今回、飲み物の名前が出てくるのですが、◯などでぼかしたほうがいいんですかね?それともそのままで大丈夫なのでしょうか?
「……昼、こっから移動して食べようか」
どこか疲れた様子の翠が携帯で現在の時刻を確認しながらそう提案する。
あの後、一巡終えたと思ったら二巡目が始まった。最後だけ見れば五巡で終わったのだが、翠は毎回みなに指導してと頼まれていたのは言うまでもない。
佐久間であるが、自身の番が来るまで人を殺すのでは? とばかりに負のオーラを漂わせていたが、いざ自分の番になるとものすごく顔を綻ばせていた。そして最後の五巡目は翠を胸に抱いて鼻歌を歌いながら一発で景品を取っていたりする。……教わるとかすでに関係なくなっていた。
クレーンゲームを終えたあとは階層を移動して音ゲーをしたりと楽しんでいたのだが、いまは十五時。翠が限界を迎えた。
言われて気が付いたのか、他の面々もそういえばと言わんばかりに腹へ手を当てる。
「何食べる?」
「今の時間だと、普通に食べたら夕食が入らなさそう」
「なら、ファミレスでいくつか頼んでみんなでつつくか、カラオケでも行く? 最近のカラオケって何故か食事方面も充実してるとこあるし」
「ファミレスでいいんじゃないかしら? そっちのほうがゆっくりできると思うし」
目的の場所も決まり、さらに増えた戦利品をみんなで分けて持ちながら移動を始める。
「ファミレスならここらにあったはずだよね」
「駅方面だけどね。……ああ、みんな変装だけはバレないようにね? していても目立つんだから。それにバレたらすっごい面倒なことになるし」
双葉のセリフに頷きながら、先頭を翠が歩いていく。そして振り返り、あまり期待していないような表情をしながら念のためにと声をかける。
ここいらにいるのは翠を含めてみな有名なアイドルたち。
変装をしていても、人を惹きつけるオーラが周りの人から視線を集める……のだが、翠と双葉からはそのようなオーラは出ていない。
本人たち曰く『怠さを押し出せばこうなる』だとか。
ただ、オーラがないとはいえ二人も美少女である。一人は男であるが、分かっていても女としか見えない可愛らしい容姿であるため、結局のところはオーラがあろうとなかろうと、注目を集めている。
幸いなことで特に絡まれることもなく、十五分ほど歩いてファミリーレストランへと着いた翠たちは奥の広いスペースへと案内された。わざわざテーブルを移動してくっつけてもらい、九人でも離れることなく座れるようにしてもらう。
昼時も過ぎているため、店の中は片手の指で足りるほどの人しかいなかったのでみんなは帽子を外したり髪をほどいたりと少し変装を解く。
「夕食のこと考えたらあれなんだけど、がっつり食べたい気分なんだよね」
メニュー表を見ながらそうつぶやく翠だが、全員が内心でそう思っている。
しかし、今がっつりと食べても夜は夜で普通に食べてしまい、カロリーなど体重が気になる女性たちはメニュー表を見て『うぐぐ……』とアイドルらしからぬ声をあげたりしている。
いきなり手を叩いて翠がみなの注目を集める。
「みんなは好きなの注文するといいよ。俺は何も頼まないで、みんなが残したのもらっていくから」
『…………』
「……変なこと言った?」
いい案だとばかりに提案する翠だったが、返ってきたのは冷めた目と無言の圧力。
大抵のことはいつも受け流していく翠だったが、今回のばっかりはまずいことを言ったのかと先ほど言ったことについて考える。
「……何がまずかった?」
「女の子が食べ残したのを食べるっていうのは……」
「確かにいい案ではあるんですけど……」
「は、恥ずかしい……」
「まゆは構わないですよ? ただ、女の子が口をつけたものを好んで食べたいと考えていたとは……」
「いまさら間接キスでキャーキャー騒ぎますか……。俺が食べたのをみんなが食べるわけじゃないんだし、別にいいやん」
『…………変態』
「…………」
翠自身では特にどうということではないのだが、世間ではそうでないらしく。
ありがたく『変態』の称号を受け取った翠はテーブルへと突っ伏す。
「……くっそ。今度レッスンみるときハードな」
「翠さん、子供じゃないんだから……」
城ケ崎姉の言うことはもっともであるが、翠はふてくされたようで聞く耳を持たない。
……その姿も子供っぽいのであるが。
だが最終的には翠の案でいくことになった。なんだかんだいいながらもみんなで翠をからかっていただけである。
そしてボタンを押して店員を呼び、注文する。
「あー、あの店員はやらかしそうだな」
「どうかしたのですか?」
