時は22世紀。人の技術は日月進歩と言ったもので、インターネットゲームもその様相を変えてきた。
DMMOーRPG・・・・・・その中でも極めて高い自由度が売りのゲームがある。それが「YGGDRASIL」であった。
だが、それも12年と言う歳月を過ぎればコンテンツも出し尽くされ・・・・・・現在サービスの終了が秒読み段階である。
ナザリック地下大墳墓。
ここには先ほどまで3体のアバターが居たのだが、内1体、スライム体のアバター・・・・・・ヘロヘロさんは既にログアウトしていた。
「せめて最後まで・・・・・・と言いたかったんですが、ヘロヘロさんもお疲れのようでしたね」
「うみゅ、だけどヘロヘロさんもリアルに鞭打って来てくれただけありがたいと考えるべきそうすべき。それによ。まだ俺が居るんだが?」
「そうでしたね。ブロントさん。失礼しました」
豪奢なローブを着た骸骨・・・・・・
「俺がギルド武器とチャンピオン取りに行くぞって言ったときに何人か手伝ってくれたのもいい思い出だぬ」
そういう俺は純白のサーコートを身に着けたガタイのいいダークエルフだ。
「はは、まさかアイテムの販売はともかくRMTで資金繰りしているとは誰も思いませんでしたよ」
「こっちには経験があるからな」
現在の俺はヴァナヘイムの頭なんだが過去に一度「アインズ・ウール・ゴウン」を抜けたのだがチャンピオンになって戻って来た。現在ヴァナヘイムにあるギルド拠点の武器はダミーで、今ギルド武器は俺の腰に吊るされている。
元々祭りみたいなノリで「天辺取りに行こうず」の発言からぷにっと萌えさんが知恵を貸してくれ、るし★ふぁーさんとか、ヒャッハーしたい連中が一時的にこちらの作ったギルド「喧嘩チームDRAK~ダーク~」に加入し、さらにヒャッハー共を雇ったり情報を可能な限り直前まで伏せたりして電撃的にチャンピオンの座を奪い取った。それからは一応ナザリックから不眠不休で働けるゴーレムを買い取って今も警備に回している。課金罠でヴァナヘイムの拠点のテレポーターにひっかかるとナザリックで盛大に歓迎されたりするけどな。
その後は「アインズ・ウール・ゴウン」の傘下に収まるという形で元の鞘に収まり、ヴァナヘイムの拠点は完全にトラップ、ナザリックのようなロールプレイ無しガチビルドNPCとゴーレム、自然POPモンスターの巣窟兼死蔵庫だ。別荘と言う見方もあるんだがあんなのはもう糞豚の住処だろうな。
おっとと、紹介が遅れたな。俺はブリリアント・アンルリー・レーザー・オブ・ノーブル・テザー。略してブロントだ。謙虚だからさん付けでいい。
「しかし最後までブロントさんが残ってくれるとは思いませんでした。思えば長い付き合いですね。たっちさんに誘われるまでのゲリラ戦を思い出します」
「あれはなんとか囮のアンデッドを呼べるくらいまで諦めずにレベリングしてたモモンガさんの貢献が大きいと思った。俺は不意だましたけど謙虚だから自慢はしない」
「相変わらずのロールですねー」
「これでも誤字再現とか抑えているほうだべ。本気になったら聞き手の頭がおかしくなって死ぬ」
そう、俺は古代から居るブロンテイストの一人。だが、新しいネトゲが出来る度「ブロント」を演じるようになってから長い時間が経った。2ch連盟とかが居るだけあってどんなキャラなのか特定されたりもしたが、むしろそれがウけたらしい。これが仮によしひろだったら許されなかった。
そのブロントさんだが、ヒューム(人間)の男とも、エルヴァーン(ダークエルフの皮を被ったドワーフ)とも言われていたが、Wiki等で広く浸透していたダークエルフ風味を採用している。
もちろん種族的な問題が議題に上がったが、茶釜さんの「ダークエルフのNPC作りたいしいいんじゃない?」とかタブラさんの「ダークエルフとドワーフの血を引き各地から異端者扱いされてきたとか・・・・・・設定が捗る!」との事で「アインズ・ウール・ゴウン」のギルメンとは以前からフレだったがモモンガさん達と比べると後から入ったといういきさつがあるのだよ。
