死の超越者と白夜の騎士   作:スティレット

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ちょっと長くなってしまったので前後に切ることに。やっぱり個人的には4千~5千くらいが短すぎずダレない範囲だと思った。


プロロんグ2

「ブロントさん」

 

 モモンガさんの声は困惑に満ちていた。

 

「さっきアルベドの・・・・・・む、胸を触った時、心臓の鼓動がありました」

 

 信じられないと言ったようだ。そうだろう。口が動く(・・・・)人間並みの感情表現(・・・・・・・・・)、それに加えて心臓の鼓動など、明らかにマシンスペックが足りていない。そして電源を切らないで複数のプレイヤーのハードウェアを全く同時に拡張するなど、物理的以前に様々な理由で無理がある。

 

「うみゅ、それにセバスに何気なくそこら辺の偵察を命じてみたけど拠点NPCはギルドから出られないはずだべ」

 

 ナザリック周辺に自動POPする雑魚や騎乗用生物、傭兵NPCならともかく、拠点NPCは外に出られない。仮に出来るとしたら捨て垢を作ってガチビルド拠点NPCや使い捨て用にギルド武器を作り、捨て駒で削った後、美味しいところだけを本命のギルドやプレイヤーに吸わせることに繋がる。ギルド武器自体はギルドが機能すればいいのでそこまでの性能は必要ない。そしてRMT業者ならエミュ鯖(エミュレーションサーバー)や外部ツールで検証して行動に移す可能性もある。RMTそのものがある程度黙認されている「ユグドラシル」ではあるが、ここまで大々的にやると普通にBANされるし最悪訴訟も辞さないので危険が危ない。

 

「これは・・・・・・ひょっとして」

 

「1世紀くらい前に結構流行ったジャンルだな」

 

「やはりブロントさんもそう思いますか」

 

「だけど答えはセバスが情報を持ち帰ってきたり他のNPCを見てからだな。焦るとぷにっと萌えさんに怒られるだ」

 

「そうですね」

 

 とりあえず答えはしばらく保留かな。

 

「後はとっさに〈伝言〉を使ってみたが、魔法関係が元の仕様通りか検証だな」

 

「ええ、それも含めてアンフィテアトルムを選びました」

 

「メイン盾は死傷率が高いから各種アイテムの自動蘇生(オートリレイズ)も試してみたいところだが・・・・・・もう一本の線でデスゲームの方だったら目も当てられない。リスクが高すぐる」

 

「こればっかりはどちらか片方が死んでから蘇生なんて軽々しく言えませんしね。プレイヤーの蘇生は最終手段としておきましょう」

 

「まとめるとNPCの忠誠度確認、周辺の探索、仕様の確認って所か。ゲームの線は容量的な問題で薄くなったから現実なのか、現実なのにゲームの仕様が反映されているのか。その辺だぬ」

 

「ええ、ネタ的に着の身着のまま知らない世界に放り出された場合も考えられますから、一人じゃないだけとても心強いです。いや、その、ブロントさんを道連れに出来て良かったとかではなくてですね」

 

「大丈夫だモモンガさん。どっちにしろリアルに未練はないだよ。どちかというと生身は義体化がマッハだからこの身体になってなんか色々復活した感。逆にモモンガさんは良いわけ? 骨になっているから味覚とか無いんじゃにいか?」

 

「アンデッドですからね・・・・・・食道が無いから食べることは不可能そうだし、睡眠がバッドステータス扱いだったらそれも必要ないかもしれません。性欲はそこはかとなく残っています」

 

「だったら完全なる狂騒でも使って自分に眠れる魔法とかかけたほうがいいべ。負の接触(ネガティブタッチ)で分かったんだが多分同士討ち(フレンドリィファイア)も解禁されてるみたいだし。生身だった頃の習慣は出来るだけ大事にすべき。睡眠が取れないと心に余裕が無くなって顔に出てくる」

 

「ブロントさん、俺表情筋が無いんですが」

 

「ものの喩えだ」

 

「他に今話し合っておくことはありますか?」

 