翠が注文を取り終えた店員を見送った後にぼそっとつぶやく。
そのつぶやきを聞いた新田が尋ねると、面倒くさそうにあくびをしながらも簡単に答える。
「いま、あまり人がいないから俺ら変装軽くしてる。店員、気づく。SNSにでもあげられそうだなって。高校生か、それでなくても二十歳いってなさそうな年齢であったし、可能性としてはありそうかも」
そういわれて今の自身の姿を思い返したのか。よっぽど鈍感でない限りはバレる、変装とも言えないような変装をしている。
「同僚に話すぐらいなら別に構わないけど、もし予想通りであったならここの店は潰れるなって」
「さすがにそこまではいかないんじゃない?」
「いや、俺や346がどうこうするよりは、世間が糾弾しそうだなって」
翠がデビューしたときに
「ニュースとかになるの面倒だし、料理運んで来たら注意しておくか」
「それがいいと思います」
「翠さんは……やっぱりすごいです」
料理がすべて運ばれてくるまでゲームセンターでのことを話していた。
取った景品のほとんどはお菓子であったり、動物型のクッションであったりする。
途中からあまりにも景品を取りすぎたために店員が見張るようにしていたが、ズルしていないのが分かったとたんに涙目へと変わっていく様子に翠が堪えきれずに笑ったりしていたことがあった。
取ったお菓子も一個二個の単位でなく数十個が袋に詰められているもので、どうやって消費しようか女性たちは困った笑みを浮かべる。
「あ、ドリンクバーは全員分頼んだよね? なら、順番で取ってきたら? 俺は最後でいいから」
一斉に向かっても混むだけであるので、三人ずつで行くことになった。
初めに向かったのは城ケ崎姉、新田、高垣の三人である。
「ドリンクバーって言ったら、やることは一つでしょ」
「やること、ですか?」
案内された際に配られた水を飲み、楽しいことを思いついたような笑みを浮かべる翠。
双葉や諸星、神崎に佐久間らは何かよからぬことを企んでいると今までの経験からあたりをつけるが、まだそれほど被害にあっていないアナスタシアは何のことか分からずに首をかしげる。
「なら、アーニャは俺と一緒に取り行こうか。あとは……蘭子も一緒に行くか?」
何かあることに神崎は気づいているが、翠から誘われて嬉しいのか首を縦に振ってしまう。
「帰ってきたよ~」
「おし。まゆときらりに杏、行ってこい」
そこに何も知らない高垣たちが帰ってくる。
当然、距離が離れていたために先ほどまでのことを知る由もない。
三人が帰ってくる姿が見えるや、翠は先ほどまでの何か企んでいるような表情から普段通りへと戻し、何事もなかったかのように振る舞う。
そのことに疲れたような様子を見せながら杏たちが席を立ってドリンクを取りに向かう。
「何かあったの?」
「いんや。俺がまだクレーンゲームで取りたいのあったとか言ったらあんな表情された」
「あはは……さすがに取りすぎだと私も思います」
「別にズルしてないんだし、構わないって」
呼吸をするように嘘をつく翠に、神崎とアナスタシアが驚いて目を向けるが、当の本人は特に気にした様子も見せない。
先ほど向かった三人は、何を飲むのか決めていたのか戻ってくるのが早かった。
「んじゃ、行ってくるね」
『…………』
立ち上がった翠がとても素晴らしい笑顔を残して向かったのを見て。
六人は何とも言えない表情をする。
「あれ、どう思う?」
「絶対に何か企んでいると思います」
「さっき、楓さんたちが飲み物取りに行っているとき、やることは一つとか言ってたにぃ」
『…………』
スキップをしているかのように見える翠の後姿を見ながら、冷や汗を流す。
ただ、いまさらどうしようもないために気にしないようにしながら料理が運ばれてくるのを待つ。
「あ、美嘉」
「っ!?」
いきなり背後から名前を呼ばれて驚く城ケ崎姉。名前を呼ばれた本人だけでなく、他の五人もいつの間に翠がすぐそこまで来ていたのか気が付かずにビックリしている。
「カルピスとグレープジュース、交換しない? なんとなく気分が変わって」
「え……? グレープジュースなんてなかったはずだけど……」
「ん? あったけど?」
確かに翠が手に持つコップには
その後ろに立つ神崎とアナスタシアの手にも同様のものが。
ただ、城ケ崎姉は自身の記憶が確かならばあそこにグレープジュースはなかったはずだと考える。
無言のまま翠から目を外し、高垣らに目を向けるが、あまりに自然体な様子で話す翠に自分たちが見落としたのかといった表情をしている。
だが、城ケ崎姉と高垣、佐久間は翠が自然体だからこそ違和感を感じていた。
