話自体は前回の続きです
「あ……お腹の音」
お腹が鳴ってしまった。恥ずかしい。
「もう、お昼だね」
時刻は昼の12時過ぎ。学校の方でもそろそろお昼休みになる。
結局ずっとアニメ見たり映画見るだけで午前を過してしまった。
ちなみに見てる間、本当にずっと俺は簪の膝の上に座らされ、後ろから抱きしめられていた。今も現在進行形でそうだ。
幸せだし嬉しい事には変わりはないのだが、変な恥ずかしさのおかげで見るのに集中できず内容もほとんど頭に入ってこなかった。
「そろそろ食堂の人にお願いしてたお昼ご飯出来てるはずだから貰ってくるね……」
言って簪は膝の上から俺を解放して、昼ごはんを取りに行ってくれた。
身体の方はというと、相変わらず幼く小さな姿のままだ。元に戻る気配もなければ、相変わらず確かな現実感と夢の様な感覚がある。
まあまだ午前しか時間が過ぎてないわけで、病院にも行けてないから結論を求めるのは早すぎるか。このままずっとこの姿だったらどうしようって不安もなくはないが、今は変に考えるのはよそう。
「お待たせ」
簪が二人分の昼ごはんを持って戻ってきた。
今日のご飯も美味しそうだ。
ふと、ある考えが頭をよぎった。まさか、昼ごはんも膝の上に俺を乗せて食べる気じゃないだろうな。
「流石にそんなことしない。お行儀悪いでしょ」
それはその通りだ。安心した。
流石にご飯ぐらいは落ち着いて食べさせて欲しい。
ということで早速食べたいからその箸が欲しいと手を伸ばしたのだが。
「えっ? 何で?」
きょとんとする簪。
それは俺の台詞なんだ。
手で食べろってことなのか。
「違う。そんな訳ないでしょ……私が食べさせてあげるから大丈夫!」
何が大丈夫なんだ。説明してほしい。…いや、されても困るが。
「だ、だってっ……ほらっ、織斑先生にあなたの世話任されたわけだし……私のあなたのお世話したい。だから、ね?」
もっともらしい理由を言ってきたが、それとこれとは別だ。
世話なんて朝食や今みたいに昼ごはんを部屋に持ってきてくれるだけで充分。ありがたい。凄く助かっている。
だから、世話だからってそこまでしなくても。というか、普通に食べさせてくれ。
「むぅ~……」
頬を少しぷくぅと膨らませて、納得のいかない不服そうな顔でむくれる簪が睨めっこをしかけてくる。
譲る気はないようだ。その証拠に俺の箸まで握って渡してくれない。
こういう時の簪は何というか変に頑固だ。仕方ない……少しだけならと折れた。
「ごめんね……ありがとう」
謝りながらもそう言った簪は凄くうれしそうだった。
抱っこといい今といい今日の簪は凄くしたがりだ。
「じゃあ……あ~ん」
口へ料理が運ばれ、大人しく食べる。
「どう……? 美味しい……?」
頷いて答える。
美味しいのだが幼いこの姿であ~んをさせているせいか、いつもは感じない恥ずかしさを感じていた。
後、いつもみたいな恋人の雰囲気とかではなく、何だか餌付けされている気分。
「よかった。じゃあ……もう一口どうぞ」
でも、そのことは嬉しそうに食べさせてくれる簪には言えない。
食べたらゆっくりしたい……。
・
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「ぶっはははっ!」
「すごーい! なにこれ? こんなことあるんだ~アニメみたいでおもしろ~い!」
腹抱えて大笑いしてる一夏と興味津々な様子で俺の周りをグルグル周って見てくる本音の二人。
「ごめんなさい……!」
そして隣には正座までして本当に申し訳ないといった様子で深々と頭を下げる簪。
見ての通り、一夏と本音の二人が俺のこの幼い姿を知った。
寮の食堂へ簪が食べた昼ごはんの食器を返しに行った帰りに、俺達の様子を見に帰ってきた一夏達と出会ったらしい。
