安心してください。作者自身も思ってます……
話の最後の方にイラストありますが、画面明るくしてからのがいいと思います
「…………さん、…………いさん!」
「…………あと5年」
誰かに揺すり起こされ、冗談を言いながらも上体を起こしてあくびを漏らす。
「んで、……お楽しみは何か予想ついた?」
まだ眠そうにしながらも、緒方から水の入ったコップをもらい、一口飲んでから口を開く。
『花火!』
あらかじめ誰が言うのか決めていたのだろうか。
赤城、城ヶ崎、本田、諸星ら4人。パッション系が声を揃えて答えを口にする。
「…………っく、やっぱり幾人か外さなきゃダメだったか」
またプラスで計14回、言うことを聞かなければいけないことが決まり、まだそれを使っていないのが大半だと言うこともあり。
どうにでもしてくれといった雰囲気を出しながら畳の上に寝そべる。
「一応、理由を聞いとこうか……」
「この時期ってのと、お楽しみの時間が夜」
「翠さんが帰って来た時、甘い匂いが箱からしたのでお菓子かなって思ったんですけど」
「花火をみんなでやりたかったにぃ!」
「うぅむ……寝る前に惑わせるような選択肢増やしとけば……」
悔やんでももう遅く、嘆いていても仕方ないため、皆を風呂へと追い立て、自身は夕食の準備を始める。
「んー、まだ少し早いかなぁ」
煮物を竹串で刺しながら。
大きめな声で独り言を呟く。
「今すぐがいいだろうけど、もう少しこのまま時間を置こうか。まずやるべき事があるし」
他の料理の調理をしながら。
耳を澄ませば廊下から遠ざかっていく足音が聞こえる。
「うん。……いっぺんには俺も無理だからね」
一度、調理の手を止め。いろんな感情を込めた瞳を先ほどまで居たであろう場所に向けて口を開く。
「どれだけ先延ばしにしようと、"いま"が終わることなんて突然なんだ。…………だからもう少し、もう少しだけこのまま、ぬるま湯の中に浸っていたい」
今まで彼女たちと過ごして来た時間を振り返り、今更ながらになぜ約束してしまったのかと後悔する。
深くまでとはいかないが、ある程度知っても彼女たちは遠慮する事なく、変わらず接してくれて来た。
しかし、全部話した時にも同じ事が言えるとは限らない。
翠はいま、この時、この関係が壊れることを恐れている。
だが、自分で口にしたように先延ばししても話さなければいけない時はきてしまう。
永遠がどれだけ難しいことだと分かっていても、それに縋ってしまうのは人の弱さなのだろうか。
「…………」
このままだと深くハマってしまいそうになることを自覚し、頭を振って切り替える。
いまのまま皆の前に行ってしまったら"その時"がきてしまう。
1分でも、1秒でも長く。
程よい柔らかさになった煮物の1つを口にし、笑みを浮かべる。
☆☆☆
夕食を終え、食休みを挟み。
日が延びたとはいえ19時半だと日は沈み、都会から少し離れているからか夜空には星が煌めいていた。
「まあ、大丈夫だとは思うが気をつけてな」
翠だけでは全員に目が行き届かない可能性があるため、大半は高校生以上だが、万が一のために注意を促す。
「終わったのは水が入ったバケツにいれるよーに。花火の量が量だし、5つ用意したから」
前に立ち、説明する翠の側に水の入ったバケツが5つ、火のついたロウソクが5つ。そして後ろにはどこから持ってきたのか疑うぐらい、山のように盛られた花火が。
虫刺されにも気を配ってか皆と自分に虫除けスプレー……だけでなく、蚊取り線香もいくつか焚いている。
「それじゃ、ケガに気をつけて存分に楽しめ!」
『おーっ!』
翠が拳を突き上げたのに合わせ、皆も拳を突き上げて声を出す。
そして各々は好きな花火に手を伸ばし、火にかざして花火を楽しみ始める。
「おーい、未央! 振り回してもいいがもう少し離れてからにしろ!」
「はーい!」
