怠け癖の王子はシンデレラたちに光を灯す   作:不思議ちゃん

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わーい、また日間ランキングにのりましたー
んで、お気に入りも千件突破しましたー
……通算UAも10万超えてたらまとめて記念話にできたのに


28話

「ん、お疲れ」

 

 人をダメにするクッションに体をうずめながら、翠は満足気に頷く。

 そんな彼の前には疲れ切った様子のCPメンバーが残った気力でストレッチをしている。

 初めて行ったときはすぐに座り込んだり、立っても膝を震わせていたが慣れてきたのか、メンバーの中で体力が少ない子も歩けるぐらいの元気が残るほどであった。

 その事に皆は喜びあって笑顔を浮かべていたが、ネタを明かせば翠がそうなるようにと調整していたりする。

 特訓の時間が目に見えて少ないようなポカはやらず、運動量もそれほど変わっていない。変えたのは時間の配分であり、他を挙げるとするならば翠の声かけであろうか。

 そのようなことがあるが、翠の狙いは自身のレッスンを余力残して終えて喜び、成長している実感と自信を持たせる事にあった。

 気の持ち方一つで様々なことがプラスに働いたりマイナスに働いたりする。今回のは当然、プラスへと働かせるものであった。

 ストレッチも終えたメンバーは着替えるために立ち上がり、レッスン室から出て行こうとするが、その前に翠が待ったをかける。

 

「あー、悪いけどきらりと杏は少し残ってくれ。そんでユニット決まった五人は話があるから着替えてこっちに戻ってきてくれない?」

 

 突然の事に皆は首をかしげるが、察しのいい組が行動を促し、レッスン室に三人が残る。

 

「怒るわけでもない……って分かっているか。体冷やさないようにすぐ済ませよう」

「別にお礼だなんていいよ。飴を一生分貰えれば」

「杏ちゃん、思いっきり要求してるよぉ!」

「別に構わんよ。もともと、二人には俺が出来る範囲でなんでも一つ、言うこと聞こうって思ってたし」

 

 二人は『えっ!?』と、驚いたあとにすぐ思考に耽り、翠に何をお願いするのか考え始める。

 

「杏は飴一生分だよな」

「ちょっ、さっきのは訂正させてよ」

「冗談。ゆっくり考えな。取っておくのもいいけど、日が空きすぎると忘れるから気をつけてね」

 

 一つ双葉を軽くからかった後、二人は再び考え込んでしまったために暇となった翠は人をダメにするクッションに体重をかけ直してペストポジションを探す。

 

「ねえ、翠さん」

「おう?」

 

 半分ほど寝かけていたとき、双葉から声をかけられたため目を閉じたまま返事をする。

 

「一つを百とか無限ってのは?」

「ダメに決まっとろう、このニート予備軍め。寄生されるのが目に見えてる」

「うぐぐ……」

 

 先の展開まで考えていたことを言い当てられ、悔しげに呻きながら再び考え始める。

 

「あのぉ……翠さん」

 

 そしてまた、夢の世界へと旅立とうとしていたとき。今度は諸星から声をかけられる。先ほどの双葉とは違い、質問などではなく何にするか決まったであろう諸星への対応はきちんと体を起こし、顔を向けて目を合わせる。

 

「翠さん、杏ときらりの対応に差がありすぎない?」

「そりゃあ、杏は質問。きらりは要求が決まったの差だろう」

 

 その事に対して双葉が若干ふてくされたようにしながら文句を言うが、翠はまともな返しの後に『ふっ』と小馬鹿にした笑いをつける。

 

「……そのぉ、凄く頼みにくいんだけどぉ……」

「ある程度のことなら大丈夫だし、ダメならダメって言うよ」

 

 それでも諸星は口ごもり、何度か言おうと口を開きかけるも言葉は出てこない。

 

「あ、杏ちゃん!」

 

 深呼吸をしたために『くるか!』と少し身構えた翠だったが、諸星は隣にいた双葉を呼んで部屋の隅へと移動する。

 

「…………」

 

 肩透かしをくらった翠だったが、前髪を弄りながら部屋の隅で話す二人に目を向ける。

 諸星は双葉の耳へと口を寄せ、小声で何かを伝える。念のためにか、口元を手で隠して翠に見えないようにして。

 伝えること自体はすぐに終わったのだが、双葉の表情が一瞬だけかたくなる。すぐに『はっ』となって今のを見られたかと翠へと目をやる。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 当然、二人へと目を向けていた翠であるため、バッチリと目が合った。そのことに諸星も気づき、気まずい雰囲気が漂う。

