簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪と水着と水辺で

 半日授業が終わり、食堂で昼食を食べていた時のこと。

 

「かんちゃん、おめでとう~!」

 

 そんなことを前の席で食べていた本音が嬉しそうな笑顔を浮かべながら言った。

 何がそんなに嬉しいのかと思っていれば。

 

「期末テスト学年一位~! 流石だよ~!」

 

 そういえばそうだった。

 この間、期末テストが全部終わり、今日テスト結果が発表された。

 期末テストの総合成績結果は一学年合わせて上位十人までだがランキング形式で掲示され、そこでめでたく簪は一位に輝いていた。

 

「ああ、本当にすげぇよ。更識さん」

 

「ん、ありがとう……本音、織斑」

 

 確かに凄い。

 IS学園は俗にエリート高と呼ばれる学校。一般教科のレベルは非常に高く、それを学ぶ生徒の学力レベルも高い。

 そんな中で一位を取れるのは凄い。しかも簪は今までずっと一位をキープし続けているのだから、尚更だ。

 

「ありがとう。あれだけあなたと勉強したんだもの、このぐらい結果を出せないのならまだまだ……というか情けない」

 

 それもそうか。

 テスト期間前から今までずっと勉強をし続けていたんだ。それでこれだけのいい結果を残せないのなら全て水の泡。しかし、今回もそうならずに済んで安心している。

 

「そうだね……あなたもまた順位上がったんでしょう? 凄いよ」

 

 自分のことの様に簪が喜んでくれているのが嬉しいが、何だか気恥ずかしい。

 そう今回のテスト、俺もまたかなりいい結果を残すことが出来た。流石に掲示される上位十人には入れなかったが、前よりも順位が上がって、後もう少し頑張れば何とかギリギリ上位十人の中に入れなくはない程度にはいい結果。

 というか、俺と簪だけではなく、本音や一夏も今回のテストの結果はかなりよかったらしい。四人これで追試は免れた。実技の方も大丈夫だったのでこれで本当に自由の身。

 

「だな。やっとテスト終わったし、一段落だ」

 

 一安心した声でそんなことを言う一夏。

 まったくだ。テストが終わったことで、授業も大体夏休みに向けた短縮授業になっており、後は終業式、夏休みになるのを待つのみ。テストが終わった開放感もあって、ゆっくりしてられる。

 

「あ、そうだ~! じゃあさ~じゃあさ~」

 

 本音が何やら自分の鞄の中を探り始める。

 そして俺と簪の前に一つ封筒を出してきた。

 

「何これ」

 

「中見てみて~」

 

 ニコニコとしている本音に言われるがまま俺と簪は封筒の中を見てみる。

 すると、中には何やらペアの招待券が入っていた。

 

「これって……プールの招待券」

 

 それだった。

 詳しくその招待券を見てみると、学園からそんなに遠くないレジャーランドにあるらしい室内プールの招待券。

 本音、いつの間にこんなものを……というか、よく用意したな。

 

「従者として当然のことだよ~」

 

 ああ、そう。

 妙な説得力を感じて納得してしまった。

 

 これは聞くまでもなく誘ってくれてるんだろう。

 ということはテスト明けの気分転換にってことなのか。

 

「正解~! 今度のお休みの日にテストの打ち上げとかんちゃんの一位防衛成功を祝して、四人でプールに遊びにいこう~! ダブルデートだよ!」

 

 打ち上げでプールか……本当に夏って感じだな。

 四人ってことはこの面子でか……悪くない。わざわざ誘ってくれたのだから、俺は別に行くのは構わないんだけど……。

 

「……私は行かない」

 

 即答。言うと思った。

 まあ、前々からプールはいいと言っていたからな。室内プールは外よりも快適だろうけど、人混みは時期が時期だしやはり多いに違いない。

 それらを抜きにしても簪は元々インドア。行きたがらないのは変わりない。というか、いつものように興味なさそうに無表情でああ言ったのが、めんどくさそうに聞こえたのは俺の考えすぎか。

 

「なんで! 夏だよっ。プールだよ、プールっ! いろんなこと全部終わったんだからパーッと遊んで気分転換しないとっ! ね、おりむー(一夏)

