貴女の笑顔のために   作:さぶだっしゅ

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試験とか色々あって遅れてしまい、申し訳有りませんでした…

今後もこのようなことがあるかもしれませんが、よろしくお願いします


けっこう

 

 

 

 

 

 

「さて、時間になったわけだけど準備はいい?」

「いつでも大丈夫よ」

 

昨日の打ち合わせどおり、学園生活部へは夜に向かう。

そしてその時が遂にやってきた。

とりあえずめぐねえには刺股を渡しておいた。

本人も防犯演習で使ったことがあるとの事だったので、使い方は大丈夫だろう。

めぐねえが事前に準備した荷物を持つと、俺も愛用のバールを握る。

 

作戦は簡単。

俺が前に出て殴りまくって、めぐねえがそのサポート。

本当にシンプルだ。

 

といっても、これ以外に選択肢が無かったのだが。

最初は教師としての責任か、めぐねえが前に出ると言っていたのだが「俺より弱いのに?」の一言で撃沈した。

悪気は無かったから許してくれ。

最終的には、「その方が効率が良い」とか「殿の方が重要」とか適当に言いくるめて納得してもらった。

まぁ嘘はいってないし問題無だろう。

 

さて、意気揚々と地下から上がってきたわけだが、どこか様子がおかしい。

昨日よりアイツらの数が明らかに増えているのだ。

理由が分からずしばらく2人で様子を見ていたが、何人かの服が濡れているのに気付いた。

恐らく、雨宿りか何かの為に校舎内へと侵入して来たのだろう。

 

日を改めて上に向かうことも一瞬考えたが、この梅雨の時期に晴れの日が来る保証が無い。

なら、いつ行っても変わらないだろうということで、作戦は決行するということになった。

初めは刺股の扱いに慣れなかっためぐねえだが、何回か交戦するうちにコツを掴んだようで、アイツらを自分たちから引き離すのが随分と上手くなっていた。

そうしてめぐねえが時間を稼いでいる間に俺がアイツらを倒していく。

初めてにしては、なかなか上出来なコンビネーションなんじゃないか?

 

そこまで速いペースでは無かったが、確実に学園生活部へと近づいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近雨が続いて身体が動かせないせいか、寝付けないことが多い。

そのまま眠くなるのを待っているっていうのも、時間を無駄にした気がして何となく嫌だった。

まぁ、時間なんていくらでもあるんだけどな。

普段だったら簡単な筋トレとかストレッチをするんだけど、今はあまり電気を使えないからシャワーも普段みたいに浴びれない。

流石に汗かいたまま寝るのは女として抵抗があったから、筋トレは見送った。

 

そんなわけで、やることなんていったら限られてくる訳で。

 

「はぁー、こんな恋してみてぇなあー」

 

りーさんに勧められた本を読んでみたが、これが中々面白い。

身分違いの2人が多くの困難を乗り越えていくラブストーリー。

ありきたりな設定だが、見せ方が上手くてつい読み込んでしまった。

読んでいるだけで胸が苦しくなるような、初恋の描写。

自分の初恋は、あんな風に終わりを迎えてしまったから、余計こういうものに憧れを感じてしまう。

今のこの状況じゃあ、無理なのは解ってるけど…

 

 

「んー」

「お?どした?」

「めぐねえはー?」

 

柄にもなく物思いに耽っていると、ゆきが入ってきた。

あぶねえな…

もう少し来るのが早かったら、あの独り言を聞かれてたわけだ。

ゆきならそこまで気にしないかもしれないけど、誰かに聞かれるってだけでも恥ずかしい。

りーさんにでも聞かれたら、しばらくはそれをネタにしてからかってくるかも知れない。

 

「職員室だろ?寝ぼけてんのか?」

「そっかー」

 

危うく声が裏返りそうになるが、何とか平静に返すことが出来た。

ゆきが寝起きで助かった…

つか、なんでこの時間に起きてきたんだ?

