短くなっちゃいましたが新作をどうぞ。
簪は綺麗だ。
そう思わず、口にしてしまう。
昔から簪は綺麗だが最近は更に綺麗になった。
「どうしたの、急に……」
突然言ったものだから簪が訝しげな目を向けられてしまった。
夜、風呂上りにしているスキンケア途中の手が止まるほどだ。
確かに変なことを言っている自覚はある。だが、言いたくなった。それほどに簪は綺麗だ。
「もうっ、言いすぎ……でも、ありがとう」
はにかみながら言う簪の綺麗さには可愛らしさもある。
「そうやってちゃんと言ってくれるの嬉しい。毎日スキンケアとかいろいろ頑張ってる甲斐ある」
それはそうだ。
簪は毎日、欠かさず頑張ってやっているのはよく見ている。
ただやっているわけではなく使う化粧品や方法までこだわっているな。
「適当なものは使いたくないから。あーでも……」
簪が何かポツリと何か思い出したように言った。
「昔の私じゃ考えられなかったな。こんな風に毎日スキンケアしてるのとか」
昔はやってなかったとかそういうのではなくそもそも興味すらなかったかのような言い方。
そう言えば、簪がこんな風にやるようになったのはいつからなんだろうか。IS学園を卒業して同棲するようになった頃にはもうしていたような。
「あなたと付き合うようになった頃からだね。それ以前は気にする余裕すらなかったってのもあるけど、あなたの前では綺麗でいたいからやるようになったかな」
照れくさそうに簪は言ってくれた。
そう思ってやってくれているのは嬉しい。
「化粧とかもそうだし、服とかでもお洒落するようになって好きになったのも付き合ってからだ」
今では簪は自他共に認めるお洒落好きだ。
それもよく調べて研究している。スタイルにまで気を使っているほどだ。
「そうやって考えると付き合ってから変わったこと多いかも」
スキンケアを終えた簪がしみじみと言った。
言われてみれば、俺も簪と付き合って変ったことは多いかもしれない。
簪ほどではないが身だしなみはIS学園に入学した頃よりも付き合い始めてからの方が気にするようになった。俺も昔では考えられなかった。
「それからあなたは男子から男になったよね」
どういう意味だ。
「いや悪い意味とかじゃなくて、あなたの身体つき初めてあった頃よりもがっしりとして逞しくなってるもの。学園卒業した今でも現役スポーツ選手レベルで鍛えてるし」
そういうことか。
入学していた頃からトレーニングをやるようになったが受動的だった。だが、簪と付き合い始めてからはトレーニングするにしてもより明確な目標を持って受動的にするようになった。
意識改革があったのも付き合って変ったことだ。
そういった内面的な変化は数知れずだが、身体のことで言うと料理もそうだ。
簪と付き合い始めてしっかりした料理を始めるようになった。
それどころか栄養面に気を遣うようにもなった。
「ああー……それは私もそうかも。同棲するようになって自分たちでやらなきゃいけなくなったのもあるだろうけど。まあ、今じゃあなたのほうが料理上手だけどね」
そう拗ねないでほしい。
俺の場合は簪のおかげで仕事にまで繋がっている。
いい変化ばかりだ。
「ね。こうして変わっていけるのはさっき綺麗だって言ってくれたみたいにあなたが変化に気づいてくれて喜んでくれるおかげ。だから、もっと変わっていきたいって思える」
簪の言う通りだ。
変わっていくのは楽しくて、嬉しくて、気持ちいい。
相手が気づいてくれて喜んでくれるのなら尚更。
「これからも変ったこと増やしていきたいね」
…