 

「まあ、折角だからな。行こうぜ、二人ともっ!」

 

 簪とは対象的に行く気満々の二人。

 気持ちは分からなくはないが。

 そんな二人の様子を見て、しぶしぶといった様子ながら口を開いた。

 

「誘ってくれたのは嬉しい。ありがとう。でも、プールは人混み凄いから行きたくない。この時期は特に。知ってるでしょう? 私が人混み嫌いなの」

 

「ううぅっ~そうだけどぉ~」

 

 簪の意思は固い。

 

「お前は行くよな?」

 

「来るよね?」

 

 凄い期待して目で二人が見てくる。

 行くのは構わないけど、行くなら行くで簪と一緒でないと。簪を一人にするのは気が引けるというか何というか。簪と一緒に行きたいという気持ちは強い。

 

「あ……私のことなら気にせず三人で行ってきて。行きたいんでしょう」

 

 そういうわけにもいかないだろ。

 ペアの招待券、しかもダブルデートと言っていたのだから、このまま三人で行くのはいろいろとキツいものがある。

 

「じゃあ……お姉ちゃんとでも行ったら……? この時期だとまだ暇なはずだし」

 

 それは遠慮したい。何にもなく本当にただ疲れるだけになる。

 というか簪が楯無会長の名前を出すなんてどんだけ行きたくないんだ。

 しかし、折角招待券まで用意してまで誘ってくれたんだ。好意を無駄にするのは勿論、行ける時に行かないと損な気がする。引き篭もり癖つけない為にも。

 

 簪が本気で行くのが嫌なら無理強いするようなことはしない。

 ただ、ここの所ずっと勉強漬けで買い物ついでにしかデートできておらず、デートらしいデートもできてなかったから、ダブルデートにはなるが夏らしいデートを簪としたい。

 だが、簪の意思は固い。どうしたものか。

 

「……」

 

 俺の顔を見ては自分の手元に視線を戻して簪は何か考え込んだ様子。

 そして、何やら思案した後、観念したような表情をして簪は言った。

 

「……分かった。やっぱり、行く。いい……?」

 

「もちろんだよ~! かんちゃ~ん、ありがとう~! 一杯遊ぼうね!」

 

「うんうん……。分かったから抱きつかないで」

 

 嬉しそうに抱きついてくる本音に簪は困った顔している。

 

「よかったな。更識さんが行く気になってくれて」

 

 そうだな。

 説得といったら大層だが、行く気になってもらうのに苦労しそうな気がした。だけど、思ったよりすんなり簪は行く気になってくれた。 

 嬉しいが、本当にいいのだろうか。

 

「ん、大丈夫。まだ少し乗り気じゃないけど……皆が言う通り折角だから。デートもしたいから……それに」

 

 言いかけて、簪は照れたように言いよどむ。

 何を言おうとしているのかと待っていれば、本音を引き離した簪がそっと耳元で言った。

 

「やっぱり、早くあなたに水着姿見て欲しいから、ね」

 

 そういうことか。そういうことならますます益々楽しみになってきた。

 そんな俺の様子を見てか、簪は続けざまにこんなことも言った。

 

「うん。あ……二人っきりの時にもちゃんと見せてあげるから心配しないで」

 

  嬉しいが、この場ではどう答えるべきなのか困ってしまう。

  それはそれで楽しみにというか、期待が膨らまないわけではないが。

 

「なーに、二人イチャついてるの~」

 

「お前ニヤついてるけどいいことでも言われたのか」

 

 言えるか。ニヤニヤしてくる二人は放っておこう。

 

「じゃあ、今度お休みの日忘れないでね~」

 

「ん、分かった」

 

 こうして今度の休日、四人でプールへと行くことになった。

 

 

 

 

 ガラス越しに天上から差し込む夏を感じさせる強い日差し。

 辺りを見渡せば家族連れや友達連れ、カップルで賑わっている大きなプール会場。

 あの約束から数日経った休日の今日。約束通り、俺達はレジャーランドのプールへと来ていた。

 

「まだか……」

 

 きっとずっとそわそわとしていて落ち着きのない一夏。

 そうなってしまう気持ちは分からなくもないが、落ち着けと言わずにはいられない。一夏の奴、さっきから同じことを何度も言っているから余計に。

 