結構前には布団に入ってたはずだけどな。

 

「うー、トイレ…」

「おっけ、ちょっと待ってな」

 

今が昼なら1人で行かせるところだが、今は夜だ。

暗い中、一人で行動するのはリスクが大きすぎる。

夜間の行動は二人以上で、これは心得でも決められてることだ。

 

「別にいいよぉ。1人で行けるよー」

「そういう決まりなんだからしゃーねーだろ」

「ぶー、くるみちゃんは過保護だなぁ」

 

あたしだって過保護すぎるかなって思うこともあるさ。

でも、めぐねえが居なくなってゆきまで居なくなったら…って思うと、この程度の労力はどうってこと無い。

ゆきに文句言われても、こればっかりは譲れねーよ。

いつでもアイツらと対峙出来るようにサポーターやグローブを巻いていく。

後はシャベルも…と手をのばすと、音を立ててドアが開かれた。

ほーら、もう一人の過保護なのが来たぞ。

 

「学園生活部心得 第三条!」

「「夜間の行動は慎み、常に複数で連帯すべし」」

「はい、よくできました」

 

りーさんまで来たら、尚更1人で行かせる訳には行かねえよな。

もともと着いて行く気だったけど。

 

「りーさん、おはよ」

「ええ、おはよう。1人で夜間で歩くと顧問の責任問題になるらしいわよ?」

「へぇ、めぐねえも大変だ」

 

流石りーさんだ。

あたしの頭じゃ、そんないい感じの言い訳は出来ねーや。

めぐねえが絡んでればゆきも素直に言うこと聞くだろうし、もう大丈夫だろ。

 

「ほら、ゆき。漏らす前に行くぞ」

「も、漏らさないもん!」

 

 

 

夜の学校は好きかって聞かれると、はっきり言ってあんまり好きじゃない。

べ、別に幽霊とかが怖いってわけじゃない。

幽霊だって殴れれば倒せるだろうしな、多分…

 

じゃあ何で嫌いかって言われると、この静かすぎる感じがあんまり好みじゃない。

あたしが運動部ってのもあるのかもしれないけど、無音って言うのはどうしても慣れない。

だから、100mとかのスタートも実は苦手だったりするんだよなぁ。

走りだしちゃえば気にならなくなるんだけど。

 

それに加えて、今は雨。

嫌いなもんが重なって、正直さっさと帰りたかった。

さっさと雨止まねーかな…

 

お?

 

「く、くるみちゃん。誰か来るよ」

 

こんなところまで入り込んでたか…

明日、ちゃんと殲滅しとかねーとなぁ。

しかし、どうするか。

ゆきの目の前で大っぴらに戦うわけにもいかねーし、ここはスルーだな。

 

「どーせ不良だろ」

「どうするの?」

「静かにして、目を合わせんなよ。さっさと行くからな」

「う、うん」

 

 

向こうも夜目がそこまで効くわけでもねーし、トイレに入っちまえばとりあえずは大丈夫だろ。

奴がこちらを向いていないのを確認して、一気に中へと入る。

多分見られて無いよな…?

 

「ふー、流石に不良さんもトイレまでは入ってこないよね?あ、でも不良だから入ってくるのかな?」

 

トイレに入った事でゆきも安心感を取り戻したらしい。

奴らのことは不良って認識してるみたいだが、怖いもんは怖いみたいだ。

まぁ怖がらずに近づいてくよりマシだよな。

 

さて、トイレまで来れた訳だし、あたしはあたしの仕事をしますか。

 

「ゆきはここで待ってな。誰か呼んでくるから」

「え!?不良さんがいるから危ないよ!」

「へーきへーき、不良の一匹や二匹、どーってことねーよ」

「でも、いい不良さんかもしれないよ!?」

「いい不良ってなんだよ…」

 

ここまで喋れるなら問題ないか。

多分、めぐねえも付いてるんだろうし。

そもそも、奴らにあたしが遅れを取るわけ無い。

 

「じゃあ、ここから出るんじゃねーぞ。すぐ戻ってくるからな」

「う、うん…あれ?」

「ん?」

「ううん、なんでもない。本当に気をつけてね」

「心配すんなって!」

 

 

さて、邪魔になるだろうから髪を結っとくか。

一度ドアの前で深呼吸する。

大丈夫、あたしならやれる…

 

 

 

ドアを開けたあたしを迎えたのは、明らかに数を増した奴らだった。

何で…と考え始めたあたしの頭に、昼のゆきの言葉がリフレインする。

『運動部が雨宿りしてる…』

あの時は深く考えなかったけど、こうして実際に目の当たりにすると、その意味がよく分かった。

 

「くそっ、雨宿りってこのことかよ!」

 

確かによく考えれば雨宿りってのは室内でするもんだ。

でも、生きてた頃の記憶があるって言っても、そんなとこまで一緒にする必要ねーだろ!

