怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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活動報告にて色々とありがとうございます
この話がずっと終わらずに続いて欲しいとの案もあり、作者としてすごく嬉しいです
それらを踏まえて考えますと、この小説はアニメ二期(作者の気力が持てば翠さん編)を終えた後。話としては完結しますが日常をダラダラと不定期で書きつつ。新たな二次創作を書いていく形ですかね。

あべこべのデレマスを書く場合ですと、元より翠さんを出すつもりです!
ONE PIECEですと、神様転生しない、チート無しで気づけばーみたいな形でしょうか。ただ、スペックは高い、と。
AKB49だと「あべこべ」もしくは「主人公憑依」、「逆行」とか考えてます
まあ、まずはこの小説の完結ですがね!


53話

 驚き固まる彼女たちを置いて先を歩く翠を慌てて追いかけ。どういうことなのか口々にまくし立てる。

 

「まんまの意味なんだが……」

 

 そう言って静かにさせ、あの時のことを多少簡単にして話し始める。

 ついでとばかりに、現実逃避のために書いた。もしも引退してたらの妄想話も。

 

 

 

 

 

 話し終えた後。

 彼女たちが何も言わず、静かであることに嫌な予感を覚えた翠は早足で少し離れようとする。

 しかし、そのことを読んでいたかのように右腕を新田。左腕を諸星が掴み、それを阻止する。

 

「や、お二人さん……さ、散歩だよ……?」

「こ、コイントスで何を決めようとしてるにゃ!?」

「…………アイドル活動?」

「く、首を傾げて可愛くしてもダメです!」

「翠さんはもう少し、考えたほうがいいにぃ……」

「引退した理由がそんなことで決まってたら暴動が起きますよ!」

 

 その後も歩きながら(両腕は抑えられたまま)似たようなことをグチグチと言われ続けていた翠であったが。

 きちんと理解したかの返事を求められた時、『俺程度にそんなんなるわけないやん』と答えてしまったことにより。説教の延長が決まった。

 

 一時間ほどの散歩であるはずなのに、気分をリフレッシュみたいな感じで出たはずなのに。

 それどころか寧ろ、精神的に疲れ切ったことに翠は『どうしてこうなった……』と布団に倒れこみながら考え、目を閉じた。

 

☆☆☆

 

 翌朝。

 

「……………………」

 

 翠ばかりに負担をかけないよう、料理ができる人たちで朝早くに起き。ご飯と味噌汁、目玉焼きと簡単な朝食を作ってくれた心遣いに嬉しさがこみ上げてくる翠であったが。

 

「……………………」

 

 先ほどからジト目に加え、無言でジッと見てくる双葉に原因が思い至らない翠は首をかしげるばかりである。

 

「…………翠さん、昨日の夜に杏ちゃんと話すって言ってませんでした?」

「…………ぁ」

 

 新田に教えられ、ようやく思い出した翠。

 昨夜は四人によって精神的に疲れ切ってしまい。散歩から帰って来てそのまま布団へとダイブし、眠りについたのである。

 

 誰かが起こそうと揺すられた記憶が朧気ながら翠の中にはあったが、これから眠りにつく翠を起こせるものはほとんどいないため。

 双葉と話すという約束を破る形となった。

 

「…………その、悪いな。言い訳になるかもしれんが、散歩している時に四人の相手で精神的に疲れて」

「…………別に怒ってるわけじゃないし」

「今日の夜こそ話そう。な?」

「…………甘いもの」

「用意させていただきます」

「なら許す」

 

 まだ一日は始まったばかりだというのに。

 すでに翠の顔には疲れが見えていた。

 

「…………これはもう、歳かもしれない。引退しなければ」

「何言ってるにゃ。翠さんにはまだまだ引退してもらったら困るにゃ」

「そうです。私たちは翠さんの足元はおろか、先輩方の足元にすら立っていないんですから」

「いつか、翠さんが『あっ!』と驚くようなアイドルになってみせるにぃ!」

「別に俺がアイドルやってなくても驚かせるぐらいできるやろ……。それと、みんなは俺の足元ぐらい来てるんやない? 他のアイドルたちとの差だって、ようはやってきた長さだし。基礎はほぼほぼ出来上がってるから、あとは全体曲とかの振り付けと歌詞を覚えていけばいいだけだし。……人気って意味だと、すぐにどうこうなるわけでもないがな」

 

 簡単に自論を述べた翠はお茶を飲みながら手を振る。

 

「それに、自分でわかってるんなら今は口よりも身体を動かさなきゃ。早く準備しておいで」

『はい!』

 

 

 

 行ったのは昨日と同じことであり。

 違うとすれば食事の内容と翠の見回る頻度が増えたことであろうか。

 翠がアドバイスをすると、乾いたスポンジが水を吸収するかのように取り込んでいき、完成度を高めていく。

 

 たまに躓く時もあるが、翠の的確なアドバイスによって時間は多少かかるが、普通に比べれば圧倒的に早く身につけていく。

 

 …………この場合。何が普通なのか基準となるものがないが、翠のレッスンを受ける彼女たちの常識が半ば壊れかけていることにまだ誰も気づいていない。

 

 おやつの時間に武内Pが様子を見にきたが、その際に全員の動きが昨日よりもいいことに驚き。

 翠に全体楽曲の練習を早めるかと話を持ち出す。

 

