怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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ちょい短いですけど、楓さんオンリーにしたかったので


76話

「およよ、おひさー」

「私は何度か翠さんのこと、見かけてましたよ? 声をかける前にどこか行っちゃいますけど」

 

 翠が三人に話をした日の翌日。

 棒付き飴を舐めながらブラブラとしていた翠はどこかへ向かおうとしている高垣とバッタリ出会う。

 

「どこ行くん?」

「美城常務から話があると言われたので」

「ほほう……俺もついていこっと」

「それなら一緒に行きましょうか」

 

 本当ならすぐにでも話を聞き出したい高垣だが、無理に急かして今の関係が壊れるのに怯え。

 今更ながらあの時のことは偶然が良い方向に傾いただけというのを実感していた。

 今だって当たり障りのない会話を交わしている。

 

 二人きりの会話も部屋の前に着いたため終わってしまい、不思議な感情が胸の内にあるのを理解しながらも気持ちを切り替え、ドアをノックする。

 

「入りなさい」

「失礼します」

「失礼しまー」

 

 高垣の後から入ってきた翠を見て美城常務は一瞬だけ目を見開くが、これから話す内容についても知られているためか。気にせず高垣へと向きなおる。

 

「よく来てくれた。君の活躍は我が346プロの中でもトップクラス。そこでだ。次の音楽番組で君がメインの特番を組もうと思っている。君は選ばれたんだ」

「私より翠さんの方がいいと思いますけど」

 

 ちらりと、高垣はソファーで横になっている翠へと目を向ける。

 いつも通りの翠でいることに笑みが溢れそうになるが、真面目な話をしている手前、気を引き締める。

 

「残念ながら俺には別の仕事があってね。常務には楓を勧めたんだよ」

 

 何をしにここへ来たのか、翠は携帯をいじっており。こちらには視線すら向けることはなかった。

 

「そう。君はもう灰かぶりではなく、お姫様なんだ」

「…………お姫様」

「そうだ。お姫様に粗末な小屋は似合わない。手始めにこのイベントは他の子に回そう。こんな小さな仕事はイメージにそぐわない」

 

 翠から勧められて、選ばれた。

 ならばその期待を裏切ることは許されない。

 それは皆が共通して掲げて来た。

 だからこの仕事を引き受け、自身の100%を出すのは当たり前のこと。

 

 もう一度、ちらりと翠へと目を向ける。

 彼は変わらずこちらを見ていなかったが、話を聞いてるのは誰でもわかることだった。

 …………。

 

 

 

 ──その話、お受けできません

 

 

 

 ごめんなさい、翠さん。

 たとえ翠さんの期待を裏切ることになったとしても、譲れないことがあります。

 

 私は──翠さんを超えるつもりでいます。

 

 そのために、これだけは譲れません。

 

 何故か。

 翠さんはこちらを見ておらず、顔も見えないのに。

 私が仕事の話を断ると言った時──笑ったような気がしました。

 

「何故だ? こんな小さな仕事より大きな成果を出せる仕事だぞ」

「お仕事に大きいも小さいもありません。今回のライブは私にとって大切な場所でのお仕事です」

「君はさらなる活躍のための階段をのぼる気はないのか?」

 

 高垣は首を横に振り、確かな志を目にして美城常務を真っ直ぐに見つめる。

 

「私はファンの人と一緒に階段を登りたいんです」

「…………一緒に?」

「はい。ファンの人と一緒に、笑顔で。それが私にとって一番大事なことで、譲ることができません」

「曖昧な理由だな」

「それが私のやり方です。あなたとは目指すところが違う」

 

☆☆☆

 

 高垣が出て行ったドアから視線を外し、美城常務はソファーに寝転んで携帯を弄っている翠へと目を向ける。

 

「今日、直接言葉を交わしてどう見えた?」

「…………大きな仕事を自ら手放すとは、愚かなことだ」

 

 問いかけようと口を開いたところで先に問われ、少し間を空けて答える。

 

「君は彼女のどこを評価している?」

「んー、それを常務が自分で気づくことができたなら、346はもっと大きくなるね」

「それはどういう」

「残念ながらヒントはここまで」

 

 詳しく聞こうとするセリフを遮り、翠は立ち上がり、ドアへと向かう。

 

「アイドルはね、物じゃなくて人なんだよ」

 

 それだけ言い残した翠は再び、どこかへと行ってしまった。

 

☆☆☆

 

「楓、仕事の話断ったって本当?」

「メインで特番だったって聞いたけど」

「大きな仕事にビックリしちゃって。ホットコーヒー飲んで、ホッとしたいわぁ」

 

 高垣が仕事を断ってから数日が経ち。どこから聞きつけたのか、高垣は川島に片桐、城ヶ崎姉、宮本に囲まれて問い詰められていた。

 

「ダジャレで誤魔化さないで」

「強制連行して取り調べよ」

「それなら居酒屋までお願いしまーす」

「楓さん、惚ける気?」

「理由を話すまで、一滴も飲まさないから」

「お猪口にちょこっとだけでいいから、ね?」

 

 相当な圧力があるのだろうが、それを感じさせない雰囲気のまま受け答えをしていく。

 その姿勢にストレスが溜まっていく四人だが、ふと、雰囲気が変わった高垣に気がつき。

 真剣な表情で静かにするよう人差し指を立てて口元に持っていく。

 

「ごめんなさい。シンデレラプロジェクトの子がそこにいたから。……聞かせるわけにはいかないじゃない?」

「なら、今なら答えてくれるわよね?」

「他の人にもあまり聞かれたくないの。だから居酒屋も冗談じゃなくて個室で話そうと思って。……キチンと全部話すわ」

「…………なら、一先ず納得してあげる」

「ただ、いくら楓さんでも満足のいく理由じゃなきゃ許さないから」

 

 先ほど美城常務に向けた目をしてしっかりと頷く。

 

「ええ、分かってるわ。私だって他の子が同じことをしたら今のみんなと同じだもの」




やっとアニメ二期が始まって来ました
なんだかテンションだけ高いです

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