夢じゃないよね?
これも読者の皆様のお陰です。
拙い文ですが、今後共よろしくお願い致します。
「おし、まずは明だな」
「はいよ」
「準備出来たら言ってねー」
あたし達は50mのタイムを計っている。
普通ならグラウンドで測定するもんだが、そのグラウンドは使えない。
しょうがなく廊下でやってるんだが、こういうのって何かワクワクするよなぁ。
見つかったら怒られる、ちょっとした背徳感がたまんないんだよな。
まぁ、注意してくる先生たちは居ないんだけどな。
むしろ、めぐねえも今回は走る側だし。
さて、何でこんな事をしているのかというと、先日の遠足に関係している。
遠足に行くには車が必要だが、その車を誰が取りに行くのか、という話になったんだ。
最初はめぐねえと明で行くはずだったんだが、あたしはその意見に反対した。
無事に車を取りに行くのに必要なのは速さだ。
遅ければ駐車場まで無事にたどり着けないかもしれないし、車を待ってる方も危ねえからな。
めぐねえは力は結構あるみたいだけど、脚の速さはそこまででもないんだよな。
そのことを明とめぐねえに伝えると、確かに一考の余地があるって結論になったわけだ。
ならどうするか? って話なんだが、明の「実際に走ればいいじゃん」という一言で解決した。
というわけで最初に戻るわけだが…
「よーい…どん!」
明のやつ、相変わらず綺麗なフォームで走るよなぁ。
あれで陸上部じゃねえんだから、世の中不平等だ。
しっかし、こんな悪いコンディションでよくあの速さで走れるぜ。
でも、何でバール持ちながら走ってんだ?
バトン代わりか?
「おつかれさまー」
「ふぅ…タイムは?」
「はい」
「おぉ、かなり落ちてんなぁ… 仕方ないけど」
明のタイムは… 7.13か。
確かに前より落ちてるけど、バール持ちながら高校生の平均より速いんだから十分じゃねーかな。
…明でこれなら、あたしはどんだけタイム落ちてんだろうなぁ。
「ほらエビちゃん、さっさと計っちゃおう」
「わかってるって」
さて、足の調子は… まぁ悪くないな。
他の部分も違和感は無いし、後は普段と違う床と靴で滑らないようにするだけ。
おーし、あたしならやれる。自分を信じろ。
「よーい、どん!」
…よし、スタートはなかなかだ。
後はスピードを乗せて行って…
「なぁ、めぐねえ。なんであいつ…」
「そ、そうねえ…」
後ろで2人が何か言っていた気がするけど関係ない。
今は走ることだけを考えろ…っ。
「ごーる! くるみちゃんもおつかれ~」
「おう…で、タイムは?」
「はい」
「あちゃぁ…ダダ落ちだ…」
ほんとに酷いな…
こんなの部長とかに見られたらぶっ飛ばされるわ…
久しぶりにこんなタイム見たよ。
これって、多分陸上始めて少しした時期と同じぐらいじゃねーかな。
…さっさと消しちゃおう。
「なぁ、エビちゃん…」
「なんだよ、タイムなら教えねーぞ。乙女の秘密だ」
「いや、そうじゃなくてな」
「何でシャベル背負ったまんまなのかなーって」
は? シャベル?
あれ、何時からつけてたっけ?
やべえ、完全に無意識に背負ってた。
「くるみちゃんのシャベル愛はすごいなぁ。妬けちゃうよ」
「ホントにな。もうシャベルと結婚しちゃえよ」
「い、いや、これはな? 同じものを使い続ければ奥義が使えるようになるみたいな? とにかくそんなんだよ!」
うおお…
タイム見られるより恥ずかしいわ、これ。
べ、別に趣味は人それぞれなんだから良いじゃねーかよ!
