貴女の笑顔のために   作:さぶだっしゅ

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やっと試験やらバイトやらから解放された…

もう遅れたってレベルじゃないねこれ

本当にごめんなさい
これからは頑張って週一くらいで頑張りたいと思います


ばけもの

 

 

 

 

 

 

駅の外でアキくんの帰りを待っている間は本当に不安だった。

 

本人は大丈夫と言っていても、知らず知らずのうちに抱え込んでしまうタイプのアキくんだ。

実は体調が万全でなかったとしたら?

今までの疲れが溜まっていたら?

 

考えれば考えるほど、不安要素が浮かび上がってくる。

だから、無事な姿で駅から出てきてくれた時は本当にホッとした。

 

見たところ怪我もしていないようだし、後は学校に帰るだけ。

そう思ったけど…

 

「アキくん…? 顔色がすごく悪いのだけど…」

「いや… ちょっと疲れがな…。 悪いけど、運転は任せていいかな」

「え、ええ… それは大丈夫だけれど… 本当に大丈夫?」

「大丈夫だから… 寝りゃ治るさ」

 

本当は不安だったけれど、アキくんの有無を言わさぬ態度に何も言うことが出来なかった。

私たちにいつもの微笑みを向けると、そのまま車の助手席に乗り込んでいった。

 

明らかにいつもと態度が違う…

それは一緒に様子を見ていた2人も感じたようで、めぐねえもくるみも眉をひそめている。

微妙な空気が流れ無言の状態が少し続いたが、

 

「まぁアイツも人間だったってこった! 早く帰ってシャワー浴びて寝ようぜ? そうすりゃ、明の言う通り治るって」

「そ、そうよね! 物資も補充したし、甘いものでも食べましょ? 確か、桃の缶詰とかもあったわよね?」

 

くるみの励ましの言葉で嫌な空気はとりあえず流れた。

私も2人には差し障りのない返事をしておいたが、心の中にはモヤモヤしたものが残っていた。

そんな気持ちを残したまま運転できないわ…

 

本当に何もなかったのか、これは後で確かめる必要がありそうね。

でもひとまずは、この気持ちは隅に置いておきましょう。

 

 

 

 

 

「アキくん、起きて」

「……ん」

 

このまま寝かせてあげても良かったのだけど、室内には布団があるのだ。

折角ならそちらで寝たほうが良いだろう。

 

起こそうと肩を揺するが、短く返事をするだけでなかなか目を開かない。

そういえば昔から朝が苦手だったな… と以前のことを思い出す。

小学生の頃は、アキくんが遅刻しないように家まで迎えに行ったものだ。

 

頭を振って浮かび上がってくる思い出を振り払うと、アキくんを起こすのに本腰を入れ始める。

まだ寝ていたいのか、口元にはいつもの微笑を浮かべているのに眉はどんどん歪んでいく。

なんとも面白い表情だ。

これをこのまま見ていても飽きないだろうが、窓の外ではめぐねえや由紀ちゃんが荷物を運び始めている。

私達だけがサボっている訳にもいかない。

 

「アキくん、もう学校よ?」

「あぁ…」

 

もう少し抵抗されるかとも思ったが、目を擦りながら体をリクライニングから起こした。

そのまま現状を確認するように眠そうな目で辺りを見回していたが、私の顔を見るとそのまま視線が止まる。

半開きのまま何を考えているのか分からない視線に晒されるのは何となく居心地が悪かったので、思わずどうしたのか聞いてしまった。

 

「俺の顔、変じゃないかな?」

「え…?」

 

唐突なアキくんの質問の意味が理解できず、咄嗟に答えることは出来なかった。

もしかしたら、寝ている時に何かの跡が付いていないか気にしているのかも?

他の意味で解釈が出来ない。

特に跡が付いているわけでもないし、突然顔が変わってしまったわけでもない。

 

「大丈夫、別にいつも通りよ?」

「そっか… 悠里が言うなら大丈夫だな」

 

質問の本当の意味を理解出来なかったけれど、私の答えに特に不満は無いようだ。

私に礼を言うと、そのまま外に出ていった。

そのままトランクの方へと回って荷物を運んでくれるようだ。

少し寝て、元気がちょっとは戻っていれば良いのだけれど。

 

体調が心配だったが、いくつも段ボールを抱えて荷物を運ぶ普段通りのアキくんを見て、少しだけ安心した。

あの調子なら大丈夫かな。

そうだ、私も早く運ぶの手伝わなきゃ。

 

荷物を全部部室に運び終わる頃には、アキくんの質問のことは忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の顔、変じゃないかな?」

 

この質問の真意は悠里にも理解できないだろう。

当たり前だ。

俺の勝手な妄想から来た質問なんだから。

 

 

俺は圭という少女を殺した。

彼女はまだ人間だった。

今まで俺が殺して来た奴らとは違い、まだ人間だったはずだ。

まだ言葉を喋っていた。

頭を殴った感触だって違ったんだ。

 

俺は人殺しをした。

そこまでは理解できる。

 

なのに、俺の心は全くと言っていいほど動揺していない。

 

それが何よりも恐ろしい。

 

散々奴らの事をバケモノだといって殺してきた。

自分が生き残るために何体も倒してきた。

 

そうしているうちに、俺の感覚はどんどん麻痺していったのか。

 

奴らだって元々は人間だったんだ。

最初は生き残る為に必死で何も考える余裕が無かった。

 

だがさっきはどうだ?

別に無理に倒す必要は無かった。

なのに、俺はわざわざ奴らを倒してから先に進んだ。

元々人間だった奴らを、躊躇なく自分から殺しに行ったんだ。

 

これじゃ、どっちがバケモノか分からないじゃないか。

 

 

 

以前、エビちゃんに 「アイツらを倒すのが辛くないか?」 と相談されたことがある。

その時は、生きるためにはしょうがない、と答えた。

エビちゃんの考えを心の弱さから来る甘えだと、心の何処かで思っていた。

 

その頃から、俺はもう壊れ始めていたんだろう。

 

そして、圭を殺した時に確信したんだ。

 

俺はもう人間じゃない。

人間の皮を被った、何か別の生き物だ。

 

そう考え始めると、自分がひどく醜いものに見えている様な気がする。

目が血走り、牙を剥いた怪物のような姿になってはいないだろうか。

 

思わず目の前にいた悠里に尋ねてしまった。

ここで、もし悠里が怯えて逃げ出していたらどうしていただろうか。

 

その時は、本当にバケモノになってしまっていたんじゃないかと思う。

 

だが悠里は普通だと言ってくれた。

その答えは嘘じゃ無いだろう。

悠里は咄嗟に嘘をつけるような性格ではない。

 

ひとまずその言葉で、自分の内面が外には出ていないことが分かり安心した。

 

だが、それも時間の問題だろう。

このままでは俺が学園生活部を脅かす存在になる未来も近くない。

 

 

 

皆の為に俺は死ななくてはならない。

だけど、それは今じゃない。

 

絶対に機会は回ってくる。

 

その時が俺の最期だ。

 

 

その時まで、違和感のないように生活しなくては。

 


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