簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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だらだらっと簪

 誰にでも、たまになんだか何もやる気がでない気分の日があると思う。

 俺だって、例外ではない。今日凄く何もやる気が出ない。そんな気分の日。

 別に病気というわけではない。疲れているわけでもないし、元気だ。早朝のトレーニングもいつも通りちゃんとした。

 だがしかし、朝食を食べた後からどうもやる気が起きない。だから今、何をするわけでもなく一人部屋のベットでゴロゴロしてしまっている。

 幸いこうしていてもまだ今日の予定は特に決めてないから、こうやっていても許される。

 勉強や訓練とかやったほうがいいことは相変わらずたくさんあるが、やらないといけないことはないから、今日はもうこのままだらだらしていたい。そんな気分。

 

 ベットで寝転んでいても眠くないから何となくスマホを見ていると、簪からメッセージが届いた。

 

《今日どうする? アリーナ使うなら私の方で一緒に申請するけど》

 

 どうやら簪は今日アリーナで訓練するみたいだ。

 誘いは嬉しいが断った。

 やはり、どうにもそういう気分になれない。やる気が出ない。

 

《体調悪いの?》

 

 当然の心配。

 相変わらず、やる気が出ないの以外元気だ。今一つ身が入らない。

 

《分かった。じゃあ、今からそっちの部屋行く》

 

 そうメッセージが来てやりとりは終った。

 今から簪が部屋に来る。別に嫌じゃないが、何だかなあ。

 それでも簪が来るのなら、しゃきっとしなければ。そうは思いはするが思うだけで、動く気になれない。何かめんどくなさいなぁっと。今日は本格的にダメみたいだ。五月病って訳じゃないんだがな。

 

 部屋に誰かが入ってくるのが分かった。簪だ。

 

「お邪魔します……疲れてるの?」

 

 気遣ってくれているが、同時に俺のこの様子を見て少し驚いていることも分かった。

 だらだらした姿を見せること自体は別に初めてのことではない。

 だが、こんな風に朝からだらだらしている姿を見せるのは久しぶりだ。それでだろう。

 元気は元気。やる気は出ないが。

 

「ふーん……そう。珍しいね」

 

 そう言って、簪はベットの脇に腰を降ろした。

 

「でもまあ、たまにはそういう気分の日もあるよね。頑張りすぎなあなたには丁度いいのかも」

 

 そんなつもりはないのだが、まあ今みたいに休むのに今日が丁度いいのは確かだ。

 忙しい日々は変らないから。

 ところで、簪は今から訓練なのだろうか。おそらく後輩達か一夏辺りとやるのかもしれない。

 

「ううん、まだ誰とやるかは決めてない。アリーナとかまだ借りてないし」

 

 そうなんだ。

 相手の問題なら俺でも引き受けられる。

 散々やる気ないだの言っていたが、それは今俺が本当に何もしてないからだ。

 とりあえず訓練の一つでも始めれば、おのずと気分も乗ってやる気も沸くだろう。

 

「いいって。あなたは今日ゆっくりしてるの……めっ、だよ」

 

 ちょっとドキッとした。

 叱られてるのにそういう可愛い言い方されると嬉しくなってしまうのはきっと男の性なのだろう。

 もう一回言ってほしい。

 

「は? 何言ってるの……?」

 

 低いトーン。今度はわりかし本気で叱られた。しょんぼりだ。

 

 まあ、簪は子供ではない。心配しすぎというか気の使いすぎか。

 相手が必要なら自分で見つけるだろうし、好きにもする。

 本当に相手がいなくて頼まれた時はやる気出すぐらいでいいか。今日は。

 

「今日本当にどうしよう……う~ん」

 

 今になって悩みだす簪。

 てっきり何かしら訓練するものだと思っていた。違うのか。

 

「そのつもりだったんだけど……何かあなたを見てるとやる気が、ね」

 

 そんなこと言われてもと思うのと同時にそれは申し訳ないことをしたとも思った。

 だらだらしてる人見るとやる気なくなるってのはなくはない話だ。

 それでも言われたところで俺にはどうしようもない。やる気を出す出さないは本人次第だ。

 

「それは分かってる……でも、どうしよう」

 