ここに居るだけの数なら何とか処理できる。

でも、これ以上ってなると流石に厳しいぞ…

 

「ちっ!」

 

向こうの戦力は少なくとも10以上、こっちはあたし1人。

優劣は一瞬で分かる。

でも、ここで引くわけにはいかねーんだよ!

自分に何度も言い聞かせ、心を奮い立たせる。

あたしが負ければ他の2人はどうなる?

あの2人は奴らとの戦いに慣れていない。

なら、あたしがここで頑張らないといけねえよなぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おそいなぁ…」

 

くるみちゃんが行ってしまってから、もうかなり時間が過ぎた。

いや、時計が無いからちゃんとした時間は分かんないけど…

やっぱり、1人じゃなくてわたしも行くべきだったんじゃ…

うん、今からでも遅くないよね。

 

「丈槍由紀さん?」

「めぐねえ!」

「ダメでしょう?勝手に外に出ては」

 

う…そうだけど…

でも、くるみちゃんのこと心配だもん。

くるみちゃんが強いって言っても、女の子なんだよ?

不良さんと喧嘩したら、勝てるか分かんないよ…

 

「く、くるみちゃんが」

「恵飛須沢さん?なら、先生が見てくるわ」

「う、うん」

 

あうう、わたしも行ったほうが…

でも、くるみちゃんとはここから出ないって約束したし…

どうすれば良いんだろ…

 

こんなんじゃ、わたし…

 

「めぐねえ…わたし、みんなのお荷物になってないかな」

 

めぐねえはわたしのその言葉にびっくりした顔をしてた。

でも、直ぐにいつもの優しい顔になって、ギュッと抱きしめてくれた。

 

「そんなことはないわ。ゆきちゃんは頑張ってる。先生はよく知ってるもの」

「…うん」

 

そうだ。めぐねえと前に約束したじゃないか。

私が笑顔になって、そうすればみんなも笑ってくれるって。

 

「じゃあ、先生行ってくるわね」

「うん、いってらっしゃい」

 

いまわたしに出来るのは、くるみちゃんを笑ってお迎えすること。

それがわたしに出来ること。

 

くるみちゃん、待ってるからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁ…

ああ意気込んだは良いけど、状況は最悪だ。

どうやったって勝てる未来は見えない。

良くて引き分けだよな。

 

だけど、最後の一瞬まであたしは抵抗してみせる…

 

「あぁ?」

 

あたしの見間違いじゃなければ…

いや、これは現実だな

 

放送室のドアからりーさんが顔を出してる。

ここで助けを呼んだら…

いや、りーさんじゃ奴らと戦えない。

犠牲が増えちまうだけだ。

 

あたしだけじゃなくて、りーさんまで居なくなったらゆきはどうなる?

そんなの、ダメに決まってんだろ。

 

「りーさん、無理だ!来るんじゃねえ!」

 

「っ!」

 

あたしの意図を全部汲みとったのか分からないけど、頭のいいりーさんのことだ。

自分が出て行くのが下策だってことぐらい理解してんだろ。

 

あーあ、あたしはここでゲームオーバーか。

できれば、もう少し皆と…

いや、皆で脱出したかったんだけどなぁ…

そんなのは、結局夢物語だったか。

 

先輩、めぐねえ、いま行くからな…

 

「いいんだよな これで…」

 

じゃあな、みん…

 

「いやー、あんまり良くないんじゃないかな?」

 

「…はっ?」

 

聞こえるはずのない声に、一瞬幻聴かと思ってしまう。

しかし、そんな考えを打ち砕くように、目の前の彼が持っていたバールが振り抜かれた。

それだけで、あたしを囲んでいた数体の奴らは吹き飛ばされていった。

 

「第一生存者はエビちゃんかぁ。いや、めぐねえに会ってるから第二生存者か?」

「お前は状況分かってんのかよ!」

「そうだねー、まぁ悪いほうだよねー」

 

顔に返り血が付いているにも関わらず、笑顔で彼は―風間明は続けた。

 

「1人で辛くても、3人ならどうにかなんじゃない?」

 

「くるみちゃん!」

 

え?

彼の後ろから聞こえるのは、彼以外の人間の声。

聞き慣れた声だけど、りーさんの声でもない。

ゆきのものでもない。

 

その声は、二度と聞けないと思っていたもの。

 

「めぐねえ…」

「ごめんなさい、遅くなっちゃって」

 

そこには、あの日と変わらない姿の顧問の姿があった。

 

 

 

 




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