貴女の笑顔のために   作:さぶだっしゅ

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がっこう

 

 

 

 

 

 

最近、学校が好きだ

そう言うと変だって思われそう。

でも考えてもみてほしい

学校ってすごいよ!

 

物理実験室は変な機械がいっぱい

放送室 学校中がステージ

 

何でもあって、まるで一つの国みたい!

こんな変な建物。ほかにない

 

中でも私が好きなのは…

 

 

 

 

「やっほー、くるみちゃん!」

「おっす、ゆき」

 

今日は一番乗りじゃなかった…

途中で帰ろうとしちゃったから、余計に時間かかっちゃったのが悪かったのかなぁ。

めぐねえも、気付いてたならもっと早く言ってくれれば良かったのに。

 

「いやー、今日危なかったんだよ」

「はぁ?どしたのさ」

「部活忘れて、家にうっかり帰るところだった」

「危ねぇな!」

 

誰にでもうっかりってあるよねぇ。

でも、結局気付けたんだから結果オーライだよね!

 

学校から帰ってはいけない、というのは学園生活部のルールだ。

目的が学校で暮らすってことだから当たり前なんだけど、まだ忘れちゃいそうになる。

でも、学校は楽しいから何時までいても、つまらないなんて事は無い。

それに、学園生活部のみんなとは離れたくないしね。

 

「うん、めぐねえに言われなかったら、帰っちゃってたかも…」

「めぐねえさまさまだな。次からは気を付けろよ?」

「うん…あれ?くるみちゃん何食べてるの?」

「乾パン。由紀も食うか?」

「たべるー!」

 

乾パンは大好きだ。

なんだか、食べてると”さばいばる”の味がする気がする。

もちろん、りーさんの料理も大好きだけど、乾パンとか缶詰も大好きだ。

前に、社会の授業で先生が「戦争中は乾パンとかしか無かったんだぞ」って言ってたのに、ちょっとだけ良いなぁと思ってしまったぐらいだ。

あーくんに「不謹慎だ」って怒られたけど…

なにも、チョップしなくてもいいじゃん…

 

 

「あれ、りーさんは?」

「屋上で園芸部の手伝いしてるよ」

「私たちも行かない?」

「おう、いいぞ」

 

りーさんは偉いなぁ。

私なんて、部活のこと忘れかけてたのに…

まぁ、次から忘れなければいい話だよね!

 

…やっぱりくるみちゃんはシャベル持って行くんだね。

 

 

 

私は屋上も好きだ。

どこまでも広がってる空はとってもキレイだし、風にあたってお日様に当たっているとすごく気持ちいい。

それに、たくさんの野菜が植えてあって、土のいい匂いがする。

おじいちゃんの家に来たような感じがするから、土の匂いも好きだ。

 

 

「園芸部のみなさん、いつもお世話になってます!」

「いつもどうもねー。あとは任せていいかしら?」

「はい!学園生活部におまかせです!」

「うぃーす」

「くるみちゃん!もっとちゃんと挨拶しなきゃ!」

「へいへい」

 

あいさつは大事だって先生が言っていた。

私もそのとおりだと思う。

朝に元気よく挨拶すれば、その後の一日も気持ちいいもんね。

くるみちゃんみたいな挨拶じゃ気が抜けちゃうよ。

 

「あら、きてたの?」

「りーさん!」

 

りーさんは学園生活部の部長さんだ。

いつもニコニコしてて、すっごく頼りになる。

りーさんの作るご飯はすっごく美味しいんだ!

あーくんの料理も1回食べさせてもらったけど、りーさんの料理のほうが美味しかった。

 

「ゆきちゃん、いい子にしてた?」

「いい子って、子供じゃないんだから…」

 

子供扱いされるのはちょっと…

でも、撫でられるのは好きだ。

なんていうか、心がぽかぽかする。

 

「聞いてよりーさん、こいつさっき…」

「あっ、言っちゃダメ!」

「授業終わって帰りそうになったって」

 

あわわ…

りーさんに怒られる…

りーさんは普段はとっても優しいが、怒るとすっごく怖い。

めぐねえの10倍くらい怖い。

 

「ご、ごめんなさい…」

「もう…合宿なんだから、みんな揃ってないとね?はい、学園生活部心得第一条は?」

 

うっ…

第一条って難しくて言いにくいんだよね…

でも、今日は言える気がする!

 

「学園生活部とは、学園での合宿生活によって、授業だけでは触れられない学園の様々な部署に親しむとともに…えっと、じ、じしゅ?独立の… 」

「学校の設備借りまくって寝泊まりしようってな」

「もー、くるみちゃん。それ言っちゃおしまいだよ…」

 

うぅ…今日もちゃんと言えなかった…

 

「はいはい、じゃあ園芸部の手伝い終わらせましょ?」

「はーい」

「うぃー」

 

よし!ここで汚名…挽回?してみせるよ!