 まだ簪は迷っている。

 迷うぐらいなら、いっそ簪も今日丸々一日休みにしたらいいんじゃないか。

 簪の日々も相変わらず忙しい。だからこそ、簪の方が休むべきだ。

 

「んー……それもそうだね……やらなきゃいけないこともないしそうしよっかな」

 

 気持ちは決まったようだ。

 じゃあ、もう俺がとやかく言うことはない。

 部屋に戻って好きなことするだろう。何かあれば連絡してくれればいいし。

 そう思っていたが。

 

「よいしょっと……お邪魔します」

 

 部屋に戻ると思っていた簪がベットに上がってきた。

 

「もうちょっとそっち寄って」

 

 ベットの真ん中を陣取っていた俺は端へと追いやられる。

 せまい。何で入ってくるんだ。

 

「ここで今日はゆっくりしようと思って……私がいるの嫌なの……?」

 

 そんな訳ない。酷いことを聞くもんだ。

 いつもみたいに構ってあげることはできないが、それでもいいなら好きにしたらいい。

 

「元々そのつもり……好きにする」

 

 それを聞いて俺は寝返りをうち、電子書籍で適当な物語を読み始める。

 すると簪もスマホでも弄りだしたんだろう。隣で寝返りをうって向こうを向くのが分かった。

 そして、簪が背中に自分の背中をくっつけてきた。これはどういう意味があってものなんだ。

 

「別に……まあ、お構いなく」

 

 お構いなくって……。

 妙に落ち着かないがまあいいか。

 読むのに夢中になり始めると思ってたよりも気になることはなく。むしろ、安心して読書に没頭できた。

 

 大体1時間ぐらい経っただろうか。単子本クラスの話丸々一冊読みきることが出来た。

 おもしろかった。だが、夢中になりすぎて硬くなった目と肩を肩を解きほぐす。

 体を伸ばしたりしていると、背中のことに気づいた。また何やってるんだ。

 

「ん、何もしてないけど……」

 

 とぼけたように言う簪。

 そうは言うが、向こうを向いて背中合わせだった簪は気づくと背中の方を向き、俺の背中に指を這わせて絶賛遊んでいる。

 どんな言葉を書いているかまでは分からなかったが、何か文字を書いていることだけは分かった。

 くすぐったくて仕方ない限りだが、本当何やってるんだ。暇だからなんだろうけども、簪も本でも詠んでいればいいのに。

 

「最初は本、適当に読んでたよ。途中で飽きたけど……あなたの背中でこうしてたらこっちの方が楽しくなってきちゃって」

 

 それでやっていたと。

 この様子だとかなり前からやっていたんだろ。

 読書に夢中になっていたとはいえ、俺はよく今まで気づかなかったものだ。

 

「あ、ダメ。まだそのままでいて」

 

 簪のほうを向こうとしたら、止められた。

 そして相変わらず、背中には何か書いている。

 

「当ててみて」

 

 また凄いふりを。

 何だかこういうのバカップルっぽくて何と言ったらいいのか。

 

「何恥ずかしがっているの。というか今更でしょ、それ……ほら、早く」

 

 最近の開き直った簪には強さを感じる。

 恥ずかしがる様子もなく簪はまたさっきと同じ言葉と思わしき言葉を背中に書く。

 女の簪がある意味堂々としていて、男の自分が恥ずかしがっていては立つ瀬がない。

 これはおそらく『好きだよ』あたりだろうか。

 

「ん~? 内緒」

 

 はぐらかした簪はぎゅっと背中から抱きついてくる。

 言わせたかっただけじゃないのか。そう思わなくはないが、それは呑み込んでおいた。

 まあ、簪が楽しいならそれで。

 

「うん。楽しいよ、とっても」

 

 なら、よかった。

 この後はじゃれあったり、最近ハマっているスマホのカードバトルで対戦したりして過した。

 

 

 

 

「いただきます」

 

 簪と一緒になって手を合わせながらそう言うと早速昼飯であるカップ麺を食べていく。

 

 昼飯時。簪も俺もお腹が空いたが、俺が食堂に行くのをめんどくさがった為、簪のリクエストで部屋に買い置きしてあるカップ麺を今日の昼ごはんにすることにした。

 かやく、具材を入れて湯を入れるだけのこんな簡単な手間なのにいつ食べても美味い。

 

