怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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……張った伏線は回収しないのに、伏線として書いたつもりのない文を回収していくスタイル
自分自身がよく分からない今日この頃


55話

 午前のレッスンを終え。気持ちを口に出した次の日であるというのに、格段に良くなったと感じた翠は武内Pに電話をかける。

 

『はい。どうかされましたか?』

「いやさ、昨日の夜に気持ちがどうの話したらさ……格段に良くなって。あの子たち何者よ。まだ動きや歌に調整が必要だけど、ステージに立って人を惹きつけるには十分なできだよ」

『なるほど……。今日はそのままレッスンをしてもらい、明日から全体楽曲の方に入りますか?』

「その方がいいね。そっちの方に気がいっても、日に余裕があるからユニット曲の方も維持できると思うし」

『はい。よろしくお願いします』

 

 電話を切ろうした武内Pだが、翠がそれに待ったをかける。

 

「たっちゃんたっちゃん」

『はい』

「ちなみに、リーダーは誰にする予定?」

『私は新田さんが適任かと。年長者でもありますし、周りのことをよく見ているので気配りにも長けているかと』

「なるほどなるほど。俺もいいと思うよ」

『ただ、不慣れな部分もあると思われるので……その部分を翠さんが補っていただけないでしょうか?』

「ふひひ、たっちゃんからのお願いさ。喜んで」

『ありがとうございます』

「んじゃ、また」

 

 電話を切った翠はしばらく暗くなった携帯の画面を見ていたが、嬉しそうに微笑んでそれをしまい。昼食を食べているであろうみんなのところへと戻っていく。

 

 

 

「みんな、昨日よりもっと良くなったよ」

 

 褒められて喜びを露わにする面々。

 しかし、またも翠が『だから』と続けたため。その喜びは減ってしまったように見えるが、まだ上手くなれるといった嬉しさが見て取れた。

 

「今日は三時にオヤツを作ってあげよう」

 

 ダンスや歌に対する指摘だと考えていたため。何を言っているのかすぐに理解できないでいた。

 

「…………いらな」

「欲しい!」

「欲しいです!」

 

 誰も反応しないため。少ししょんぼりしつつ、先の発言を取り下げようとしたのを察したのか。

 甘い物好きな二人。双葉と三村が手を挙げ、食い気味に答える。

 

「そしたら、今日の午後は根を詰めないで一つ一つの動作を確認するだけにしようか。食休み終わってやろうとしてもオヤツの時間はすぐだし、オヤツ食べた後も激しい運動は控えた方がいいし。……それに、みんなはこの二、三日で少なからず疲れが溜まってるだろうから。明日からまた厳しくしようと思ってるし、ノンビリしようか」

 

 何人か翠のセリフに引っかかったのか首を傾げていたが、意識の大半は翠が作るオヤツに向いていたため、少し経つと引っかかっていたことは忘れていた。

 

☆☆☆

 

 午後のレッスンも終わり、皆が風呂に入っている頃。

 翠は一人、夕日が沈みつつある空を見ながら縁側でお茶を飲み。喜んでもらったオヤツを思い返しながら微笑んでいると、資料を片手に武内Pがやってくる。

 

「お疲れ」

「翠さんもお疲れ様です」

 

 隣に座るよう座布団をポンポンと叩き。急須にお湯を入れ、お茶を用意する。

 

「ありがとうございます」

 

 律儀なのか正座して座り、入れてもらったお茶を啜る。

 

「正座だなんて堅苦しいね。たっちゃんらしいけど。…………それで、ソレは?」

「はい、曲と振り付けは翠さんが考えてくださいましたので。みなさんの立ち位置を参考までにと」

「ふむふむ、見して」

 

 武内Pから資料を受け取り、パラパラと目を通していく。

 立ち位置は一つだけでなくいくつかのパターンが用意されており。そのパターンごとに細かな説明が書かれていた。

 

 真剣な表情で資料に目を落とし、なにやらブツブツと呟いている。

 側から見てるだけだと危ない人に見えなくもないが、翠の頭の中ではそれぞれのパターンごとにどうなるか。シミュレーションされているであろう。

 

 書かれている説明も参考に、この振り付けの時には観客からこう見えるなど、彼女たちが踊っているときに観客からどう見えるか。複数の視点から、彼女たちはどの立ち位置が一番魅せることができるのか導き出していく。

 

「たっちゃんの案も含めて考えて見たけど、この立ち位置だとどう?」

 

 裏面にペンで立ち位置と簡単にステージを描いていく。

 それを武内Pに渡し、説明をしていく。この振り付けはこう見えるから、光の演出で、などと。

 

「……なるほど。光の演出は考えていませんでした」

「俺のもあくまで一案だから。これを踏まえてたっちゃんでも煮詰めてみて」

「はい。分かりました」

 

 そのあとは煎餅を齧りながらただのおしゃべりとなっていた。

 

「あの……」

 

 声に振り返ると、新田が少し困惑した表情を浮かべて立っていた。

 風呂上がりであるため髪はしっとりとしており、色気が普段よりも増している。

 

「ああ、ここに座って」

 

