甘粕正彦が見た未来がISだった件   作:雨着

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唐突ですが、FGOって面白いですよね!(脈略がなさすぎだろオイ
※今回もちょっと少なめです。ご注意ください。


第二十四話 約束

 聖とラウラの模擬戦の話は瞬く間に全生徒に伝わっていった。それも当然だ。何せラウラという少女はあらゆる意味で注目されている。立場に態度、その両方から鑑みて彼女に目をつけているものは少なくない。そして、さらにいえば彼女の持つ第三世代型のIS。その能力や仕様を暴こうと何かしらのアクションを待っていた者も多いはずだ。

 故に。

 

「すげぇ人数だな、こりゃ……」

 

 聖とラウラの模擬戦当日。観客席から集まっている人数を見ながら一夏は呟いた。

 IS学園のアリーナ観客席は全生徒が集まっても大丈夫なように作られている。だが、実際にそれくらいの人数が集まるのは何かしらのイベント時のみだというのが常。だというのに、今、ここにはほぼ全学年の生徒がごった返していた。

 皆、聖とラウラの模擬戦を見たいがために集まった者達だ。

 そして一夏に箒、セシリア、鈴、シャルルもまたその中に入っている。

 

「これは、以前のクラス対抗戦よりも多い気がするな……」

「気がする、ではなくて、確実に多いですわね」

「ええ。何か癪だけど」

 

 というのは箒にセシリア、鈴。

 そんな彼女達の言葉にシャルルは続く。

 

「へぇ。そうなんだ……でもやっぱりそれだけ皆気になってるんだよ。ドイツの第三世代型の実力ってものが。何せ未だまともな情報が出ていないからね。ほら、この前だって姿を見ただけで皆興奮してたでしょ? あれが証拠だよ。一夏も気になるでしょ?」

 

 シャルルの問いかけに一夏は「う~ん」と唸っていた。。

 

「まぁ……確かにな。いずれあいつとは戦うことになるだろうし、情報を多く仕入れたいってのはあるよ。でも……俺的には世良の試合が観れるのが楽しみってのもあるな」

「世良さんの?」

「ああ。正直、俺がこんなこと言える立場じゃないってのは理解してるけど、それでもあいつがどう戦うのかは気になるな」

 

 一夏は自覚している。こんなことになったのは自分や千冬のせいであると。

 本来ならあそこにいるのは一夏自身だ。そしてラウラと戦うべきなのだ。恐らく事情を知っている者なら誰しもがそう言うだろうし、一夏もそうするべきだと今でも想っている。

 けれど、一夏は知っている。世良聖という少女がいかに頑固者なのかを。

 一度言ったことは絶対に曲げない。最後までやり通す。そんな彼女が既に宣戦布告してしまったのだ。今更何を言ったところで状況を変えることができないのは一夏も重々承知していた。だから屋上の説得も諦めたのだ。

 けれど一方で、微かではあるが彼は思っていたのかもしれない。

 世良聖が戦うところを見てみたい、と。

 そして、それは自分だけではないこを彼は理解していた。

 

「ほう。これは興味深いことを聞いたな」

 

 ふと聞きなれた少女の声がした。

 振り返ると、そこには――――。

 

「あま……かす?」

 

 甘粕真琴がいつものような不敵で奇妙な笑みを浮かべて立っていた。

 ……正確に、より正しく言うのなら、小脇にポップコーンを抱え、右手にフランクフルトを持っている、と付け加えなければならないが。

 

「何やってんだ……?」

「ふむ。少々小腹が空いていたところに出店があったものでな。ついつい買ってしまった。いやはや、流石はIS学園。こういうイベントに際し、こういった配慮を持った生徒がいるとは」

 

 いや出店って、そんなのどこかにあったか?

 

「……それ、絶対違反の類だろ。大丈夫か?」

「何。心配はいらんさ。出店の少女もそれを覚悟してやっていると述べていたからな。それに感動したため、私もこうして買わせてもらったわけだ」

 

 大仰な言い回しだが、結局のところ腹が減ったから買い食いをしていることに変わりはない。

 

「でも、何で観客席にいるんだ? 俺はてっきり世良のピットにいるとばかり」

「ああ、それも考えたのだがな。今は最終調整に入っている。流石にそれを邪魔する程、私も野暮な人間ではないのでな」

 

 最終調整……? その言葉に首を傾げる一夏に甘粕は言う。

 

「それはそうと、織斑一夏。今回の模擬戦、お前はどう見る?」

「どう見るって……」

「もっと簡単に聞こうか。ヒジリは、ラウラ・ボーデヴィッヒに勝てると思うか?」

 

 単刀直入な質問ではあるが、この場でそれを答えるにはあまりに酷な質問でもあった。

 けれど。

 

「俺は勝てると信じてるよ」

 

