「おっととそうだった。アウラ、的の用意をしてくれにいか? 俺とモモンガさんは少し身体を動かしに来たのだよ」
和やかなふんいき(何故ry)に浸っていたら他の守護者が来てしまうので残りの用事を片付けることにした。
「あ、はい! 分かりました!」
アウラは俺の手を名残惜しげに見ると、配下のドラゴン・キンを使って的の用意をし始めた。
「では、そろそろ私もだな」
マーレの頭から手を離し、ドラゴン・キンの用意した藁人形に照準を定めるモモンガさん。
マーレは撫でられていた頭を放されて、耳がしょんぼりしている。不味いな。俺の耳もああなるのか?
「〈火球〉」
小手調べのファイヤーボールから行くらしい。火の玉は藁人形に接触すると、内部に溜め込んでいた炎が一瞬で火達磨に変え、消し炭と灰になった藁人形が残った。
「うむ」
魔法が行使出来る事に満足しているらしい。
「モモンガさん、機会があったら死体ありとなしでのアンデッド作成も検証するだよ」
「そうですね。次はブロントさんの番ですよ」
少し離れた位置にある藁人形に一つ試してみることにした。
「生半可なナイトには使えない〈聖なる光線〉」
物理ダメージの通じない相手の為に威力の上げてある聖属性魔法を放つ。光線は文字通り光速で、指先から放った瞬間には既に着弾していた。
当たった瞬間に貫通しているため派手な見た目ではない。それどころか100円そこらのレーザーポインターを当てたかのようなチャチさだ。それをそのまま左右に振る。
すると、切断面が焦げると言った事も無くバラバラになる藁人形。出力は十分か。少なくともモモンガさんにはダメージが通るから誤射はしないようにしよう。
「こっちも大丈夫そうだ。次はモモンガさんだぬ」
「じゃあ、次は何にするかな」
この後〈焼夷〉から〈火球〉のコンボを試してみたりして満足したらしい。今は死体が無いしな。
「では、そろそろこいつの起動実験でも行うか」
そう言ってモモンガさんはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを掲げる。
「ドラゴン・キン共を退避させろ」
「はい!」
アウラが手下を退かせた所で何かやるらしい。
「〈根源の火精霊召喚〉」
レベル80台のエレメンタル召喚だ。これだけ聞くと相当強そうなのだが、シャルティアやアルベド相手だと数分もつか怪しい。
「アウラ、マーレ、見ていて退屈だっただろう。ちょっとあれと戦ってみないか?」
「いいんですか!?」
「お姉ちゃん、怖いよぅ」
どこまでも対照的な姉弟だ。
「何言ってんの! せっかくのモモンガ様のご好意を無駄にするの? ほら、行くわよ!」
うずうずしていた姉とは対照的に根源の火精霊を見てビクビクする弟。まあ、いざ戦闘になったらなんとかなるだろ。
「ブロントさんは何かと戦ってみますか?」
「そうだな。適当な奴を頼む」
「なら、その間俺は〈伝言〉がどこまで通じるのか試してみようと思います」
「分かった」
グラットンの斬り応えを実感するかな。
「思った以上に弱すぐる・・・・・・」
試しにケルベロスを召喚してもらったんだが、グラットンを装備した俺の前には剣先でちょっと撫でるだけで盛大にダメが入っていた。
グラットンはの能力の一部を記すと
・捧げたステータスの7倍のバイタルを得る・・・・・・元々グラットンソードはVIT以外のステータスを1下げて、VITを7上げる武器だった。そしてそれの上位互換にデバウラーと言うものがあり、それはVIT以外を2下げて14上げると言うところがこの効果の由来だ。ちなみにバイタルが上がるとHPとか物理防御力が上がる。
・HPを吸収する・・・・・・グラットンと同じ形の剣でブラッドソードと言うものがあり、それに付随されていた能力。ちなみにブラッドソードはナイトは装備できない。与えられた僅かなダメージも高ステータスで繰り出す高速連撃により塵が積もれば山となって回復する状態。
