貴女の笑顔のために   作:さぶだっしゅ

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今回ちょっと短いですね

でも、ちょうど1巻終わるくらいだしいいのかも


てがみ

 

 

 

 

「えらい目にあった…」

 

由紀の説明会と称した校内巡りは非常にキツいものだった。

彼女自身の体力が有り余っているため、付いていくのが辛いのも当然だが、彼女の中ではここは平和な学校なのだ。

本人はいつもどおり過ごしているつもりかもしれないが、実際にはいつアイツらが来るか分からないんだ。

常に警戒しているこっちの身にもなって欲しいものだ。

しかし、めぐねえたちの言葉をよく理解できた気がする。

その笑顔でみんなの中心になっている、みんなを繋ぎ留める要のような存在。

なるほど、彼女がいればあの部も安泰だ。

自分のせいで彼女の精神が幼くなってしまったとめぐねえは気を病んでいたが、ある意味こうなって正解だったのかもしれない。

いずれ治すべきだろうが、そこまで深刻ではないようにも思える。

娯楽や心の支えになるものが少ないこの環境で、彼女のような存在は貴重だ。

 

しかし気になることもある。

彼女は俺の表情に気付いている。

エビちゃんやめぐねえ、悠里でさえ気付かなかった俺の秘密にあっさりと。

あの3人がどう捉えているのか分からないが、俺のこの表情は笑顔なんかではない。

いや、笑顔なのかもしれないが浮かべたくて浮かべているわけではないのだ。

恐らく、ストレスから来る表情筋の異常が原因だろう。

専門知識があるわけではないので詳しい部分まで把握しきれているわけではないが、以前父の部屋にあった医学書に書いてあった気がする。

表情筋は意外と精神の影響を受けやすいそうだ。

他にも脳の異常なども関係するそうだが、その場合なら引きつけではなく不全、つまり笑顔ではなく口角や目尻が下がった顔になるはず。

鏡をみて確認したがそのような表情には見えていない。

彼女たちも俺の顔の異変を指摘しないということは、それなりに誤魔化せていると思っていた。

だがそれも由紀には通用しなかったようだ。

彼女が俺の表情を「ぶすっとした表情」と称したときの他の3人の疑問符が浮かびそうな顔、あれが全てを物語っている。

 

しかし、現実から目を逸らした由紀が俺の現実を正しく捉えてるなんて、どんな皮肉だろう。

彼女はこのことを誰かに話すだろうか?

由紀は幼い言動が目立つが、実際頭の回転はかなり早いほうだ。

正しく状況を理解する能力も長けている。

その能力の高さ故にこうして歪んだ視界になってしまったのかもしれないが…

だが、もともと持っている能力をもってすれば、このことを話しても他の3人が理解できないことに容易く気付くだろう。

ならば、打ち明ける可能性はかなり低いか。

それに、先ほどの校内巡りの最後に彼女が放った言葉

 

『ぜったい、わたしがあーくんを笑わせてみせるんだから!』

 

あいつは俺と同じで、一度言ったことを曲げない質の少女だ。

なら、自分の力でなんとか俺を笑わせようとしてくれるんだろう。

面白い。

俺自身にも分からなくなった笑い方を教えてもらおうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

「それで、エビちゃんは何してるんだ」

「見てわかんねえか?鳩捕まえてんだよ!」

「ついに唐揚げが恋しくなったか。まぁ気持ちは分からんでもないが…」

「ちげーよ!伝書鳩だよ!」

 

伝書鳩?どうしてそんなもんを…

そもそも、そのへんの鳩で手紙なんて送れないだろうに…

そもそも、送る相手がいるかも分からないこの状況でなぁ…

 

「ゆきたちが手紙書くって言い出してな。手紙って言ったら伝書鳩だろ?」

「なるほど、わからん」

「まったく、男のくせにロマンってもんがねーなぁ」

「悪かったな」

 

確かにこんな状況だからこそそういう遊び心も必要なのかもしれないな。

だったら手伝おうか…

と思ったけど、鳩捕まえんのに何人もいらないか。

なら、俺は手紙を書いてるであろう由紀たちの方へ行っとくか。

 

「じゃあ頑張れよ」

「おう、期待して待ってな」

 

 

 

 

「あっ、あーくん!」

「手紙書いてるんだって?なんか手伝えることあるか?」

「ならアキくんも一枚書いてくれる?たくさんの人が書いたほうがきっと気持ちも伝わるわ」

 

手紙、手紙ねぇ…

いきなり書けって言われても、どう書いていいもんか迷うな。

昔から、作文とかそういうタイプの課題は最後まで迷いに迷って書くタイプだったからなぁ…

ここは他の2人のを参考にさせてもらおうか。

 

「お前らはどんなん書いたんだ?」

「じゃじゃん!こんなの!」

「私はとりあえず座標と…あとは無事を伝えるメッセージね」

 

由紀のは可愛らしい絵を添えられた、自分たちの無事を直接的に伝えるメッセージ。

悠里の方は、見つければ救助に来やすいであろう自分たちの所在地を伝える、手紙というより要請文といったところか。

なるほど、二人共自分らしさを出したいい手紙だな。

そう考えると、自分らしさってなんだ?

…こんなところで誰もがぶつかるであろう悩みに直面するとは。

でも時間をかけるわけにはいかないしな。

 

ここは、俺が地下での生活を通して今まで得た知識を書いておこう。

いるのかは分からないが自分たち以外の生存者に少しでも役に立てば幸いだ。

まぁ居ないんだろうけどな。希望は捨てちゃいけないって由紀あたりに怒られそうだ。

大した分量にならないと見込んでたが、完成した手紙は思っていた以上の長文になってしまった。

 

 

 

 


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