怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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報告いただいて気づくレベルの作者

訂正する前は途中、文が途切れてるとこがあったのですが、まだ書き途中であったのを忘れて投稿してました
書き加えたので……たぶん、大丈夫なはずです。
こんな駄作者ですが、長々とよろしくおねがいします


51話

「……………………暑い」

 

 肌を焼くような強い日差し。

 いつも以上に念入りに日焼け止めを塗り、普段のダボダボとした服ではなく、薄い長袖と長ズボンで肌を出さない格好に加えて日傘をさし、紫外線カットのメガネをかけた翠はボヤきながらもその足を動かしていく。

 

「もう、歩け……ない。なんで十時前なのにこんな暑いのさ……」

「たかが数十歩もないのに何を言ってる」

 

 車から荷物を降ろし終えた奈緒が翠のぼやきにため息をつきつつ。日傘を奪い、翠を脇に抱えて運んでいく。

 

「……あざす」

「私は帰るから、そこんとこは理解しておけ」

「おけ」

 

 本当に分かって返事をしているのか不安が残るが、いつものことだと考え。仕事に戻るため、車に乗り込んで帰っていく。

 

「夏かぁ……暑いなぁ……」

 

 靴を脱いですぐのところで横たわり、ボヤいている翠をCPのメンバーがなんとも言えない表情で見ていた。

 

「お、みなさんも到着かな」

「翠さん、そんなところで横になられていると皆さんが上がれないので」

「おぉう」

 

 武内Pに促され。のそりと体を起こし、隅っこへと移動する。

 

「これから夏合宿が始まりますが……翠さん、大丈夫ですか? 奈緒さんもいらっしゃいませんし」

「まー……なんとかなるって」

「…………はぁ」

 

 困ったように首の後ろへ手を当てる武内Pに親指を立てる翠を見ながら。CPの面々も上がり込んで荷物を部屋の隅に置いていく。

 

「それでは私は一度離れますが、今日の夕方には戻ってきますので。それまで、よろしくお願いします」

「はいよ。しっかり任された」

 

 セリフだけはいいのだが、壁にもたれかかっている姿からはそれほどやる気があるようには感じられない。

 

 ただ、これまでの付き合いから任せられると考え、皆にも一言残して仕事へと向かった。

 

「それじゃさっそく、それぞれユニットごとに分かれて振り付けや歌の完成度を上げていこうか。俺はみんなの場所を見て回るから。……あ、ソロデビューの蘭子は美波とアーニャに混ぜてもらい。んで、互いにアドバイスするといいよ」

『はい!』

 

 これからの行動を翠から伝えられ、皆は返事を返して練習着へと着替えていく。

 伝えるだけ伝えた翠はすぐに何処かへと行ってしまってるため、近くにいた人がドアやカーテンを閉めるだけである。

 

 

 

「ほい、お疲れ様。これで水分をとんなさい」

「はい!」

「あ、ありがとうございます」

「アリガトウゴザイマス」

 

 それぞれ分かれて練習が始まり、一時間と経たないうちに新田、アナスタシア、神崎の場所へと翠がやってくる。

 手にはスポーツドリンクが一人三本ずつ行き渡る数があり、それを手渡していく。

 

「どんな感じ……って、まだ始まってすぐだからなんも言えないか。ダンスを終えたらどこが良かったか、どこがダメだったかを話してから次踊るように。アドバイスは昼食べて休憩したあと、みんなが一緒にいる時にするから。あと熱中症に気をつけて、こまめに水分補給は忘れないように」

『はい!』

「飲み物は無くなったら俺のとこに来て。まだまだあるから遠慮せずにね」

 

 伝えることを伝えた翠はその場を離れ、他のグループにも同じことを伝えて回る。

 

 一通り回った翠はエプロンをつけて台所に立ち、全員分の昼の準備を始める。

 簡単で量があり、そんなに嫌いな人はいない料理。

 

 ーーカレーである。

 