「ヴァナヘイムの拠点がどうなっているか知りたいが今転移して戻って来れなかったら怖いからこれは保留。仮に守護者が信頼出来そうでも俺はこのロール続けるけどモモンガさんはどっかで打ち明ける機会が必要じゃないかな?今後やっていく為にもね。少なくとも設定反映されてたらアルベドは味方だから最悪アルベドだけにも打ち明けるべきそうすべき」

 

「確かに、あの調子じゃどこまでもお供が着いて来そうですし、アルベドなら他の守護者も納得すると思うんですが・・・・・・魔法使いにはちょっとハードルが高いかななんて」

 

「あっ(察し)」

 

「未使用のままなくなっちゃったなぁ・・・・・・」

 

「半端に性欲が残るともじもじして困るからサキュバスのアルベドにでも相談すべき。大丈夫だ。サキュバスにビッチ設定被せてくるタブラさんなら許してくれる」

 

「ああ、タブラさんに申し訳ないことしちゃったなぁ・・・・・・こんなことになるなんて」

 

「もともとサキュバスの時点でビッチなのは種族の特徴だべ。ビッチ設定のままだったら多分モモンガさんとマーレが食われてた」

 

「ブロントさんは?」

 

「黄金の鉄の塊のナイトがドレス装備に遅れを取るはずがない」

 

「すごいなーあこがれちゃうなー」

 

「それほどでもない」

 

 話のオチが着いたところで俺達は第六層のアンフィテアトルムに移動することにした。

 

 

 

 リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使用して俺とモモンガさんは第六層の円形闘技場(コロッセウム)に転移してきた。

 

「アイテムは問題なく使えるようですね」

 

「うみゅ、後で戦闘中でも目的のアイテムを問題なく取り出せるように練習しないとかな」

 

 第六層に踏み入れるとまず最初に感じるのは、リアルでは当の昔に失われた濃い緑の匂いだ。

 

「空気が美味いな」

 

「そうですね」

 

 リアルでは大金を叩いても出来ない贅沢だ。

 

 俺達はブルー・プラネットさんが求めてやまなかった自然を満喫しながら格子戸をくぐり、闘技場の内部に入る。すると、客席全てを埋め尽くす土くれのゴーレム達が迎えた。

 

「とう!」

 

 一際目立つ貴賓席の辺りから掛け声と共に小さな影が飛び降りる。ビル6階分くらいあるんじゃないかな?NPCのスペックであれだったら俺も出来るはず。

 

「ぶい!」

 

 なんか回転しながら軽々と着地すると、満面の笑顔でダブルピースしてきた。見た目10歳くらいのダークエルフ。

 

「アウラか」

 

「お邪魔しますん」

 

 そう、こいつはぶくぶく茶釜さんが作ったNPCの姉の方。名前はアウラ。竜鱗装備の軽鎧に白いベストと同じ色の長ズボン。背中にはやたら豪華ででかい弓を背負っている。

 

「いらっしゃいませ、モモンガ様、ブリリアント・アンルリー・レーザー・オブ・ノーブル・テザー様!お邪魔だなんてとんでもないです!」

 

 アウラは恐縮するようにそう言った。

 

〈大丈夫そうですね。ブロントさん〉

 

〈ああ、後はある意味一番厄介なデミウルゴスだな〉

 

 武力だけならどうにか切り抜けられるけど知略方面は投げっぱなしだったからこればかりは仕方が無い。

 

「でもうれしいです。あたしの守護階層まで来てくれるなんて!」

 

 尻尾があったらぶんぶん振っている事だろう。今にもじゃれついて来そうなアウラは敵意とかそんなものは皆無だ。

 

「ちょっと確認しておきたいことが出来たのでな。ところで今居るのはアウラだけか?」

 

「申し訳ありません!ほら、マーレ、至高の御方々が来ていらっしゃるんだよ!早く来なさい!」

 

「無理だよぉ、お姉ちゃん」

 

 アウラとは違う色の軽鎧に白い上下、葉のような色のマントを羽織り、下は丈の短いスカートだ。飛び降りたらそれが気になるらしく躊躇している見た目はダークエルフの女の子・・・・・・だが男だ。

 

「ほら、早く!」

 

「うう・・・・・・えいっ!」

 

