「やれやれ・・・・・・これからどうするか」
ナザリック地下大墳墓の玉座の間にて、白骨のアンデッドがそう嘆息した。
「すべてはモモンガ様とブロント様の御心のままに」
純白のサキュバスは平常運行だ。
「そろそろ案も出尽くしたし、セバスも情報収集に行ってもらったから俺たちも出るだよ」
サーコートに禍々しい柄が露出した剣を提げたダークエルフの騎士・・・・・・俺が促す。
「そうですね。こちらも情報収集ですが、気分転換も兼ねますし」
この骨・・・・・・モモンガさんは疲労とは無縁の身体になってしまった為、ちょっと書類を片付けるつもりが12時間経過していたとかよくやっている。ナザリックホワイト宣言とは一体なんだったのか。
「・・・・・・で、だ。今日の分の報告は残っているだろう? 次の報告は?」
「こちらになります。モモンガ様」
モモンガさんは羊皮紙を手にとってその内容を読んでいる。
「なんて書いてある?」
質問してみた。
「アウラからですよ。他のプレイヤーとの接触は無し。調査は順調に進んでいるらしいです」
「ほむ」
まあ、俺らなんかのPKギルドだったら友好的とはいかないからこうやって隠れているってのもあるし、相手にもそれが当てはまるかもしれにい。
「うむ、了解した。アウラたちにはこのまま命令を遂行するよう伝えてくれ」
モモンガさんがアルベドに命令を下す。
「畏まり――」
その時扉からノックの音が。
「シャルティアが面会を求めています」
「構わん、入れろ」
モモンガさんの許可により、シャルティアが入ってきた。相変わらず盛ってるなー。
「モモンガ様。ブロント様。相変わらずご機嫌麗しゅう存じんす」
「お前もな、シャルティア。して、今日俺の部屋に来た用件はなんだ?」
一人称がようやく俺になったのに魔王ロールが抜け切っていないモモンガさん。そんな畏まる必要は無いと思うんですけどねぇ。
「それは、モモンガ様のお美しい姿を一目見るためでありんすぇ」
あれは冗談を言っている目じゃない。漫画的表現にすると目にハートを浮かべている感じ。
それに対しアルベドが徐々に般若の顔になっていく。これは完全にモモンガさんにターゲットを定めているな。
「ならば満足でしょ。至高の御方々と私はナザリック地下大墳墓の今後について話し合っているの。余計な時間は裂けないわ」
「・・・・・・まず本題に入る前に挨拶するのが基本といわすのに・・・・・・嫌でありんすね。トウの立ったおばさんは。賞味期限切れのせいか、せわしくて」
「・・・・・・保存料ぶち込みまくって賞味期限をなくした食べ物って、毒物と変わりないんじゃない?」
「・・・・・・食中毒菌を甘く見ないほうがいいでありんす。ものによっては感染症まで引きおこしんす」
「・・・・・・その前に食べるところあるの? 食品ディスプレイは盛り上げているようだけど」
「・・・・・・食品ディスプレイ? 殺すぞ?」
「・・・・・・誰が賞味期限切れだ?あ゛ぁ゛?」
こういう時はおとなしく嵐がすぎるのを待つしかない(経験)
「両者とも、児戯は止めよ」
モモンガさんが止めてくれた。ウルベルトさんとたっちさんの喧嘩で耐性が付いているにしても女のメンチ切り合いはなかなかに怖かったと思うがよくやった。
「再び聞こう。何用だ。シャルティア?」
「はい、これより君命に従いまして、セバスと合流しようと思っておりんす。今後少ぅしばかりナザリックに帰還し難くなると思われんすから、ご挨拶に参りんした」
「シャルティア」
「はい、なんでありんしょう。ブロント様?」
「行った先であー、あれだ。「武技」と言ったかな?あれが使える奴を見つけたら連れて来い。俺の推測が正しければレベルカンストでも「武技」を覚えられるはずだからヒントが欲しい。別にそいつ自体は弱くても構わにいから五体満足でな」
「わかりんした」
「では、シャルティアよ。勤めを果たし、無事戻って来い」
「はっ!」
気合入ってんな。
「下がってよろしい。それとシャルティアよ。ナーベラルかエントマにデミウルゴスを呼んで来るよう指示を頼む。次の策について話したい事があると」
「畏まりんした。モモンガ様」
外へ出る前に着替えるために自分の部屋に向かっていると、背後から風切り音がした。
カカッとステッポで避けると、壁に手裏剣が。そして俺に良く似たガラントアーマーを着たダークエルフと乱波装束に目線を着けた人間が一人。
「ブロントォ~」
「弟子がファイナル済まない。どうにも存在理由にファイナル板ばさみされたらしい」
「そうか。たっちゃんも大変だな」