「ね。初めて食べた時はこんな簡単で美味しいものあるんだってビックリした」

 

 そう言えば、簪は付き合うまで存在は知っていたがカップ麺食べたことなかったんだったけか。

 初めて食べさせた時は凄い驚きながら喜んでいた。意外だったなあ。

 

「意外って……それはどういう意味よ」

 

 こう……簪は夜な夜なカップラーメン食べながらアニメ見てそうなイメージがあった。

 

「何、それ。不健康って言われてるみたいで嫌……まあ、実際不健康な生活送ってたこともあるけど……」

 

 不貞腐れながらも簪は麺を啜りながら部屋のモニターで今期のアニメを見ていた。

 それは俺もだがカップ麺、本当に美味い。無限に食ってられる。

 

「美味しいのは分かるけど、食べ過ぎはダメ。あなた放っておくと毎日食べてそう……こういうところだらしないよね。私がしっかりしないと」

 

 簪が面倒見てくれるってことなのか、それは。嬉しい限りだ。

 

「あ、当たり前でしょう」

 

 言って簪は照れ隠すようにカップ麺を忙しなく食べていた。 

 

「ね、そっちの貰ってもいい? 私のあげるから。と言っても、もうちょっとしかないから全部食べちゃって」

 

 分かったと頷き、俺達は自分の相手のカップ麺を交換して食べあう。

 ちなみに簪が食べているのは某メーカーのカップヌードルシーフード味で、俺が食べているわかめラーメン。

 

「このメーカーのラーメン……わかめ本当多い」

 

 それがこのカップ麺の売りみたいなものだ。

 ぶっちゃけ、主役はラーメンじゃなくわかめみたいなところがある。

 だが、そんなところも好きな理由の一つだ。あとスープが美味い。ゴマ入りのしょうゆ味。

 

「だね……ちょっと濃いけど美味しい」

 

 簪はカップの端に口をつけ、スープを静かに啜る。

 何でもない普通の光景なのに、絵になってる。凄い魅力を感じた。

 こういうの何かいいな。

 

「何……ジロジロ見て」

 

 見すぎたようで俺をいぶかしむ簪に適当な返事をして、俺も簪からもらったラーメンを食べる。

 シーフードも美味い。定番なだけはある。

 しかし何だ。こうやってカップ麺食べてると腹は満たされるが、ラーメン屋でちゃんとしたラーメン食べたくなってくる。

 

「じゃあ、今度のお休みに行く……?」

 

 今度と言われて、頭の中でスケジュールが巡る。

 再来週の休み。機体関係のことで倉持技研に出頭するから、その時が丁度いいかもしれない。

 ちょっとしたラーメン屋デートだ。

 

「ん、楽しみ……その時はちょっとさっぱりしたラーメンがいいな」

 

 なら、探して行ってみるか。

 そんな次のデートの予定を立てながら二人の昼を過していく。

 

 

 

 

 「暇」

 

 ふいに簪がそんなことをぼそっと言った。

 食後も相変わらず、俺達はベットで一緒になってだらだらしている。

 確かに暇だ。まあもっとも暇というのなら何かすればいいだけの話だが、言うだけで結局何もしない。

 こうやってゴロゴロしてるのが一番楽で、何だかんだこうしているのが病みつきになっている。

 

「ん? もう急にどうしたの……?」

 

 何となく背中を向けて寝転がる簪を抱き寄せた。

 そしてまた何となく、服の上から簪のお腹を撫でる様に触れた。

 

「ちょっ……!?」

 

 抱きしめているおかげで簪が驚いているのがよく分かる。

 簪のお腹柔らかいな。こうして触っていると癒される。

 

「やっ……ヤだぁっ。何でお腹触るのっ」

 

 やっぱりそれは触りたいからに他ならない。

 触っていると凄く安心感が湧く。

 しかし、簪は嫌がってる。気持ちは分からなくはないが、減るようなものじゃないだろうし別に触ってもいいんじゃないか。

 

「そういう問題じゃない……遠まわしに痩せろって言われてるみたいで嫌」

 