簪はどうにか二人を撒こうとしてくれたみたいだが上手くいかず、部屋の前で言い争いしていたのを見かねて俺は二人を中へと入れた。
「本当にごめんなさい……私がもっと上手く二人を撒いていられれば……」
大爆笑したり面白がる二人を横目にして簪が何度も謝っては反省するかのように落ち込む。
簪が気にするようなことじゃないだろ。
そもそも部屋に入れて、この幼い姿を見せたのは他の誰でもない俺自身だ。だから、大丈夫。
「そう言ってくれると助かる……ごめんなさい、ありがとう」
簪に納得してもらうことはできた。
それにこういうのはいつまでも隠し通せるものじゃない。いずれはバレる。だったら、早いうちに自分から教えた方がいいだろう。キツく言いつけて織斑先生の名前を出させてもらったし、一夏達もそう簡単にはこのことをバラさないはずだ。
「大丈夫。誰にも言わないって。俺とお前の仲だ。男に二言はない。そうだろ? くくっ」
そうなんだが、一夏はいつまで笑ってるつもりなんだ。
一夏のことは信じているが、不安になってくる。
「いやだって笑うしかないだろ。そんな摩訶不思議なこと起きたの知ったらなぁ」
「まあそうだよね~ふふっ、か~わい~!」
「くくっ、普段無愛想なお前がこんな幼くなってまあ。あははっ、可愛いなー」
本音は頭撫でまわして来るし、一夏は半笑いで愛でてきやがる。
一夏には煽られている気分だ。お前が俺の状況になったとき覚えてろよ。
「かんちゃんはどうなの?」
「どう……?」
「自分の彼氏がいつもと違う姿なんだよ~? こ~う、くるものがあるじゃない?」
「何馬鹿なこと言って」
「幼い姿の彼氏君を抱きしめて楽しんだり、胸当ててみたりして反応を楽しんだりしたんじゃないの?」
「っ!」
一瞬で耳まで真っ赤になる簪。
「あ、図星なんだ」
ぽつりとそう本音がもらした。
そんな反応すれば、そう言われても仕方ない。実際事実だ。ここまで言い当てる本音はエスパーか何かなのか。
後一夏、こっち見るな。
「かんちゃんって分かりやす過ぎだよ~本当えっちだね~」
「うるさいっ……! そんなことないからっ」
「またまた~ご冗談を~」
結局、簪は本音にからかわれる始末。
今更ながらこの二人に教えてよかったものかと後に立たないと分かっていながらも後悔し始めた。
「そう落ち込むなよ。知ったのが俺と
「それ言っちゃダメな奴ッ」
簪が慌てて言う。
おいばかやめろ。そんなこと思うこと自体危険なのに、口に出したら現実になる。
一夏は尊敬できるいい男なのだが、こういう状況を理解してない発言をするのが本当に傷だ。
「ひでぇっ、大丈夫だって。そんなことは――」
「呼ばれて飛び出てジャジャジャっジャ~ン! 私、参上!」
「えっ?」
間抜けな声を出す一夏。
部屋は静寂に支配される。
「お姉ちゃん……」
「はぁい、皆! おもしろいことになってるって聞いて遊びに来たのよ!」
嫌そうな声を上げる簪とは対照的に、楽しそうに目を細めて笑う楯無さん。
口元を隠すように開かれた扇には『愉悦』と書かれた。
「そう言えば、弟君の姿が見えないわ……ね」
楯無さんと目と目が合う瞬間、終わったと気づいた。というか、察した。
反射的にこの場から逃げ出そうと体が動いた。だがしかし。
「きゃっー! なにこれっ可愛いっ!!」
簪も目を丸くてビックリしてる。
目の前にいる一夏達の後ろにいたはずの楯無さんは、
「ちょっとお姉ちゃんっ!」
「はぁ~これ本当に弟君なの!? 可愛すぎるんだけど!」
テンションの高い楯無さん。正直うるさい。
やっぱり俺この人果てしなく苦手だ。頬ずりしてくるなよ。若干痛い。
というかその口ぶり、いろいろと知っている。この人どこで知ったんだ。知ってる人は限られているはずなのに。
「えっ? 弟君が体調悪いから休んでいるのを簪ちゃんが看病する為に休んでるって山田先生に口割らせ……じゃなくて教えてもらったのよ。いろいろとね」
