「いや~やっぱ、ジェットコースターは楽しいな!」
「だね~めっちゃ凄かったー。流石、おりむーが勧めてくれるだけあったね」
当初の約束通り、いくつかジェットコースターを乗り回した一夏と本音。
コースの内容はどれもありきたりではあったが、それでもジェットコースター独特のスリリングや爽快感があり、一夏と本音は満足していた。
「でも、ちょっと疲れたかな~」
「だな。おっ……のほほんさん、あのベンチで休憩しようぜ」
「おっけ~」
辺りを見渡して一夏が見つけたベンチに向かい二人並ぶようにして腰を下ろす。
疲れを抜くように深呼吸して息を吐く一夏を本音は微笑ましそうに見守る。
二人の間には無言の空間が出来ていた。それは気まずさはなかったけど、少しばかりの気恥ずかしさを感じて、何か話題でもと二人して探していた。
そうしていると二人の目に繋いだお互いの手が見えた。
「あっ……手、ずっと繋いだままだったね」
「あっはは、そうだったな」
二人して繋いだまま一つになった手を見つめる。
その手は今だ繋がったまま。もちろん簪に最初言われた通りの指が互いに絡まった繋ぎ方。
今の今までずっと二人は手を繋いでいる。無論、アトラクションに乗る時など手を離さなくてはいけない時は離していたが、それでも終わればまたすぐに元のつなぎ方へと手を繋いでいた。
二人の間で手を繋ぐことに対してまだ少しばかりの気恥ずかしさこそはあれど、最初の様な気恥ずかしさからくるぎこちなさはもうない。それほどまでに今では手を繋ぐと言うことは二人にとって自然なことになっている。
しかし今は休憩。お互いに名残惜しさを感じながらも、休憩の為にと手を離した。
「……そうだ。のほほんさん、今日はありがとうな」
流石に二人っきりの時、しかも本音相手に沈黙を続けるのは悪いと感じた一夏は何か話題でもと思った話題でも考え、ふと今日感じたことを言った。
「ほぇ?」
のんびりと心身共に休んでいた最中に突然、一夏がそんなことを言うものだから、何のことかと本音は首をかしげた。
「……デ、デートだよ。今こうしてセッティングしてくれた二人にはもちろんだけど、のほほんさんには凄い感謝してる。今日の相手がのほほんさんでよかったって思うよ」
「またまた~おりむーはす~ぐ、女の子が喜んじゃうこと言うんだから~。謙遜でもそんなことは……」
「謙遜なんかじゃない。俺は本当にのほんさんでよかったと思ってるんだ」
「えゅ……」
照れくさそうにしながらもちゃんと本音を見て言ってくる一夏を見て本音はいつものほかの女の子に言うような謙遜だと思っていただけに、一夏の言葉が本心だと分かってしまい嬉しさや恥ずかしさが混ざり合って変な言葉で出て頬を赤く染め、それを隠すように俯くことしかできなかった。
――のほほんさんでよかった。のほほんさんじゃなければ、こんな風に過ごせなかったなぁ。
それは本当に本音以外の女の子に普段言うような謙遜でもなければ、軽口でもない。本心からそう思って自然と出た言葉であり、本音でよかったと身をもって感じている。
一夏にとって本音はクラスメイト……友達だが、同じ様に友達のシャルル達五人とではこうはならない。彼女達五人ともが一夏のことを一人の男として好きで惚れているが、五人互いに一夏に惚れていることを知っているだけに、他の四人よりも先に一夏と結ばれようとしてあれやこれやとして、いつも押せ押せになってしまう。
そうでなくても一夏をいざ目の前にすると、緊張からドタバタと慌しくなり、愛情の裏返しとも言えなくはない暴言や暴力を一夏は振るわれてしまう。
しかし、本音はそんな皆とは違った。 皆のように押せ押せで一夏と過ごすのではなく、常に控えめな態度でそれでいて遠慮しすぎるということもない。自分の意見や思っていることをちゃんと伝えてくれて、嫌だと感じたことには嫌だとはっきりと言ってくれる。それでいて一夏の様子や意見をちゃんと聞いてくれた上で二人の意見を合わせた上で二人共が満足できそうな行動を進めてくれる。
引っ張りまわされてドタバタとなることもなければ、愛情の裏返しだからと暴言や暴力を振るうようなことは決してない。本音の一夏に対する態度は自分の意思を持ちながらもちゃんと男である一夏を立ててくれるようでそれが一夏にとって嬉しい。
だから、一夏は今もおだやかにデートを楽しむことが出来、そうしたことがあるから今楽しめているのは本音のおかげで本音じゃなかったら、こんな風には過ごせていないと感じていた。
ただ、それだけに一夏にはある罪悪感を感じていた。
「でも、ごめんな」
突然謝られ何のことか分からない本音は不思議そうに首をかしげた。
