怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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すいません。予約投稿し忘れ……



43話

「みなさんお集まりのようで。それではそろそろ約束の時間でありますし、始めたいと思いまーす」

 

 場所は346から移動してどこかの撮影スタジオ。

 そしてそこには翠と集められたアイドルたちだけでなく、カメラマンやディレクターなどもいた。

 しかし、訳の分からないアイドルたちに翠から詳しい説明はなく。そのまま勧められていく。

 

「今から始めるのは"翠さんの、翠さんによる、翠さんのための催し"です。主に"ジャッジ"は俺。補助としてまゆ。君らは回答者ね」

 

 質問を与える暇すらなく、どんどん話していく。

 

「俺が独断と偏見で組んだチームに分かれてこれから出す問題に答えてもらいます。異論反論は認めぬ」

 

 腹が立つようなドヤ顔を決めながらメモした紙を手に取る。

 

「チーム1にはふみたん、ありす、フレデリカ。チーム2はウサミン、幸子、しきにゃん。チーム3は周子、奏、みく。チーム4は美嘉。チーム5はうーちゃん、みりあ、蘭子。チーム6は杏。以上」

「えっ!? 私一人!?」

「煩い。杏だって一人だろうが」

「いやいやいや! 三人のとこから一人ぐらい……」

「異論反論は認めぬぞ?」

 

 こうなった翠が意見を変えないことを理解しているからか、納得はしていないが大人しく引き下がる城ヶ崎姉であった。

 

「さてさて、言われたチームに分かれて」

 

 ワイワイきゃあきゃあと楽しそうにしながらそれぞれ移動していく。

 皆が移動を終えたのを確認すると、翠はカメラマンにアイコンタクトを送る。

 

「今から撮影も始めるけど、主に俺が後で楽しむようだから素でいいから。ってことで始まりました! 『第一回! 考えるな! 感じろ! 翠さんによるクエスチョン!』」

 

 いきなりの事で反応しきれないアイドルたちだが、翠一人でテンションを上げ、タイトルコールの後にも一人で拍手をしている光景は少し異様であった。

 

「改めて簡単なルール説明をまゆさんどぞ!」

「はい。これから出題される問題に答えていただくだけです。回答権を得るためには手元にあるボタンを押してください」

「うむ、ただそれだけ。シンプルイズザベスト!」

 

 翠は意味もなくその場でクルクルと回りながら首を縦に振り、ピタッとその動きを止める。

 

「第一問!」

「1たす1は?」

『…………へ?』

 

 一問目の問題。

 皆はどのような問題が出るか楽しみにしていたが、予想外のことに何人かの思考が停止する。

 

 ーーピンポン

 

「はい、みりあ! どうぞ!」

「2!」

「正解! 大変よくできました!」

「正解したチームに1ポイント入ります」

 

 背後にあるモニターの数字がゼロから1へと変わる。

 

「続いて第二問!」

「翠さんはいま、全曲書き下ろしのアルバムを作成中ですが、奈緒さんから何曲作るように言われているでしょうか」

 

 ーーピンポン

 

「はい、ふみたん!」

「三十曲……?」

「正解! よくできました!」

 

 いきなり変わった出題傾向に多少の差異はあれど、みな困惑する中。

 いち早く落ち着いた鷺沢がボタンを押し、見事正解を取る。

 そして先ほどと同じように背後のモニターにある数字がゼロから1に変わる。

 

「じゃんじゃんいきます第三問!」

「公式発表されている翠さんの身長、体重はいくつでしょう」

 

 ーーピンポン

 

「はい、杏!」

「身長138センチ、体重32キロ!」

「正解正解! あなたは俺のストーカーでしょうか!」

 

 茶々を入れながらも変わらず高いテンションで進行を続けていく翠。

 アイドルたちも慣れてきたのか、三問目にしてボタンの早押しが必要になってくるほどであった。

 回答権を得られなかった数名は悔しがっていたりする。

 

