ハロウィンに書いてあった通り、クリスマス、大晦日、元旦と近づいておいでです。(クリスマスにいたっては明後日、明々後日とか…)
「次にデビューするユニットの発表をしようぜ!」
シンデレラプロジェクトの面々と武内P。そして翠を加えて部屋へと集まっていた。
そして先ほどの宣言をしたわけであるが……。
「なんだかついこの間も似たようなことがあった気がするにゃ……」
「……気のせいなんかじゃないにぃ」
「はい、そこ静かに!」
反応は微妙に悪く。
コソコソと話していたのを地獄耳で聞き取った翠は二人に指を向けながら注意をする。
「ってか、駄猫ときらりは残ってる組なんだから、んなこと言ってる暇ないはずなんだが……」
「もしかして、ついにみくのデビューかにゃ!?」
「いんや、駄猫は次のデビューなんだが」
「…………上げて落とすのは良くないにゃ」
「次にデビューできるんだから我慢しろって」
ズーンと効果音がつきそうなほど落ち込む前川であったが、続けられた言葉に気を持ち直す。
「あの……翠さん……」
「あれ? まだ秘密だったん?」
「一応、その……はい」
「まー、気にしない気にしない。駄猫も言いふらしたらデビューの話が流れるくらい理解してるって。……な?」
「えっ!? 流れるの!?」
「嘘だがな」
続けてからかわれた事に顔を赤くし、仕返しとばかりに翠へと近づいて頬っぺたをぐにーっと引っ張る。
「ふぇんぱいだぞ」
「そんな威厳、微塵もないにゃ」
前川にジト目を向けられながら威厳がないと言われたからか、未だに頬を引っ張られたままの翠は腰に手を当て、少し胸を逸らす。
「大して変わらないにゃ。……ん?」
頰から手を離した前川。今度は両手でグニグニと頬を押したりして揉んでいたが、首をかしげる。
「さてさて、駄猫。おふざけもここまでにして発表をだな……」
どこか焦った様子を見せながら。翠は頬をいじる手をどかし、少し距離を取る。
その行動を見て、羨ましそうな目を向けていた神崎が何かに気づいたのか。
近づくと有無を言わさず自身の額と翠の額を合わせる。
「翠さん、熱あります」
「……うへぇ」
さすがにあそこまでされれば、言い訳しても意味がないと分かっているため。翠は否定する事なく認める。
「……まあ風邪とかじゃないし、ただの発熱だから明日には治ってるから」
認めはしたが、そのまま引き下がるかと言われたら『ノー』であったが。
しかし、先ほどまでは見ただけで熱があるなどと分からなかったが、そう指摘されてから翠の頰が赤くなっていき。加えてどこかボーッとしているように見える。
「翠さん、ここに寝てください」
ソファーに座っていた子たちは立って場所を開け、武内Pが翠を抱き上げてそこへ寝かせる。
「んむむ、大丈夫なのに」
「大丈夫って、立ってるのもやっとのように見えましたよ?」
「ハーブティーを入れたので、これを飲んで落ち着いてください」
「落ち着いてはいるんだがなぁ……」
ブツブツなにかを言いながらも上体を起こし、三村からカップを受け取って火傷しないようゆっくりと飲んでいく。
「美味いなぁ……」
空になったカップを見返しながら。ジジくさい感じで呟き、首をかしげる。
「なぜ、みんな俺を見てくるし」
「心配だからに決まってるにゃ」
「みくちゃんの言う通りです」
「うむむ、大丈夫なのーーケホッ」
口元に手を当て、ひとつ咳をする翠。
そのまま手を握り、手のひらを皆に見せないようにする。
「ちょっち、朝飲んだトマトジュースが出てきたから手を洗ってくるよ」
「……でしたら、私が付き添いで行きますので」
「杏が行くよ」
「いえ、私一人で大丈夫ですので」
「翠さんの付き添い、杏と蘭子で行くから。プロデューサーはみんなに今回デビューする人の発表してて」
