簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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22箇所のキスの意味
髪の毛:思慕。額:祝福・友情。瞼:憧憬。耳:誘惑。鼻:愛玩。頬:親愛、厚意、満足感。唇:愛情。喉:欲求。首筋:執着。背中:確認。胸:所有。腕:恋慕。手首:欲望。手の甲:敬愛、尊敬。手の平:懇願。指先:称賛。お腹:回帰。腰:束縛。太もも:支配。脛:服従。足の甲:隷属。つま先:崇拝


惜しみない口づけを簪に

 雨が降って冬の寒さが増す休日。

 今部屋で簪と二人で映画を見ながら過しているが、これがまた面白い。

 面白いってのは映画の内容がではなく、一緒に見ている簪の様子がおもしろい。

 

「うわぁ~……」

 

 とか。

 

「え……そんなに激しく……」

 

 など言って俺を背もたれにして両足の間にいる簪は、顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。

 言葉だけ聞くと何だかいかがわしいアレなのを見ていると勘違いされそうだが、見ているのはいたって普通の映画。

 もっと詳しく言うなら、今見ている映画は一昔前に流行ったらしい古い洋画。ジャンルは恋愛物だが、恋愛物だからと言うべきなのか、洋画ゆえになのか恋愛描写、特にキスシーンやベットシーンは情熱的かつ過激だ。

 ディープキスが物凄くいやらしく表現されているのが、また凄い。洋画って凄いな。

 ストーリーはおもしろいが見ていて、俺も結構恥ずかしい。思わずなところもあるし。

 

「あ、あぁ……すごい……」

 

 簪は両手で顔を隠して見ないようにしているが、指の隙間から覗いて魅入っているのが分かる。

 直視できないだけで、本当はそのシーンが気になって仕方ないといった様子。

 そんな様子を見ているとエンジンかかった簪は、あれ以上に凄いのにやっぱり恥ずかしいんだなとつい思ってしまった。……まあ、それとこれとは別なのもちゃんと分かる。

 映画よりも恥ずかしがりながらも魅入っていろいろな様子を見せてくれる簪をしている方が楽しい。

 俺は映画よりも簪に魅入っていた。

 

 それから物語はハッピーエンドで締めくくられ、映画は無事終わった。

 

「……」

 

 二人して無言になる。あんなシーン見た後だからどう話したらいいのか分からない。

 とりあえず内容そのものはよかった

 

「……う、うん。そうだね……よかった。それとその……す、凄かったね……」

 

 まあ確かに凄かった。

 しかし、それだけ言われるとベットシーンやキスシーンの感想を言ってるんじゃないかと、つい思ってしまう。

 全体的にってことなんだろうが、終わった今も簪は恥ずかしそうにしているから尚更。

 

「うぅぅ……」

 

 下の方を向いて恥ずかしそうにしている簪。

 顔はちゃんと見れないが、見なくても顔真っ赤なのは分かる。

 部屋に気まずい空気が流れる。これからどうするかな……。

 

「……」

 

 ぎこちなく振り向いた簪と目があう。

 あのシーンのことがまだ脳裏に焼きついているのか、恥ずかしそうにしていて、何だか瞳が艶やかに潤んでいる。その姿はやけに色っぽい。

 それに簪はじっと俺を、俺の唇を見つめてきている。ああ、そういうことか。簪が何を考えているのかよく分かった。というか、そんなに見つめてたら嫌でも分かる。

 でも、ここはあえて何も知らない、気づいてないフリをする。そして平然を装って、どうかしたかと問いかけた。

 

「……っ、べ、別に何でも……ない……」

 

 ぷいっとそっぽを向く。

 しばらくするとまたすぐ、何か言いたそうな目でこちらを見つめてくる。何だか面白い。

 他の誰かに聞かれる心配もないんだから、言いたいことがあればはっきり言えばいいのに。

 

「だ、だから……別に何でもないって言ってるでしょう」

 

 そう言ってまた簪は、ぷいっとそっぽを向いた。

 簪がそういうのなら、本当に何でもないんだろう。

 しつこく聞くのも悪いから、これ以上は聞かないでおこう。

 