「まやちゃんェ……」
「山田先生ェ……」
サラッと教えてくれた楯無さん。
そして頭を抱えている一夏と本音の二人。
山田先生が悪いみたいな雰囲気だが間違いだろ。きっと山田先生は聞かれたことをただ答えたはず。第一仕方ないとはいえ、俺達が一緒に休んでること自体怪しすぎる。
「そう怪しいから確かめに来た見たのよ! 弟と妹が心配だからね!」
えっへんといった感じの楯無さんだが、この人また普通に不法侵入してきた。
もう何度目だ。また部屋のオートロック無理やり突破してきやがった。
「いいじゃない。そういう細かいことは。それよりもどうしてこんな姿に?」
ここまで来て流石に誤魔化すのもおかしいので、仕方なくどうしてこうなったのか掻い摘んで説明した。
「なるほどね、それで。身体は大丈夫? 辛くない? 痛いところない? 何かあるなら、お姉ちゃんに遠慮せずに言ってね!」
説明に納得してくれながら、楯無さんは本気で心配してくれた。
この人いつもこうならただのいい人なんだが、そうじゃないのが楯無さんだ。
説明してる間も俺のことをずっと抱き人形扱い。何度も俺から離れようとしているけど、離してくれない。
「……」
見てる。凄い見てる。簪が静かにジッとこちらを見てる。
怒りを我慢しているのかわなわなと震えながらも静かに黙ってる簪が怖いからそろそろいい加減離してほしい。
めっちゃ怖い。そして、楯無さんが気にしてないのがもっと酷い。
「嫌よ。簪ちゃんは散々楽しんだでしょう。だから、私にもね。ちょっとぐらいは
うわ……また楯無さんの悪い癖だ。
簪煽って俺とまとめて遊ぶつもりだ。明らかこのよくない状況を楽しんでる顔をしてる。
「……馬鹿言ってないで彼をとりあえず離してあげて。苦しがってる」
「あら……」
勤めて冷静な話す簪に楯無さんが一瞬つまらなさそうにしたのを見逃さなかった。
簪は大人な対応をしているが我慢に我慢を重ねているのはよく分かった。
楯無さんの挑発に乗ったら思う壺なのは簪もよく理解している。だから、凄い無理させてしまっている。
俺の方からも少しでも早く離れたいのだが、中々上手くいかない。ちっょと本気で苦しくなってきた。
「そんなことないわよね? お姉ちゃんの方がいいわよね、弟君。ほ~ら、お姉ちゃんの胸ですよ~よちよち」
俺の頭を抱え込んで楯無さんは自分の胸へと抱き寄せては頭をなでてきた。
「……くっ!」
見なくても簪が今にも楯無さんを掴みかかろうとするのを必死に我慢してる姿が分かった。
そこまで力強くはないのだが、やっぱり何故か楯無さんの腕は振りほどけない。加えて今度は息苦しくなってきた。
こんな聞き分けのないお姉ちゃん嫌だ。お姉ちゃんならやっぱり簪の方がいい。
「なっ!?」
言い過ぎたと思ったが、ショックを受けてガックリ落ち込んで力の緩んだ隙に楯無さんからようやく解放された。
「お姉ちゃんにするなら私の方がいいの……?」
それはもちろん。頷いて答える。
「酷いわよ二人揃って。ほら、弟君。また私のふかふかのお胸でぎゅってしてあげるわよ」
両手を広げておいでをする楯無さん。
そんなことされてもさっきの息苦しさはもちろん、この幼い姿のせいなのか何されるか分からなくて楯無さんにはいつもとは違う怖さを感じた。
それから逃れるように俺は、簪の後ろへと隠れた。
「~ッ! 怖がらないで。大丈夫。悪いお姉ちゃんから簪お姉ちゃんが守るから……!」
優しい笑みを見せてくれる簪に勇気づけられる。
やっぱり、お姉ちゃんにするなら簪の方がいい。
「諦めましょう。楯無さん」
「流石に楯無様には勝ち目ないですよ」
「ううっ……」
一夏と本音にそう言われ、ガチ凹みする楯無さんの姿がそこにはあった。
・
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「じゃあ、何かあれば遠慮なく言ってくれ。力になるからな」