今回使ったのはこんなもんか。まだまだ能力はあるけど出すまでも無かった感。
しかし痛みと言うものが久しぶりすぎて逆に新鮮だったな。俺の集中力を削ぐには至らなかったが。精神作用耐性が付いているおかげもあるだろう。考えてみたら強制的に無効化はされず、常に耐性で沈静化されているから義体化で消滅していた性欲も理性の端っこでもじもじする程度にしか出てこない。
あちらで大きな火の塊というか熱が消滅していくのを肌で感じた。
「アウラとマーレもやったか」
見ると根源の火精霊が空中に溶けていく様子が見られた。
「モモンガ様、ありがとうございます。とてもいい運動になりました!」
「うむ、それはよかった」
アウラとマーレは汗だくだ。
「アウラ、マーレ。ジュースをおごってやろう」
アイテムボックスと念じて空中に手を突っ込み、メロンジュースを出してやる。これは果汁100%にしてサンダーメロンを再現した一品なのだよ(設定)。
「え、いいんですか?至高の御方々から手ずからなんて恐れ多いです」
「悪いですよ」
「子供はそう言う事気にするな」
「ありがとうございます。ブリリアント・アンルリー・レーザー・オブ・ノーブル・テザー様!」
「長いだろうからブロントでいい」
「ありがとうございます。ブロント様」
「ありがとうございます」
アウラとマーレは瓶の頭に付いている王冠を素手で取り外し、「パチパチする」とか言いながら美味そうに飲んでいる。
〈それで、何か分かりましたか? ブロントさん〉
〈うみゅ、五感が全部働くからより緻密に操作出来ているな。モモンガさんの方はどうだったわけ?〉
〈セバスに伝言で確認したところ、ナザリック周辺が沼地ではなく草原になっていたそうです〉
〈これはいよいよヴァナヘイムのギルド拠点がなくなっちぇしまった可能性が高い。ヴァナヘイムがあるかすら怪しい。まあ逆に言うとギルドはグラットン以外失うものが無くなったからギルド武器破壊がそこまで怖くなくなったんじゃないかな?そこらの雑魚に転移アイテムを使わせるって手もあるけどね〉
〈そうですね。だけど、やはり他のギルメンにもGMにも繋がりませんでした〉
〈INしていた我々系だけ転移してきたって線もあるからな。だけど逆に言うとサーバー終了までログインしていたのは俺達以外にも居る可能性は高い。そして俺達はPKKでクソスレ乱立させたほどのギルド。うかつにプレイヤーには接触できにい〉
〈慎重に行くしか無いですね〉
〈うみゅ、これがラノベの異世界転移だったらどんだけイージーモードだったかなとも思うんだがな〉
〈仕方が無いですよ。俺達ラスボス枠ですし〉
〈ウルベルトさんが喜びそうなシチュエーションだな〉
〈ですね〉
〈伝言〉を終了させ、アウラ達を見る。メロンジュースを飲み終えたらしい。
「ご馳走様でした。ブロント様!」
「ご馳走様でした」
「うみゅ、お前達なら成長すればきっと俺達にも追いつけるだろう。これからも元気でいるべき」
ガントレットであまりガチャガチャ撫でると痛そうだからやめておく。
「ブロント様ってもっと自他共に厳しい方だと思ってました。それにモモンガ様ももっと怖い方かと」
「優しかったねお姉ちゃん」
ニコニコと笑顔を浮かべながら空になった瓶を手のひらの上で大事そうに転がしている。アウラ。マーレも決して悪い気はしてなさそうだ。
「怖いほうがいいか?」
「いえ、優しいほうがいいです! あ、でも、私達だけに優しいとか?」
「悪いことをしたら叱るけど必要以上に厳しくする必要は無いだよ。ナザリックのメンバーはみんなの子供達みたいなもんだからな」
〈ブロントさん、そんなこと言ったらアルベドに性欲の相談するなんて出来ませんよ!〉
〈タブラさんなら「寝取られ・・・・・・しかも友人に自分の娘がとか・・・・・・アリだな」くらいは言うと思う。下手したらペロロンさんも何本かそういうジャンルのエロゲ持ってそう〉
〈くっ、否定できない!〉
〈まあそんなわけだから気にすんな〉
〈あ、ブロントさん? ブロントさーん!?〉
