頭から白波を立てて海へと駆け出す。彼女達の姿は見る見るうちに遠ざかり、水平線に消えていった。

それから数時間後、遠征組の六人が丁度作業を終えた頃の出来事だった。

 

 

けたたましいサイレンの音が、ガスプラントに鳴り響いた。

 

 

『緊急事態発生。ガスプラントから北方へ五十キロの海域に複数の艦の侵入を確認。こちらの警告を無視してガスプラントに接近中。現在巡回中の艦隊が対処に当たっている模様。一般業務員は直ちに避難を開始して下さい。繰り返します。ガスプラントから五十キロの海域に――』

 

 





閲覧ありがとうございます!

今回でpixivの方に追いつきました。次回から同時連載となります。
…が、次話は製作中ゆえ投稿日は未定です。pixiv版の注意書き通り月一更新になるかも…

しかしちゃんと続けはしますので、見て下さっている方、首を長くしてお待ち下さい!



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