スマホの画面に映るカレンダー。
そこにある『彼の誕生日』と書き込まれた日を見て私は、自室のベットに寝転びながら悩む。
「う~ん……」
悩みすぎて、そんな言葉がつい口からこぼれてしまう。
考え事はもうじきやってくる彼の誕生日。その日どうやってお祝いするのか、どんなプレゼントをするのかについて。
私一人では考えつかず、ネットで参考になりそうなのを調べまわってはいるけど、中々これだと思えるようなものは見つからない。
「う~ん……」
「かんちゃん、またそれ。いつまで悩んでるの~」
気の抜けた本音の声が隣から聞こえてくる。
見かねて声をかけてくれたんだろうけど、本音の声を聞いていたら何だか気が抜けた。
「だって、中々決まらなくて……」
「それもさっき聞いた。ここ最近、ずっと悩んでるじゃん。難しく考え過ぎじゃないの~?」
「……うっ、それは……そうかも、しれない……」
言われて、私は自分がそうなのだと自覚する。
難しく考えすぎなんだろうけど、だからって簡単に考えることは出来ない。
そもそも簡単にってどうやって考えるんだろう?
簡単に考えて手抜きみたいなことになったら嫌だし、そう思うとまた唸り声が出てしまう。
「う~ん」
「本当、飽きないね~かんちゃん。去年の誕生日はそんなことなかったじゃん」
「去年は付き合って初めての誕生日だったから私からデート誘ったけど……今年も同じなのはなぁっと思って」
デート自体、ついこの間したばかり。
誕生日の日にまたデートすると被りに被ってしまう。
それと誕生日の日が平日なのがちょっとだけネックに感じている。デートするには時間ない。それはまあ別に日にすればいい話。去年はそうしていた。
後、誕生日の夜は夜で寮で彼の誕生日会するみたいだし、どうしたらいいか。
だけどやっぱり、折角の誕生日。デートみたいな特別なことをしてあげたいから答えもなく悩む。
「プレゼントもまだ決まってない……」
「わぁ~それは相当だね~まあ、何プレゼントしても喜んでくれるから難しいよね」
「うん……」
喜んでくれるのはもちろん嬉しい。
プレゼントしても喜んでもらえないのは辛いし、悲しい。
でも、もっと喜んでほしいと思ってこれでもかと悩む。贅沢過ぎる悩みなのは分かっているけども。
「もうダメ。休憩……」
そう言って私はスマホを枕の脇に置き、ベットへと体を仰向けで預ける
彼の誕生日に向けてあれこれ悩むのは何だかんだ楽しい。
だけど、流石に頭が疲れた。決まるどころか、何一つ思い浮かぶどころか決まってないけど、このまま考え続けても変らない。
いい案を考える為にもここは一度休憩をして頭を休めたら、きっと思いつくはず。
まだ誕生日までは数日あるし、焦ることはない。大丈夫。
「かんちゃん、お連れ様だね~」
「ん……」
私の気遣ってくれる本音のゆるい声がやけに心地いい。
本音はのほほんとしてこんな時だけ羨ましく思う。
私、やっぱり難しく考えすぎなのか……でも、もう癖みたいなところがあるし、そう簡単には考えられない。
そう言えば、本音はどうするんだろう。
「ねぇ、本音」
「どったの~?」
「本音は誕生日どうするの? 彼に渡すんだよね」
「渡すよ~いつも
「なるほど……」
考えていないようで本音はちゃんと考えていた。不甲斐無いな、私。
やっぱり、普段使いできるモノの方がいいか……。
去年はアクセサリーをプレゼントしてみたけど、今思えばちょっとダメなプレゼントだったかもしれない。もちろん、喜んでくれていたしデートの時にはよく身に付けてくれているけど、寮生活だから頻度的にはつける低い。
普段から使えそうなもの。
ふと彼の姿や使っているものを思い浮かべる。
そう言えば、スマホのカバーが大分痛んでいたような。となると、スマホカバーかな。
「誕生日プレゼントにスマホカバーってどう……?」
「いいんじゃないの~。気持ちの問題だよ、結局のところはね~。まあ、そんなに気になるんならいっそ裸になってリボン巻いて私を好きにしてって……」
「本音、それ下品。嫌、それは……でもじゃあ、スマホカバーにしようかな……レゾナンス行くの一緒に行ってもいい……?」
「もちろんだよ~」
さっきまであんなに悩んでも思いつかなかったのは一体なんだったんだろう。
当たり前のことだけど、いくら誕生日プレゼントでも簡単に使えないものを貰っても困るだけ。大切なのは気持ちだ。私をそこを見落としていた。
ああでもプレゼントとは別にもう少しだけ何かしてあげたい。
何がいいかな。そんなことをつらつら考えていると私はいつしか眠ってしまっていた。
・
・
・
誕生日の前日。
学校の放課後、私は本音と二人でレゾナンスに買い物に来ていた。
目的は言わずもがな。彼の誕生日プレゼントを買う為だ。
プレゼントに予定していたものは私も本音も既に買い終えた。本音が入浴剤セットで私がスマホカバー。
買ったスマホカバーは黒色をしたシンプルなデザインの手帳タイプの奴。きっと気に入ってくれるはず。
そして最後。私はとあるお店へとやってきた。
「食品売り場? ん? 何買うの? 作るの?」
「ちょっとね……」
やってきたのはレゾナンス一階にある食品売り場。
時間が時間なだけに人数は多い。おそらく、今ここにいる人達のほとんどが夕食の買い物なんだろう。
「もしかしてケーキ?」
「ううん、違う。本当はケーキも作りたかったんだけど今年も食堂の人達が夕食と一緒に出してくれるみたいだからやめた。代わりに明日の昼ご飯作ろうと思って」
