甘粕正彦が見た未来がISだった件   作:雨着

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部屋の片付けをしなきゃいけないのにいつの間にかまた書いていた
※今回、甘粕が大人しめです。ご注意ください。


第十二話 乱入

 唐突だが、凰鈴音は泣いていた。

 

「うっ……ぐすっ……」

 

 瞳から涙を流し、鼻から水を零しているのは織斑一夏が原因……ではない。

 その要因は彼女の目の前で流れるモノ。

 もっと詳しく言えば、テレビ画面。

 そこに映る一人の女性の姿に、生き様に、鈴は泣かずにはいられなかった。

 

 

『ああ……これでようやく眠れる』

 

『本当に長い間、旅をしてきた。だからしばし休ませてくれ』

 

『死は無に非ず。おまえたちが創る新しい世界で――――』

 

『――――きっといつかまた会おう』

 

 

 そう言って女性は光の粒子となって消えていく。

 彼女の仲間との確かな絆に包まれて、何とも言えない幻想的な光景が広がる刹那―――

 

 

 

■■■■■(ジークハイル)……■■■■■(ヴィクトーリア)……』

 

 

 かつて彼女が守ろうとした世界の言葉で仲間の勝利を願うと口にして……。

 女性―――――御門龍明という一人の女はその生涯を終えた。

 そして同時に鈴の涙腺も崩壊していた。

 

 

「うぅ……龍明ぃぃ……あんたって奴は本当にいい女よぉ……」

 

 などと言いながら両手で瞼を擦る彼女に聖はティッシュをさりげなく差し出す。それを鈴は即座に取り、鼻をかんだ。

 

 現状の説明をすると、だ。

 数日前、いつものように鈴が織斑一夏に対する愚痴を聖の部屋でしていたら、簪がやってきて甘粕と共に神座シリーズのアニメを観賞し始めた。それを鈴も観るようになり、結果がこれである。

 

 その顔は他人に見せられたものではないが、しかしこれはしょうがないと聖も想う。

 だってここだもの。御門龍明のこのシーンだもの。神座万象シリーズを知っている者なら誰だって涙する場面だもの。

 実際、聖や簪は何度も見ているというのにその眼には涙が溜まっている。甘粕に至っても泣く様子はないもののどこか感じ入っているようだった。

 

「母刀自殿のこのシーンは何度見ても泣ける……」

「うむ。かつての仲間や友と対立しながらも自らの主に対する忠義、そしてそんな中で見出した仲間との絆。それらを守り、そして貫いた彼女の生き様は感嘆に値する」

 

 それは心からの言葉、なのだろう。

 甘粕にとってアニメや漫画の登場人物だろうが関係ない。創作だろうが作り物だろうが、己の行き方を通した者は彼女にとって賞賛すべき者なのだろう。

 

「……ところでリンよ。明日のクラス対抗戦で想い人である織斑一夏と対戦するわけだが……」

「ぶふぅっ!?」

 

 鼻をかんでいた途中での不意打ちに鈴は思わず奇妙な音を立てた。

 

「なっ、何言ってんのよ、真琴!!」

「何、今更隠すことでもなかろう。お前……いや、お前や箒、セシリアが織斑一夏の事を好いているのは周知の事実だ」

 

 なっ、と顔を真っ赤にさせる鈴であったが、本当に今更だと聖も思った。

 

「それよりも、だ。リンよ。確認しておきたいのだが、明日の戦い、勝てる自信はどのくらいある?」

「何よ急に……勿論、負ける気なんかないわ。明日は私の勝ちで決まりよ」

 

 ほう、と呟きながら甘粕は続ける。

 その絶対的な自信が甘粕の何かに火をつけたのだろう。

 

「その根拠は何かな? もしや相手が男だから、という理由か?」

 

 この時、もしかすれば甘粕はある種の試験をしていたのかもしれない。

 目の前にいる少女、凰鈴音が世の歪みに染まっているか、そうでないかを確かめるために。

 そして。

 