「……ちょっと、グレープジュースがあったのか確認を――」
「お待たせいたしました~」
そこでタイミングが良いのか悪いのか。注文した料理が運ばれてきてしまったために城ケ崎姉の願いは叶わなかった。
何か言う前にコップを入れ替えられてしまい、翠はコップに口をつけてカルピスを半分ほど飲んでしまう。
ここまでされてしまったら、城ケ崎姉はもう諦めるしかない。
最後の希望とばかりに手元にあるグレープジュース(仮)を誰か交換してくれないかと目を向けるも、みな目をそらしてしまう。
「こちら、ご注文の料理となります」
注文を取った子と運んできた子は違っていたが、注意するように言伝を頼むことは忘れない。
そして頼んだ品が全部運ばれてきたことを確認すると、よっぽどのことがない限りは邪魔が入らないため、最近の仕事などへと話はシフトしていく。
「翠さん、また仕事逃げたって奈緒さん怒ってたよ?」
「や、あのときはやる気がなかったから。そんな気持ちで挑んだら申し訳ないじゃん? それよりもそれ、飲まないの?」
「……そ、そろそろ飲もうかなって思ってたところだよ」
「先輩なんだし、蘭子とアーニャよりもまず美嘉が飲まないと」
料理も食べ進めていくが、いまだに城ケ崎姉、神崎、アナスタシアは注いできた飲み物には口をつけないで水を飲んでいた。
しかし、いつまでも避けていられない道。それにいま、いい笑顔の翠によって退路も断たれた。
料理を少しわきによけ、コップを手に取る。
そして少し躊躇したのち、一気に半分ほどまで飲んでいく。
「…………なんか甘いのと別の甘さが混ざったうえに炭酸効いてて、なんとも言えない味がするぅ」
『……………』
「…………ぶふっ」
味の感想を聞いて女性たち――主に神崎とアナスタシアの二人も手に持つコップに注がれた液体へと目を向ける。
二人で目と目を合わせてアイコンタクトを取り、同時に口をつける。
「「……あれ? 美味しい」」
「嘘ぉ!?」
「……は、腹痛い。笑い堪えると頬痛い……ぶふっ」
目をギュッとつむり、覚悟を決めて口をつけた二人だったが、想像していたよりも美味しかったために液体へと目を向ける。
そのことに驚きの声をあげた城ケ崎姉は、神崎から許可をもらってコップを受け取り、それを口にする。
「本当だ! こっちのは美味しい!」
「そりゃそうでしょ。美嘉はネタ要員だし」
一応は店内であることを気にしてか、声を抑えて笑う翠。
他の面々は城ケ崎姉と神崎のを飲み比べていた。
「確かに、こっちのほうが美味しいです」
「でも、こっちはこっちでクセになりそうな味だね」
意外なことに、変な味ではあるもののほぼ全員が両方いけるとの判定が出た。
二時間ほどだろうか。
話をしながら食事をしていたために時間がかかっていたうえ、食後もドリンクバーを頼んでいたためにジュースなどを飲みながら雑談を続けていた。最初の一杯以降は普通のジュースであったが。
これ以上ここに居続けると、早めの夕食などで人が増える可能性があるために変装しなおして精算をすまし、店から出ていく。当然、ここでの支払いも翠のおごりである。
店を出て解散すると思っていた面々であるが、翠がついてきてというので歩くこと数分。
翠が目的の場所に着いたのか足を止めるとほぼ同時。目の間に車が止まり窓が開く。
「来てもらって悪いね」
「いつものことだろう」
運転席には面倒くさそうにしながらも優しそうな笑みを浮かべた奈緒の姿が。
「これ、あと七人しか乗れないけど杏と俺を誰かの膝に乗せればいけるよね」
「まあ、大人しくしているならな」
そこでじゃんけん大会が行われた。目的は誰が翠と双葉を膝に乗せるか、席順はどうするかを決めるためのである。
「……そんなに騒いでるとバレるぞ」
もっともな意見であるが、真剣勝負の最中である彼女たちの耳には届かない。
勝ち抜いたのはアナスタシアであり、珍しく佐久間が負けて助手席となった。双葉は新田の膝へと納まることになった。
次の日に仕事がある子たちを順番に送り届けていき、休みである子たちはこのまま翠の家に行ってお泊り会となった。ゲームセンターで取ったお菓子などを開けてのプチお菓子パーティーである。
そのことは次の日に仕事があると送り届けた子たちや、他のアイドルたちにも知られ、連日となってさまざまなアイドルたちが翠の家でお泊り会をするとなることを翠はまだ知らない。
感想で他のアイドルたちのクレーンゲームの様子ですが、また一人一人やってくと文字数がとんでもないことになるのでカットいたしました
次はまた本編に戻りまして、ニュージェネとラブライカのライブの前に連れ去られた翠の話となります