そう、こいつ等は汚い忍者こと笠松ノブオとファイナル達也。忍者はたっちゃんの弟子と言う設定で、昔俺と同じLSに入っていたがネ実での工作や自演のしあいの結果、一度LSを抜け、復讐の機会を窺っていると言う設定持ちなのだ。
そしてその目的の為に蝉を極めると言う目標の元、パラ忍のファイナル達也に弟子になったとかそんな感じ。
たっちゃんは物理、回避両方を臨機応変に努める盾として、60の忍者系のクラスに40の戦士から騎士系の職業レベルを持っている。ついでに忍者は60忍者系に対して道具作成の為、錬金術師15、料理人15となっており、FFの忍術を再現するのにアイテム士のような内部データになっている。たっちゃんはナザリック内の錬金術師から購入と言う形だ。
「俺ぁ考えたぜ。ブロント。確かにお前は俺の創造主なのかも知れねえ。だがな。俺の中の忍者が、「汚い忍者」がお前を超えろと叫びやがる。だからまずは役割に則って動くことにしたのさ。そうすればナザリックも敵対しねえ。お前と言う個だけを狩ればいいからな」
「ノブオの存在理由を考えると止めきれなかった。ファイナル済まない、ブロントさん」
「いあ、いい。忍者、お前今まで何してた?」
「アイテム作成とバフで強化だよ。このために図書館まで行って全部かけてきてもらったんだ。覚悟してもらうぜ」
ここで絶対忍者が俺に勝てない理由が一つ。俺はワールドチャンピオンで、ジョブレベルに換算すると大体105から115くらいなのだ。ワールドチャンピオンは強さにPスキルが必要不可欠だからとして、俺が「ブロント」をやるために盗賊系ジョブなど純戦士よりは余計なジョブをロールプレイの為に取っている。だからワールドチャンピオン込みでようやく100を超えると言った感じかな? まあそんなもん。
「いいだろうぬんじゃ。ここで今一度どっちが上か決めるべ。俺が勝ったらお前に「月に一度は襲ってきてもいい」と言う条件をつける。お前が勝ったら好きにすろ」
「へへ・・・・・・へっへっへ。いいのかよブロント。だったら俺が勝ったらナザリックを出て行ってもらうぜ」
「うみゅ、よかろう」
近くで聞いていたメイドの顔面が蒼白になっている。ギルメンでは無いとは言え至高とか呼んでいる奴が万が一でも出て行くと言っているのだ。「奉仕する先が居なくなる」「お手本が居なくなる」系の状態になっちぇいるのだろう。まあ勝つけど。
「そこの。聞いていたか? これは謀反ではにい。それが忍者の存在理由だからだ。一応誤解が行き渡らないようにアルベドとか呼んで来い。場所はアンフィテアトルムだ。多分デミウルゴスならこの状況を理解して動いてくれるはず。それと、Pスキル向上の為挑戦は常時受け付けるんだが? これは各階層に伝えるべき。そうすべき」
「か、畏まりました!ブリリアント・アンルリー・レーザー・オブ・ノーブル・テザー様!」
「ブロントでいい」
「はい、ブロント様!」
忍者とたっちゃんに向き直る。
「待たせたな。じゃ、ちゃっちゃと行くぞ」
「俺はいつでもいいぜぇ」
「はぁ、このファイナル馬鹿弟子が」
「たっちゃんちょっとこっちに」
「なんだブロントさん?」
ここで俺は耳打ちを一つ。これは忍者に聞こえたら致命的な致命傷となるかもしれにい諸刃の刃。
「・・・・・・忍者は存在理由に悩んでいる。ダから「俺に負けたから」と言う理由をつければなんとかなるかもしれにい。一応ジレンマ解消の為に「月に一度の襲撃」を加えたから大丈夫だろう。もし自棄になっていそうならそれとなくフォローしてやっちぇくれ」
「ファイナル承った。ブロントさん」
「・・・・・・もういいか?バフが切れたらかけなおしてもらうのがめんどいんだよ」
忍者がイライラしながら催促してくる。忍者はせっかち。
「おう、行くぞ」
俺たち3りは連れ立って第六層に歩き出した。
「笠松・・・・・・何か申し開きはあるのかしら?」
「あ? ねぇよ。そんなもん」
現在アルベドのオーラが見えそうになっている。
「まあまあ、アルベド。汚い忍者の存在理由は至高の御方々によるもの。よってこれは至高の御方々の御意思でもあるんだ。常に挑戦を求め、挑戦するブロント様にふさわしいと思うよ」
「流石デミウルゴス。ナザリック一ノ知恵者ヨ」
「でもでありんすデミウルゴス。あのペンギンと違ってレベルは非戦闘ジョブも加えて90相当。それも湯水のようにアイテムを使うために取らせたと聞いているでありんすぇ。瞬間的な爆発力では盗賊系や忍者のジョブより上ではありんせんか?」
「まあ、それでも良く考えてレベルは90相当だ。よほどの奇策を持っていない限りブロント様の勝利は揺ぎ無いよ」
「場所を移したというのも痛いんじゃないかな? マーレ、なにか罠が設置されているとかある? 私は感じないけど」