 が、その程度のことを気にしない翠は二人を手招きして近くへと呼ぶ。

 

「うん、なんとなくきらりが言いにくそうだったから分かってたけど……とりあえず聞いてみたら? 最初から無理だと決めつけるのは早いからね」

「なら杏が聞くよ。翠さんの心の闇、教えて」

 

 そう言われ、諸星ではなく双葉が覚悟を決めて口を開く。

 

 

「ダーメ」

 

 

 しかしニッコリと笑顔でアッサリ否定される。

 先ほどのセリフである程度予想ついていたのか、特に残念がる様子もなく二人は別の願いを口にしようとするがーー

 

「でも、本当に知りたいのなら話してあげようかな、とか考えるよ?」

 

 手を叩いて話すのを制し、二人にとって衝撃的な発言をする。

 何故と理由を聞くために尋ねようとするも、それより先に翠が口を開く。

 

「ただ、本当に聞くだけの覚悟があるのなら……ね」

 

 いつものように朗らかではない、絶対零度へと着の身着のまま放り込まれたような錯覚を覚えるほどに、暗く冷たい目を向けられた二人は金縛りにあったかのように動けなくなる。

 

「薄々気づいているかと思うけど、普通(・・)の人であったら廃人……もしくはすでに死んでいるかもしれない経験をしていると言っていいほどにはヘビーな人生送ってきたよ」

 

 自虐的な笑みを浮かべ、心の内を見せぬようにか目を手で覆い隠す。

 

「だから二人も本当に知りたいのならば、それなりの心構えを作ってからまたおいで。今回のなんでも言うことを聞く話は別のにしておきな」

 

 そう言って翠がドアへと目を向けると、ほぼ同時にノックの音が響く。

 

「時間だね。思ってた以上に長くなったけど、体調を崩さないようにね」

 

 二人の金縛りも解け、頭を下げてからユニット組と入れ替わるようにして出て行く。

 

「なんだか二人とも暗い表情していたけど、何かあったの?」

「そうだねぇ……ちょっとばかし勘が良すぎるのも、って感じ?」

「全然分からないんだけど……」

「それが一番いいんだよ。知らなすぎるのもあれだけど、知って後悔するよりは知らない方が幸せなこともある」

 

 遠回しな言い方に渋谷は首をかしげるが、それよりも先にここへ呼ばれた訳の方が気になるのか、それについて尋ねる。

 

「あー……ラブライカよりもニュージェネを先に済ませようか」

 

 一人で納得したように頷き、渋谷へと顔を向ける。

 

「凛は今の現状にあまり納得がいっていないみたいだけど……どうしてか聞かせてもらってもいい?」

「…………え?」

「……あれ? 前にしぶりんがそんなこと言ってたと思うけど、そのとき翠さんって」

「い、いなかったです……」

 

 凄く驚いた様子の渋谷に、何か怖いものを見たような目を翠へと向ける島村と本田。ラブライカの二人は状況を把握していないので訳が分からない様子であるが、三人の雰囲気から翠がまたしでかしたみたいだと捉えている。

 

「美嘉のバックダンサーに選ばれてからの三人組ユニットでCDデビュー。順調じゃないか。何が納得いかないんだ?」

「…………順調だからだよ。アイドルになったといっても、まだ他のメンバーみたいに小さい仕事をしたりしていると思ってたから。こんなに早くデビューすることに対して」

「ふーん……で? 何が不満なの?」

「何がって……さっき言った通りーー」

「それの何が不満なの?」

 

 軽い翠の返しに少しイラつきながらも、渋谷は声量を上げてもう一度同じことを言おうとした。

 しかし翠の赤い瞳と目を合わせたとき、心の奥底まで覗かれたような感覚に落ちいったうえ、本当に渋谷の疑問が分からないらしく首をかしげる。

 

「確かに、本来であれば少しづつ顔を売ったりしてCDだして、テレビ出演とかもするんだろうけど……凛、お前バカだろ」

「……なっ!?」

「す、翠さん! それはいきなり酷いですよ!」

「そうだよ! どうしてしぶりんがバカになるのさ!」

 

 呆れた表情とともにかけられた言葉に渋谷は目を見開き、島村と本田が抗議の声を上げる。

 

「うーちゃんと未央もダメだな。もう少し考えようよ。順調の何がいけない? いま手に入れたチャンスを活かさなくてどうするの? それと何か勘違いしてるようだけど……デビューがゴールじゃないからね? もう食う食われるの世界に一歩踏み出したんだ。次のためにいまのチャンスを自ら手放してどうするの? 本来であれば自分を売り出して行って手に入れるものなんだから。みくの方がそう言った意味では一番アイドルと言えるかもね」