「今日、無理やり付き合わせちゃったみたいで……」
本音が今も自分とのデートを楽しんでくれていることは一夏でも分かっている。しかし、今日のデートの理由が理由なだけに大方簪達二人に相談されて断るに断れなくなったか、巻き込まれてしまったのだろうと一夏は思った。そうなると自分のせいで無理やり付き合わせしまったみたいで申し訳ないとそんな罪悪感を一夏は感じていた。
「ストーップー! それ以上は言わせないぞ~おりむー」
謝ろうとする一夏の口元に人差し指をやり本音は拗ねたような表情を浮かべ言葉を遮る。
「まったく、おりむーは酷いなー」
「え?」
「今日、おりむーとデートしようと決めたのは誰でもない私の意志。そりゃかんちゃん達には勧められはしたけど、それでも最後にそうしたいって決めたのは私。私、おりむーとは一度デートというか出かけてみたかったんだ」
「そうなのか」
「うん。おりむーはモテモテだからね、こんなこと滅多にできないし。だから、今こうしておりむーとデートできてて私すっごい嬉しい。それにおりむーと同じなんだよ」
「同じ?」
「私も今日の相手がおりむーで本当によかった。じゃなきゃ、こんな風に楽しいデートできなかったって思うもん。今、私とっても幸せ」
はにかみながら幸せそうな笑みを満開にさせながら素直に気持ちを伝える本音に一夏はただただ見惚れる。
――俺、凄い勝手な思い違いしてたんだな。
自分がとんでもない思い違いをしていたことに一夏は気づく。それはそれでまた悪い気がするが、本音の笑顔を見ていると胸の中にあった罪悪感がゆっくりと和らいでいくのが分かる。
本音が自分と同じ思いでいたことが嬉しくて、一夏もまた今とっても幸せ。同じ思いを分かち合っているのはどうしてこんなに胸が温かくなるんだろうと感じていた。
「だから、気にしなくて大丈夫。無理やり付き合わされたなんて悲しいこと言わないで。今こうしていられるのはおりむーのおかげでもあるんだから」
「そっか……ありがとうな、のほほんさん。気持ちが楽になったよ」
「どういたしまして♪ それにこのダブルデートをかんちゃん達に提案したの私だから」
「えぇぇっ!?」
恋愛経験をつんでいる真っ最中の二人がてっきり今日のダブルデートのことを考えていたと思っていた一夏は驚いた。
むしろ、本音がダブルデートをあの二人に提案していたことに更に驚く。
「かんちゃんの彼氏君におりむーが恋愛やそういうことで女の子に興味を持ったって聞いてね。おりむー一人だと興味は持てても実際どんなことか分からないし難しいと思うから、かんちゃん達に協力してもらってダブルデートすることで少しでもおりむーに知ってもらえたらと思って提案したんだ」
「そうだったのか……」
へぇ~と感心した思いの一夏。
女の子である本音に自分が恋愛やそういうことで女子に興味持ったってことはいまだに恥ずかしいけど、嫌な思いはしない。またお節介だとも思わない。むしろ、うれしいぐらいだ。本音達が自分のことをここまで考えてくれて、ダブルデートまで考えて手助けしてくれていることは。
実際、自分一人ではいつもでも興味があるままで終わってしまいそうなことを一夏は身をもって知っている。
「そういえばさ、一つ聞いてもいい?」
「何?」
「おりむーが恋愛やそういうことで女の子に興味持ったのってやっぱり、かんちゃんと彼氏君が付き合ったことがきっかけだよね?」
「まあな。更識さん達がというよりかは、あいつが更識さんと付き合ったのがきっかけって言った方が正しいかも」
「あいつって……かんちゃんの彼氏君?」
「ああ。決して変な意味じゃないがあいつは俺にとって特別な存在だからな」
「特別……」
「ほら、あいつも男でISを操縦できるから」
ああ、なるほどっと本音は思った。
簪の彼氏もまた一夏同様男でISを操縦できる。つまるところの世界で二番目に男にしてISを扱える少年。確かに特別な存在だろう。
「俺はさ、手違いでISに触れて操縦できるようになってIS学園に入学させられて生活することになって今でこそ慣れたけど、最初はかなりキツかった」
思い出すように一夏はポツポツと話していく。
「周りは女子だらけで女子高の中にいるような気分で気が休まることなんてないし、ただでさえ女尊男卑の今で女の力の象徴?のISを動かせるから客寄せパンダ扱いされるわで。それにあんまりこんな風に千冬姉のこといいたくないけど俺の姉はあの織斑千冬だろ? やっぱり、周りからあの織斑千冬の弟だからって期待を寄せられているのは何となくでも分かった」