「もう10分を切ったか。最後は玉座の間で迎えませんか?」
「いいぞ。なんならそれを持っていけばいいと思う」
「「スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」ですか・・・・・・そうですね。最後くらいいいですよね」
さっきはヘロヘロさんがログアウトしたことで落ち込んでいたが、持ち直したようだ。笑顔のアイコンを送ってくる。
部屋を出るとメイドがこっちに向かって頭を下げている。特にレベルの高くない一般メイドだ。
ここナザリックを運営するメイドなどの使用人の他に料理人とかマッサージ師なんかも居る。
モモンガさんが七匹の宝珠を銜えた蛇が絡み合うような杖からコツコツと規則正しい音を出しながら俺と一緒に歩いていると、10階層に繋がる階段が見えてきた。
そこには一般メイド達とは明らかに違うふいんき(何故か変換できない)のメイド達と初老くらいの執事が居た。
メイド全員が方向性が違う。だが、しっかりと調和が取れている。執事は温和そうだけどやたら眼光が鋭い。
こいつらは戦闘メイド「プレアデス」。そして家令のセバス・チャンだ。
「「付き従え」」
侍っていたセバスと
玉座の脇には純白と言ったほうがいいサキュバス。アルベドが控えている。
「「ひれ伏せ」」
付き従っていたNPCが全て跪く。
「どうせだから最後にNPC達の設定でも見てみましょう」
「良いぞ」
まず手始めに・・・・・・「スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」で一番近くに居たアルベドの設定を見てみるらしい。
「長っ!」
とてとて長いらしい。
「ブロントさん・・・・・・これ」
「なんぞー?」
アルベドの指差された最後の一文を見てみると。
“ちなみにビッチである”
「うわぁ」
「流石のブロントさんも引きますか」
目の前の骨が疲労のアイコンを出し、ため息付きそうになっている。肺がないから出ないけど。
「こう、なんか変えたほうが良いんでしょうかね?ああ、でもせっかくのタブラさんの設定をいじるのもなぁ」
「ビッチだとシモでストレスがマッハだから「モモンガを愛してる」とかでいいんじゃにいのか? まあ一般論でね」
「んな一般論があるか! 「ブロントを愛してる」にしてもいいんですよ?」
「・・・・・・無難にギルメンで」
「次、シャルティアでも見ます?」
「エロゲマニアのペロロンさんが数分程度で読みきれる文章を打つわけがない。後時間も押している様だし下手に削除項目発見したら可哀想だべ」
「それもそうですね」
脱力する骨。流石に時間が足りない。仕方ないね。
「これでサービス終了か。ブロントさんは何か遣り残したことはありますか?」
「何週間か前にギルド潰しでタイムアタックしてたからそれの戦利品整理くらいか」
使うアイテムや最近入手したアイテムは主にこっちの蔵に入れてもらっている。
「ならそれほど悔いは無さそうですね」
「モモンガさん、これまで楽しかった。また逢えるかなんて分からない。だから、元気でな」
「はい、ブロントさんもお元気で」
57、58、59、0、1、2、3・・・・・・。
「どういう事だ?」
「最後の最後で締りませんね」
なんだこの気の抜けた感じは。
「ん?」
「どうかしましたか?ブロントさん」
「モモンガさん、口が、動いている」
「あ・・・・・・本当だ。ブロントさんの口も動いている!」
「あの、モモンガ様、ブリリアント・アンルリー・レーザー・オブ・ノーブル・テザー様。どうなさいましたか?」
俺はここでカカッと〈伝言〉を起動。これは一級廃人なら顔色一つ窺わせずこなせるが、貧弱一般人がやると挙動不審になって詮索される紙一重のスキル。
〈モモンガさん〉
〈ブロントさん?〉
〈嗅覚が働いているんだが?〉
〈いつの間にかYGGDRASILⅡになったとか?〉
〈だとしたら、GMコールとログアウトを試してみないとだぬ〉
