クリスマス。
街はイルミネーションで彩られ、今日という日を各々それぞれの形で世間の人達は祝い楽しんでいる日。
それは簪と俺とて例外ではなかった。
「メリークリスマス」
同じくそう言葉を交わし、グラスを軽く持ち上げ乾杯する。
一般的なクリスマスの賑やかさとは打って変わって、簪と家でささやかなクリスマスを静かに過す。
テーブルの上には簪と一緒に用意した料理の数々が並んでいる。
「ん、美味しい」
俺が作った料理を一口食べ簪は頬を綻ばせる。
味見はしていたがそれを見て安心した。美味くできているようだ。
俺も簪の作った料理を食べた。いつも通り。いや、今日のクリスマス用に作ってくれた気合の入った料理だからいつも以上に美味しい。何度も箸が進む。
「ふふっ、よかった」
また簪は嬉しそうに頬を綻ばす。
簪と迎えるもう何度目かになる静かなクリスマス。毎年こうというわけではない。
去年は一夏や本音、虚さんや弾、楯無さんなどという身内メンツで賑やかにパーティーをした。
ただ成人して大人になるとそれぞれの生活というものが出来、中々都合のつけ難くなるのという現実問題もある。
2、3年に一度はイヴも含めてこういう過し方をすることも増えてきた。それがたまたま今年というだけの話。
ただ――。
「IS学園に通ってた頃のクリスマスが懐かしい?」
思っていたことを言われてしまった。
懐かしいな。あの頃は寮生活ということもあって毎年毎年本当に馬鹿騒ぎしていた。
何より、学園生活は俺達にとってかけがえのない今も輝く眩しき日々。
簪とのこのクリスマスをないがしろにするつもりもなければ、クリスマスなのに感傷に浸るように思い出すのはよくないとは分かっているが、つい懐かしんでしまう。
そんな思いを察してか、簪き微笑みながら言ってくれた。
「ふふ、そうだね。学園生時代みたいに馬鹿騒ぎするのも楽しかった。ああいうのも好きだな」
意外な言葉が簪から出た。
「何で驚くの。私だって楽しいのは好き。ただやっぱり静かにあなたと過すほうが好き。だって……」
だって?
「だって、こうしてあなたを独り占めできるから。とても嬉しい」
頬を赤く染めながらも簪の真っ直ぐな瞳は俺から離れない。
熱い視線。
そしてあまりにもストレートな言葉と想いに気恥ずかしさを覚え俺はたまらず降参した。
「反らした。私の勝ち。ふふっ」
したり顔の簪。
何故勝ち負けの話になってるのかは疑問だが、簪の勝ちだ。敵わない。
勝った簪には勝利品を上げなければならないか。
「……?」
きょとんとする簪に俺はクリスマスプレゼントを差し出した。
「クリスマスプレゼントっ……あ、開けていい……?」
頷いて答えると簪は包みを解いていく。
「あっ、スマホケースっ……!」
今年のクリスマスプレゼントは手帳型のスマホカバー。
毎年渡してるからプレゼント選びは難しかったが今簪が使っているのは古くなっているから丁度いいと思って選んだ。
「ありがとう……大切に使うね」
喜んでくれているようで幸いだ。
「じゃあ次は私」
簪はプレゼントが入ったと思わしき紙袋を手渡してくれた。
サイズは小さめだ。
何が入っているんだろうか。楽しみだ。
「開けていいよ。その間に私、ちょっと用意してくる」
用意?
「内緒。楽しみにしてて」
そうとだけ言い残すと簪は部屋を後にした。
行くとしたら自分の部屋だろうから、何か取りにいったのだろうか。
とりあえずプレゼントを開けながら待つことにした。
中に入っていたのはオシャレながらも落ちついた感じのハンカチだった。
普段使いできるし嬉しい。
そうして待つこと数分ほど経った時。
「お、お待たせ」
何故か遠慮気味の声と共に簪が戻ってきた。
何をしていたのかと振り向いてみれば、言葉を失う光景が広がっていた。
それは一体。
「どう、かな」
恥じらいながら聞いてくる簪の姿は先ほどの私服とは変って所謂サンタコスチュームを身にまとっていた。頭にサンタ帽子のオマケ付き。
いろいろ聞きたいことはあるがまずは感想だ。
正直こんなこと予想してなかったが、実際にこうして見ると嬉しい。何度も見ても可愛い。
「ありがとう……はぁ、よかった」
そう言って安心した様子の簪は隣へと腰を下ろした。
しかし、どうしてまたそんな格好を。
クスリマスだからというのは聞かなくても分かるけども、よくサンタコスチューム用意してあったな。
買いに行った気配はなかったし、そうだとしても……。
「覚えてない? ほら、昔……」
と言われて思い当たるのは学生時代。それもIS学園時代のクリスマスパーティー。
そうか。そのコスチュームはあの頃のものか。確かに着ていた。
「部屋のタンス整理してたら出てきて……折角のクリスマスだから」
なるほど、それで着たのか。
あの時のものだと分かれば、気になっていたことにも納得がいく。
道理で羽織っているフード付きケープ。その下に着ているワンピースの丈が短いはずだ。
昔の服を無理した様子なく難なく着れているのは流石だが、丈の長さはどうしようもないらしく座るとどうしても上に上がってくるらしい。
裾先が心持たないのか簪はスカートの裾を精一杯伸ばしているのが、それがかえって欲情的な様を作っていた。
「いやらしい目してる……すけべ」
すかさずツッコまれてしまった。
仕方ないだろ。隣でそんなことされてたら。
それはいいとして改めて簪にはお礼を伝えた。いろいろいな意味でいいもの見せてもらった。
「何それ。それにいいよ、お礼なんて。その……クリスマスプレゼント、なんだから」
もうハンカチ貰ったけども。
でなければ、サンタコスチュームを見せてくれたことがだろうか。
「そうじゃなくて……私がもう一つのクリスマスプレゼント……」
自分の体を差し出すように簪は両手を広げている。
当然その頬は赤く染まっている。
ここまで言われてわからないわけがない。
本当に可愛いな、簪は。今日は輪をかけて可愛い。
「ちょ、そんな微笑ましそうな顔しないでよ……余計恥ずかしくなる……ん、ほら、受け取ってくれないの……?」
受け取らないわけない。
抱き寄せ、抱きしめあう。
今年もまた簪とこうしてクリスマスが過せて幸せ者だ。来年もその次も変らず過そう。
互いのぬくもりを感じながら簪と俺は誓いの言葉のようにある言葉を交し合った。
「メリークリスマスっ」
…
簪のクリスマス衣装イラスト、ありがとうアキブレ。
本当にありがとう。
今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません
それでは