辺りは白い景色に包まれていた。
上下左右360度が白い世界だ。
身体の感覚はフワフワしていてどこか居心地がいいとすら感じてしまう。
あれ?わたし何でこんな所にいるんだっけ?
確か放課後になって、奉仕部に行って、それから、えっと、うん!家に帰ったんだ
それでベッドに横になって…あ、分かった。
ここは夢の中だ。ときどきあるよねー。自分が今夢を見ているって感覚。
どうせ夢なら何かいいことないかな~
すると、白い世界から一転してとある教室の前にわたしは立っていた
そう。奉仕部の部室の前だ
夢の中では3人の先輩方は何してるのかな~
そう思いながら扉に手をかけようとした時に中から声が聞こえてきた。
『それでも…』
あれ?これって先輩の声だよね
『それでも、俺は…』
あれ?ちょっと待って…この言葉の次って確か――
そう。わたしは知っている。この言葉の後を…
わたしが偶然聞いてしまったあの時の言葉
わたしの心の中に鋭く突き刺さった先輩の心の叫び
『俺は、本物が欲しい』
ドクン!と夢の中なのに心臓が跳ねた
すると、急速に頭の中が熱くなり何も考えられなくなる
「うっ…」
少し息苦しいのを感じると、うっすらと目を開ける
そこはわたしの部屋だった
予想通り、わたしは制服のまま寝ていたようだ
「ふぅ…」
ゆっくりと起き上がると、徐々に意識が覚醒していく
「本物が欲しい…か」
そうだよね。先輩のあの言葉を聞いた時、気になっちゃったんだよね
わたしの本当の気持ちってやつを
わたしは恋人はいたことはないが、男友達?は多くいた
何人もの男の子に『可愛いわたし』をアピールすることで群がってくる男の子は後を絶えなかったし、わたし自身もいい気分だった
いつだったか大多数の男の子はわたしを着飾るためのアクセサリーとさえ感じ始めた
特定の男の子にだけみてもらえばそれでいい
その特定の男の子が皆の憧れる葉山先輩だったのだろう
だけど、それは果たして『本物』だと胸を張って言えたのだろうか
皆が憧れていたから、あの人の彼女になれたらステータスになるから
そんな考えが、先輩の言葉を聞いた後に駆け巡った
だからこそ、確かめてみたかった。自分の気持ちをぶつけてみたいと思った
例え、結果が分かりきっていたとしても
幸いにも場所とシチュエーションは平塚先生がくれたチケットで最高の舞台が整っていた
戸部先輩に図ってもらい葉山先輩と二人っきり、夢の国、夜に咲く花火
そこで、わたしの気持ちをぶつけた
結果は予想通りだった。予想通りだったけど、やっぱり悲しかった
思わず涙が出てきた程に
でも、何か胸に突き刺さっていた針が抜けたように気持ちは軽くなった
そして意外にも悲しみを引きずることはなかった。
やけにあっさりと割り切れる事ができたのだ。
その時に気づいた。やっぱりわたしの気持ちは『本物』というには軽すぎるものだったのだと
言うなれば『葉山先輩に恋するわたしに恋していた』
こんな感じだったのだろう。
じゃあ、今のわたしはどうなんだろう?
あの時脈打った鼓動の正体、今までに見た事のない自分の姿
あの時の感情は、『本物』なのだろうか…