「お大事にね~」
「またね」
一夏、本音、楯無さんの三人は口々にそういい残して部屋から出ていた。
後ちょっとで午後の授業が始まる。
何だか無駄に濃い昼休みを時間を長く感じてドッと疲れた。
「そうだね……」
簪も疲れた顔している。
あの二人に加えて、楯無さんまで来たんだ。そりゃ疲れる。
「ごめん……私のせいで騒がしくしちゃって」
暗い顔で申し訳なさそうに簪が謝ってくる。
気持ちは理解してあげられるが、簪は何でもかんでも自分のせいにして謝りすぎだ。
仕方ないだろ、あれは。楯無さんにいたってはもはや自然災害みたいなものだ。さっき簪も言っていた。気にしたら負けだ。
「だけど、あんなのでも私のお姉ちゃんだし……」
あんなのって……。
言いたくもなるだろうけど。
「……ふぅ~ん……そう、お姉ちゃんのこと庇うんだ……そうなんだ。さっきは私の方がいいって言ってくれたのに……」
何故か簪は拗ねている。
どうしてそうなるんだ。
「だって……お姉ちゃんの胸よさそうにしてた」
そこなんだ。ついそう思ってしまった。
そんなはずはどう考えてもないのだが。
「してたもん……ふんっ」
ぷいっとそっぽを向く簪。
簪にはそう見たのなら簪にとってはそれが事実なんだろう。
そんなことで拗ねているのかと一瞬思ってしまったが、その考えはすぐに振り払った。
本気の本気で嫌がれば楯無さんが離してくれた可能性だってなくはない。俺はそれを怠った。今は簪に謝るしかない。そしてどうすれば機嫌直してもらえるのだろうか。
「じゃあ……私のこと……その、ね。お姉ちゃんって呼んでほしい」
そう簪は何処か遠慮気味に言ってきた。
この幼い姿で言うのは……いや、本来の姿で言うのも結構恥ずかしいが、それで簪が機嫌を治してくれるのならば構わない。
恥ずかしさをグッと堪えて呼んだ。簪お姉ちゃん、と。
「うんっ……えへへっ」
嬉しそうに微笑を咲かす簪が見れてよかった。
「ごめんなさい……めんどくさい我が侭言っちゃって。私が頑張ってお世話しないといけないのに。しっかりしないといけないのに」
充分すぎるほどよくやってくれている。気にする必要はやはりない。
頑張ってもくれている。さっき楯無さんに掴みかかろうとしてのを最後まで我慢できたのは凄い。正直、今にも喧嘩するんじゃないかとヒヤヒヤした。
「あれは自分でもよく頑張ったって思う。お姉ちゃんに遊ばれてるって分かっても正直かなり頭にきた」
だからこそ、最後まで我慢できた簪のことを無性に褒めたくなった。
丁度、今二人でベットに腰掛けていて俺の方が座高低くても何とか頭に手が届く。
褒めるように俺は簪の頭を撫でた。何というかまるで姉を褒める弟になったかのような気分だ。
「ありがとう……ねぇ、もう一回お姉ちゃんって呼んでほしいな。後、また抱っこさせて」
簪お姉ちゃんは仕方ないな。
そんなことを言いはしたものの満更でもから、言う通りにする。
「~ッ! お姉ちゃんって呼ばれるの癖になりそう……可愛い、よしよし」
再び簪の膝の上に座ると、後ろからぎゅっと抱きしめられ、頭をなでてくれる。
気持ちいい。いつもはこうする側だが、いつもとは逆にしてもらうのもかなりいい。
そう思えるのはやっぱり、簪だからなんだとしみじみ思った。
「ん、今ならお姉ちゃんがあなたのこと弟君弟君って猫可愛がる気持ち何となく分かる。今みたいに幼い姿なら尚更ね」
そうなんだ。俺にはよく分からないが。
というかやっぱり、簪はいつもの俺より、今の幼い姿が嬉しそうだ。少し納得いかないこともない。
「もう、拗ねないで……身体が小さいといろいろといつもより頼ってくれるのが嬉しくて」
その言葉に俺は何も言い返せなくなる。その自覚があるからこそ尚更に。