「だけどよ、やっぱ楽しみで」

 

 確かに俺もそうだ。一夏にはああ言ったが内心俺も落ち着かない。

 今か今かと気持ちが焦っているのを嫌でも感じてしまう。男である俺達は下を履きかえるだけで用意なんてすぐ終わって、一夏と今こうして簪達を待っているが時間が凄く長く感じる。それほどまでに俺も楽しみにしているという証拠なわけだが。

 

「おっ待たせ~!」

 

 聞きなれた声が聞こた。

 漸く来たかとその方向を向いてみる。

 するとそこには。

 

「どう~? どう~?」

 

 元気ハツラツといった様子で白のビキニに身を包んだ本音と。

 

「……うぅっ」

 

 両腕で隠すように身を抱いて恥ずかしそうにしている水色のビキニに身を包んだ簪がやって来た。

 

「……ッ、……」

 

 本音の水着姿に見惚れて一夏は言葉を失った様子。

 というか、生唾飲んでただろ、一夏の奴。まあ、無理もないのかもしれないことだけど。本音は、発育がいいというか、スタイルが物凄くいいからな。

 普段、本音はぶかぶかな服装ばかり着ているから、今みたいに全体的に露出の高い水着を着ていると、スタイルの良さを余計に感じさせられる。俺もついつい目を惹かれてしまうほどだ。

 だからって、生唾飲むのもどうかと思うけど。

 

「ね、ねぇ……」

 

 一夏達の様子を眺めていると、簪がちょんちょんとつついてきた。

 つついてきた腕とは反対の腕でまだ隠すように身を抱いて恥ずかしそうにしている簪。

 恥ずかしいと感じているのは診ていてよく分かるんだが、そういう風に隠されると返って、隠している腕で胸や腰が強調されることに簪は気づいてない。

 

「……その、ど、どうかな……?」

 

 隠すのをゆっくりとやめ、簪がちゃんと水着姿を見せてくれる。

 水色のビキニに身を包んだ簪。かなり露出が高い。

 だからこそ、白く透き通った綺麗な肌や、細い体のラインや美しい括れ、そして面積の少ない布で包み隠されている手に収まりそうなあの整った胸。それらがよく見え、魅了される。

 正直、目のやり場に困るほど簪の水着姿は刺激的だ。しかも、釘付けにされ、水着姿の簪から目を離せないでいる。

 

 言うべきことは決まっている。月並みの言葉になるがやっぱり、よく似合っている。

 加えて、プールだから当然のことだけど、眼鏡をかけてない素顔の簪の姿も水着姿に相まってとてもいい。

 何より、恥ずかしいのを我慢してまで着てくれたのが嬉しい。可愛い。最高だ。

 

「い、言い過ぎっ……もうっ、充分だからっ。……でも、ありがとう。嬉しい」

 

 簪は頬をほんのりと赤く染めて照れた様子だが、満更でもなく喜んでくれたみたいで安心した。

 

「じゃあ早速、遊びに行こう~!」

 

「お、おうっ」

 

 水辺へと向かい始める一夏と本音。

 同じ様に一夏も本音の水着姿を褒めたんだろう。

 嬉しい事でも言われたのか、本音は嬉しそうな顔をして、胸の谷間で一夏の腕を挟み抱きついていた。一夏はというと案の定、顔を赤くして恥ずかしがっているが、喜んでいるのが分かるだらしない顔をしている。

 相変わらず本音は凄いな。いろいろな意味で。

 

「本当にね。よく人前であんなに引っつける……」

 

 呆れたように言う簪。

 当然の如く、一夏達は目立っている。そんな一夏達から少し距離を取りながらも、追うように俺と簪も水辺の方へと行く。

 

 ここのプールは何種類ものウォータースライダーや水系のアトラクション、その他数多くの多種多様なプールがあるらしいとのこと。どれもおもしろそうだ。これだけ充実しているのなら一日思う存分遊びきれるだろう。

 

「んしょと……」

 

 まずは始めに水に慣れる為、簪と一緒に浅めのプールへと入る。

 簪が浸かっても簪の腰よりちょっと上ぐらいの深さなので安心して入れる。

 

