アイドルマスターシンデレラガールズ 〜錬鉄のアイドル〜 作:YT-3
初レッスンから7日が経ち、今日で東京に来てから8日目だ。ついでに言えば、家事禁止令が出され、初レッスンが行われた日からはちょうど1週間。明日から家事復帰である。
今日までレッスンはあったが、しかしあれからメンバー全員が毎日顔を合わせていたわけではなかった。
「ふにゃぁあ〜〜、やっと終わったにゃぁ〜……」
「ふふふ、凄烈なる白き夜の、我が同胞バラキエルとの戯れを思い出す……」
「ミナミ、ランコの言ってるのどういう意味ですか?」
「えーと、そ、それはねぇ……
「すまん、私にも分からん」
今の私たちの仕事は、ランニングに始まり、トレーナーのもと各種器具で自らの身体を鍛えぬく……まあ、言って仕舞えば筋トレだ。初回のレッスンで言っていた通り、トップアイドルになる為には番組収録をこなしつつライブの練習などを行う体力も必須。プロデューサーやトレーナー達は、まずはそこを鍛えるつもりだろう。
しかし、いくら成長期とはいえ筋肉の超回復には時間がかかる。どこぞの正義の味方見習いのように無駄に
現在は隔日で体力トレーニングを行い、空いた日は自由出勤だ。まあ、私を含む地方組は転入試験に1日使ったが、それ以外はなんだかんだで8割方集まっていた
「ところで、イリヤちゃんは昨日なにしてたんですか?」
「昨日か? 昨日は知人に頼まれて秋葉原へ買い物に行っていたが……それがどうかしたか?」
「あ、ううん! 昨日来てなかったのイリヤちゃんと杏ちゃんだけだったから、気になって。杏ちゃんは家でゴロゴロしてたって言ってたけど……」
「……それは容易に想像できるな……」
トレーニングルームからプロジェクトルームに戻って来た今も「うーん、もう杏1週間分は動いたよー。だから1週間休んでいいよねー?」とか言ってるし。まあ、口ではぐうたらでもちゃんと来ている辺り、根まで腐っているわけではなさそうだが。
「あの……その買い物って……やっぱりCDとか、ですか?」
「ん?ああ、違う違う。その知人はイギリスに住んでいるんだが、日本のゲームが趣味でな。普段は通販で買っていたらしいんだが、それだと特典が付かないのが気に食わなかったらしい」
しかし……まったく、胸に大きくタイトルロゴの入ったXXLサイズTシャツなんていつ着るんだか、そもそも彼とはサイズも違うだろうに。
聞いたところによると、前作に強い思い入れがあるらしいが……そこまで詳しく聞いたこともなかったな、そう言えば。今度会った時にでも聞いてみるか。
「なるほど、だからその人の代わりにイリヤちゃんが買ってあげたんだね」
「地元に住んでた頃は店舗限定特典だとかは流石に断ってたが、こうして東京に出て来たわけだしな。休日にゲーム1つ
「ずいぶん国際的な
まぁな。大抵のものはネットで買えるこのご時世、わざわざ国際郵便を使う
「じゃあ前のお休みはなにしてたの〜?」
「前は……生活必需品を買いに回ってたな。調理道具と必要最低限の衣服は持って来ていたが、洗剤だとかは重いからな。元からこちらで買うつもりで——」
『
? 何を、そんなに驚いてるんだ?
「ちょ、ちょっと待つにゃ!イリヤちゃん、いま服は何着持ってるの!?ジャージ以外で!」
「む……制服はまだ来てないから、各シーズン毎にそれぞれ5〜7ぐらいか? まあ、それぐらいあれば——」
「ダメだにぃー!それじゃあ全然足んないよぉ〜!」
「しかしだな、
「イリヤちゃんだって花のJKでしょ!もっといろんな服着たいとか、お洒落したいとかないの!?」
ない。……と言えたらどんなに楽か。この雰囲気だと、そんなことを口にしたら着せ替え人形コース一直線だろう。
そもそも、
"イリヤ"として産まれなおした後は、自分で服を選ぶ必要すらなかった。たいてい母さんが選ぶかデザイナーに直接発注していたし、アインツベルンを飛び出した後を追ってきた
「話はお聞きしました!!」
「『!!??」』
こ、この声は……!?
「だ、誰にゃ!?」と叫ぶ前川を横目に、ゆっくりと背後を振り返る。
いま、この部屋にはプロジェクトメンバー全員が揃っている。プロデューサーとちひろさんは居ないが、どちらも声が違うし、こんな事はしないだろう。
そもそも、
「セラ!リズまで!?」
「はろはろー」
怒りの形相と感情の読み取り辛い無表情でそこに居たのは、
「どうせイリヤお嬢様のことだから家事ばかりにかまけ身嗜みは疎かにするだろうと踏んではいましたが、まさかここまでとは……もはやこのセラ、我慢なりません!今日からはアインツベルンの次期後継者候補として恥ずかしくないよう、徹底的にお教えさせていただきます!」
「待て待て、
「決まっているでしょう!メイドの居場所は常に主人と共に。私達はアインツベルンに雇われた身ですが、主人と仰ぐのはイリヤ様だけです!」
「私と一緒にって、まさかこっちで一緒に住むってこと!?」
「そうですとも!もう事情は本家へと連絡済み!ご当主様はアイドル活動には目を瞑るそうですが、護衛もいないまま狭苦しい寮での生活は許されないとのこと。ゆえに新たに土地を買い、東京でのお屋敷を建てることといたしました」
「屋敷?どうせ
「ふふ、日本の外務省は有能ですね」
「まさかの外交ルートーーっ!?」
背の方で「あ、あのイリヤちゃんが手玉に取られてるにゃ……」「イリヤちゃんが女の子口調になってるの、初めて聞いたかも」「っていうかあの人たち、メイドって……」とかなんとか言ってるのが聞こえるが、今そんな事はどうでもいい!
「プロデューサー!これどういう状況か知ってるんでしょ!?なんで二人がいるの!?」
「いえ、下の受付でイリヤさんのメイドと名乗っていたので、イリヤさんのお母様に確認した上でお連れしたのですが……」
「ふふふ、無駄ですよ!もう既に四方へ手は回し終わってます!恨むのなら自分へと目が向かないイリヤ様ご自身の性格を恨むことですね!」
「ん、がんば」
「な、な、ななな……」
ふっ、と勝ち誇った笑みを浮かべるセラ。その隣で無表情のままグッと拳を握るリズ。困った顔のプロデューサーに後ろでざわつくメンバー。
完全に予想外の展開に、頭がパンクしかけていた私が出来たのは一つだけだった。
「なんでさーーーーっ!!??」
今日の蘭子語辞典
「ふふふ、凄烈なる白き夜の、我が同胞バラキエルとの戯れを思い出す……」
→「静電気で痺れたみたいに手足が動かないよ〜」
* * *
セラ&リズ来襲。
イリヤが女の子口調になった理由は次回で明らかに!