それは男でありながらISを使えるようになった故の必然的な悲劇。ISが急激に普及した今の世界では女にしか扱えないISは女の分かりやすい力の象徴となり、今まであった男女のバランスが崩壊し、ISを軸に国際社会が形勢されるなかで必然的に女が優遇され、おざなりにでも女尊男卑の社会風潮が広まった。そんな中でISを男が使えれば、好奇の目で周囲から見られるのは避けようのないこと。
まして一夏の姉である織斑千冬はIS登場以来からずっとISに携わり、開発者である篠ノ之束と旧知の仲で半身ともいえる存在。知識、技術共に開発者である篠ノ之束に匹敵し、競技の枠を超えて
そんな力のある女性代表織斑千冬の弟である一夏にはこれまた必然的に期待を寄せられる。
――私もおりむーにそんな期待してないなんて言えない。
本音は一夏の話を聞いてそう感じていた。
あの
「別に期待されるのはいいんだ。期待されないよりかは期待されたほうがいいし、俺は男だから期待されたら応えたい。頼られてるって感じがするからな」
事実一夏は周りから寄せられる期待に答え続けている。ゴーレム襲来しかり、VTシステム暴走しかり、福音事件しかり。どれも一夏がかかわった事件は全て一夏によって最終的に解決に導かれている。
実力においても特訓やさまざまな相手との模擬戦、実戦を通じて驚異的なスピードで力をつけ、流石はあの
だが、一夏が周りの期待に応えれば応えるほど新たな期待を寄せられ、期待は強くなるばかり。
――おりむー、何だかその内壊れてしまいそう
一夏は頼られていると言って期待され続けることに不満を吐かないが、それでも一夏は結局歳相応の男でしかない。どれほど英雄的に物事を解決に導こうとも、どれほど驚異的なスピードで実力を身につけようとも、一夏のキャパシティーを越える期待に応え続けていればいつかは壊れてしまう。
本音にはそんな気がして怖いと感じている。
「でも、正直きついことには変わらないかな。そんなこと言えるような奴、友達なんてあいつと出会うまでいなかったし。あ、のほほんさんや箒達を友達って思ってないわけじゃないぞ? でも、のほほんさん達は女子だから、男が女子にこんな弱音みたいなの言うのは正直情けないって言うか。中学までの男友達はいるけど、学園は全寮制でそう毎日気軽には会えないし、会ったところでこんなこと言えないからな」
つまりは一夏には胸のうちの奥深いところにある悩みを相談できる相談相手がいないということ。
一夏にはたくさんの友達はいるが基本的に女の子ばかり。一夏にだって男としての意地があり、男としての意地があるからこそ女の子に弱みを見せるのは情けないと感じて気軽に悩みを打ち明けることは出来ない。
かといった弾といった中学までの男友達に相談しようにも、住んでいる世界が違う。ましてやISを使えるのと使えるのでは価値観が違い始め、そうなれば一夏にとって自分の悩みはただの愚痴でしかなく、相手にとって嫌味にも聞こえかねない。
故に他人に気安く愚痴を零したり、悩みを相談することがができない。だから――。
――ああ、そういうことか。
本音は納得した。
一夏は期待に応え続けているだけで精一杯なんだ。だから恋愛になんて興味向けてる余裕がなく、余裕がないからそういう対象で見れず女子に興味がないような鈍い行動をしてしまう。
当然のことかもしれないのだ。期待に応え続けないとその期待に押しつぶされてしまいそうで、恋愛になんてかまけてられない。一夏は周囲からの期待と自分の中での悩みや愚痴との葛藤で板ばさみ。
――私達、ううん私はおりむーに過度な期待しすぎちゃって頼りすぎてる。本当は一番誰かを頼りたいのはおりむーなのかもしれない。
「あ、だからなんだね。かんちゃんの彼氏君がおりむーにとって特別なのは」
「ああ。俺はあいつに出会えてよかったよ。俺以外にISを動かせる男が現れるなんて思ってもいなかったから」
一夏の発見により、全世界で一斉に一夏以外に男でもISを使える人物がいるのではないかと調査が行われ、それによって日本で見つかったのが一夏と同い歳である簪の彼氏だ。
自分と同じ境遇でしかも同性で同い歳。現れるなんて思ってもいなかった自分以外の男でISを扱える人間がいたことに一夏は心底喜んだのを憶えている。これで漸く自分は一人ではないのだと、漸く同性の友達が出来ると思えたから。
「あいつと出会って俺達はすぐ友達になった。同じ男でISを使える者同士互いに何か共感みたいなのをしたのかもな。多少馴れ馴れしかったと今になって思うけど、あいつは邪険にはしなかったらな。それが嬉しかった」