 奈緒に運んでもらった食材を必要分だけ出していき、下準備を始める。

 と、同時に、米も大量に洗い、昼に炊けるようタイマーをセットする。

 当然、十四人もの……それも、運動してお腹を空かせた成長真っ只中の女の子たちが一つの炊飯器で足りるはずもなく。

 十に届くほどの数ある炊飯器を全て使用している。

 

「杏、飲み物でも足りなくなったかな?」

 

 足跡が聞こえ、振り返るとタオルを首にかけた双葉が立っていた。

 

「ううん、少し話したいかなって思って」

「いいよ。練習も大事だから少しだけね。ゆっくりと話したかったら夜とかもあるけど」

「んじゃ今も少し話して、夜もゆっくり」

「おけ。料理しながらだけどそこんとこは許してくれ」

 

 そこは理解しているのか双葉は頷き、近くにあったイスに腰掛けて話し始める。

 

「初めてテレビ出演した時、言ってたよね。みんなが夏フェス(これ)に出るって」

「そんなことも話したな」

 

 トントントン、と。リズムよく食材を切る音が響きながら。二人は静かに話を進めていく。

 

「だけど、この間漏らした時とかプロデューサーとかが隠したがってたから、話したらマズイことなんでしょ?」

「まあ、本当はね。あまり企画段階だと漏らさないね」

「だけどさ、翠さんが教えてくれた時はまだその企画段階ですら無かったんじゃないかなって思って」

 

 言い終えた時、先ほどまで聞こえていた音が聞こえてこないことに気づいた双葉。

 翠へと目を向けると手が止まっているのが見えるが、後ろ姿であるため表情は見えないでいた。

 

「翠さん?」

「ん……あ、ああ。ごめんごめん。んで、杏の疑問だが……秘密ダゾ」

「…………まあ、いいけど」

 

 双葉に顔を向け。人差し指を立てて口に当てながらウインクまで加えた翠に、双葉は少し照れながらそっぽ向く。

 

「いやぁ……それにしても時が進むのは早いなぁ……。もう、これが終わったらすぐにイベントやん」

「翠さんが話してくれるの、楽しみにしてるよ」

「そんな楽しいもんでもないけどね」

 

 そのあとは中身のない、軽い会話が続き。

 時計を確認した双葉がレッスンに戻るため、立ち上がる。

 

「それじゃ。そろそろかな子や智絵里が探しにきそうだし、いってくるよ」

「レッスン、頑張って」

「うん」

 

 見送る時でさえ振り返らずに調理を続ける翠に双葉は苦笑いを漏らし、レッスンへと戻って行く。

 

 足音が遠ざかっていき、自分一人になった翠は手を止めてため息をつく。

 

「……………………」

 

 その瞳は何も映さず、ただただ濁っていた。

 

 

☆☆☆

 

 

 カレーは特にオリジナルがあるわけでもなく。ごく一般的な作り方であるが、違いがあるとすれば市販のルーを使うのではなく、翠が自ら作った特製のスパイスで作るところであろうか。

 

「…………ふむ」

 

 簡単にだが出来上がったカレーを小皿によそい、口に含む。

 満足のいく出来だったのか一つ頷いて時計を確認し、エプロンを外す。

 

 

 

「はいはい、調子はどうかな?」

「あ、翠さん」

「そろそろ昼にするから、汗だけ拭いておいで」

 

 伝えることだけ伝えて回った翠は再び台所へと戻り、簡単にサラダの準備もしていき、人数分に分けていく。

 

「あ、来た人から運ぶの手伝って」

 

 女の子には色々と(・・・)あるため、声をかけてから来るまでに時間がかかっていたが、それを見越してサラダの準備やカレーの温め直しをしていたため、結果としてベストなタイミングであった。

 

 盛り付けも翠が行い、運ぶのだけ手伝ってもらって食事の用意を終える。

 

「みんな揃ったかな。んじゃ、召し上がれ」

『いただきます』

 

 皆が旅始めるのを見てから自身もスプーンを手に取り、カレーを口に運ぶ。

 

「美味しい!」

「本当。いくらでも食べられそう」

「翠さん、美味しいです!」

 

 気温が高く。暑いため、落ち着いていたかった翠であるが……皆のテンションが高く、反比例するように翠のテンションは下がっていく。

 