「たっちゃん、杏の言う通りでええよ」
「……翠さんがそうおっしゃるのなら」
納得いかないようであったが、翠に言われたならば引き下がるしかなく。
熱のせいか、少しふらつく体を双葉と神崎に支えられながら部屋を出て行く。
「翠さん、大丈夫かなぁ?」
「飲んだものが出てくるって相当だけど……」
「……翠さんのことは心配ですが、まずは今回デビューしていただく方たちを伝えさせていただきます」
とあることを悟らせないため。
話題を変える意味も含め、翠から促されていたデビューする人を発表する。
☆☆☆
「翠さん」
「ん、大丈夫大丈夫。手は洗ったし、うがいもしたから」
タオルで水滴を拭き取り、キレイになったと手のひらを二人に向ける。
しかし、二人は顔を苦しそうに歪めたままであった。
「翠さん」
「デビューした子たちに伝えねばならぬこともあるし、そろそろ戻ろうか」
二人が呼びかけるも、翠は目を合わせようとはせず。口から出る言葉を何かから逃げているようであった。
「トマトが嫌いな翠さんがトマトジュースを飲むわけないじゃん」
「……嫌いなのはトマトだけで、ジュースは平気かもよ?」
「大丈夫なのはケチャップやスパゲッティのトマトだけです」
「ファンなら常識だよ。あの場じゃサラリと流れていたけど、誤魔化されないよ」
ジッと二人から目を向けられ、さすがに観念したのか。右手で髪をクシャクシャとさせながらため息をつく。
「そーですよー……さっきのは血ですよー……」
「……大変なことなのに気が抜けるね」
「大変なことなんですよ! ふざけちゃダメです!」
「まあ、これも発熱した時は毎回だし。熱が引けば大丈夫だからなぁ……。あまり気にせんでもええよ?」
そう言われ、はいそうですか。などと納得できるはずもなく。
全部話せと目で訴える。
「そんな『全部ゲロッちまえ』みたいな目を向けられても、今ので全部だし……」
「翠さんは隠し事が多すぎます!」
「今もそう言ってるけど、本当かどうか疑わしいよね」
やはり、普段の行いがモノを言うのだろう。
隠し事が多いのは事実であり、それを誰にも打ち明けてこなかったのである。
二人もそのことをよく理解しているため、こうして引き下がらないでいた。
「んむむ……ならばこの話も例の日に纏めて話そうぞ」
「……本当に話す?」
「話しますよー……」
「……不満は残りますけど、今回も大人しく引き下がります」
「おう、そうしたまえー」
ホッとした表情で頷き、先ほどよりは多少しっかりとした足取りで戻って行く。
二人も不満そうな表情をしながらその後を追う。
「ただいま戻ったでござる」
「翠さん! ついに莉嘉のデビューがきたよ!」
「みりあもデビューするの! きらりちゃんも一緒に!」
部屋に戻るや、デビューが決まったと喜ぶちびっ子二人が駆け寄ってくる。
翠も負けず劣らずに小さいため、子どもが三人集まったようである。
「ほうほう、それはそれは。人前でも緊張なんてしないで楽しむんだよ?」
「うん!」
「分かってるって!」
2人に軽くアドバイスを送り、翠はとある2人の元へと向かう。
「お二人さんは次回になるが……それまで、わいの特別レッスンを受けさせてあげよう」
「…………うぇ」
「…………そ、それはちょっと大丈夫かなぁ」
「え? その程度で満足しちゃうん? ん?」
『……やってやる(にゃ)!』
嫌そうな顔をして断ろうとしていた二人だが、翠の単純な煽りによってレッスンを受けることが決まった。
特別レッスンなどと翠は言っていたが、じっさいは今までのとそれほど変わらなかったりする。
ようは今回デビューできなかったことを引きずらせないために話題をそらした形である。
「これで、お二人さんがデビューするときはバッチシだね」
