怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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そういや、46話ですが、閑話みたいな……小話みたいな


47話

「よし、みんな集まったな!」

「やったにゃ! ついにデビューの時がきたにゃ!」

「それじゃ今からゲームしようぜ!」

「翠さぁぁぁぁぁん! それは酷いにゃ! あまりにも酷過ぎるにゃ!」

 

 三度目ともなると、みなは何があるのか理解していた。

 しかし、そのことを理解しているのだからこそ。翠はどこからかトランプを取り出して遊ぼうと口にする。

 

 上から下へと落とされた前川が翠の腰にしがみつきながら涙流す姿に、少女たちは若干の同情を込めた目を向ける。

 

「あっはっは。面白いな、お前さんも」

「笑い事じゃないにゃ!」

「でも、きらりたちのデビュー発表した時、みくは次って言ってたよね」

「ってことは、私は最後のデビューか」

 

 人ごとのように軽く口にしていた多田のセリフに翠が反応する。

 

「ん? お前ら二人がユニット組むって考えなかったん?」

「「…………へ?」」

 

 衝撃と言わんばかりに驚きから固まり、二人は顔を見合わせたあとにもう一度翠を見て互いを指差す。

 

「うん。駄猫とだりぃな。二人でユニット組んでデビュー」

「李衣菜、ちゃんと……?」

「みく、ちゃん……と?」

「そうだと言っとろうに」

 

 トランプを箱から取り出し、カードをシャッフルしながら首を縦に降る翠を見て。

 未だ信じられずにいる二人は思考に耽る。

 

 

 

「「無理だって!」」

「うぉっ!?」

 

 しぼらく、翠がカードをシャッフルする音が聞こえてくるだけであったが。

 落ち着いたのか考えがまとまったのか。

 二人がいきなり大きな声を出したため、驚いた翠はカードを床に落としてしまう。

 

「私と李衣菜ちゃんは水と油だにゃ!」

「そうそう! 絶対無理だって!」

 

 せっせと床に散らばったトランプを拾いながら翠に物申す二人の姿は笑いを誘っているようにしか見えず、翠は堪えきれずに笑っていた。

 

「だってよ、たっちゃん」

「……はい、そうしますと企画案がまた一からの見直しとなってしまいますので……。お二人のデビューが伸びることに」

「ということなのだが、お二人さんはどうするかね? 何事もだが、この世界では特に。やってみなくちゃ分かんないことがあるんだが?」

 

 事務的な説明の部分だけ、いままで黙ったままそばに立っていた武内Pへと丸投げし。

 そこを奪う……引き継ぐ形で最終的な確認を翠がとる。

 

 二人としては早くデビューしたい気持ちがあるのだが、ユニットを組む相手を見て悩んでいるようであった。

 

「ねえ、二人ともさ。マヨネーズって美味しいと思わない?」

「お、美味しいと思うけど……突然何にゃ……」

「あれってさ、他にも色々混ざってるけど……まあ、水と油で出来てるんだよ」

 

 二人にはそれだけで何が言いたいのか伝わったのか。

 口を閉じて続きを待っている。

 

「作るのは大変でも、出来たら美味しいマヨネーズ。みくと李衣菜が水と油であるなら、途中の困難が大変でも、成功したらすごい人気になるって事じゃない?」

「…………でも」

「言いたいことは分かるよ。水と油なんだもの。いがみ合っていがみ合って、そんでもって一つの落とし所を見つける。初めから上手くいくことはいいことだけど、途中の過程だってものすごく大事さ。……とりあえず、組むだけ組んで見たら? それでダメなようならまた考え直すからさ」

「…………そこまで言われたら」

「まあ、頑張るにゃ」

 

 渋々といった感じでありながらも、ひとまずの落ち着きを見せる。

 

「二人とも、頑張ると言ったね。なら、成功するまで頑張っていがみ合ってもらおうか!」

『……………………ん?』

 