「お、おう……おかわりはたくさんあるけど、自分で盛り付けとかよろしく」

 

 みなと話していながらも数本ある麦茶のポットの中身が殆どないのに気づいた翠はそれを回収し、お茶を注ぎ足して冷蔵庫へとしまい、代わりに冷えたものを取り出して元の場所へと置いていく。

 

「まだ食べている途中だろうけど、この後の予定を話すから聞いて」

 

 空になった皿にスプーンを入れた翠は手を叩いて注目を集める。

 楽しそうに話していた子たちもみな口を閉じ、話を聞くために翠へと目を向ける。

 

「昼食べ終えたら食休みをして、全員が入っても余裕ある場所に移動。踊ってもらって、アドバイスするからそれを参考にまた分かれて練習。五時くらいに切り上げてあとは自由時間ね」

 

 皆が頷いたのを確認し、皿を水に浸した翠はお湯を沸かして紅茶の用意を始める。

 

「誰か飲む人いるー?」

 

 確認を取って人数分のカップを取り出し、均等になるよう注いでいく。

 

「あ、食べ終わった皿は水につけといて。あとで洗っとくから」

「……翠さん、すごい働き者だね」

「まあ、仕事するよりは楽……ケフンケフン。みんなのサポートをするためだからね」

「……ああ、なるほど」

 

 欲しがった人に紅茶を配っていき、自身の場所へと座った時。双葉から若干の尊敬がこもった目を向けられるも、理由を聞いた瞬間にそれは消え、納得がいったと仕切りに頷き始める。

 

「……紅茶にも砂糖をたくさん入れるんだね」

「別にコーヒーもブラックで飲めないこともないけど、わざわざ苦いの飲む必要なんてないやん? 好きなもの食べて好きなもの飲んでいたいよね」

 

 角砂糖をポチャンポチャンと入れていく翠を見て。思わずといった形で漏れたのだが、返ってきた反応は少し予想外のものであった。

 

 砂糖を溶かすために小さなスプーンでかき回しながら答える翠はどこか寂しげで、濁った瞳も今まで見せてきたものとは何かが違う感じがして。

 双葉と。近くに座ってこれまでの話を聞いていた前川や神崎、新田。そして緒方も翠へと目を向ける。

 

 諸星などは赤城や他のメンバーと話して翠の方に気を回さないようにしていた。

 

「…………ぁ。……翠さん、その、ごめん」

 

 何かに思い至った双葉は少し顔をうつむかせ、謝罪を口にする。

 

「んー……別に今回は(・・・)死なない程度に、だけど必要最低限の食べ物はくれたし。気にせんでもええよ」

 

 双葉の謝罪と今の翠の内容に他の面々もどういったことか理解し、顔をうつむかせる。

 翠としては少し重くなった空気をどうにかしようとして言ったつもりであったのだが、好転するばかりか余計に重くなっていた。

 

「…………さ、さて! みんなも食べ終わって食休みも十分だろうし! 歯を磨いてから始まるよ!」

 

 無理やり場の空気を変えるため。強硬手段に出た翠は声を大にしてそう伝えると空になったカップなどを片付けていき、何かから逃れるように行動を始める。

 

 それを見て、双葉たちも引きずるようなことはせず。このイベントが終わった後に翠から話の場が設けられると納得し、片付けを始める。

 

 

 

 

 

「…………今回は、ってことは。前もあったってこと……なのかな?」

 

 

 

 

 

 小さく漏らした緒方の呟きは誰の耳にも届くことはなかった。




再び自身の作品を1から読み返し、いくつか誤字訂正とちょっとした訂正しました
具体的にはストライキを起こして翠が正座してるとこなのですが、奏が翠にキスするとこ……口から頰に変えました
いままで誰も突っ込んでこなかったのですが、マユとかマユとかマユとか狂うんじゃないかな……

誤字訂正に加え、自分が忘れていた伏線も『……こんなのあったなぁ』と思いながら読んでました
ちなみにですが、いま現在でほぼほぼ忘れてたり

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