「今日のあなた何だかいじわる……」

 

 拗ねてしまった。

 確かにいじわるが過ぎたな。

 でも本当、言いたいことがあれば言ってくれればいいし、言いたくなければ言わなくてもいい。

 簪次第だ。

 

「……言う。でも、笑ったりしないでね。絶対にだよ」

 

 そんな念を押す様に言わなくても分かっている。

 

「あ、あの……ね。キス、したい……」

 

 恥ずかしそうにそう簪は言った。

 それは知ってた。キスぐらい勝手にって言ったらアレだが、キスぐらい好きにしたらいいのに。

 

「そういうのじゃなくて……ディープキス」

 

 ディープキスか……まあ、それも好きにしたらとしか。

 そう思ったが簪は、何だか躊躇っている様子。

 

「やっぱり、いい……い、今キスすると我慢、できなくなるから……」

 

我慢?

 一体何を我慢するというんだろうか。

 

「えっ? えーと……それはその――」

 

 恥ずかしそうに小声でごにょごにょ言っていて上手く聞き取れない。

 つい聞き返してしまった。

 

「……えっちな、こと……」

 

 消え入りそうな声で顔を真っ赤にして恥ずかしそうに答えてくれたが、俺は一瞬言葉を失ってしまった。

 まあ、簪の今の様子やさっきの映画の内容とか諸々のことを考えれば、今我慢するってのはそれぐらいか。言ってもらって何だけど、反応しづらい。

 

「だから、キス我慢する。それにまだ昼間だし、替えの用意もしてないし……」

 

 それはもっともだ。簪の言う事は正しい。

 

「でも……その、あなたのほうがキス我慢できなくなったら言ってね……? その時は考えるから」

 

 何故か気遣われてしまった

 そんな変に気をまわさなくても大丈夫。

 簪が我慢するのなら俺もそういう気になったら我慢する。

 

「えっ……」

 

 簪が悲しそうな表情を浮かべる。

 そんな顔されても……最初に我慢するって言ったのは簪の方だ。

 

「うっ……それは……そうなんだけど……」

 

 複雑そうな顔してまだ我慢しようとしている。

 そして、しばらくするとぽつりと言った。

 

「ごめんなさい……私の方がもう我慢できません」

 

 だと思った。

 仕方ないか。あんなシーン見たらな……。

 

「うん……映画見終わってもあのキスシーンが頭に焼きついてて、ずっとあなたとキスしてるのを思い浮かべてました……ごめんなさい」

 

 別に謝らなくても。

 キスぐらい人前でするわけじゃないのだから、我慢しなくてもいいとは思うけど。

 正直、俺だって簪とキスしたい。

 

「私もあなたとキスしたい……でも、ディープキスするといやしい気分になっちゃう。だから……」

 

 だから?

 

「ディープキスは禁止。でもその代わり、お互いの全部に……キスしあいたい」

 

 魅力的な提案。

 だがしかし、そっちのほうが余計我慢できなくなりそうな気がする。

 そんな言葉が喉まで来たが。

 

「だめ、だよね……?」

 

 しゅんとして言われたら、断れない。

 ずるいな、まったく本当に。

 簪の気がすむように、付き合うおう。それを示すように俺は、簪をひょいと抱き上げ、お姫様抱っこする。

 

「な、何?」

 

 こんな床よりかはベットのほうがいいと思ったんだが、ベットは嫌なのか。

 

「ううんっ、ベットのほうが、いいです……」

 

 伏し目がちでそう恥ずかしそうに言った簪をベットへと連れて行くのだった。

 

 

 

 

「……っ」

 

 緊張した様子で簪はベットの上で横になる。

 そんな緊張しなくても大丈夫。

 俺は、簪がかけているメガネを取り、脇へと置くと緊張が少しでも和らぐようにと、頭を撫でる。

 

「ん、大丈夫……きて」

 

 簪の了承を得てキスをしていく。

 横になっている簪に多いかぶさるようにして、まず最初に髪へと口付けをする。

 すると、鼻先に髪の毛のいい匂いがして、簪のことが愛おしくなる。

 その思いが少しでも簪に伝わるようにと次は額へ口付けた。

 