「んー、まだ微妙なんだがなぁ……」

「微妙、ですか……?」

「こう、何か違うんだよ……」

「……はぁ」

 

 武内Pもそれなりに近くでアイドルを見てきたが、どこがダメなのかが分からないほどに動きは完成に近い状態であった。

 同じアイドルとして、ちょっとした違いが感じ取れるのかと考えた時。武内Pの頭にとある考えが浮かんだ。

 翠も同じ考えに至ったのか。見落としてたとばかりに目を少し見開く。

 

 

 

「「気持ちだ(です)」」

 

 

 

 言葉がかぶり、二人の目が合う。

 

「あー、そっか。みんなの気持ち、もう少し考えるべきだったか。楽しいとは思ってくれてるとは思うが、少し離れてるんかな? …………いや、慣れかな?」

「ですが、仕事ですし……こういったこともあるのでは?」

「確かにないとは言い切れないけど、彼女たちにそこまで求める気はまだ無いよ。それに、まだまだ遊びたいもんね。俺だって遊びたいし」

「翠さんは遊びすぎですが……」

 

 武内Pのジト目から逃れるように視線をそらした翠は誤魔化すように咳払いを一つし、腕を組む。

 

「取り敢えず、夕食の時にでも意識を改めるよう声かけてみるかなぁ……」

「…………私としては今のままでも十分かと思いますが、あまり無理はしない程度に」

「あいあい。それは第一に考えとるよ」

「翠さんの第一は楽しい、ですよね?」

「ふひひ、そこは納得するとこぞ?」

 

 口の前に人差し指を立てながら。人を惹きつけるような笑みを浮かべる翠に武内Pは内心ドキリとしつつ、首に手を当てる。

 

「それじゃ、今から夕飯を手伝っとくれ」

「はい」

 

☆☆☆

 

「皆の衆、皆の衆。我の話を聞きたまえ」

「…………何を始める気にゃ」

「何も企んどらんよ。ちょっとしたお話」

 

 皆が食べ終わった頃を見計らい、翠が注目を集めるため。手を叩きながら立ち上がると、嫌そうな表情をした前川が口を開く。

 

 短いなりに濃い付き合いをしてきたCPの面々は、真面目な雰囲気を感じ取り、口を閉じて翠へと体を向ける。

 

「今日のレッスン見て回って、確かにみんなの技術は上がってきた。完成度も高く、自身の持ち歌でなら他のアイドルたちとも並べるぐらいには」

 

 褒められて喜びの声を上げるが、『……ただ』と続けられ。全員口を閉じ、静かになる。

 

「上手くなってると思うが、それと同時に何かが足りなくなっている。…………初期と比べ、何が違うか自分で気づけた人はいる?」

 

 いきなりの問いかけであったが、皆は真剣に考え始める。

 

 しばらくして、島村が恐る恐るといった感じで手をあげる。

 

「間違っててもええから、聞かせて」

「は、はい。あの、き、気持ち……でしょうか? 凛ちゃんと未央ちゃんと、一緒にレッスンするのは楽しいですし、上手くなってる実感もあって嬉しいですけど……その、なんだか最初の方がもっと楽しい、嬉しい気持ちが強かったと思います」

「ほうほう……だいぶ鋭いの」

 

 島村の考えを聞き、少し大げさに頷き始める翠。

 

「俺の予想もそんな感じで、多分みんなは慣れてきちゃったのかなって。もしくは辛い。大きなイベントによるプレッシャー、かと。あとは他に理由があるとすれば飽きがきたとか?」

「あ、飽きるなんてないです!」

「そうだにゃ!」

「それに辛くはありますけど、上を目指すのに楽なことなんてありません」

「ハイ。辛いですけど、とても楽しいです」

「技術の向上に慣れたってのも何か違くない?」

「そうだにぃ! 上手くなってく度にとぉってもハピハピだにぃ!」

「みりあも! みんなで踊るのすごく楽しいよ!」

「莉嘉も莉嘉も! 確かに辛い時もあるけど、出来た時の達成感? すっごくいいの!」

「私も。みんなと頑張っていくの、とっても楽しいです」

 

 その後も皆は自身の思いを次々に口にしていく。

 それを聴き逃すまいと、翠は真剣な表情で全部を聞き取っていく。

 

「そっか。みんなの気持ち、きちんと全部聞いたから。…………明日からのレッスンはさ。技術の向上は当然だけど、一回一回にその気持ちを込めてやってみようか」

『はい!』

 

 返事を聞き、嬉しそうに微笑んだ翠は空になった皿を片付け。

 誰もついてきてないことを確認しつつ、靴を履いて玄関から外に出る。

 

「…………」

 

 どこへ行くわけでもなく。

 玄関から数歩歩いたところで立ち止まり、月が照らす夜空を見上げる。

 

「…………」

 

 翠の周りの空間だけが切り取られたかのような静寂を包み込み。周りの景色と翠の雰囲気が相まって一つの完成された絵のように見える。

 

 

 

 ただ、それは儚いものであり。

 触れたら壊れてしまうような、脆いものであった。




次の話ですが、作者自身はとても気に入ってたりします
期待させといて残念な感じとかだったら恥ずかしいですけど

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