 ほっこりとした空気が流れ始めた中。

 翠の一言に前川と多田の二人だけでなく、少女たち全員が首をかしげる。

 

「ケンカするほど仲がいいっていうし、いがみ合ってる方が競争心が出てお互いにレベルアップできると思うし」

 

 納得するようにうんうんと首を縦に振りながら独り言を漏らしていく翠。

 すでに聞かされていたからか、武内Pも困ったように首筋へ手を当てるだけで何も言わず。

 

 置いていかれている少女たちの頭から疑問符がとどまるところを知らず、埋め尽くされていく。

 

「それに、俺のレッスンを一番たくさん受けてきたんだから……ね?」

 

 さらには妙なプレッシャーまでかけ始める始末。

 いろいろなことが起こりすぎてか、少女たちはどう反応をしたらいいのか困惑が出てくる。

 

「……さて、おふざけはここまでにして。みんな、どうする? レッスンする?」

『…………はい!』

 

 こうなった原因は翠にあるのだが。

 全部をなあなあにして流し、話題を変える。

 先ほどまでの空気は何処へやら。みなはこれからのレッスンに意識は向かっていた。

 

☆☆☆

 

「いやー、みんな上手くなったよね」

「そりゃあ、仕事のない日はほとんど翠さんのレッスンを受けてますし」

「休みの日もみんな来てるし……なに? マゾなの……?」

「そうじゃないですよ」

「上手くなっていくのが自分で実感できるから楽しいんだよ!」

「ほーん」

 

 自分から話を振っておきながら段々と返事が雑になっていく翠。

 そのことにも慣れて来たのか、少女たちは楽しそうに話をしている。

 

 初めの頃はみな疲労で横になったりとしていたのに、今となってはまだまだ余裕があるようで。

 楽しく話をするくらい普通に出来ていた。

 

 ……ここまで来た時、先輩アイドルたちから本当の意味で346に受け入れられたりする。その歓迎会が近いうちに行われるのだが、少女たちは当然、そのことについて知らない。

 

 翠の一人レッスンを知った時と、さらに上があるのだが、それはまだ少し先になるであろう。

 

「それじゃまた、クタクタになるまでレッスンする……?」

『あ、あはは…………』

 

 笑みを浮かべながらそう尋ねる翠に、少女たちは苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

 

 レッスンが終わり。翠は武内Pに千川、奈緒の四人でお茶をしていた。

 珍しくいじってこない翠に対し、安部が心配そうに遠くから見ていたりするが、それすらもスルーしている。

 

「やっとこさ、全員デビューできるね。長かった長かった」

「まだ最後のユニットはデビューしてないから慢心はできないがな」

「そうですね。むしろ、これからもっと大変になるので気を引き締めないと」

 

 この面子で集まるならば、当然話は仕事の内容となるだろう。

 

「みなさん、色々と手を貸していただきありがとうございます」

「堅苦しいことを。俺だってよく助けてくれるじゃないか」

「とんだ雑用のようなものだがな」

「そうですね。翠さんはもう少し自分でできてくれると」

「コーヒーが美味いなぁ」

 

 分が悪いと理解するや、途端に話をそらす。

 慣れている二人はそれに突っ込むこともなく、話は元に戻る。

 

「四月から始まって半年も経たずに六つものユニットを出すとは」

「…………ねぇ、俺だけ? そこに違和感覚えるの。俺だけ?」

「いや、私も今、ふと思ったぞ」

「しかも担当プロデューサーが一人ですし」

「…………この企画、よく通ったな」

「いや、お前が通したんだろ」

 

 三人からジト目を向けられ、翠は思わず気圧される。

 

「ま、まあまあ……。色々あったけど上手くいったんだし……先のことを見ていこうよ。これからアスタリスクがデビューして、夏ステにはCPのみんなも参加するんだし。そのための曲と振り付けはもうあるからさ」

