貴女の笑顔のために   作:さぶだっしゅ

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あめ

 

 

 

私は償えないほど大きな罪を犯した。

 

君もいつか知ることになるだろう。

 

出来るなら知らずにいて欲しいが、私にはそんなことを望む資格さえ無い。

 

私が外に出るのは許される事ではない。

 

真実を知った時、君は私を許さないだろう。

 

恐らく、私を殺そうとするだろう。

 

だからその前に消えることにした。

 

この選択が責任逃れの情けないものなのは分かっている。

 

恥ずべきことだというのは百も承知だ。

 

だが、私には耐えることが出来なかった。

 

私が弱かったのだ。

 

許してくれなくていい。

 

 

ただ、生きてくれ

 

 

 

 

追記

 

この鍵は私の車のものだ。

 

ここから出るときに役立ててくれ

 

端に止めてある銀のクラウン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教頭の足元に置かれた遺書に目を通すと、そのまま握りつぶしてゴミ箱へと投げ捨てた。

この死体を見た直後は放心状態となっていたが、ある程度は普段通りにまで戻ってきた。

貴重な人手が減ったのは予想外だったし、今後の事を考えるとかなり痛手だがやりようはいくらでもある。

 

まぁ、まずは腹ごしらえからかな。

何作ろうかなぁ…

まぁ冷蔵室にあるもので作ればいいか。

一人で食べるには十分すぎる程の貯蓄はあるし、少しぐらい多めに作ってしまおうか。

そうだな、一人焼肉でもしよう。

肉の種類は残念ながら少ないが、味付けでカバーだ。

そうと決まればさっさと飯は済ませてしまおう。

 

口元に笑みを貼り付けて、鼻歌を歌いながら冷蔵室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園生活部を作ってから早一週間。

ずっと塞ぎこんでいた由紀ちゃんも少しずつ明るくなり、今では笑顔も見せてくれるようになった。

部活を作る案を出してくれた悠里さんにはとても感謝している。

 

今では、ゆきちゃんに授業を出来るぐらいお互いの心に余裕が生まれていた。

こうした元々日常的だったことが出来るようになって、喜んでいたのは記憶に新しい。

まぁ、勉強を始めるとやる気が萎れていってしまうのだけれど…

 

少しずつ広げていった生活圏だが、胡桃ちゃんの頑張りの活躍で3階のほぼ全域と2階の一部を生活圏にすることができていた。

正直、奴らに対抗できる戦力が彼女しか居ないので、かなりの負担をかけてしまっているはずだが本人は辛そうな素振りを一切見せない。

何度か代わりに私が行く事も提案してみたが、「慣れてるあたしが行ったほうが良いだろ」と一蹴されてしまった。

 

確かに私が行っても犠牲が増えるだけだろう。

もう少し運動神経が良ければなぁ…

少しでも負担を減らしてあげたいのだが、どうにも出来ないのが現状だ。

 

どうしたものか…と考えながら学園生活部の部室へと戻ると、件の胡桃ちゃんがシャベルを磨いていた。

 

 

「なぁ、めぐねえ」

「め、めぐねえじゃなくて佐倉先生でしょう?」

 

このやり取り、何回目だろう…

やはり、私が頼りないのが原因なんだろうか…

少しでも皆に楽をさせてあげたいが、私が出来ることはそこまで多くない。

そんな自分に嫌気がさしてくる今日このごろだ。

 

 

「あー、ごめんごめん。で、一つ聞きたいんだけどさ」

「なぁに?」

「この部員表ってさ、何でここに一人分空いてんの?しかも副部長のとこ」

 

胡桃ちゃんが指したのは部室の壁に貼られた部員表…と言っても、各々の名前が書いてあるだけなのだが。

確かに部長の悠里ちゃんの名前の下、副部長の欄は空白になっている。

これにはちゃんとした理由がある。

 

「そこはね…ゆきちゃんが『副部長はあーくんが一番適任だよ!そういう仕事似合うし!』って言ってね…」

「あーくん?誰だそれ。ゆきの心の友達か?」

「違うわよ。風間明くん。胡桃ちゃんも知ってるんじゃないかしら?」

「ああ、明か。でも、ここに居ないじゃん」

 

過去に一緒に話したり、走っているところを何度か見かけたので知り合いだと踏んでいたが、やはりそうだったようだ。

傍から見ていると、”好敵手”という言葉が似合うような関係だった覚えがある。

 

確かに彼女の疑問はもっともだ。

ここに居ない人の席を取っておく、というのも変な話かもしれない。

しかし…

 

「あの日、屋上に上がる少し前まで一緒にいたのよ。でも、先に行けって言って何処かへ行ってしまったの」

 

今でも、あそこで彼を止めれなかった事を悔やんでいる。

無理にでも一緒に連れて行けば、ここで共に暮らせたはずなのに。

 

「ゆきちゃんは、今でも彼が戻ってくることを信じているわ。もちろん、私もね」

「なるほどなぁ。確かにアイツならちゃっかり生き残ってそうだ」

 

こうして場所を残しておけば、義理堅い彼ならひょっこり戻ってくるかもしれない。

そんな期待を込めて、この欄は空いているのだ。

あくまで望みでしか無いが、何もしなければ本当に彼が消えてしまう。

そんな風にさえ思っていた。

 

「このまま調べてけば、アイツの手がかりも見つかるかもな。つーわけで、今日の調査に行ってくるわ」

「ええ、絶対に無理はしないでね」

「ったく、めぐねえは心配しすぎだっつ―の」

「心配するわよ。だって、教師だもの」

「宿題と誤字が多いが抜けてんぞー」

「もうっ!胡桃さん!」

 

からかうような笑みを残して彼女は廊下へと出て行った。

このくらいの冗談が言えるくらいには彼女も余裕を持てるようになったようだ。

 

あの日、自分の片思いの相手に手を掛けるという最悪の体験をした彼女の心はひどく荒んでいただろう。

それでも、あそこまで明るく振る舞えるのは彼女が強いからだ。

私もあれくらい強くなれたらなぁ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日課の筋トレを終え、情報探しの為に外に出てみると様子がおかしい。

いつもより、アイツらの数が多い気がする。

 

どこから来られても対応出来るように警戒しながら廊下を歩いて行くと、窓の外には雨が降っていた。

その雨から逃げるように、続々とヤツらが入ってきている。

どうやら水が苦手らしい。

役に立ちそうな情報が手に入ったな。

 

 

しっかし、こっちに見向きもしねえな。

一応ある程度は隠れてるけど、身体の一部は多少は向こうから見えてるだろうに。

 

そんなに水が嫌いなのか。

 

見つからないのをいいことにしばらく観察していると、何故かヤツらは上の階へと向かっていった。

生前の知識が若干残っているみたいだし、雨宿りしに教室へと向かったのだろうか。

それとも、ヤツらを惹きつける何かが上の階にあるのか?

 

もうちょっと様子を見たら、上に行ってみるのも有りかもな…

 

 

 

 


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