くっそ、明め。いつまでもニヤニヤしやがって。
「で、どうする? シャベル君を置いてもう一度やるか?」
「いや、これでいい。あと、次シャベル君って言ったらぶっとばすからな」
「へいへい」
さて、残るめぐねえだったが…
結果は、本人の名誉のために言わないでおく。
いや、だって半分走り切る前に足がもつれてたし。
体つき的にもなぁ。筋肉も足りてねえ。
顔を赤くしながらもゴールまで行った心意気は買うけど、あれじゃなぁ…
本人も同行者の足手まといには成りたくないようで、最終的には車を待つりーさんとゆきを護衛する役をするということで落ち着いた。
何度も「壊さないでね?」と念押しされて車のキーを預かったけど、ちょっとくらいの傷は許してくれるよな。
ジャンクとかになってなければいいんだよな。
ゲームで鍛えたテクニックがあるし、行けるはずだ。
どうせ、明も似たようなもんだろうし。
「さて、準備いいか?」
「いつでも行けるぜ」
こんなにも緊張する遠足ってのもあまり無いよな。
命を掛けた遠足…どっかの秘境にでも行くかのように聞こえるが、行き先はここから少ししか離れていないショッピングモールだ。
リバティシティ・トロンだったかな?
いつも「トロン」としか言っていなかったから、正確なものかは分からない。
「さて、もう一回流れを確認するぞ。俺とエビちゃんで駐車場から車を持ってくる。
その間は、お前らは昇降口脇で待機する。
そんで車に乗って出発。これでいいな?」
「かなり適当だけど…それで合ってるわ」
「じゃあさっさと取ってくるか。めぐねえ、あとはよろしくな」
「うん…気を付けてね」
「ま、俺もいるし大丈夫だろ。ほら、エビちゃん先に降りてくれ」
未だに1階を制圧できていないから昇降口は使えない。
いや、使えない事は無い。
だが、昇降口から出ると多くの奴らの前を通ることになる。
そうなれば、校庭に居た奴らが全員駐車場まで追っかけてくることになるのだ。
だから駐車場側への出入りはハシゴを使うことになった。
こりゃ帰りに荷物上げるの大変そうだな…
「なんだよ、怖気づいたか?」
「自分の服装見てから言ってみろ」
「え…? そ、そういうことか」
エビちゃんの顔はみるみる赤くなっていった。
本当にエビみたいな色になってるぞ。
言ったら怒られるだろうけど。
ここに居るメンツはめぐねえを除いて全員制服を着ている。
制服ってのは大体は男子がズボン、女子はスカートって決まってる。なぜかは知らないけど。
まぁそんな格好で俺が先に降りたら…なぁ?
俺は別に気にしないがエビちゃんの方が気にするだろう。
曲がりなりにも女子高生なんだ。自分からスカートの中身を見せるなんて事はしないだろう。
そういえばめぐねえもスカートだったか、と関係なことを考えていると既にエビちゃんは降り始めていた。
なんだ、一言ぐらいかけてくれてもいいじゃないか。
置いて行かれると後で合流するのが辛い。
俺は慌てて避難梯子へと手を掛けた。
「やっぱいるなぁ」
「無理に倒さないで、走っていった方がいいな」
「最初っからそのつもりさ。いける?」
「おう」
確認するとほぼ同時に走りだす。
アイツらはスピードが遅い。
だから、相手にしなければ対処は簡単だ。
袋小路に追いつめられるとかなり危険だが…
「おい、前から1体くんぞ。どうする?」
「俺がやっとくから気にすんな」
「了解だ」
言い終わるや否や、バールを握り直す。
狙うのは頭。一撃で終わらせる。
「ほいっと」
走ったままの勢いでバールを横振りすれば、頭だけが向こうの茂みへと飛んで行く。
首から上を失った身体は糸が切れた人形のようにその場に倒れこむだけ。
もう何度見たかも分からない当たり前の光景だ。
「流石だな」
「ありがとよ」
短い言葉を交わし、駐車場の入口で別れる。
教頭の話だと、端の方に止めてあるクラウンだったか。
見たところ、結構な距離があるけど…
幸いな事にアイツらが密集している部分は少ない。
進むのは問題無いだろう。
「あー、邪魔だわー」
最初の方は抵抗があったけど、完全に慣れてしまった。
相手が生きている人間なら変わるのかな?