同じ様に男なのにISを使えるからと好奇の目で見られる苦しみやISを使える男だからというだけで寄せられる期待に応えつづけないと押しつぶされる苦しみを分かち合える喜び。
異性の友達では出来ないような遊びや同性にしか話せない様な話なんかも出来る喜び。
そうして喜びを感じ、今まで周りが女の子ばっかりで辛かった一夏だが、簪の彼氏がいることで気が楽になって、楽だからこそ少しでも一緒にいようとする。
それが一夏が同性愛者と疑われる様な行動の理由であり、今までの反動の証拠だった。
「あいつと過ごせる時間は気が楽で疲れなくてよかった。その分、あいつには迷惑かけたみたいだけど。それでもIS学園っていう生活の場で同性の友達がいるっては本当に嬉しいし、助かってる」
しかし。
「でも、あいつはあいつで辛い中でも気づいたら更識さんっていう彼女作って……それが何かな。別に更識さんに嫉妬なんて気持ち悪いことしてないけど、彼女が出来た途端冷たくなった気がして寂しかったんだ俺は」
「寂しかったか……私も分かるな~それ」
「のほほんさんも?」
「まあ、ね~かんちゃん、彼氏君できてから本当に彼氏君にべったりだから」
「ははっ、そっか」
本音も一夏の言いたいこともその気持ちも同じ体験をしているだけによく分かる。
「恋人が出来た途端友達付き合い悪くなるって本当だったんだな」
「本当にねー。かんちゃん、彼氏できたことで明るくなって前よりもいい方向に変わったのはうれしいんだけど……かなり惚気話聞かされちゃったなぁ~」
「のほほんさんもか。俺もあいつにかなり惚気話されたよ。勝手に話す事はなかったけど、ニヤニヤ幸せそうにしてて俺から聞かないといけない感じになってさ」
「かんちゃんも同じだよ。部屋にいる時いつもニヤニヤ幸せそうにして聞かないといけない雰囲気っていうのかな? いざ聞いたら惚気話たくさんされてあれは面白かった半分困ったよー」
「俺もだ。本当あいつら似たもの同士だな」
「ねー、まったく」
惚気たくなる気持ちは分からなくはないが、ああも惚気話をたくさんされると流石に……といった苦笑いにも似た同じ表情を浮かべる一夏と本音の二人。
「でも、あいつがあんなに幸せそうにしているんだ。そんなに夢中になるほど恋愛っていいものなのかと思って」
「で、おりむーは興味を持ったと」
「まあ、な。本当興味持っただけだけど」
けど、一夏が興味を持てたことは出会ったばかりの頃の一夏を知っている本音にしたら驚くべきことで、興味を持てたのは簪の彼氏と出会い、同じ立場の人間がいるからこそ余裕ができたからこそなんだろうなと本音は思った。
「それでどうなの? おりむー。今日のことで……その、恋愛がどんなことなのか? 好きな人がいて好きな人と恋愛っぽいことするのってどういうことか分かった?」
「うん、まあ……少しは。言葉にしろって言われたら、流石に上手く言葉には出来ないけど。のほほんさんとデートしてさ、恋愛してるってこういうことなんだと好きな人がいるってこういうことなんだと何となくだけどこうなのかって思えるよ。何だかむず痒いけど、それはそれで悪くない。こういうの……幸せっていうのかな」
「幸せかぁ~そうだね、こういうのを幸せって言うんだよ。私、おりむーの役に立てたかな?」
「役に立てたってレベルじゃないぞ。言っただろう? のほほんさんじゃなかったらこんな風に過ごせなかったよ。こんな風に思えなかった。本当、のほほんさんのおかげだよ」
「ふふっ、それならよかったぁ~」
簪の彼氏のように本音もまた一夏に何かしら変わるきっかけを与えることが出来て、今日のデートが無意味なんかじゃなかったと一夏の言葉からちゃんと知ることが出来ることが出来て嬉しくなる。
何より、その一夏の幸せそうな笑顔を見れて、本音も嬉しくて胸が幸せで満ちていくのを感じた。
…
のほほんさんisGod
二人っきりになった一夏と本音の様子をお送りました。
ほぼ始めての三人称で書いたので長くなってしまい申し訳ございません。
何故一夏が恋愛に興味をもったのか、その具体的な理由と
そしてかなり拡大解釈でありますが、私なりに原作の一夏が何故あそこまで鈍感なのか、ホモっぽく見えるのかというのを考えてみました。
楽しんでいただけたり、何かまた別の考えをするきっかけになったりすれば幸いです。
ちなみに簪さんたちは出ていませんが、見守っているという体です。
まあ、最初の方で二人がいい感じなのを見て、見守るのやめましたが……
で、今回も簪の彼氏君は例の如く、オリ主――「あなた」です。
決して一夏ではありません。
無論、主人公は簪が好きなこれを読んでいるあなたかもしれません。
それでは~