「はぁ? 何よそれ。そんなもの、根拠でも何でもないじゃない」

 

 きっぱりと、まるで何だそれはと言わんばかりの口調で鈴はいう。

 

「私は中国代表候補生よ。自分で言うのもなんだけど、それなりに努力してきたつもり。だから自信があるし、自分が勝つって確信してる。そこに男だ女だ、なんて理由はないわ」

「なるほどな。では相手が織斑一夏でも必ず勝つ、と?」

「当然。一夏は最近ISを使い始めたばかりだけど、あいつ昔っから時々突拍子もないことするから油断はしない。徹底的に叩き潰すだけよ」

「……それは約束を勘違いされていたことへの憂さ晴らしじゃ……」

「べ、別にそんな理由はないわよ! そこ、余計なこと言わない!!」

 

 聖の呟きに鈴は素早く反応する。なるほど、理解した。

 顔を真っ赤にさせながら、ゴホン、と咳き込むと鈴は再び甘粕に対して口を開く。

 

「それに今の私は二組のクラス代表でもあるわ……まぁ無理やりかっさらったことは事実だし、一夏がクラス代表になったからって理由も否定しない。でも、その分責任はあると思うし、それを忘れるほど私も落ちぶれちゃいない。だから私は負けられないの」

 

 その言葉に嘘がないのは聖にも理解できた。

 そう。目の前にいる少女は自信を持っているのだ。それは過信でも奢りでもない。努力に努力を重ねてきた本物の自信。その過程に何があったのかは本人以外は誰にも分からない。けれど、己が努力し強くなったとしても責任というものを忘れていない彼女はやはり本物なのだとここにいる全員が認識した。

 そして、だからこそ。

 

「――――ああ、理解した。お前の言葉、覚悟。しっかりと脳裏に刻み込ませてもらった。ならば明日は存分に戦ってお前の輝きを私に見せてくれ」

 

 甘粕真琴は不敵な、しかしどこか嬉しそうな笑みを浮かべたのだろう。

 

「? よく分からないけど、まぁ楽しみにしていないさい!!」

「ああ。言われずとも、期待している」

 

 未だ甘粕という少女と付き合いが短い鈴は彼女の言葉に少々首を傾げながら答えた。一方の聖や簪は慣れているためか、それほど大きなリアクションは無かった。

 しかし、彼女達……否、この学園の誰もが知らなかった。

 明日の試合で大きな厄介事が起きるということを。

 

 *

 

 クラス対抗戦当日。

 天候に恵まれたのだろう。空には雲一つ存在していなかった。

 一組と二組だけでなく、他のクラスの生徒も観客としてやってきている。

 そんな中、教師に問題児扱いされている少女達……聖と甘粕は他の生徒からは少し離れた場所にいた。

 クラスの連中といるのが嫌い、というわけではないが……正直な話、聖にとってこれだけの人がいると酔ってしまうのだ。

 

「さて聖。一つ問おう。今回の対抗戦、どちらが勝つと想う?」

 

 何の前フリもないその質問に聖は面倒臭そうに答えた。

 

「さぁ? 普通に考えれば鈴だけど、勝負事に絶対はないから」

「ふむ。その意見には賛同だな」

「けどまぁ正直な話、わたしには織斑一夏が勝つってイメージが湧かないのだけど」

「ほう。それは何故?」

 

 続けて投げられる問いに聖はいう。

 

「この数日、鈴とはそれなりに一緒にいたし、人と成りも少しは理解しているつもり。彼女の気概はそんじょそこらのものじゃないってのが理由。まぁ実際に戦っているところを見たわけじゃないけど、これでも一応は代表候補生の実力を身にしみて実感しているから」

「なるほどな」

「そして織斑一夏の戦いをわたしは見てないってのが大きい。見てないものよりも、実際に戦って実感した方がより印象的になってるだけなんだろうけど」

 