心配げに俺達を見るアルベドをよそに俺達はリアルへの復帰を試みる。セバスたちも何か言いたそうだが、上司であるアルベドが代表して声をかけているからか許可が出ていないからか、跪いたままだ。
〈ブロントさん、GMコールが出来ません!〉
〈ログアウトもだ〉
「あの、モモンガ様? ブリリアント・アンルリー・レーザー・オブ・ノーブル・テザー様?」
「・・・・・・長いだろうからブロントでいい」
「ブロント様。何か私に不手際でもございましたか?」
〈なんかおろおろしてるんだが?アルベド〉
〈ブロントさんお任せします!〉
〈しゃあねえなあ〉
「GMコールとログアウトが使えなかっただけだ。気にするほどのことじゃにい」
「そうですか、無知なわたくしにはじぃえむこぉるもろぐあうとも聞いたことが無い言葉です。申し訳ありません」
アルベドがモモンガさんにしなだれかかろうとしている。潤んだ瞳がやばい。
〈モモンガさん、非常措置だ〉
〈なんですか? この事態を打開する策を思いついたんですか!?〉
〈ああ・・・・・・これはモモンガさんを信じての大任だから心して聞くべき。死にたくなければそうするべき〉
〈なんでしょう?〉
〈倫理コードだ。アルベドの胸を鷲掴みにすろ!〉
〈ハードル高すぎますよ!〉
〈はやく! はやく! はやく!〉
〈どうなっても知りませんよ!〉
「アルベド・・・・・・」
「モモンガ様・・・・・・?」
「し、し、失礼する」
「きゃっ」
〈文字通り鷲掴みに行ったな。いやらしい〉
〈あんたがやれっつったんだろーが!〉
さっきからモモンガさんがちょくちょく光る度に賢者のようなふいんき(何故か変換できry)を出す。
「あ、あの、モモンガ様」
アルベドがちょっと苦しそうだ。
〈モモンガさん!
「あ、ああ、すまないアルベド」
「いえ、良いんですモモンガ様・・・・・・どうぞ、来てください」
アルベドが二人だけのふいんき(何故かry)を出している。
〈魔法使いには難題過ぎますよ!〉
〈GMを呼び出すための緊急措置って言っとけ〉
「アルベド、これまではこのような行為を取るとGMからの警告があったのだ。風紀を乱す輩を罰するためにな。だが、どうやらそれも叶わぬらしい」
「そうだったのですかモモンガ様・・・・・・ですが私達の逢瀬の邪魔をするとはなんと罪深き輩なのでしょう。じぃえむと言う者を見たら八つ裂きにします」
本当は警告が送られてきてからなんか無視して色々すると実名晒されてBANとか社会的死が待っていたのだが、そういうのもなくなったらしい。
「セバス」
「はっ」
モモンガさんが逃げられ無さそうなので俺が命令を出す事にした。
「プレアデスから一人付けてちょっと外の様子を見て来い。何か分かったら俺かモモンガさんに連絡すろ。他は九層から上で侵入者とか居ないか見回りだ」
『かしこまりました』
とりあえずこれでよし。
「アルベド、各階層の守護者を第六層のアンフィテアトルムに集結させよ。アウラとマーレには直接私が言っておく」
モモンガさんが復活したらしい。
「御意に」
〈モモンガさん、どうするつもりだ?〉
〈俺とブロントさんでも流石に守護者全員に襲われたら苦しいです。アルベドやセバス達は忠誠を誓ってくれているようですが、最悪襲われても逃げ切れるように忠誠心があるか確認しないと〉
〈分かった。アルベドの設定にさっきギルメンを愛してるって書いたがよくよく考えてみたら俺今ギルメンじゃなかった〉
〈もし仮にこれまで俺達がやって来たやりとりを覚えていると言うならブロントさんがギルド再加入すればいいと思います〉
〈グラットンがどうなるのかいまいち不安なんだが・・・・・・〉
〈確かにギルド武器の損失は大きなダメージです。普段から入り浸っているからそんなことにはならないよう祈りましょう〉
〈とりあえずアルタナ神にでも祈っておくか〉
この後まさか一世紀前の小説のようなことになっているとは予想すらしていなかった。
本文はブロント語控えめなのに書き終わったときの前書きが我慢できなかった。本当は内藤とブロントさんのどっちでやるか結構迷った。
追記
ふいんきは仕様。