怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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まだ日付変わってないのでセーフ!
気がつけばこの小説を載せ始めてから2年が過ぎてるんですね……
そして残り一月で今年も終わりです
…………やること多過ぎてしんどいですね


69話

「…………ああ、最悪だ」

 

 ライブの翌日。昼を過ぎて目を覚ました翠は上体を起こし、高垣との会話を思い出して口を開く。

 

「おはようございます。翠さん」

「美波? ……んー、とりあえず説明」

 

 声をかけられて他にも人がいることに気づく翠。ある程度のことを知られているため、先ほどのセリフも誤魔化すことはなく。現状を理解するために説明を求める。

 

「はい。昨日、熱を出して倒れてしまったのでここ、346にある医務室で交代しながら看病してました」

「そかそか。着替えは?」

「蘭子ちゃんとみくちゃん、それと楓さんの三人です」

「んー…………まあいっか。それより腹減ったから何か食べたい」

「そろそろきらりちゃんがおかゆを持ってきてくれるはずです」

 

 そのまま何か聞きたそうに口を開く新田だが、何も言わずに黙ってしまう。

 ほぼ同時にノックする音が響き、ドアを開けて双葉、おかゆを持った諸星が入ってくる。

 

「にょわー、翠さんおはようだにぃ」

「体調はもう平気なの?」

「おはよ。たぶん平気」

 

 おかゆを取り皿によそってもらい、それを受け取った翠はレンゲで一口小すくって十分に冷まし。それから口に運んでいく。

 よそった分を食べ終えるとおかわりを要求し、翠が満足した時には持ってきたおかゆはなくなっていた。

 

「満足満足」

「これだけ食べられるなら元気だにぃ」

「心配かけたようで」

「本当です。蘭子ちゃんの慌てっぷりがとても凄かったんですから、あとで声をかけてあげてくださいね」

「慌てっぷりと言えば、アイドルの先輩たちもみんな凄かったよね」

「瑞樹さんや美嘉さん、楓さんも顔を真っ青にしていましたし、他の皆さんも驚きや心配からドタバタしてましたし」

 

 その時のことを思い返しているのか、三人は苦笑いをしている。

 

「そう言えば、俺のことについて話すって話があったよね」

 

 さらりと。聞きたくても聞けなかったことを翠が口にし、三人は驚いた顔を向ける。

 

「なんだろうな……実はさ、楓にある程度のことを自分から話したんだよ。だからかな? 少しだけ、吹っ切れたのか信じてみようって気持ちは確かにあるけど……やっぱり、あまり知って欲しくもないんだよね」

 

 もう一度、裏切られたら二度と人を信用できない。

 そんな雰囲気を漂わせながら話す翠の手に三人は身を寄せ、自身の手を重ねる。

 

「何度でも言います。私たちは翠さんを裏切ったりしません」

「きらりたちも、翠さんの力になりたいんだよ?」

「力になりたいのは本当だけど、辛いなら無理して話す必要もないからさ」

 

 真っ直ぐな瞳を向けられるが、翠はその視線から逃げるように目を逸らす。

 その行動に三人は悲しげに微笑むが、焦る必要はないと身を引く。

 

 何も進展が無かったとしたら今の行動に加えて誤魔化すようなセリフの一つや二つ、あっただろう。

 だが今回は目を逸らされただけであり、それも優しくされることに慣れていないゆえに出た行動だと三人はなんとなく理解していた。

 

 これまで誰かに優しさを向けられて来なかったのならば。いざ優しくされた時にどうしたらいいのか分からない。

 それが今の翠に当てはまる。

 

「夏フェスまでは仕事キャンセルしたけど、これからまたちょくちょく仕事あるからさ。みんなの予定が合う日を複数教えてよ。そこから俺の空いてる日を合わせて話の場を設けよう」

「無理に聞き出そうとした私たちが言うことじゃないかも知れませんが……さっき杏ちゃんが言った通り、辛いなら無理して話さなくても大丈夫ですよ?」

「そうだにぃ。焦ってもいい結果にならないにぃ」

「いんや、話すよ。実際、ほとんどバレているようなもんだから。それに……………………いや、なんでもない」

 

 何か言いかけていた翠だが、誤魔化すように首を横に振って寝転び、毛布を肩までかけなおす。

 

「腹一杯で眠くなったから寝る」

「はい。おやすみなさい」

「翠さんのレッスン、楽しみに待ってるにぃ」

「早く元気になってね」

 

 翠の様子から看病はもう大丈夫だと考えたのか。空になった容器などを片付け、三人は一言声をかけて部屋を後にする。

 

「…………やっぱり、寂しいって感じちゃうんだな」

 

 一人になった部屋でそう寂しげに漏らし、目を閉じる。

 だんだんと薄れゆく意識の中、翠は三人が触れた手の部分から温もりを感じたような気がして眠りへと落ちていった。

 

☆☆☆

 

「おはようござます。翠さん」

「……おはよう」

 

 再び翠が目を覚ませば。自身と手を繋いでニコニコと笑みを浮かべる高垣の姿が眼に映る。

 

「何してるん?」

「手を繋いでます」

「……なんで?」

「私が翠さんと手を繋ぎたかったからです」

 

 起きても手を振りほどかれないのが嬉しいのか、少しテンションが高くなった高垣は何を思ったか翠が寝ているベッドに入ってくる。

 

 反射的に起き上がって逃げようとした翠だが、そうなる前に捕まってしまい、高垣の抱き枕となってしまう。

 

「いつもの楓らしくないが……どしたん」

「実は、幸子ちゃんと翠さんがハグしてるのを見てからこうしたいな、と思ってたんですよ?」

「むむむ」

「よく分かってると思いますけど、人に抱きしめられていると安心しませんか?」

「……そりゃ、まあ」

 

 後ろから抱きしめられているのがまだ救いであったと翠は考えながらも、その表情はどこか嬉しそうであった。

 

「なあ、楓」

「どうかしましたか?」

「…………いや、なんでもない」

「ふふっ。照れてるのでしょうか?」

 

 抱きしめる力を少しだけ強めながら。高垣は優しく、翠に話しかける。

 

「私は翠さんのことを裏切りませんよ。どんな事があろうと、です」

 

 何度も言ってその言葉が軽くなってしまおうと、今の翠には自身の気持ちをきちんと言葉にして伝える必要があると。

 そう考えた高垣はライブの日と同じような言葉を口にする。

 

「なあ、楓」

「はい」

 

 ふいに、先ほどと同じように声をかけられる。

 それに嫌な顔をせず、むしろ名前を呼ばれた嬉しさから、高垣は喜びを滲ませた返事をする。

 

「俺、楓に話したことをもっと詳しく他の子にも話すことにしたよ」

「……あまり、無理はしないでくださいね?」

「分かってる」

「私としても嬉しいことなのですけど……一番は翠さんの気持ちですから」

「ありがとね。……それで、その説明に楓も来て欲しいんだよね。一緒に詳しい話を聞いて欲しい」

「はい。分かりました」

 

 迷うことなく頷く高垣。だが、その瞳には心配する気持ちとは別にどこか暗い感情が混ざっていたのだが……翠がそのことに気づくことはなかった。




最初の方に書いた記念話でゲーセンのやつがあると思いますが、そこで美波あたりが「まゆちゃんとそんな接点ない」とか言うんですよ
めちゃくちゃ接点ありますよね……。……パラレルワールドってことで一つ

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