 マーレはスカートを気にしながら観客席から飛び降りた。翻っていないことを確認すると小走りに近づいてくる。だが男だ。

 

「まったくもうこの子はモモンガ様とブリリアント・アンルリー・レーザー・オブ・ノーブル・テザー様が来ているって言うのに」

 

「アウラもその辺にしておいてやれ。二人がいつも良く仕事をしてくれている事は知っている。それに俺は二人の元気なところを見られたから満足だ」

 

「そうだな。それにマーレよ。優しい姉に感謝するのだぞ?アウラがこうやって叱ることで私達にこれ以上罰を与えないで欲しいと行動しているのだ」

 

 モモンガさんも便乗してアウラを諌める。

 

「う、うー・・・・・・分かりました」

 

 やっぱり茶釜さんが作っただけあるな。姉より優れた弟がいるわけが無い理論。それが良く分かったよアウラ感謝。

 

「茶釜さんとペロロンさんのやりとりを思い出しますね」

 

「そうだな。きっとこれも茶釜さんがこの二人に望んだ姿なんだろうな(遠い目)」

 

「ところで、御二方はどうして第六層に? もしかして遊びに来てくれたんですか?」

 

「ちょっと色々試したいことがあってな」

 

 モモンガさんが杖を掲げる。

 

「それは、モモンガ様しか使うことを許されないと言うあの・・・・・・」

 

「そうだ、これがスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンだ。後は少し身体を動かしたくてな」

 

「そうだったんですか。それにしても彼の伝説の宝具をこの目で見られるなんて感激です!」

 

「す、すごいです!」

 

 ダークエルフ姉弟は興奮気味だ。

 

「スタッフ七匹が銜える宝玉が全て神器級アーティファクト。そしてこの宝玉はシリーズアイテムであり、全て揃うことによって真の能力を発揮する。これら全てを揃えるには多大なる労力を費やさなければならない。そのために宝玉をドロップするモンスターを数えるのも億劫なほど狩り続けようやく揃えたのだ。その他にもこのスタッフ自体に自動迎撃機能があり・・・・・・ごほんっ、つまりそう言う事だ」

 

 途中で我に返ったモモンガさんがばつが悪そうに説明を中断する。俺だったらグラットンテンプレに倣って全部説明するだろうな。

 

「ところで甘い匂いがしているんだが、これはアウラのスキルだったか?」

 

「も、申し訳ありません!」

 

 ちょっと疑問を口にすると平伏された。

 

「いあ、別に効かないからいいんだが、俺達も有効範囲に入っていたか?単なる疑問だから別に怒っていないしそこまで気にするな」

 

「は、はい」

 

「ちなみにこれの効果はなんだったか?」

 

「恐怖状態です」

 

〈モモンガさん〉

 

〈ええ、フレンドリィファイアと耐性確認ですね〉

 

 モモンガさんがアイテムを使って月光の狼を召喚する。

 

「こいつらごと私達をお前の吐息の有効範囲に入れてほしいのだが」

 

「えっ、でも至高の御方々にわざと、いえわざとじゃなくても駄目なんですけど、そんな、恐れ多いです・・・・・・」

 

「何、ちょっとした実験だ。お前に罰を与える訳でもない。私の我侭だから気にせずやってくれ」

 

「うみゅ、俺達がそんな理不尽な事するはずが無い」

 

「分かりました。では」

 

 こうして様々な状態異常をかけられたが俺とモモンガさんは異常耐性もしくは無効化でなんとも無かった。一方月光の狼はレベル20そこらと低いので割と効果的だった。

 

「大体分かった。では、送還」

 

 月光の狼が送り還される。

 

「ご苦労だった。次を頼むんだが?」

 

「えへへ」

 

 アウラの頭をぽふぽふしてやるととても嬉しそうにしていた。その一方で羨ましそうにマーレが見ている。

 

〈モモンガさん、マーレの頭を撫でてあげテ!〉

 

〈う、む、そうですね。なんか可哀想ですしね〉

 

 モモンガさんがマーレを撫でてやると控えめにはにかんだ。




 前半会話回。ギルメンと一緒だとこうやって喋っちゃう時とかよくありました。

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