片手に4本の花火を持ち、グルグルと腕を回して楽しみながら楽しませるのはよかったが、人の距離が近かったため翠の注意が入る。
「あの、翠さんもどうですか?」
「ん? ああ、ありがと。皆を見てなきゃいけないけど……大丈夫そうだし」
縁側に座って皆のことを見ていた翠だが、そこに花火を持った島村が近づいてくる。
一応は年長者であるため、何かあってもすぐ対応できるよう見てなきゃいけないが、島村の雰囲気を察してか花火を受け取る。
「あ、ロウソクが遠いですね」
「ライターあるから。……ここに座り」
隣に座るよう促し、島村と自身の花火に火をつける。
色が変わっていくタイプなのだろう。
赤、青、緑と様々な色に変わっていく花火を見ていると、島村の声が耳に届く。
「……私、全然気がつきませんでした。翠さんが変装して教えてくれていたことや……その、他のことも……全く……」
「そりゃ、そうじゃなきゃ俺が困る。隠したいんだから、バレないように過ごしてきたんだもの」
新しい花火に火をつけ、それに目を向けながら。翠は困ったように話していく。
「いまだってどうしてこうなったのか、考えているよ。頑張って隠し通してきたことがこうやってバレているんだもの」
「その……ごめんなさい……」
「気にしてないさ。もう、どうしようもないのだから。…………うーちゃんも皆のとこにもどって楽しんでおいで。あ、ついでにこれをバケツに入れてくれると嬉しいかな」
「……はいっ!」
いつまでも引きずっているわけにはいかないことを分かっているのか、完全にとはいかないが笑みを浮かべる。
そして翠から花火を受け取り、バケツに入れながら皆の輪の中へと戻っていった。
島村の後ろ姿を追ってようやく顔を上げた翠は、ある程度知った子たちが楽しみながらも時折こちらをチラチラと見ていることに気づく。
嬉しく思いながらも、知らなければ今を心から楽しめたんだろうといったことも考え、彼女たちからそっと目を逸らす。
そのあとは特に何事も無く。
あれだけ大量にあった花火も1つ残らずなくなり、むしろまだまだ楽しみたい雰囲気さえあった。
「翠さーん。もう終わりー?」
「手持ち花火は綺麗さっぱり無くなりましたと」
バケツも5つでは足りず、追加でもう5つ出したほどである。
一ヶ所にバケツを集めたときには皆の口から『ほぇ〜』と間抜けた声が漏れたほど、表現しづらい達成感みたいなものがあった。
「なんか含みのある言い方だね」
「花火は手持ちだけじゃないのさ」
座る場所を指示し、翠はあらかじめ準備をしていた場所へと向かう。
とあるところでしゃがみ、何か作業をしては少し移動してしゃがみ、を繰り返していく。
作業が4回目に入ったとき。最初の仕掛けが働いたのか、大きな音とともに何かが空へと打ち上げられる。
火薬の破裂する音が響き、鮮やかな打ち上げ花火が夜空を彩る。
一定の間隔でどんどん上がっていき、1つ1つ違う花火を目に焼き付けるように彼女たちは見ていた。
20本近い花火が打ち上げられ、翠のお楽しみは終了した。
皆で協力しながら後片付けを終え、彼女たちは臭いを落とすためにもう1度風呂に入っている。
本来なら避けるべきことであるが、臭いが染み付くのも考えものであったため。風邪ひかないよう十分に気をつけるよう注意して許可を出した。
「…………」
翠は1人、外に出て星が煌めく空を見上げていた。
先ほどまでは騒がしかったこの場所もいまは静けさを保っている。
何を考え、何を思っているのか。
風になびく髪を押さえることもせずにいるいまの翠は周りの風景と合わさり、1つの絵として完成されているようであったが、それは儚くも壊れてしまいそうに脆い雰囲気があった。
暫くそうしていた翠だが、ふいに口を開く。
「…………風邪引かないよう、気をつけろって言わなかったっけ?」
どれだけ足を音を殺しても周りが静かであれば気づかれてしまう。
翠は振り返り、やって来た人物へと目を向ける。