 翠はもう一つ座布団を用意し、そこに座らせる。

 

「少し頼みたいことがあってさ」

「頼みたいこと、ですか?」

「とりあえず話だけ聞いてもらって、答えは明日の朝にでも聞かせてもらえるかな?」

 

 首を縦に振ったのを確認して、翠からアイコンタクトを受け取った武内Pが説明を始める。

 

「実は、新田さんにはシンデレラプロジェクトのリーダーとなっていただきたいのです」

「リーダー……って、あのリーダーですよね?」

「はい。私は仕事の都合でしばらくこちらに来ることが出来ません。いつも翠さんがいるわけでもないので、プロジェクト内でリーダーを決めておこうと」

「もちろん、やれって言われてすぐになんでもできるはずなんてないからさ。俺も手助けしていくよ。……あまり時間ないけど、今夜ゆっくり考えてもらって、明日の朝にでも返事を聞かせてもらえるかな?」

「やります」

 

 説明も終えたため、翠と武内Pは終わった感じであったが。

 

「やらせてください」

 

 真剣な眼差しでそう口にする新田に、二人は少したじろぐ。

 

「いいん?」

「はい。プロデューサーと翠さんがなんの考えもなしに人を立てるとは思えませんし。それに、何事もやってみないと分かりませんから。……翠さんもサポート、してくれるんですよね?」

「そりゃ、右も左も分からんのに放り出してハイ終わり。ってわけにはいかないからね。基本的には美波の判断に任せるけど」

「なので大丈夫です」

 

 翠も納得しているため。武内Pはメモ帳に何か書くと、一つ頷く。

 

「分かりました。それでは新田さん。よろしくお願いします」

 

 武内Pはまた戻ってしまうため。他のメンバーにも一声かけにいってしまった。

 

「美波」

「…………?」

 

 二人きりになり、どうしたらいいか分からないでいた新田。いきなり名前を呼ばれ、お茶を目の前に置かれる。

 そのまま話し始めるわけでもなく。同じ形を作ることがない湯気を見つめる翠。

 

「あの……」

「何をしたいのか、見つかった?」

「…………」

 

 堪えきれず。翠に声をかけようとしたが、それを遮るようにして問いかけられる。

 その内容に、新田は思わず下を向いてしまう。

 

「……その」

「なんでそんな顔をしている。自分で気づいていないだけで、やりたい事に向かって走っているというのに」

「それはどういう……」

「煎餅、美味しいよ?」

 

 翠の言葉に新田はバッと顔を上げ、どういうことか深く尋ねようとしたが。

 目の前に煎餅を差し出され、思わず受け取る。

 

「せっかくのお茶も冷めちゃうって思ってたけど……夜、眠れなくなっちゃうか」

 

 少し残念そうにしながら。新田の前に置いた湯呑みを回収し、自身の元へと寄せる。

 

「あ、あの……」

「大丈夫。焦らなくても美波はきちんと見つけている。気づいていなくても、そこに向かっているから」

 

 翠はこれ以上に話すことはないとばかりにお茶を啜り、煎餅を齧り始める。

 新田も渡された煎餅を一口齧り。翠から言われたことを胸の内へとしまう。

 

「美波は真面目すぎるんよ。もう少し肩の力を抜いて周りを見てみると、また違った景色が見えると思うよ」

「翠さんみたいな感じですか?」

「俺は……あまり参考にしてはいけない人種だな」

「ふふっ。それもそうですね」

「…………だいぶ毒、強いですね」

「堅苦しいよりはいいですよね?」

 

 ニコリと微笑み、煎餅を齧る新田。今まであった堅苦しい感じが少し抜けているように見えた。

 

☆☆☆

 

「…………何。日替わりなの?」

「今日はきらりの番だにぃ!」

「あ、日替わりなのね……」

 

 布団を敷いているとき、枕片手に元気よく入って来た諸星を見て。翠は目眩を覚えた気がした。

 双葉が翠と一緒に寝たことはみな、当然知っており。どうやったかも当然知ってるわけで。

 

「今夜はきらりと一緒に寝ようね!」

 

 何でも言うことを聞く件を除いても、どこか拒否することを許さないような笑顔でそう言われれば。首を縦に振るしかなかった翠である。

 

「…………?」

 

 一緒に寝ようなどと言っておきながら。

 部屋に入った状態から動いておらず、枕を抱えて立ったままであった。

 

 翠と視線が合うと、諸星はサッと目をそらすのに加え。どこか落ち着きがないように見える。

 

「…………アホか」

 

 その行動の理由に気づいた翠はため息を一つ漏らす。

 それが聞こえたのか、ビクッと肩を跳ねさせ。諸星は恐る恐るといった感じで翠へ目を向ける。

 

「ダメだったら断ってるっての。お前さんは鋭いんだか鈍いんだか分からんな」

 

 そこには複雑そうな笑みを浮かべる翠がいたが、その笑みは一瞬で。瞬きをする時間で優しい笑みへと変わっていた。

 