 甘粕の前にいる少年は何の迷いもなく即答した。

 その言葉に甘粕が「ほう……」と呟く中、シャルルが横から口を開いてきた。

 

「即答だね、一夏。でも、相手はドイツの第三世代型だよ? 情報が少ない上、世良さんが使うのは学園側が貸出をしている第一世代。話を聞く限りじゃ、多分リヴァイブだね。だとするとスペックの違いも大きい。それにISの適合性もラウラの方が上だよ。だとしたら……」

「関係ないよ、シャルル」

 

 シャルルの説明を一夏は一刀両断する。

 

「スペックの差とかあいつには意味がないんだ。そんな程度でどうにかなる奴じゃないんだよ、世良は」

 

 そう。世良聖とは計算や盤面の良し悪しでどうこうする少女ではない。そんなものをひっくり返すところを一夏はその目で見ているのだ。例え自分がどれだけ不利な状況であろうと、例え自分がどれだけ傷つこうとも、決して諦めず、解決策を探し出す。探してないなら作る。自分に正直で、真っ直ぐな心の持ち主。言葉にすると簡単ではあるが、けれどもそれを実際にやり遂げる者を一夏は知らなかった。

 不撓不屈の精神。それを具現化したような彼女を、だからこそ一夏は応援したいし、信じている。

 彼女が必ず勝つ、と。

 そしてそれは一夏だけではなかった。

 

「そうですわね。あの方は自分と相手の差を理解しながら、それでも倒す方法を探し出す。わたくしの時にそうしたように、今回も必ずそうしてくれると信じてますわ」

 

 かつて彼女に追い詰められた少女も。

 

「まぁ、あの頑固者がそう簡単にやられるところとか、正直想像できないわね。何せ、負けず嫌いって面に関しては私が知る限り一番だし」

 

 かつて彼女に背中を押された少女も。

 

「世良が努力していることは私達は知っている。それが無駄ではないということをきっと見せてくれるだろう」

 

 かつて彼女の背中を見て、己もそうありたいと思った少女も。

 

 全員が世良聖という少女の在り方を理解し、そして彼女が勝利を掴むことを信じていた。

 そして今度は逆に一夏が訪ねる。

 

「お前はどうなんだ、甘粕」

 

 一夏の質問に甘粕は。

 

「無論。信じている。ああ、信じているとも。彼女の努力、気概、信念。それを私は知っている。恐らく、この中の誰よりも彼女を見ているからな。だが、それは私個人の視点にすぎん。ふとな、他の者がどう思っているのか、気になったのだ。しかし……そうか。それがお前達の答えか。ならばよし、最早これ以上の無粋な質問はヤメだ。共に彼女の勝利を願って観戦するとしよう」

 

 不気味とも言えるその笑みの言葉に、けれども一夏は嘘偽りがないのだと感じたのは気のせいではないだろう。

 

 *

 

「気分はどうだ、世良」

『平気です。問題ありません』

 

 ピット内で最終調整をしている聖。その光景を千冬は管制室から見ていた。

 正直、最初聖から今回の提案を聞いた際、千冬は耳を疑った。模擬戦を通してラウラの視野を広がせる。そんなことは馬鹿げていると思った。

 相手はドイツの第三世代型。しかも情報が少ない相手だというのに、どう戦うというのか。

 けれども一方で、だからこそ、と思う自分がいた。ラウラは生まれながらの軍人だ。説教や言葉よりも戦いの中で、という方が理解してくれる可能性は十分にある。実際、千冬に心を開いたのもその戦闘技術があったからこそ、と言っても過言ではない。そう考えるならば聖が提案してきた内容は可能性はあるかもしれない。

 だがしかし、だ。彼女があまりに不利な条件であることは変わりはない。

 ラウラは軍人として育てられてきた。無論、ISとしての操縦も千冬が徹底して叩き込んでいる。故に現状を鑑みるならばラウラは一年生の中でも最上位に近い実力の持ち主。そして専用機持ちというアドバンテージ。

 その相手に聖は貸出のISで戦うという。

 これで安心しろという方が無理な話だ。

 そして、それは麻耶も同様である。

 

「世良さん、大丈夫でしょうか。以前のこともありますし……」

 

 麻耶の心配は尤もなものだった。

 以前、というのは無論セシリアのとの試合のこと。彼女の体が弱いことは千冬は勿論、教師側のほとんどが把握していることである。故に今回の模擬戦に関しても千冬はかなり他の教師達から言われている。

 大丈夫なのか、また気絶したりしないのか……その疑問は当然のものだ。ISには安全装置や絶対防御があるものの、危険がないわけではない。そして、万が一の場合、問題になった時、責任を取るのは教師側なのだ。ましてや一度聖は倒れている。何かあるかもしれない生徒に模擬戦をやらせるわけにはいかない、というのは千冬にも分からるし、実際最初は彼女も止めていた立場だった。