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

植物のお世話を始めたばっかの頃は、水を入れたバケツがとっても重かった。

フカフカの土は歩きにくくて、時々転んじゃった。

どの野菜が食べごろなのかなんて、全然分かんなかった。

 

でも、みんなで学園生活部をお手伝いをするようになってからはちょっとずつ慣れてきた。

今では、こぼさずにバケツの水を運べるようになったぐらいだ。

こうやってたくさん働くと、ご飯がおいしくなるんだよね…

あれ?

 

「おー、野球部が頑張ってる。おーい!」

 

あ、手を振り返してくれた!

でも、余所見して大丈夫なのかな?

 

「サボってんじゃねえぞー」

「ひぅっ!シャベルは酷いよ!」

「ふふん、峰打ちじゃ」

 

別に言葉だけでもいいじゃん!

今ので寿命がちょっと縮んだよ!

えっと…でぃーぶい?だよ!

こうなったら…

 

「こうだよっ!」

「うわっ」

 

私の必殺の水を喰らえ!

こっちの方が遠くまで届くもんね!

 

「このやろ…」

 

シャベルじゃ勝てないと分かったのか、くるみちゃんも水の入ったバケツを持ち出してきた。

ふふん、負けないよ!

 

「ふたりとも、お手伝いはー?」

 

お手伝いより、こっちのほうが大事なんだよ!

 

 

 

「うぅ…ずぶ濡れ…」

「私に勝とうなんて100年はえーぞ」

 

最初は勝ってたんだけどなぁ…

やっぱり、くるみちゃんの力は強いや。

あんなに遠くから水をかけられるなんて思わなかったよ。

 

「うぅー、りーさーん…くるみちゃんが酷いんだよぉ…」

「ちょっ、先にやってきたのお前だろ!」

「びしょ濡れね…風邪を引かないうちに着替えてきなさい?」

「はーい」

 

教室にあるジャージでいいかな?

もうすぐ夏だけど、夕方に吹く風はまだちょっぴり冷たい。

早く着替えないと、本当に風邪引いちゃうよ。

 

…あ、そうだ。

 

「ねぇ!」

「ん?」

「忘れ物?」

「あっ、そうじゃなくて」

 

みんなに帰りそうになったことは謝ったけど、私の気持ちは言ってなかった。

今言わないと忘れちゃいそうだ。

 

「えーとね、みんな好きだよ!」

「なんじゃそりゃ」

「ほら、合宿忘れて帰りそうになったけどね?みんなの事嫌いになったわけじゃないんだよ?」

「ふふっ…分かってるわ」

「それだけ!じゃーね!」

 

やっぱり、言いたいことが言えた後は気持ちいいなぁ。

ホントは全員に言いたかったけど、めぐねえはお仕事だし、あーくんは用事で家に帰っちゃうし…

 

でもよく考えたら、明日言えるよねっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆきはいっつも楽しそうだな…」

「でも、いいことじゃない?」

「そうだな…」

 

事故の直後の復興の際に、私がめぐねえに提案したのは部活だけではなかった。

ゆきちゃんと直接の面識はなかったが、かつてのクラスメイトであるアキ君を通して話を聞くことはあった。

彼曰く、言動は幼い所もあるが頭の回転は良い、何となく守ってやりたくなる素直な娘だそうだ。

実際に話を少しするだけで、彼が伝えたい内容をよく理解できた。

 

そんなゆきちゃんが塞ぎ込んでいるのを見るのは、妹がいる私にとって辛いものだった。

だから、必死に考えた。

そして思いついたのは、少しづつ日常を取り戻していく事だった。

授業や補講と称して日常を再現すれば、少しづつ元通りに…元気になってくのではないか。

 

結果的に、私の策は成功した。

いや、「成功しすぎた」というべきか。

ゆきちゃんは、くるみの言葉を借りるなら「元気になりすぎた」。

 

彼女の中では、あの日の事故など起きていない。

ただ、いつもどおりの日々を学校で過ごしているだけ。

めぐねえが居なくなることもない、誰も死ぬこともない、そんな優しい世界に生きている。

彼女のことを思えば、これは認めてはいけないことなのだろう。

現実を避け続けても、いつかは向き合わなくてはならない。

 

でも、今の彼女を否定することは出来なかった。

否定してしまえば、この日常は壊れる。

そうなった時、ゆきちゃんも、くるみも、私も、まともに過ごせるだろか?

答えはNOだ。

私には、この日常を壊す勇気がない。

 

横でグラウンドを見つめるくるみも、心の何処かでは何とかしなくてはいけないと感じているはずだ。

しかし、彼女も滅多にその思いを口にすることは無い。

たぶん私と同じなんだ。

 

臆病と言われるかもしれない。

卑怯だと罵られるかもしれない。

 

でも、弱い私はその感情を心の底に封じ込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 




(サブタイトルを鉛筆転がして決めてるとか言えない…)

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