「ああ~なるほど~! お弁当か~。だから、あんなの買ってたんだ。考えたね、かんちゃん」
「うん。お昼のお弁当なら被らないし、久しぶりにいいかなって」
我ながらいい考えだと自負している。
普段は学食か購買でお昼済ませてしまうけど、久しぶりに腕を振舞いたい。
何より、誕生日の明日ならちょっとしたサプライズになると思う。
これはそのための買い物。
使用許可を前もって取った調理室に具材はあるにはあったけど、本当に簡単なものだけ。
今回はちょっと手の凝ったものを作りたいから、買いに来た。
カートにカゴを乗せて、食品売り場を見て回る。
「メニューは決まってるの~?」
「もちろん」
そう言って私は、スマホで用意したメモを確認する。
作るのはもちろん彼の好物。ステーキとかからあげとかお肉ものばかり。
「いいな~私も明日
「いいんじゃないの。帰ってすぐに使用許可取ればまだ間に合う。きっと織斑も喜ぶはず。でも、明日の朝、私は本当に早起きしないといけないから自分で起きてね」
「うぅ~が、頑張るよ~」
そんな話をしながら私達は買い物をしていく。
途中で本音も簡単にだけど、お弁当のメニューを考えていた。
「本当、いろいろあるね~。悩んじゃう」
「うん」
流石はレゾナンスというべきか。普段食品売り場なんて滅多に来ないけど、ここの品揃えが凄くいいのが一目でわかる。
メニューはちゃんと決めたのに、よさそうな食品を見ると別の一品が思い浮かんでは本音と揃って、あれやこれやと目移りしてしまっている。
「う~ん、どっちがいいんだろう」
今見ているお肉一つにしてもそう。
高めのにするか、手ごろな値段のにするのか迷っている。
高ければいいって訳じゃない事は分かっているけど、手ごろなのだと何か今一つ。
折角の誕生日なのだから、やっぱりいいものを使って作ってあげたい。
だけど、予算というものを決めていて、この高いお肉を買うと少しオーバーてしまう。お金は余裕あるけど、予算はきっちり守りたい。
そうした考えもあって、私は頭を悩ませていた。
「どうしよう……うーん」
「ふふっ」
悩んでいると隣の本音が楽しげに笑っていた。
「何がそんなにおかしいの」
「いや、世の中本当に分からないことだらけだなあって。まさかこんな風に一緒にお買い物するのとかお肉で悩むかんちゃん見れるなんて思ってもいなかったからさ」
それはそうかも。
自分でもこんな風に食品売り場で悩むなんて昔の私を思えばありえなかったに違いない。
本当世の中分からないことだらけだ。
こうなれたのもきっと――。
「って、無駄話してる場合じゃない。奮発して、やっぱりこっちの高い奴にする。本音もそんなこと考えてる暇あるなら早く買い物済ませて」
「分かってるよ~」
・
・
・
そして誕生日当日。
「エプロンよし……準備、よし」
エプロンを着て、髪を手でまとめ、咥えていたヘアゴムでまとめると私は意気込んだ。
食材や道具も用意し終え、準備万端だ。
早朝。予定通り、今から私は寮の調理室でお弁当を作っていく。
「頑張ろうっ、うんっ」
「かんちゃん、張りきってるね~。ふぁ~眠いー」
「本音……」
私は思わず飽きれた声が出た。
隣では昨日話していたように本音が織斑への弁当を同じ様に作ろうとしている。
「しゃきっとしないと怪我するよ」
「うん~……」
本音は眠そうにして生返事を返してきた。
さっきから欠伸しっぱなしだけど、大丈夫なんだろうか。
昨日寝る前に散々言い聞かせから、本音は自分で起きたけど、そのせいで眠くて仕方ないんだろう。
まだ朝6時にすらなってなくて、私も正直まだほんの少しだけ眠気がある。
だけど、隣で怪我なんかされたら堪ったものじゃない。
「怪我だけはしないでね、本当に……面倒だから」
「は~い」
分かっているのか分かってないのか曖昧な生返事を返される。
言うことは言った。後のことはもう知らない。
今は自分のことに集中しなきゃ。私はようやく、お弁当の料理を作り始めた。
そしてお弁当の品が完成したのは、それから約1時間ほどくらい経った頃だった。
「よしっ……完璧」
お弁当に作ったおかずを綺麗に詰める事ができ私は一人その様子に満足する。
片付け抜きで一時間近くかけてしまったのは時間のかけすぎだと思うけど、そのかいあって見た目も味も納得のいくものが出来た。
二人分。量的にもたくさん詰めたから、よく食べる彼も満足してくれるに違いない。
後は二段弁当の下の段、白ご飯を詰めて、私はそこに最後の一工夫を加える。
「お~! かんちゃんがやりたかったのってこれか~」
ひょこっと隣から顔を出して本音が私の弁当を覗き込む
どうやら本音は既にお弁当を作り終え、片づけまで終らせているみたいだ。
普段とろいのに相変わらず要領はいい。
「流石かんちゃん! 器用~凄いね! これならきっと喜んでくれるはずだよ~!」
「そ、そう……? ありがとう、本音」
本音に褒めてもらうと俄然自信が沸いてきた。
これならきっと喜んでもらえるはず。
早く彼の喜ぶ顔がみたいな。
…
今日5月10日が誕生日なので簪に誕生日祝ってほしくてかきました。
当日のお話は今日の20時に投稿します。よろしくおねがいします
今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません
あなたの誕生日は読んでくださっているあなたの誕生日です。誕生日おめでとうございます
それでは