 

 長々と話した後。ドアの方に目を向けて口を開こうとするが、そこには誰もおらず、五人は首をかしげる。

 

「……いや、喉乾いたんだけど奈緒いないんだった」

「なにそれ……。でも、確かに私の考えが甘かったのかも。いまが順調だからってこれから先もそうだとは限らないもんね」

「初めてお前と公園で会って、色々話して。別れ際、影から見守るとか俺に気づかないとか……格好つけたけれどもすぐに正体ばれたアホな俺でよければこれからも悩んだときに相談のるさ。これは凛だけじゃなく他の四人も、いないけれどCPメンバー全員にも言えることだよ。一応は先輩アイドルで、君らは可愛い後輩なんだもの」

 

 その後に『面倒だけどね』と付け加え、くすりと笑みを浮かべる。

 

「ニュージェネで呼んだけれど、凛だけでもよかったなとか思ったり思わなかったり」

 

 体をクッションに埋めながら天井を見上げて呟くが、結局はその考えすら面倒になったのか『別にいっか』との結論に至る。

 

「ラブライカもアーニャじゃなくて美波の方なんだよね」

「わ、私ですか……?」

 

 話の矛先がいきなり自分に向いて驚き、呼ばれた理由を考えるが思い当たる節がないのか首をかしげる。

 

「そう。今日のレッスンやってるとき、ホッとして安心しているように見えた」

「確かに、翠さんのレッスンは慣れると楽しいもんね!」

「未央ちゃん、安心と楽しいは別物ですよ?」

「うーちゃんの言う通り、未央の他に楽しんでいる子が多いが……美波のそれは全く違う。……大方、CDデビューするけど自分には何もないとか考えて不安にでもなってるんじゃないのか?」

 

 つい最近話していたことを言い当てた翠に五人はまたも驚き目を向ける。

 その話をしていたときは更衣室で着替えながらであり、五人以外には誰もいなかったのである。その場に居合わせていないはずなのに、こうも言い当てることができるのかとその目に少し怯えが混じる。

 

「まあ、そうなるよな」

 

 考えや感情を読むだけでなく視線やそこに含まれる感情を読むことにも敏感であるため、翠が気づかないわけない。

 ただこれまでにも(・・・・・・)そのような目を向けられ続けてきたため、慣れているから肩をすくめるだけに留めて一つ息を吐き、口を開く。

 

「とりあえず、何も心配はいらないよ。さっきも言ったけど、君らは可愛い後輩なんだ。なんでも相談に来ればいい。それに君らのプロデューサーはたっちゃんだ。何があっても(・・・・・・)何とかしてくれるし。……口だけだと不安ならば、満足いくまでレッスンしてあげようか? 磨けば磨くほどに輝くんだ。初ステージで人を魅了させ、惹き込ませるぐらいにすればいい?」

「…………」

 

 話を聞き、新田は目を閉じてしばらく考え込む。

 四人は不安そうにしながら翠と新田へと視線を動かすが、目を閉じている新田は考えに集中しており、翠は何も言わずにニコニコと笑みを浮かべている。

 

「…………いえ、大丈夫です」

 

 時間的には五分と経っていないのだが、四人にはその何倍もの時間が経ったと感じているほどに重い空気の中。

 新田は翠の目をまっすぐに見ながら答える。

 

「うん、分かってる。今回は自分の力で何とかしてみようって考えたんだよね? なら、俺はそれを応援するよ。……ただ、これから先に辛い事があったら一人で抱え込むなよ? CPのメンバーで最年長だから頼られることも多いと思うが、346で見たら新人なんだ。頼られることだけじゃなくて頼ることも覚えておけ」

 

 言いたいことを言い切ったのな、満足そうな表情をしながら再びドアの方へと顔を向ける。

 

「…………ねぇ、いろいろ言った後でなんだけど頼っていい? 動くの面倒だから運んで……」

 

 少し泣きそうになりながらトップアイドルが新人アイドルへと頼むその姿は先ほどまでとはまるで別人のようであり、一言で表すならば色々と残念であった。




今回、地味に意味のない伏線回収してたり、してなかったり
本文にも書いた通り、最初に翠と凛が出会っていろいろ話し、影から支えるとか言っておいてすぐバレたあれね
一話、日常見たいの挟んでから初ライブのになるかな?

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