あんまり変わらない気がするが。
「っと、これか」
大した障害もなく教頭の車まで来てしまった。
車の車種には疎いほうだが、流石にクラウンぐらいは分かる。
キーも問題なく入った。
「ほんじゃ、使わせてもらいますよっと」
教習所などに行ったことも無いので本物の車の運転席に座るのは初めてだ。
とりあえずエンジンを入れて…
レバーをドライブにすれば良いんだっけか。
おっと、サイドブレーキを最初に外しとかないと。
あとはこれで… うん、多分大丈夫だろ。
あとはアクセル踏んで、と。
お、動いた動いた。意外と簡単だな。
おし、さっさとエビちゃんの方に向かわないと。
「おいおい、大丈夫かよ」
エビちゃんの元に戻ると、アイツらび襲われたようで戦いの真っ最中だった。
まぁ待ってても直ぐ終わるだろうけど…
ここはサポートしておこう。
とりあえず気付いてもらえるようにクラクションを鳴らすと、こちらの意図を掴んだようで車の影に隠れる。
そして取り残された奴を躊躇なく引いていく。
人を撥ねると、意外と車も衝撃受けてるんだなぁ…。1つ勉強になった。
「エビちゃん、多分その赤いやつだと思うよ」
「知ってる! でもサンキュな!」
「あんま時間空けるわけにもいかないし、ゆっくり行ってるからな」
車を取ってきたけど誰も残ってませんでした、なんてオチは悲しすぎるからな。
できるだけ早く向かいたいが、俺とエビちゃんが間隔を空けてしまうと後から来た車がかなり辛い状況になる。
音で集まって来た奴らに気を向けながら乗らなきゃいけないからな。
どうするか… と考え始めた所でバックミラーにエビちゃんの運転する赤い車が見えた。
スピードを少しずつ早めているのはさっさと進めという意思表示だろうな。
よし、昇降口に急ぐか。
やっぱり外は彼らの数が多い。
この中を生身で行くなんて考えたくもないわね…
一応こっちには気付いていないみたいだけど、なんの拍子にバレるかなんて分からない。
もしかしたら校舎から出てくるかもしれないのだ。
注意は怠ってはならない。
「そろそろかしら…」
急かしてしまうようで申し訳ないが、この状況で待ち続けるのは危険だ。
出来る限り早く来てくれた方がいいのだが…
おや? 今の音は…
「めぐねえ、りーさん! 車の音がする!」
「そうね。そろそろ動く準備をしましょう。ゆうりちゃん、大丈夫?」
「はい。問題無いです…」
悠里ちゃんの返答を遮るようにけたたましいブレーキ音が学校中に響き渡った。
グラウンドに大きなタイヤの後をつけ、銀と赤の車が私達の前に止まっていた。
「すまん、遅くなった」
「みんな! 早く乗れ!」
「もうっ、遅いよー!」
ゆきちゃんは喜々として胡桃ちゃんの運転する私の車に乗って行った。
私も車の持ち主だからそっちに乗るとして…
「悠里ちゃん」
「はい。私はこっちで行きますね」
言わずとも私の考えは伝わっていたようで、既に明くんの運転する車のドアに手をかけていた。
本当に車が2台あって助かったわね。
「めぐねえ、そっちでエビちゃんに指示出して先導してくれ。 俺らは後ろから着いて行くから」
「分かったわ。 途中ではぐれないようにね」
「りょうかーい」
「よーし、それじゃあ遠足にしゅっぱーつ!」
こうして私達5人の遠足は慌ただしく始まりを迎えたのだった。
筆者は免許持ってないので車のことを全然知らないです。
何か変なこと書いてそう…