 そして次にだんだん下へと降りて、今度は瞼に唇で軽く触れる。

 いつも頑張る簪を褒めて癒すように。

 

「んっ……くすぐったい」

 

 その言葉通り、簪はくすぐったいそうに身をよじらせた。

 気持ちよさそうにリラックスしてくれているのがよく伝わってくる。

 ならばと、耳へと口付ける。ついつい甘噛みして簪の反応を楽しみたくなるが、今日はグッと我慢。

 しかし、キスだけというのは物足りなさを感じたので一言囁いていた。愛している、と。

 

「ひゃぁ……み、耳元でそんなこと言わないで」

 

 嫌だったのか。

 残念がるように鼻と頬に口付けた。

 すると、簪はジトっとした目で見つめてくる。

 

「わざと聞いてるでしょう……? そんなことないって分かってるのに。本当、今日のあなたっていじわる」

 

 好きな子ほど苛めたくなるって奴だな、これは。

 

「もう、何それ……でも、私も好き。愛してる」

 

 何度言われても嬉しい。愛しい人に好きだって言われるのは。たまらないものがある。

 俺もまた愛の言葉を返すと、二人の唇と唇は重なり合った。

 ついばむように口付けあって、くすぐりあうようにチュッ、チュッと音を立ててキスをしたりする。

 ついつい舌が伸びそうになって、歯止めをかけるように喉に口付けていく。

 

「んっ、やぁ……んんぅ」

 

 艶っぽい声をあげる簪。

 感じているのだろうか。頬は昂ぶったように紅潮しているが。

 

「い、言わない……」

 

 残念だ。

 言わせてやりたくなるが、趣旨を変えてしまいそうなので今はあきらめよう。今は。

 

 簪に体重がかからないように両膝で立ちながらも馬乗りになって右手を取る。

 そして指先から手の甲。指の腹、手の平に満遍なくキスを落としていった。

 簪の手は綺麗だ。

 

「そう……?」

 

 自分ではそうだとは分からないようで、照れた様子で尋ねてくる。

 とても綺麗だ。それにこうふわふわとしていて、優しい温もりみたいなものを感じる。安心する手だ。

 いつもまで触れていてくなる。独り占めしたくなる。

 そんな欲望が溢れてか、指と指を絡めながら手首に口付けていく。

 

「あ、はっ……くすぐったい」

 

 腕にキスをすると、服に手をかけた。

 

「ま、待ってっ。服脱がすつもりなの……?」

 

 そのつもりだ。

 というか、脱がさないとまだキスしてないところに出来ないだろう。

 まだキスし足りない。何より、全部にキスしろって言ったのは簪の方だ。ここでお預けはなしだ。

 

「それは分かってる。ってっ……! もうっ、脱がさないで……!」

 

 恥ずかしくて今更ながらにでも迷うのは分かってあげられなくないが、簪を待ってると時間かかるし。それにどうせ脱ぐのなら、脱がせたい。そう思い簪の服を脱がせた。

 とは言っても全部脱がした訳ではなく、シャツのボタンを外して前のみを(はだ)けさせた。

 露になる下着姿の簪。目尻に涙を薄っすら浮かべて恥ずかしがっている今の簪の様子はとても魅惑的で正直かなりそそられる。

 

「そんなに、じっと見ないで……え、えっち……」

 

 なんとでも言ってればいい。男の正しい反応だ。

 というか、こんなこと誘ってきた簪が言えたことではないな。本当はどっちがそうなんだか。

 

 少しばかり叱ってくる簪をするりとかわして胸元へと再び口付けを再開した。

 ブラジャーをしていても胸は胸。先ほどとは違う柔らかな感触が唇を通して伝わってくる。

 普段はこういったところにキスしないが、こうしてただ胸元にキスしているだけでも充分楽しい。

 というか。

 

「きゃっ、な、なに?」

 

 ふと、俺は簪の谷間に顔を埋めていた。

 匂いがする。

 

「そう、なの……?」

 