「んで、そんなことはどうでもいいんだよ。なんで君も持ってきたのが枕一つなのさ」

「杏ちゃんが翠さんと一緒の布団で寝たって言ってたよ?」

「…………それで?」

「それじゃあ、きらりたちも一緒じゃないとずるいにぃ!」

「…………そう」

 

 どう足掻いても一つの布団で寝ることは決まっているようで。諸星から枕を取り、自身の枕の横へと並べる。

 

「もう寝る?」

 

 時計を見てもまだ九時前であり。疲れを取るためなら早めに寝たほうがいいであろうが、若い子にそれを当てはめるのは酷であろうか。

 

「翠さんと少しだけ、お話したいな?」

「別にいいけど」

 

 お茶を飲むと眠りにくくなってしまうため。一手間かけ、ホットミルクを二つ用意する。

 

「ありがとうだにぃ」

「ん」

 

 小さいテーブルにコップを置き。諸星の対面に座ろうとした翠だったが、手を引っ張られ。諸星の足の間に収まる。

 

「…………これはこれは」

「翠さん」

 

 胴に腕を回されているため逃げることはできず。

 何か嫌な予感がした翠は誤魔化すために口を開くも、諸星に遮られる。

 

「昨日ね、時間があったから智絵里ちゃんにも私たちが知ってることを話したんだ」

「…………なるほど」

 

 それを聞き、昨日の緒方の行動に納得がいった翠。しかし、まだ話は終わらず。

 

「それで今日ね。昨日の夜に何を話したのか、杏ちゃんから聞いたの」

「…………」

「きらりたちは翠さんに何があったのか分からない。イベントが終わった後に話を聞く約束してるけど、苦しみを全部理解できるとも思えないにぃ」

「そりゃ…………そうだろうな」

「うん。きらりはきらりで。翠さんは翠さんだもん」

 

 そこで口を閉じた諸星はしばらく黙ったままでいたが。唐突にギュッと腕に力を込め、強く翠を抱きしめる。

 少し苦しいのか、翠は微かに顔をしかめるが。話の続きを聞くため、何も言わずに顔を少しうつむかせる。

 

「『過去に何があったかは知らない。だけどもし何かあったとして、何かしてきた人がいるならば……そいつらと俺を一緒にするな。ヘドが出る』…………今でも覚えてるにぃ」

「…………」

「翠さんがきらりにそう思うように、きらりも翠さんにそう思ってるんだよ?」

「…………」

「それとね、翠さん」

 

 込めていた力が抜け、優しく包み込むように抱きしめる形となる。

 

「全部は理解できなくても……一緒に悲しんだりすることはできるんだよ? それに一人でいるよりも二人でいるほうがもっと楽し……たの、……しぃ…………」

「…………なんできらりが泣くのさ」

「分かん……ない……。なんだか急に……悲しくなって…………」

 

 そのまま静かに泣き始めた諸星。いまだ後ろから抱きしめられたままでいるため、動けない翠は胴に回された手に自身の手を重ね、優しく撫でる。

 

「…………最近こういうのが多いからかな。自分自身がよく分からなくなってきたよ」

 

 泣いている子どもをあやすような口調で独り言を始める。

 

「多分だけど、君たちと出会った時にこういう事を言われても……きっと、なんとも思わなかったと思う。でも、今は少なからず変化が起こってると思うよ」

 

 少しづつ諸星が落ち着いてきたのを雰囲気で感じ取り。

 優しく自身の胴に回された手を解く。

 

「ミルク、冷めちゃったね。温め直してくるから」

 

 諸星の頭を一度撫で。コップを二つ持ち、入れなおすため部屋から出て行く。

 

「…………それで、なんで君達(・・)も泣きかけてるのさ」

 

 諸星に聞こえないよう、部屋の外で盗み聞きをしていた新田と渋谷に声をかける。

 このままこの場所にいると諸星にも気づかれるため、台所に二人を連れて移動する。

 

「最初の方から聞いてたよね」

「…………その」

「別にいいよ。どうせ明日、みんな知るんだから」

 

 ミルクを温めながら。目を赤くしている二人に話しかける。

 

「二人も、この合宿中に俺と一緒に寝るのかな?」

「……うん。一度、翠さんと二人きりで話したいかな」

「はい。私も」

「んじゃ、取り敢えず今日は早く寝とき。明日からまた、大変だから」

 

 どういうことか深く聞こうとした二人だが、シーと口の前に人差し指を立ててウィンクをされ。口を閉じる。

 

「二人ともお休み」

「「おやすみなさい」」

 

 長く白い髪を靡かせ。温めたミルクを二つ持って去っていく翠を見送った二人はどこか悲しそうであった。

 

 

 

 落ち着いた諸星は気が抜けたのか。翠から受け取ったホットミルクを飲むとすぐに眠ってしまった。

 

「…………俺は抱き枕か」

 

 翠が漏らした通り、抱き枕のようにして翠に抱きつきながら寝ている。

 諦めたような口調であるが、その頰は緩んでおり。昨夜の双葉と同じように、回された手に自身の手を重ね、目を閉じる。




アニメを見返さないと……オリジナルから本編入るから……
この話はどこに向かうんでしょうね(((

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