「第四問!」

「翠さんは何故、このような催しを行なったでしょうか」

 

 ーーピンポン

 

「はい、うーちゃん!」

「皆さんと楽しいことがしたかったから!」

「あー、それもあるけど今回は残念! 違います!」

 

 ーーピンポン

 

「はい、ウサミン!」

「私たちをからかって遊ぶため!」

「残念違います!」

 

 ーーピンポン

 

「はい、しきにゃん!」

「暇だったから!」

「残念違います!」

 

 ーーピンポン

 

「はい、周子!」

「……飽きたから?」

「正解です! 正確には作詞作曲に飽きたからでした!」

 

 意外と間違いが続いたことに翠は笑みを深める。

 

「まだまだ続くよ第五問!」

「翠さんがーー」

 

 

 

 このような調子でクイズは進んでいった。

 明確な答えがない問題のとき、翠の独断と偏見、そして気分によって問題の答えが違うといういやらしいものもあったが、その正解を引き当てるアイドルが数名いたことにカメラマンやディレクターたちは少し引いていたりする。

 

 例えば食材、調理工程を口頭で話し、料理の名前を当てるという問題。

 肉じゃがの材料を言い、肉じゃがの調理工程を言ったにもかかわらず正解は『肉じゃが』ではなく。

 『母親の作った愛情たっぷり肉じゃが』である。

 

 ようやく回答権を得られた城ヶ崎姉が『肉じゃが』と答えて不正解と言われ。その後に神崎が標準語で先ほどの正解を答えた時の表情に翠はしばらく笑い転げていた。

 

 続いてはあったのはカレーの材料、調理工程を言った時である。

 先ほどのミスは犯さないと、回答権を得た城ヶ崎姉が『母親の愛情たっぷりカレー』と自信満々に答えながらの不正解。

 その後に双葉が『父親の不器用カレー』と答えて正解を取っていった。

 

 極め付けは城ヶ崎姉が二度の失敗を活かして答えた『兄の手作り生姜焼き』であったが、その時の正解はただ単に『生姜焼き』であった。

 

 弄られるのは城ヶ崎姉だけでなく、当然のように輿水とウサミンもである。

 ウサミンの場合、『ウサミン星からやってきたウサミンこと安部菜々さんですが、何歳でしょうか』といった具合である。

 この時は真っ赤な顔をしたウサミンが回答権を得て、『じゅ、十七歳に決まってるじゃないですか! な、菜々は永遠の十七歳なんですから!』といった必死の様子から、翠はしょうがないといった雰囲気を前面に出しながらも正解を与えた。

 

 輿水では、『自称可愛い僕でおなじみのウザキャラ、輿水幸子さんですが、翠さんの中でどのように思われているでしょうか』といった感じである。

 問題に対してワーワーと煩かった輿水であったが、なにげに回答権を得ていたりした。

 そして自信満々に『可愛い!』と答えるも不正解であり。

 次に回答権を得た宮本の『体当たり芸人』が正解であった。

 またなにやら騒がしくするも、どこから取り出したのか翠が巨大なハリセンを持っており、ニッコリと微笑むだけで大人しくなった。

 

「次が最終問題だ! 本当は最後の問題に答えると今持っているポイントが倍になる予定だったんだけど……主に美嘉があまりにもできなさすぎたため。ベタに一万ポイント入りまーす!」

 

 城ヶ崎姉を除くと殆どが僅差であり、トップと比べれば三倍までいかなくとも、それに近いほど離れていた。

 

「そして言い忘れてましたが、ここまで付き合ったのに景品がない……なんてことはなく! キチンと優勝賞品があるので。まあ、頑張りましょ」

 

 優勝賞品があると聞いて、皆の雰囲気が変わり。次の一問に全神経を注いでいる。

 

「最終問題です。翠さんは何故、アイドルを始めたのでしょうか」

 

 ーーピンポン

 

「はい、杏」

「印税生活のため!」

「残念! それが理由ではないと言い切れぬが、別に理由がありまする」

 