「……急にプレッシャーかけるのは良くないにゃ」
……果たして本当にそのような意図を持ってやったのか。
実際はただからかうだけであったのか。
「取り敢えず……おれはそこで睨んでいる鬼に引きずられていき、作詞作曲の作業に入ります」
「よく分かってるじゃないか。それなら今日は十曲書けそうだな」
「いや……さすがに無理っす。そんなペースだと発売日に何百曲できる思いますか……」
奈緒なら本当に書かせかねないため、普段の調子ではなく。そのことを想像してか、げんなりとしていた。
「仕事しなくてええんやから……って、伝え忘れてたことあったわ。奈緒とたっちゃん、それにちーちゃんと今西部長にも」
「「……?」」
「いやさ、アルバム出すまで仕事しないって言ったけど……夏フェスには俺も出るよ」
『夏フェス?』
周りにはまだCPの面々がおり、翠から出た単語に反応する。
「……マズった?」
「ああ、やらかしたな」
「……はい」
翠は武内Pと奈緒を呼び、部屋の隅に集まって小声で話す。
「誤魔化し効かないよな」
「無理だな。何人かはいけるかもしれないが……聡い子がいるだろ」
「仕方ない。話せる部分だけ話して納得してもらうか」
「……まだデビューしてない子もいますので、シンデレラプロジェクトのメンバーが出ることは伏せておいてください」
「任せんしゃい」
「もとよりお前の失敗だがな」
「……それはもう、忘れたことさ」
これ以上、痛いとこを突かれないために二人の元から離れ、説明の要求をするアイドルたちへと向かう。
「先ほど、俺がふと漏らした夏フェスについてだが……去年や一昨年と同様である。ようは大きなイベントだ。今まで通り、トップアイドルが出るんだが、先も言った通り俺も出る。ただそれだけのことよ」
「みりあたちは出ないの?」
「どーなんだろ? みくたちのデビューも夏フェス前だし……たぶん、出るんじゃね?」
武内Pに話すなと言われていたことをあっさりと口にした翠。
「すまない。後は頼んだ」
これ以上ボロを出させないために、奈緒は武内Pに一言残し、翠の首根っこを掴んで部屋から出て行く。
「プロデューサー! 今のって本当!?」
「私たちもあの大きなイベントに参加できるんですか!?」
当然、矛先は残された武内Pへと向く。
興奮した様子で集まってくる面々に、武内Pは首に手を当てながら困ったように翠と奈緒が出ていったドアへと目を向ける。
しかし、そこから誰かが入ってくることはなく。
ため息をついて腹をくくり、目の前へと視線を戻す。
「現状ではまだ、なんとも言えません。翠さんがおっしゃったように、前川さんと多田さんのデビューが夏フェスの前にあります。お二人と皆さんの頑張り次第によって、まだ出ることが可能な余地はあります」
説明を聞き、喜びをあらわにする面々。
ただ一人。言わずもがな双葉であるが、嫌そうな顔をしているが今回はいつもと違うようで。どこか楽しみだといった感情もうかがえる。
「李衣菜ちゃん! 今から翠さんを引き戻してレッスンするにゃ!」
「うん! デビューと同時に観客を引き込むのはロックだね!」
「私たちも頑張らなくちゃ!」
「きらりたちもぉ、一緒にレッスンするにぃ!」
わいわいきゃあきゃあと、騒がしくしながら皆は部屋から出て行き。翠にレッスンしてもらうために向かっていった。
部屋に残されたのは武内Pと双葉の二人。
「双葉さんは行かれないのですか?」
「うーん。ちょっと、プロデューサーに聞きたいことがあるから。それを聞いてから行くよ」
「聞きたいこと、ですか。なんでしょう?」
ごく稀に、翠が見せるような無機質な目をしている双葉は武内Pに向けながら口を開く。
「プロデューサーが知っている翠さんのこと、全部教えて」