 言ってない言ってない。思ってすらない。

 というか、簪は平均よりも充分痩せている。むしろ、ちゃんと考えて体を鍛えているから、綺麗な体型だ。俺は好きだ。

 

「ま、またそういうこと言うっ……」

 

 背中から抱きしめている為、表情を確認することは出来ないが、満更でもなさそうにしていることは見なくてもはっきりと分かる。どうやら許されたみたいだ。

 じゃあ甘えさせてもらってとお腹を触る。

 ぷにゅっと軽くつまんでみたり、時にはツンツンと指でつついてみたりしながら。

 

「やぁ、んっ……ふふっ、くすぐったい。というか、つまむのだけはやめて」

 

 ご無体な。思わず、抗議の声をあげてしまった。

 このぷにぷに感が気持ちよくてたまらなくいいのに。

 

「ぷにぷに……その言葉は嫌なのに、こんな風に甘えてもらえたら何もいえないよ。……複雑」

 

 悩む簪が面白くてくすくす笑ってしまう

 口ではそう言っていたが簪は振りほどいたり、暴れたりはしない。

 大人しく抱きしめられ、されるがまま。

ここまで好きにさせてもらっているのなら、服の上からではなく直に触りたくなってきた。

 

「ええっ!? 変態すぎ」

 

 そこを何とかお願いしたい。

 この際プライドとかかなぐり捨てて拝み倒す勢いだ。

 

「うぅ~……し、仕方ないなぁ……特別、だからね」

 

 していないが、思わずガッツポーズをしてしまいそうになった。

 許可を貰ったところで、早速服の中へと手を滑り込ませていく。

 

「ん……」

 

 俺も驚きの声が出てしまった。

 直に触った簪のお腹はすべすべで揉んでみると服の上からでは比べ物にならないほどぷにぷに。

 触り心地最高だ。幸せをしみじみと感じる。

 

「こんなことで幸せって……安上がりな幸せだね」

 

 何とでも言えばいい。

 簪はどうなんだ。

 

「どうって……まあ、悪くはないかな。お腹撫でられてるのは変な感じするけど落ち着くし……ぎゅって抱きしめてもらえているのは幸せ」

 

 安上がりな幸せだな。

 

「何とでも」

 

 そうして、しばらく好きにさせてもらっているとあることに気づいた。

 

「ん……」

 

 色っぽい息を小さくこぼす簪。

 そして、何処か紛らわすように足に足を絡めてくる。

 何だ。お腹なでられるのが気持ちよくなってき過ぎてじれったくなってきたのか。

 

「……」

 

 黙って何も言わない。

 けれど、図星なのがまざまざと伝わってくる。無言の肯定だ。

 自分ではそんなつもりでお腹を撫でていた訳ではないし、そういう気分になったものは仕方ないがお腹を撫でられただけでそういう気分になるなんて。しかもまだ昼だ。

 

「あなたが変なところ触ってくるからでしょう。それも、やらしい手つきで。だから、私は悪くない」

 

 背中から抱きしめられていた簪は布団の中で器用に寝返りをうつと、こちらを向いてそんなことを言った。

 俺が悪いといわんばかり。言いがかりだ。

 

「あなたが悪い……だから、何されても文句は言えないよ、ね……?」

 

 小首をかしげる簪は妖しく笑う。

 本当に何をする気なんだか。くわばらくわばら。

 

「ちょっ、それお化けに言う奴。私はお化けか何かなのっ……まったく、もうっ」

 

 不貞腐れながら簪はぎゅっと寄り添ってくる。

 ああ、ほのぼのした。

 




ツイッターで貰ったリクエスト?『今期アニメチェックしながらカップラーメン食べる簪ちゃんSSください』と
『春の休日に彼女と冬用布団の中でごろごろする堕落した生活を送りたい』というツイートを合体させました。
この物語の簪のキャラデサはMF版(アニメ版)なんですが、MF版の7巻P169のシャワー浴びている簪の挿絵。
あの簪のお腹ぷにぷにしたいという話でした。
シナリオ上の必要なイチャラブよりも、二人の日常が垣間見えるイチャラブのほうが好き。

最近たくさんのお気に入りと評価ありがとうございます。
励みになります

今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません

それでは

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