 ーーピンポン

 

「はい、しきにゃん!」

「なんとなく?」

「残念! またのお越しを!」

 

 ーーピンポン

 

「はい、みりあ!」

「楽しそうだったから!」

「残念! 違います!」

 

 ーーピンポン

 

「はい、幸子!」

「可愛い僕に会うためですよね!」

「はい、次ー!」

「スルーは酷いですよ!」

 

 ーーピンポン

 

「うーちゃん、どぞ!」

「笑顔が素敵だから、ですか?」

「残念! 俺はたっちゃんからスカウトされてません!」

 

 ーーピンポン

 

「奏!」

「暇だったからとか?」

「残念! 理由の一つであるけど大きな理由ではない! 残念!」

「二回も言われると虚しいものね……」

 

 ーーピンポン

 

「はい、駄猫」

「…………」

「はい、残念!」

「まだ何も言ってないにゃ!」

「なんか不満そうなので残念!」

 

 ーーピンポン

 

「蘭子、どうぞ! そろそろ当ててくれると信じてる!」

「こ、こうして楽しく過ごしたかった……からですか?」

「…………」

「…………」

「正解です! ってことで蘭子、うーちゃん、みりあのチームに一万ポイント入りまーす! んでもって全問題が終了したため、優勝したのは蘭子、うーちゃん、みりあチームです! はい、拍手!」

 

 翠にならうよう、まばらな拍手が続く。

 

「さてさて、豪華な優勝賞品なんだが……何がいい? 人によって何が豪華かそれぞれだし。俺にできる範囲なら何でも叶えちゃるぞ?」

『な、何でも……!?』

「そ、そそそそれって、け、ケッコンも……!?」

「まあ、別にいいけど……君たちがそれでいいんなら、ね。それと、チームで一つだから。そこんとこよく話し合って決めてーな」

 

 三人は話になるようにして顔を合わせ、どうするか話し合っている。

 待っている間、暇になった翠は罰ゲームと称して城ヶ崎姉をダンス付きのアカペラで歌わせていたが、ただ単に思いつきだったのかそれをボーッと眺めながらあくびをしていた。

 

「美嘉と杏は最後に正解していれば自身の願いを言えたのにな」

「どこぞのアニメみたいだね。自身の願いを叶えようって」

「あんな万能じゃないけどね」

 

 しばらくして、どうするか決まったらしく。

 

「んで、どーする?」

 

 どんな願いが来るのか翠はドキドキしながら尋ねる。

 

「みんなでご飯食べに行きたい!」

 

 元気よく答えたのは赤城であった。

 そして願いを聞いた翠はポカンと呆けた表情となる。

 

「そんなんでいいの?」

「うん! みんなで楽しくご飯食べたい!」

「そっか……うん、分かった。このままみんなでご飯食べに行こっか」

 

 カメラマンやディレクターなどにも声をかけ、優勝したチームである赤城たちが食べたいと言った寿司屋へと移動し、みんなでわいわい食事を楽しんだ。

 もちろん、勘定は翠持ちである。

 人数が人数であるため、桁もそれなりであった。自身の都合で集めたこともあり、楽しいまま帰ってもらいたかったため、みなが店を出てから会計を済ませたりする。

 

 何人かはそれに気づいていたが、翠が口の前に人差し指を立ててウインクをしたため、そのまま口にすることはなかった。

 

☆☆☆

 

 次の日。

 こんな大掛かりなことをしてバレなかった、なんてことはなく。

 しかもテレビ局に話は通してあるらしく、編集などを多少して一ヶ月後に放送することも決まっていたりする。

 

 それを聞いたアイドルたちは奈緒とともに翠を追いかけ始める。

 

 捕まればあれこれと言われたり説教を受けた後、また強制的に部屋に連れて行かれることが目に見えているため、翠は普段、鳴りを潜めている運動能力をフルに発揮して逃げ回っていた。

 

 

 

 今日もまた、346には。翠とアイドルたちの元気な声が響き渡る。


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