「でも、ちゃんと元に戻ってほしいよ……やっぱり、寂しいものがあるから。でも、許してくれるのならもう少しこのまま」
こうされているのが別に嫌な訳じゃないから、許すも何もない。俺ももう少しこのままでいたい。
我ながらめんどくさいことを簪にと反省しているが、ただちゃんと言葉で簪がどう思ってくれているのか確認したかっだけなんだ。それが出来た。
今ではもう果たしてこれが現実なのか、それともやっぱり夢なのか曖昧になっているが、どっちにせよこういう過し方も幸せの一つだと思う。
だからなんだろうか。簪に抱きしめられると安心してからなのかうつらうつらとしてくる。
昼ごはん食べた後は眠くなるもので、あんな騒ぎがあった後なんだ。その二つが相まって眠くなってきた。
ついあくびをすると、簪にも移った。
「ふぁ~……眠い」
手で欠伸を隠すように口元を押さえる。
確かに眠いな。部屋の陽気がいい感じに眠気を誘う昼のポカポカ陽気。自宅療養だからとは言え、ダラダラと過してるせいか眠気が凄い。いっそ昼寝したしまいたい気分だ。
「ん、じゃあ……今から本当に二人で昼寝する?」
と後ろにいる簪が言った。
俺からでアレだが、それはどうなんだろう。学校では今丁度午後の授業中。ズル休みしてるという思いがあるから、本当今更気にしても遅いだろうが気が引ける。
「そうなんだ。私はあなたと……寝たいのに」
その言葉にゾクッと来る。
というか、耳元で言うのはやめてくれ。身長差とか諸々あってそうなっているんだろうが、半分わざっとのでもやってるだろ。
「ふふっ、ごめんね。でも、あなたお昼寝したいのは本心。自宅療養は寝て休むのも大事。だから、今日ぐらいは……ね」
そこまで言うのならいいだろう。
これもまた療養だ。
「それでいいんだよ……ほら」
先にベットへと寝転んだ簪に招かれる。
俺はそこへと寝転んだ。俺と簪は横に並んで向き合うようになる。
すると、ぎゅっと抱き寄せられた。小さいこの身体のせいか、いつもとは反対に俺は簪の腕の中にすっぽりと納まっている。
そして、顔には柔らかな二つのものが当たる。
「こ、こう……すると気持ちよく寝られるよ? まあ、その……お姉ちゃんみたいにいいものじゃないけど」
いやいや、何を言うんだと。簪のだからいいんだ。
これはヤバい。ヤバすぎて具体的に上手く説明できないのが悔しい。それほどまでにヤバい心地よさ。
おっぱい枕最高。
「そ、そう? 喜んでくれるのならいいけど……ってあっはっ、あんまり動かないでくすぐったい」
無理な話だ。こんな素晴らしいものを当てられて、ジッとなんてしてられない。もっとこの柔らかさを感じていたくなる。ぎゅっと簪にしがみ付くように抱きつく。
おっぱい枕をしてもらうのは初めてのことじゃないが、以前とは違う。
おっぱい枕してもらいながら簪に抱き枕にされるこの暖かく包み込まれる優しい感覚。怖いぐらい安心する。
凄い幸せだけど、簪のほうはどうなんだろう。
「ん……もちろん、幸せ。あなたの身体凄いポカポカしてる……小さい子の体温が高いって本当何だね。ぎゅっ~」
ぎゅっと優しく抱きよせられると、簪から鼻歌が聞こえてきた。
「ふ~ん、ふふ~ん、ふ~ふふ」
優しい子守唄。
その優しい唄に誘われるように俺は眠りへ落ちていく。
魔不可思議で騒がしくも楽しい幸せな時間。眠りに落ちていくにつれて、この夢から覚めて行くのが判った。
いい夢だった。この夢が覚めても、目の前に簪がいてくれたら、ただそれだけでこの夢にも勝るだろう。
「ん、大丈夫。起きても私はあなたのそばにいるよ……離れるわけない。こんなにも大好きなんだから」
眠りへ落ちる最後の瞬間。
そんな嬉しい言葉が聞こえたのだった。
…
今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません
それでは