怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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無理に文字数稼ごうとしないで3000〜4000文字あたりでやっていこうかなと思います
きりがいいなと思ったところでやるので、文字数は結構変わると思いますが


66話

「…………んっ」

 

 布団に潜るなりすぐ寝てしまった翠を見て、釣られて寝てしまった新田は目を覚ます。

 

「あれ、私……」

 

 寝ぼけているため少しの間、先ほどまで何をしていたのか分からなかった新田であるが、それもすぐに思い出し。そして自身の体調が戻っていることに気づいて驚きを露わにする。

 

「本当に熱が下がってる……」

 

 体温計で熱を測っても平熱を表し、すぐそこで寝ている翠に目を向ける。

 

「やあ、おはよ」

「お、起きてたんですか?」

「体温計の音で目が覚めた。見た感じだと大丈夫そうだね」

 

 そして横になったまま目が開いている翠と目が合い、新田はびっくりして肩を跳ねさせ。

 測ったまま消していない体温計を翠へと渡し、それを見て頷いた翠はリセットして自分の体温を測り始める。

 

「体調も問題ない?」

「はい、大丈夫です」

「そか。水分はしっかりとっておけよ。寝てる間に脱水症状とかよくあることだから」

 

 翠はそばにある台の上に置いてあったスポーツドリンクを手に取り、新田へと放り投げる。

 慌てることなくキャッチしたそれは夏の暑さからかぬるくなっていたが、新田は一口飲むごとに体へと染み渡るように感じた気がした。

 

「そろそろ雨が上がりそうなのかなぁ……」

「部屋にいたままそんなことも分かるんですか?」

「いやいや、勘だよ。降ってるのもにわか雨だし、そんな長く降るものでもないからさ。もしかしたらもう止んでる可能性もあるし」

 

 互いに無言となったタイミングで体温計の音が鳴り響く。

 翠はちらりと自身の体温を確認してリセットをしようとしたが、その前に体温計は新田に奪われる。

 

「大体、翠さんの行動が読めて来ました」

「うぬぬ……美波のくせに」

「それなりに翠さんを見てきましたから」

 

 そう言って新田は体温計に目を落とす。

 

「…………熱、下がってないんですね」

「でも、俺は出る」

「私にはダメだと言ったのにですか?」

「ああ、なんでか知らないけどトップアイドルらしいからな」

 

 それでも納得いかない表情をしている新田に、翠は普段通りでもなく、たまに見せる闇でもなく。

 人形のように無機物かと思うほどに、なんの感情もこもっていない瞳を向ける。

 

「……こんな言葉がある。アイドルは偶像であり虚像である、と。ファンは俺が熱を出していることなど知らず、気にせず、ただただ楽しめばいい。見ればいい。それが俺の存在理由(レゾンデートル)何人(なんぴと)たりともこれを侵すことは許さない」

 

 加えて感情のこもっていないセリフ。

 その雰囲気に押されてか新田は背中に冷たいものを感じたが、同時に違和感も覚え。

 その違和感が新田の中に強く残り、見え方が変わった。

 

 纏っている雰囲気とセリフ、それぞれにどこか本心が見え隠れしているような気がしていた。

 

 濃い日々を過ごしたとはいえ、半年も一緒にいない新田であるが、今までの翠よりも比較的わかりやすいことであった。

 

 しかし、新田はそのことに触れなかった。

 これから翠の出番があるだろうし、なんたって最後の新曲には新田も参加するのだから。

 

「それじゃ、たっちゃんのところ行って美波も出ること伝えなくちゃな」

「はい」

 

 それを察したのか、翠も話の流れを変える。

 翠の熱が下がらないと分かっていたのであろう。近くの台の上には冷えピタが置かれていた。

 首に貼ってあったものと貼り替え、新田に目を向ける。

 

「どうかしましたか?」

「気負うな。楽しめ」

「はいっ!」

 

 いい笑顔を浮かべる新田に満足したのか、翠は武内Pのもとへと向かう。

 

「おはようございます。翠さん。新田さん」

「おはよう。よく眠れたか?」

「おっはー。いつもニコニコ元気な翠さんでーすよー」

「おはようございます」

 

 武内Pと奈緒が何やら話していたが、そんなことは気にせず翠は近寄っていき、2人も近づいてくる人に気づいて話をやめ、顔を向ける。

 

「いま、どんな状況?」

「CPのユニットは全員終わりました。いまは城ヶ崎さんがトークで場を盛り上げているところです。翠さんを起こしにスタッフが向かったと思いますが……どこかで行き違いがあったのでしょう」

「なぬっ! 俺の出番ではないか! いますぐ行ってくる!」

 