目の前で発光したり点滅したりする骨を無視する。なんか近くに居る気配がするし。
「おや、わたしが一番でありんすか?」
その声を聞くと同時に地面から影が盛り上がり、扉を形成する。そこから一人の少女が出てきた。
着ているのは漆黒のボールガウン。こざっぱり説明するとフリル多い系とかあんな感じだ。手足の露出は一切無く、顔は白蝋じみるほど白い。髪は銀色。年のころは15行かないくらいだと思われる。幼さが残る顔だ。だが、その胸が不釣合いな程大きい。否、盛っている。
「・・・・・・転移が阻害されているナザリックでわざわざ〈転移門〉なんて使うなっていうの。こんな距離すぐ来れるんだから歩いてくればいいでしょうが、シャルティア」
こいつの名前はシャルティア・ブラッドフォールン。ちょっぴり胸が貧しいのが気になる吸血鬼の少女だ。
アウラの豹変にマーレは冷や汗をかきながらじりじりと離れ始める。立場の弱い弟が姉の喧嘩に巻き込まれてはたまらない(戦慄)。
シャルティアはマーレと一緒に若干引いているモモンガさんににじりよる。確かネクロフィリアって設定だったか。
この距離からでも分かる香水の香り。
「くさ」
アンデッドだから腐ってるんじゃないの?と続ける。アウラが変わりすぎて生きるのが辛い。
これにはモモンガさんも思わず自分の腕を顔に近付けて臭いを確認しはじめる。
「それは不味いでしょ。モモンガ様もアンデッドなんだから」
「モモンガ様はいいのよ。超アンデッドとか神アンデッドとかだから」
モモンガさんは解せないふんいき(何ry)を出している。長年付き合ってきた俺には分かる。
「でも、お姉ちゃん、今のはちょっと不味いよ」
「一回くらいはやり直させてあげるわよ」
「うっ・・・・・・分かったわよ」
テイク2をするらしい。
「屍肉だから腐ってるんじゃないの?」
「うん、まあ、それならいいか」
今のやり取りに思わずほっこりしてしまう。こいつらほんとは仲良いんじゃね?
「ああ我が君、唯一支配できぬ愛しの君」
「恋は盲目なのだなと言う顔になってしまう」
「あ、ブリリアント・アンルリー・レーザー・オブ・ノーブル・テザー様!? これは失礼しました!」
「俺のことは気にすんな。あとブロントでいい」
「で、ですがブロント様・・・・・・」
「いあ、微笑ましいものを見たと思わず顔がほころんでしまう。モモンガさんも好かれる方がいいだろ?」
「あ、ああ、そうですが・・・・・・」
「モ、モモンガ様が! わたしに好かれてまんざらでも無いと!」
シャルティアは見ていて飽きないな。あのくらいの歳から一緒に下着を洗うなとか言い始めるだろうからそんなことを言われたらペロロンさんは立ち直れなかっただろう。
「騒がしいわよ、偽乳」
ピキリとシャルティアが止まった。
「なんで知ってるのよー!」
「一目瞭然でしょうが! 何枚詰めてるのよ!」
「わーわーわー!」
キャラ崩壊。てきとーな廓言葉も投げ打って全力で否定にしにかかるシャルティア。まあ、ありじゃにいか?
「そんだけ盛っていると・・・・・・走るたびにどっか行っちゃうんでしょう?」
「くひぃ!?」
「図星? 図星ね? どっか行っちゃうんだ!だから〈転移門〉で来たんだ! どっか行っちゃわないように!」
「黙りなさい! このちび!あんたなんか・・・・・・あれよ! 全然無いでしょ! わたしは・・・・・・少しあるんだから!」
「あんたこれ以上成長しないじゃない。それに比べて私はまだ76歳。これから大きくなるのよ。でも残念ねー。これ以上大きくならないんだから。ああ、だから詰めてるのか」
アウラはふっと表情を崩し――。
「足掻くな。運命を受け入れろ」
いつぞや茶釜さんと議論したイケボ台詞集を引用しだした。
「おんどりゃー! 吐いた唾は飲みこめんぞー!」
「望むところだ! その偽乳もいでやる!」
二人が戦闘態勢に入り、徐々に謎の緊張感が高まってきた。一体どうなってしまうんですかねぇ?
アウラ可愛いよアウラ