貴女の笑顔のために   作:さぶだっしゅ

9 / 25
サブタイトルがかなり適当すぎる気がする…


さいかい

 

 

 

 

 

ゆきちゃん…くるみちゃん…ゆうりさん…

 

おなか…

すい…

 

 

あ…け…て…

 

せんせい…

みんな…すき…

だから

 

 

どうして

あけて…

くれないの…

 

 

 

「めぐねえ!」

 

 

 

ちがう

 

ここじゃだめだ

 

おなかすいた…

けど…

 

おなかすいた…から

 

ここじゃ…

 

 

 

 

「へぇ、感動の再会がこれかよ」

 

 

だれ…?

きいたことある…

 

わたし…しって…

 

「噛まれてんのは右腕だけ…やっぱ少しでも傷ついたらアウトかぁ」

 

そう…

かざま…くん…

 

いきてた…

よかった…

 

 

「んー、すぐに襲ってこないってことは理性があるのか?でも近づいて噛まれたらおしまいだしなぁ」

 

 

だめ…

きちゃ…だめ…

 

でも…

かざまくん…

 

ゆきちゃんたちと…ちがう…?

 

おいしく…なさそう…

 

 

「肌の色も完全に変わって無いし、成りかけって感じかな?じゃあ、とりあえず殺さないでおくか」

 

 

 

だめ…こっち…こないで…

 

あなたも…わたしに…

 

 

 

「あ゛ぁ…ああ゛…」

 

「んー、やっぱ会話とか無理っぽいな。気絶…するよな?」

 

 

 

ぼう…

なに…するの…?

 

 

わたしを…ころして…くれ…る…?

ありが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現状を説明しよう。

密室で、女教師と男子生徒が二人っきり。

しかも教師の方は意識がなく、縄で縛られている。

 

ここだけ聞けば男子高校生なら一度は夢見るような素敵なシチュエーションだが、現実はそう甘くない。

残念ながら女教師の方はゾンビに成りかけ。

しかも環境は明日も見えぬパンデミック状態。

素晴らしすぎて涙が出そうなほどだ。

 

 

めぐねえと奇跡の再会を果たした俺がとった行動は、めぐねえの捕獲だった。

腕は噛まれて傷を負っているものの、他はほぼ無傷。

しかも、出会った瞬間に襲ってこない辺り、理性はまだ残っていると判断した。

生前の記憶による行動だった可能性もあったが、そうだったらその時だと割切った。

 

とりあえず気絶させたは良いが、その後が大変だった。

多くの奴らが上に行ったとはいえ、下に残っている奴らも何人かはいる。

しかし時間をかけすぎては、めぐねえが意識を取り戻して俺が襲われる可能性がある。

幸い、1階と2階の間の踊り場だったので、奴らとの鉢合わせは数回しか無かった。

出会う度にめぐねえを地面に降ろして戦うのは中々に骨が折れたが。

 

 

 

ところで、この地下には何故か大量の薬品が保管されている。

その中には「実験薬」と書かれた薬もあった。

今は亡き教頭曰く、感染しそうになったら使いなさい、との事だ。

何故これを使えばいいと知っていたのか今となっては真相は闇の中だが、些細な問題だろう。

 

最初は薬の効果に不安を感じていたが、どうやら杞憂だったようだ。

今では呼吸も安定し、安らかな寝息を立てている。

最初はあれほどかいていた汗も、今では収まったようだ。

この調子なら、もう少しで目を覚ますだろう。

向こう側の存在になる恐れもなさそうだ。

 

薬が効いた、と安心した瞬間に一気に疲れが襲ってきた。

頭では大丈夫だと思っていても、身体はストレスを感じているんだろう。

しかし、めぐねえが目を覚ますまで安心できない。

疲れた身体に鞭打って、めぐねえの目が開かれるのを待ち続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぅ…」

 

 

私はどうなった…?

覚えているのは、あの子たちから離れようとしていた事と、安否が分からなかったあの少年に出会えたことだけ。

その後どうなった?

 

確か、風間くんが近づいてきて…

息ができなくなって…

 

…あれ?息ができる。

 

ということは、あの後どうなったんだろうか。

 

私は彼を襲ってしまったんだろうか?

そうだとしても、彼は逃げ切れただろうか?

 

この目を開いたら、何が映るんだろうか…?

 

もし目を開いて、目の前が血で染まっていたらどうしようか。

私の手が、私の服が真っ赤になっていたらどうしようか。

 

そうなってしまったら、私は…

 

 

「あれ、めぐねえ意識戻ってんの?」

 

目を開くことを恐れていた私にかけられたのは、私が見捨ててしまった少年の声。

この声が聴こえるということは…

もしや、天国だろうか?

そうだったとしたら、逆に幸せなんだけど…

 

恐る恐る目を開くとそこには

 

「おはよーございます。よく寝れた?」

 

ニヤニヤと笑う、かつて見慣れた懐かしい顔だった。

 

良かった…生きててくれた…

心の中が生存を確認できた喜びや、あの子たちを置いてきてしまったことへの不安でいっぱいになる。

風間くんに再会出来た時にどんな事を聞こうかある程度は考えていたが、そんなものは吹き飛んでしまった。

そんな私が何とか出せた言葉は

 

「風間くん、何で私は縛られてるのかしら…?」

 

今の体勢への質問の言葉だった。

 

 

 

 

 

風間くんに縄を切ってもらい、身体を動かして自分の状態を確認する。

あの時は、ただ何かを食べたいという欲だけで身体が動いていた。

何とか意志を伝えようと口を動かしても、出るのは唸るような声だけだった。

当たり前なことだけど、自由に身体を動かせるというのはこんなにも素晴らしいことだったのか、と実感する。

出来るなら、こんな事で実感したくなかったけれど…

 

身体の調子も戻り一息つけたのを見計らって、風間くんが現状を説明してくれた。

 

事故の前に、知らない宛先から地下へと向かうように指示するメールを受け取っていたこと。

別れた後、地下倉庫へと向かったが襲われて絶体絶命になったこと。

しかし、教頭先生に助けられて共に生活してきたこと。

その教頭先生は、自ら命を断ってしまったこと。

 

聞けば聞くほど、悲惨な話だった。

改めて、あの時引き止められなかった自分を責めたくなる。

そうすれば、彼はこんなに辛い思いをしなくて済んだのに。

その後悔と同時に、生きる事から逃げた教頭先生に怒りを感じる。

 

過去に、私に「教師に向いていない」と言っておきながら、自分はその教師としての責務を放置するなんて。

既に亡くなってしまっていては文句も言えない。

しかし、私にそんな事をいう資格はない。

その怒りをぶつけることが出来るのは風間くんだけだ。

 

そのことを指摘すると、風間くんは怒りだすどころか微笑んでこう言った。

「生きるのも死ぬのも本人の自由。死んだことは誰にも責めることは出来ない」と。

 

何故、それほど寛容になれるのだろうか?

人間、これほど極限状態に追い込まれれば、心で思っていることが直接的に行動に現れるはずだ。

しかし、彼は微笑みながら事故が起こる前と変わらない態度を取り続けている。

それは、むしろ更に穏やかになったのではないか、と錯覚してしまうほどのものだった。

一般の男子生徒なら、自分の境遇に悲憤慷慨としてもおかしくない。

肝心なときに居なかった私に憤りをぶつけていたかもしれない。

 

その、どこか超然としたポーカーフェイスに、どこか不気味ささえ感じてしまった。

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。