「うん、無いよおねえちゃん」
階層守護者も各々の評価や意見を出している。
「ブロントさん・・・・・・」
骸骨が心配そうに俺を見ている。
「なに、モモンガさん、大丈夫だ。それに色々考えもあるからよ」
「分かりました・・・・・・」
作り出したNPCに挑まれて色々考えることがあったのだろう。多分ルベドとか。
「じゃ、始めるか」
「おう、後悔すんじゃねえぞ?」
俺は無限の背負い袋から「鈍器」とラベル打ちされた奴をとりだし、そのなかから一列に棘々の付いたものを取り出した。
「げ、クラクラかよ」
そう、クラクラ。正式名称クラーケンクラブ。これの特殊能力は「時々2~8回追加攻撃」と言うもの。時々と言う割にはかなりの頻度で複数回攻撃が発生するが。そして一撃の攻撃力は低いものの、空蝉などと言ったデコイ系のスキルを真っ向から叩き潰すのに最適な武器だ。ナイトは他にもメリクリウスクリスやジュワユースと言った複数回攻撃武器を持っているが、特殊能力発動率と手数の多さではこれがダントツ一位だ。
俺はさらにアイテムを取り出した。
「あれは・・・・・・」
「知っているのデミウルゴス?」
アルベドもノリノリだ。
「あれは「白くべたつく何か」。武器に魔法攻撃力を付与するために定期的に作らせている品だよ」
そう、これはスクロールを使わないで同様の効果が得られるかの試作品だ。これでエンチャントすることにより、マジックアローよりやや劣る無属性の魔法属性追加攻撃を加えることが出来る。かつてFF11の赤魔道士がエンチャントしたのと同じ効果を再現した。ついでに言うと主成分はなめくじの粘液だ。命名は俺。
「喰らえ!」
忍者の先制攻撃。目を眩ますように爆炎が俺を覆う。俺は慌てず息を止め、忍者の気配に向かって防御の姿勢を取った。
「影分身! 不動金剛! 不動金縛り!」
さらに忍者はこの場で忍者のスキルによりステータスを強化し、レジスト覚悟で動きを鈍らせるために金縛りの術を使ってきた。
爆炎が晴れると忍者は居ない。俺は気配を頼りに盾を振るう。
影から音も無く忍者と影分身が出現。ガキィ!っと俺の盾と忍者の鬼哭が火花を散らし、クラクラと影分身の刃がかち合う。やはり背後から鎧に覆われていない首を狙ってきたか。
「おらぁ!」
俺はカウンターで忍者にクラーケンクラブを振るった。
「ふっはっよ!」
忍者はクラーケンクラブによって発生した追加攻撃を一撃は体術で避け、一撃は影分身を盾にし、最後は鬼哭で受け流した。
「まだまだ行くぞぉ! 忍者ぁ!」
さらにクラーケンクラブを振るう。追加攻撃は同時に出るわけでは無く、連続でランダムに出るのでその間に次の攻撃に移れるのだ。
「うげっ!?」
今度は5回の追加攻撃が発生。流石の忍者も事前に仕込んでいた空蝉を剥がされて何発かダメージを喰らう。
「落ちろ! ギガトン・・・・・・パンチ!」
振り切ったクラーケンクラブを引き戻し、雷属性の左をお見舞いした。これはガントレットに付与されているスキルの一つ。運がよければ脳震盪と麻痺が入る。
「ク・・・・・・ソ・・・・・・ここ・・・・・・までか・・・・・・」
いい感じにジョーに拳がヒットした忍者はダメージも相まって崩れ落ちた。うむ、うまい具合に加減出来たな。
「勝負あり!」
モモンガさんによるジャッジだ。気絶確認。うん、しっかり気を失っている。
「んじゃアルベド、たっちゃんを呼んで来てくれ。それと重ねて言うけどこれは忍者が存在する理由の一つに俺をライバル視すると言うものがあるから沙汰とかは無しな。後月に一度くらい襲ってくるけど邪魔はするんじゃにい。こいつの在り方を決めたのは俺だし」
「・・・・・・畏まりました。ブロント様」
「ドタバタしちまったけどようやく街に行けるな。んだば準備してくるべ。モモンガさん・・・・・・いや、モモン後でな」
「了解した。ロト。では後ほど」
忍者の襲撃は考えてみれば遅いほうだったな。しかし爆炎陣に火遁、雷遁も追加で目くらましに使われていたらどうなっていたのか解らなかった。結果を急いた忍者に敗因がある。リアル視覚にも影響が出るからブライン対策はどうにかしないとダメだと分かった。その点については感謝。忍者。
今回の考えをまとめながら忍者を背負い、たっちゃんに預けるためにアルベドの元へと歩き出した。
忍者出すのに相当悩んだ。これがその結果。今後は憎まれ口を叩きながら忍者が出てくるかもしれにい。
追記:爆炎陣と火遁が被っていたためうっかり消してしまっていた。この遁術は通常の忍者のものと違ってマジックアイテムを使用するだけなので忍者は錬金術を取っています。申し訳ないです。