 走ってステージに向かおうとした翠だが、少し離れたところで振り返る。

 

「たっちゃん! 最後の新曲は全員揃って踊れるぜ! やったね!」

 

 言いたいことだけ言った翠は再び走り、スタッフから自分専用のマイクを受け取ってステージへと上がっていく。

 

『お前らぁ! 翠さんの登場だぜ!」

 

 城ヶ崎姉が何か話していたが、それに被せるよう翠は声を出しながら城ヶ崎姉の隣に立つ。

 一瞬、場は静寂が支配したが、すぐに溜めていたものが爆発するかのような歓声が上がる。

 

『美嘉のやつめ。俺が楽しみにとっていたものを横取りしやがって……これは美嘉の写真集の発売不可避だな!』

『えぇっ! なんでそうなるのさ!』

 

 嫌がる城ヶ崎姉とは違い、ファンは喜びを露わにする。

 

『その事については後々に発表があるとして』

『ないから!』

『皆様皆様! このトークの後より俺のステージが待ってるが! なんとなんと! トリはシンデレラプロジェクト全員で踊る新曲だ! 楽しみに待ってやがれ!』

 

 隣でグチグチ言っている城ヶ崎姉は翠、ファンともに放っておき、話は進んでいく。

 

『いつまでもトークじゃあれだから、そろそろ始めようか!』

 

 セリフが言い終わるとほぼ同時に曲が流れ始める。

 それに気づいた城ヶ崎姉が引っ込もうとしたが、翠に腕を取られてそれは叶わない。

 

 そしてそのまま歌詞に入ってしまう。

 

 翠に耳打ちされた城ヶ崎姉はそれに合わせて一緒に踊り始める。ちょっとした合間に舞台袖に手招きをして高垣を呼び、翠を挟む形で時にハモりを入れながら踊り続ける。

 

 城ヶ崎姉、高垣の2人は以前に輿水が話していた中にいたため、ミスをするようなことは無かった。

 

 3人それぞれ統一されていない衣装であるが、照明の効果もあってかそれはそれで完成されているようにも見えなくは無かった。

 結局は盛り上がればいいのだから。

 

 

 

 

 そのまま3曲連続で歌い、踊りきった。

 であるのに3人は多少、息が乱れているだけであるがまだまだいける雰囲気であった。

 

『今日は贅沢なユニットで踊ってやったぜ! 次の曲がこのライブ最後になるけど、いい具合に仕上がったから楽しみにしてろよっ!』

 

 そう締めくくり、照明が徐々に落とされていく。

 翠たちはまだ見えるうちに舞台袖へと向かい、ハイタッチを交わす。

 

「私も翠さんと一緒に踊りたかったです」

「そうですそうです。私とまゆちゃんも出たら5人ユニットでバランス良かったですよ」

「うふふ、ごめんなさい」

「ごめんね。そんなに増えてもあれかと思ってさー。たまたまいた楓さん呼んじゃった」

「踊れるやつなら何人いても楽しかったと思うがな」

 

 戻ってすぐに佐久間と十時から文句が入る。

 その後もワイワイ盛り上がっていくが、最後の曲が始まりそうになると皆は口を閉じ、モニターへと意識を集中させる。

 

 先ほど、翠が『いい具合に仕上がった』と言ったからである。

 どれ程のものなのか、彼女たちも様々なことを思っていた。

 

 自分といいライバルになるのか。

 

 自分とユニットを組んだ時でも大丈夫なのか。

 

 それとは別に皆が考えていることが1つだけ。

 

 

 

 (あのひと)の期待を裏切るのは許さない。

 

 

 

 ただ、それだけであった。

 346に所属するアイドルのほぼ全員は翠の1人レッスンを見たことがある。

 だからこそ、普段の翠があんなだろうと、これだけは皆が常に思っていることであった。

 どれだけ意外だと思われようと譲れるものではなく、故に手を抜くことなくレッスンをする。

 

 そして普段から口にしていないが、いずれは抜かすつもりであることを秘めている。

 

 翠からしてみれば『いずれ』と思っている時点でダメだと鼻で笑うであろうが。

 

 そんなこともあり、翠はモニターに集中しているアイドルたちを見て少し引いているのだが。

 ただならぬ圧のようなものを感じ、内心では部屋に戻って1人でモニター見ようかななどと、飲み干して空になったペットボトルを手で弄りながら考えていたりする。




ウェデイング蘭子復刻来たんで溜めてた石全部(5000個)使いましたが、きたのはもう1人の中二病である二宮飛鳥ちゃんでした…
飛鳥ちゃんも可愛いよ……でも蘭子のウェデイングが……

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