 簪の匂いはどこもいい匂いで癒されるけど。

 ここだけ何か違ういい匂いがする。すごい落ち着く。

 オマケに顔で感じる胸の感触は気持ちいい。

 

「や、ぁ……私の胸、小さいのにいいの……?」

 

 いいもなにも、簪の胸だからこうしている。

 大きさなんて関係ない。

 

「そうなんだ……ありがとう。嬉しい。あなたの胸なんだからその……好きなだけ、ね」

 

 言って簪は、谷間に顔を埋める俺の頭をなでてくれた。

 このまま先のことに及びたくなる気持ちも当然沸いていたが、今はこうしているほういい。

 好きなだけか……だったら、ずっと独占していたい。

 俺はまるで独占の証でもつけるかのように胸元に少し強めにキスを落とした。 

 

「……んッ」

 

 簪がいやしい声をもらす。

 それを聞きながら横っ腹、腰へと、そしてお腹へと後をつけた時、とある変化に気がついた。

 簪のお腹が熱っぽい。平熱よりもほんの少しだけ熱く、興奮して火照っているかのようだった。

 

「ひゃっ! あ、んん……おへそ、だめ……くすぐったくてっ、ッ、あっ、んふぅ……」

 

 瞳を潤ませ、熱い吐息を漏らしながら、嬌声をもらす。

 その表情は艶かしい。感じているのがよく分かる。

 流石にこれはやりすぎた。ヤバいな……これ以上やると、簪のスイッチを完全に入れてしまいそうだ。

 やめようとすると、腕を掴まれた。

 

「やめちゃ、だめ……まだ大丈夫だから最後までして……ここままだなんて切ない」

 

 熱の篭った瞳でおねだりされたら、止める訳にはいかない。

 

 再開して、右足を持ち上げた。

 すると下はスカートを履いているせいか、スカートはするすると降りていき、下着が見えそうになる。

 ギリギリのところで簪がスカートを押さえていて、後一歩のところで見えない。

 

「今はちょっとヤバいから……み、見ないでっ」

 

 そんなに必死に言わなくても大丈夫。

 というか、見なくてもどうなっているのか想像がついてしまう。

 

「うぅ~……」

 

 うらめしそうに見てくるのを他所に俺は、靴下を脱がして、太股を撫でる様にキスしていく。

 簪の太股も綺麗だ。競技者らしく鍛えられ日増し待った健康的な太股。それでいて柔らかいとバランスがいい。

 

「やっ、んっ……」

 

 感じて力すらもう入らないのか、反射的な抵抗すらない簪の身体にキスをしていると何だか少し支配した気分になってくる。

 でも支配しつくたい訳じゃない。また服従するように脛や足の甲へと降りていき、つま先に軽くふれさせた。

 

「はぁー……はぁ……ん、はぁー……」

 

 キスをする度に快感が走りぬけているかのようにビクビクと身体を震わせていた簪は、気持ちを落ち着けるかのようにグッタリとしながら肩で息をしている。

 途中何度も手が出そうになったが、身体のいろいろなところにキスするのは楽しかった。提案に乗ってよかったな。

 

「激しすぎ……もうっ」

 

 飽きれた様に言いつつも簪は満更でもない様子。

 まあ、あれだけ気持ちよさそうにしていればな。

 

「言わない……ん、だっこ」

 

 両手を伸ばし、だっこたをせがんできた簪を抱き上げる。

 

「ちょっと待って、服直すから……」

 

 言って後ろを向いて服を直そうとする。

 動いていたせいか、服は完全に脱げてしまっていた。

 ここからじゃ当然前は見えないが、背中がよく見える。

 

 誘われるように気づけば背中に口付けていた。

 

「んんぅ、もう待ってって言ってるでしょう……こらえ性のない人、めっ」

 

 可愛く叱れ。

 

「さっきたくさんされた分、いっぱい仕返ししてやるんだから……ふふんっ」

 

 脱げていた服を着るだけ着て前も止めないままの簪に俺は押し倒されていた。

 その表情はいたずらを考える幼い少女のように無邪気な悪戯な笑みを浮かべていた。

 




今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません

それでは

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