 結局のところ、聖の根拠とはそれなのだ。

 聖は織斑一夏とは戦っていないし、彼の戦いを見てない。それよりもセシリアと同じ代表候補生の鈴の方が強い、と思っているだけだ。

 こんなものはただの偏見。見ていないにも拘らず、一方的に決めるのはどうなのかと思われるかもしれないが、しかしそれだけ代表候補生の印象と実力は強い。

 などと言っていると。

 

「どうやら出てくるようだな」

 

 甘粕の言葉と同時、ピットから二人が飛んで出てきた。

 空中で止まり、何やら話込んでいる二人であったが、審判の合図と共に構え、そして。

 激突する。

 

 試合が始まってしばらくした後。

 戦況はやはり、というか流石というか、鈴が優勢であった。

 彼女の使うISの武器は青龍刀。中国映画などでしか見たことがない聖だったが、中国人である彼女にはぴったりの武器であると同時に、身の丈程あるそれを、よりにもよって二本も使いこなしているその姿からやはり彼女は代表候補生なのだと再認識する。

 一方の織斑一夏は刀のような光の剣で対抗している。噂で聞いたが、名前は「雪片弐型」。織斑一夏が扱うIS『白式』の専用武器。

 上手く躱してはいるが、余裕は見当たらない。防戦一方とは正しくこのこと。青龍刀を雪片弐型で受け止めるのが精一杯、というところか。

 しかし青龍刀は打撃系、刀は斬撃系の武器である。打撃系統の武器と斬撃系統の武器で受け止めるのは達人以上の者でなければ簡単に使い物にならなくなってしまう。けれど、それでも未だ武器として通用するのはそれだけ雪片弐型が特殊な武器だからだろう。だが、だからと言って織斑一夏に勝機は訪れない。

 

(しかも……)

 

 と聖が心の中で呟くと、鈴のISから『何か』が放たれた。

 直撃する直前、織斑一夏は何とかそれらを避けることに成功し、そのまま飛行しながら回避し続ける。

 これこそが、鈴が優勢になっている要因。

 見えない何かが、鈴の武器になっており、それが織斑一夏に襲いかかる。

 

「衝撃波……いや、衝撃砲と言うべきかか」

 

 不意に甘粕が呟く。

 

「何、簡単な手品だ。空間自体に圧力をかけ砲弾を射出しているのだろう。見たところ、連射だけでなく、溜め撃ちも可能なようだ。それらを組み合わすとなると、厄介この上ないな……しかも」

「しかも?」

「あれの最大の特徴は目に見えない、というところだ。見えないのならばいつ攻撃されるのか、どこに攻撃されるのか、ギリギリまで予測不能だ」

 

 それはまた、面倒なものである。

 見えない砲身に砲弾。そんなものを相手にしてしまえば、予測など不可能に近い。銃系統の相手を倒すには、その砲身を見て予測するのが普通だ。それができない、と言われているのだ。

 けれどそれでも織斑一夏は食らいついていた。男の意地、というただ単純なものだけではないのは何となく分かっていた。

 何か秘策でもあるのだろうか?

 などと考えていると、織斑一夏が雄叫びを上げながら鈴に特攻を仕掛ける。

 

「うおおおぉぉぉっ!!」

 

 瞬間、雪片弐型を振り上げる。

 トップスピードで駆け抜ける彼の先にはここぞとばかりに待ち受ける鈴が―――――

 

 

 その時である。

 何かが壊れる音と共に凄まじい閃光が辺り一面を支配した。

 

 




 というわけで鈴も神座シリーズとファンになるのだった。
 ……はい、冗談はここまでにしろ、と。了解です。
 というわけで前半は鈴と甘粕の対談、後半は乱入まででした。
 以前言いましたが、甘粕は鈴のことが気に入ると思うんです。よって今回のような対談になりました(まぁその前に感動のシーンを一緒に観ているわけですが。
 これで彼女は既に甘粕のえも……ごほん、良き友人になったわけです。やったね(白い目

 さて、未確認ISの搭乗で次回はどうなるのか……そもそも甘粕や聖の出番はあるのか……。
 それは次回のお楽しみということで。
 それでは!
 

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