 

「安心しろ、問題はない……とは言えんな。本来ならば教師としては止めるべきなのだろう。だが……世良がやるというのだ。あれが一度言いだしたら聞かないのは、君も承知しているだろう?」

「あはは……そうですね」

 

 乾いたような笑みを浮かべる麻耶。世良聖という少女がどれだけ頑固者なのかは、もはや一組全体に知れ渡っている。一度決めたら最後まで曲げない。その姿勢を皆、セシリアとの試合で見ているのだから。それに代表を決める際の推薦。あの場での啖呵も彼女がどういう性格なのかを鮮明に表していると言っていい。

 今回はラウラの件が絡んでいる。彼女のことを任せた身としては出来うる限り、聖の手助けをしたいと考えている。

 

「山田君には悪いが、世良のメディカルチェックを常に確認してくれ。何かあればすぐ報告を」

「了解しました……それにしても不思議ですね」

「? 何がだ」

「ボーデヴィッヒさんが今回の模擬戦を受けたことです。代表候補生としての立場もそうでしょうけど、彼女の性格から考えて、申し込まれても即決で断ると思って」

「ああ、それか。それはだな―――――っとそろそろ時間だ。二人に準備にかかるよう伝達を」

 

 は、はい、と言いながら麻耶は二人にピットから出るように指示を出す。

 試合開始まで三分。

 

 *

 

「―――来たか」

 

 聖がアリーナに入場すると既にラウラが待ち構えていた。

 そして、聖の方に視線を送った途端、眉をひそめた。

 

「正直、ここに至るまで私は半信半疑だったが……まさか本当にそんな量産型で私に挑むというのか?」

「当然でしょ。私は専用機持ちじゃないんだし。けど、量産型だからってあんまり舐めていると足元掬われるわよ」

「ふん。世良聖。貴様のデータは見させて貰っている。確かにISの操縦に置いて貴様は他の者とは一線を画しているのだろう。そこは認める。だが、私とこのシュヴァルツェア・レーゲンは貴様如きがどんな小細工をしたところで意味はない。全力で排除してやる」

 

 相変わらずの上から目線な言葉。しかし、聖にとってみればそんなものは既に日常茶飯事。そもそもにして、彼女にはラウラよりも人あたりのきつい母親がいたのだ。今更ラウラの挑発に乗るほど、沸点は低くない。

 

「それよりも貴様、例の約束は覚えているだろうな」

 

 約束。そう、聖はある約束の下、今回の模擬戦をラウラに承諾させたのだ。でなければ彼女が素直に自分と模擬戦をしてくれるとは到底思えなかったし、実際最初は断れていた。

 そして、その内容というのが。

 

「貴様が負けたら次の学年別トーナメントにペアとして参加する。そこで織斑一夏と対戦できるよう手伝う。そしてその後、貴様は私に一切関わらず、私の行動に口を挟まない。この内容に間違いはないな」

「ええ。問題ないわ」

 

 自らに不利な内容にけれども聖は即答する。

 時期が迫っている学年別トーナメントはペアでの参加となり、事前に申請をしなければならない。期限までに申請ができていない者には当日抽選が行われ、強制的にペアとなり出場する。

 ラウラからしれみれば抽選でのペアでも別に構わないだろうが、聖が出した提案は一夏と対戦できように手助けをする、という点。ラウラにとっても損はない提案だ。

 

「私は織斑一夏を排除する。そして、教官の、あの人の汚点をこの世から消し去るのだ。これはその前哨戦。奴に私の圧倒的力を見せつけてやる」

「あっそう。でも、悪いわね。私も自分から申し込んだ以上は負ける気は毛頭ないのよ。だから―――全力で勝ちにいかせてもらうわよ」

 

 殺意と敵意。それぞれがぶつかり合いながら各々自らの武器を展開する。

 そこから先は無言。互いに喋ることは既に言い尽くし、故に静寂が二人の空気を支配する。そのせいか、会場までもが静けさで包み込まれ、二人の様子をじっと伺っていた。

 そして。

 

『カウントダウン始めます。5、4、3、2、1、0―――――試合開始です』

 

 瞬間、二人の銃口から火花が舞った。




ようやく、海鮮、否開戦です。
今回の約束の条件、ラウラにとっては然程重要ではないと思われるかもしれませんが、実際知らない相手と当日組むより事前にどういう相手が知っておいた方がマシ、というのが彼女の考えです。またラウラからしれみれば聖は尽く自分の邪魔をしてくれるわけですから、それを無くすため、という理由があります。
さて、次回からやっと対戦になるわけですが、聖がラウラをどう攻略するか、楽しみにしててください。
それでは!!

PS
今回は甘粕は何もしません。
ええ、本当ですとも。

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