「気持ちいいね」

 

 そう気持ちよさそうに微笑む簪。

 天上から差し込む暑い日ざしと、冷たすぎない丁度いい水温がいい感じに合わさって、確かに気持ちいい。

 それに周りにはたくさんの人がいるがここはかなり広いプールで何だか空いているように感じられて、ゆっくりすることが出来ていた。

 

「……ふふ、変な例えだけど……何だかお風呂に浸かってるみたい」

 

 確かに。

 他のところにあるプールへ泳ぎに行った一夏達とは違い、俺達はただただ水に浸かってまったりしてるからな。

 折角プールに入っているのだから泳がないと勿体無いとか言われそうな気もするが、これはこれで俺達は充分プールを楽しんでいるつもりだ。泳いだり、騒いだりしなくても雰囲気を楽しんでいるというか。

 

「泳ぐと疲れるし」

 

 簪、随分はっきり言うな。

 まあ、実際それが正直なところの一つではある。

 

「わ、わわ……」

 

 大勢の集団が近くに寄ってきたから、避ける為に少し遠くのところへ水中を歩いて移動することにした俺達。

 運動音痴でないのは知っているし、カナヅチでもなさそうだけど、水中を歩く簪はどこか頼りない感じだ。扱けてしまわないかと見ていて少し怖い。

 

「うっ……歩きにくい」

 

 簪でも足が着く水深だが、慣れてないのなら確かに歩きづらさは感じるかも知れない。

 そんなことを思っていると。

 

「……わっ」

 

 今度は別に移動してもないがよろめき本当に転けかけ、咄嗟に俺は簪の身体を前から抱くように受け止め支えた。

 

「……ご、ごめんなさい。どんくさくて」

 

 水の中へと転けなかったからいいんだけど、それよりも。

 

「? あ……」

 

 俺が何を言いたいのか簪は察して、頬を赤く染めているのが分かった。

 

 転けかけた簪を受け止め、簪も俺の体を支えにして持ち堪えた。

 だが、必然的に傍から見た格好としては前から抱き合うような形になっていた。

 浸かった体の周りには当然の如く冷たい水があって、その中であったかい簪の体温が感じられる。しかも、今の簪は水着姿。布で隠れてない露出した大部分の肌を、水着越しでの簪の胸の感触を、水着越だというのにとてもよく感じ、視線を下にやれば、無防備な簪。

 水着姿での濡れた谷間が見え、濡れた顔や髪、肌がとても色っぽい。そんな簪に目を離せなくなっており、熱が上がるのが分かった。

 ちょっとこれはまずい。いろいろな意味でまずい。もういつまでも抱き合っている必要はなくなったので、離れようとした。

 

「……ま、待って。もう少し……このままが、いい」

 

 静止され、固まる。

 人前、それも周りには沢山の人がいるから、てっきりこんな風に密着するのは嫌がると思っていた。

 

「嫌じゃ……ない。恥ずかしいけど……今なら誰も私達のことなんか気にしてないから大丈夫」

 

 そう言って簪はそっと更に密着してくる。

 周りを見れば、簪が言う通り、周りは俺達のことなんかまったく気にしない。というか、今の俺達みたいに密着して、あからさまにイチャイチャしているカップルぽいのもチラホラいる。

 別に目立ってるわけじゃないし、簪がいいならいいか。簪に応えるように俺も簪を抱き返してみた。

 

「ふふっ」

 

 腕の中で嬉しそうに微笑む簪。

 こんな風に冷たい水の中で抱きしめあうのは何だか不思議な感じだ。

 にしても、人前なのに簪がこんな風に積極的になるとは思いもしなかった。

 

「んー……夏の暑さが、そうさせてるの……かも」

 

 なんて簪が珍しく冗談めいたことを言う。

 だけど、若干照れ気味なのが簪らしさを感じた。

 簪の言う通りだな。夏の暑さがそうさせているのかもしれない。冷たい水の中にいるのに、冷めるどころか体温が上がっているのもきっと。

 




この後、めちゃくちゃ簪とプールを満喫した

今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません。

それでは

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