「「「…………?」」」

 

 とある部分に反応して三人の頭の中に疑問符が浮かぶが、三人から視線をそらしている翠はそれに気づかず。そのまま話を続けていく。

 

「楽しみだなぁ……。どんなサプライズやるか。全員のバックダンサーでもやるかな。……いや、それだと体力が持たないか。ん、体力は持つのか。体が持たないんだ」

 

 カップの中身が空になってしまったため、お代わりを頼んだところでようやく三人から注目を集めていることに気づく。

 

「……な、何? どしたん?」

「いえ、随分と、その……楽しそうでしたので」

「…………んー」

 

 武内Pにそう言われ、両手を自身の顔に持ってきてムニムニと弄る。

 

「よく分からん」

「そりゃそうだろう」

 

 漫才のようにすぐさま奈緒からツッコミが入る。

 長い付き合いであるため、だいたい何をするのか分かる時がある。翠がツッコミをしろとばかりに分かりやすくしているのもあるが。

 

「そう言えば、前川さんと多田さんのユニットCDはいつ出来上がるんですか?」

「んん?」

 

 千川の質問に、翠はお代わりのコーヒーを飲んでから答える。

 

「あの二人のは書いとらんよ」

「えっ!?」

 

 さらっと答えた翠であったが、三人は驚きをあらわにする。

 漏れた声も誰であったのか。本人も無意識のうちにでたため、気づかないでいる。

 

「ほ、他の方のは翠さんが書かれたんですよね?」

「おん。作詞作曲、振り付けまでバッチシと」

「お二人にはないのですか?」

「うん。二人には歌詞を書いてもらおうかなって。作曲と振り付けはキチンと考えるよ」

 

 それを聞いてホッとするも、新たな疑問が湧いて出る。

 

「何故、前川さんと多田さんだけ自身で作曲するようにと……?」

「たっちゃんは一緒にいたから聞いてるはずなんだけどなぁ……。ほら、頑張ってたくさんいがみ合って貰わないと。なんだかんだであの二人、相性いいと思うんよ。ねー」

 

 ねー、と言うのに合わせ、奈緒に顔を向けながら首を傾けるも。これには乗らずにスルーされたため、翠は恥ずかしくなったのか頰を赤くさせる。

 

「……こほん。二人には明日、伝えるか」

 

 咳払いで先ほどのことを無かったことにし、コーヒーを啜る。

 そしてふと、何かを思い出したのか。三人に尋ねる。

 

「そういやさ、夏休み前ってどこの学校もテストあるやん。あの子たちって、テストとか大丈夫なんかな? 赤点とったら補講とかあるでしょ」

『…………あ』

 

 そのことを忘れていた三人はどうするかと頭を働かせ。

 

 

 

「…………なにさ」

 

 

 

 他人事のように悩む三人を見ながらコーヒーを啜る翠へと目を向ける。

 

「お前、頭よかったよな」

「高校までしか行ってないのに大学以上の内容も理解してますよね」

「たまにフレデリカさんや鷺沢さん、橘さんたちの勉強を見てましたよね」

「…………ソンナコトナイヨ?」

 

 徐々に三人から詰め寄られ。翠は汗を流しながら視線を逸らす。

 

「それじゃ、翠さん。この間の貸し一つでお願いしますね」

「…………この間ってどの間よ」

「京都いかれてすぐさまトンボ帰りされた時です。お金、代わりに払いましたよね?」

「…………あい」

 

 その時のメモしたページを開いて見せながらそう言われては翠も首を縦に降るしかなく。

 

 何故か理不尽にも、赤点を取った人を一人でも出せば翠が罰を受けるということが決まった。




最近、あべこべものが増えてきて嬉しい限りです
貞操観念が逆転ものもいいですね
発禁のほうで書いてみたいです。そこまで手を出したら取り返しがつかなくなる気がするのでまだ書いてませんが

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