甘粕正彦が見た未来がISだった件   作:雨着

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あ、ありのまま今までに起こったことを言うぜ……。
俺は前のあとがきに「あやかしびと」なるゲームをやってくると宣言した。しかしいつの間にか原作者が一緒の「Bullet Butlers」までもクリアし、そしてそれらがコラボする「クロノベルト」のエンディングを見て号泣していた。
な、何を言っているのか わからねーと思うが俺も何を言っているのかさっぱり分からねぇ。
ただ一つ言えることがあるとすれば……東出祐一郎先生。俺はあんたの作品に出会えたことを誇りに思うぜ。
※↑のこれは深夜のハイテンションで書きました。ご注意ください。


第十話 布告

 黄金の獣は語らう。

 

「無為だと遠ざけた、塵芥だと烙印を押して通り過ぎた。本当は全てを愛してやりたかったのに、愛するには万物全て脆すぎたから。

 ああなぜだ、なぜ耐えられぬ。抱擁どころか、柔肌をなでただけでなぜ砕ける。なんたる無情だ、森羅万象、この世は総じて繊細にすぎる。

 ならば我が愛は破壊の慕情。愛でるためにまずは壊そう。頭を垂れる弱者も、傅いて跪く敗者も、反逆を目論む不忠も、全てが愛しい。ゆえに壊す」

 

「それこそが唯一の道理。私は死を眺め、感じながら生きている。だがそれは死を拱く事ではなかった。

 愛でるべきものを愛でず、労わりすぎて放置するなど無粋の極み。だからこその死を想え(メメント・モリ)だ」

 

 彼に(あい)される者達へ、それを行う彼自身に向けて。

 死は想い。だからこそ厳粛に受け止めて欲しいのだ、この愛を。

 それは歪んだ考え。しかし彼にとってみれば何も特別なことではない渇望。

 満たされぬ心の空洞。その不感症を癒すために全てを飲み込み進んできた。まだ壊していないものを求めてきた。

 しかしまだ―――まだ喰い足りない。飢えた獣は猛っている。

 心躍る好敵手。全力を出すに足る難問。そのために喰らおう、我が生の証明を、さらにさらにさらに。

 

「全てを愛そう。『卿』とて例外ではない。その平等を与えぬことこそ、蔑ろにしている証明そのものではないか」

 

 未だ壊さなかったもの。何より愛すべき他者。それを放置することなど今の彼には不可能だ。

 なぜならば。

 

「そうだ。私は――――」

 

 黄金の長髪が靡く。軍服はその厳粛さを表し、その手にあるのは光り輝く黄金の聖槍。

 開かれた瞳は―――凄烈に輝く黄金の眼光。

 

「私は、総てを愛している! 故諸共(あい)してやろう!」

 

 開放される力は無限大。

 その力の前に一人の男はしかしていつものような無表情のままでいた。

 軍人の理想、鉄の化身、断頭台、閃剣、光刃。

 あらゆる呼び名で尊敬を畏怖を集めた男だが、一番の呼び名はやはり『英雄』だろう。

 

「……そうか。それが貴様の在り方か、ラインハルト・ハイドリヒ」

 

 アドラー最強の戦士にして総統―――――クリストファー・ヴァルゼライドはラインハルトを見据えながら口を開いた。

 

「その覇気、その気概。ああ、認めるとも。総てを愛する……それは俺が持ち得ないものだ。心の底から尊敬の念を送ろう」

 

 しかし。

 

「だが受け入れることはできん。貴様のそれは世界を地獄に変える。そこには数多の悲劇があり、絶望が混合する。民草の涙を容認するほど俺という人間の器は大きいわけではない」

 

 悲劇、絶望。それらの幕はここで下ろさせてもらう――――涙(おまえ)の出番は二度とない。

 

「俺とて奪い、勝ち取ってきた。敵を踏みつけてここまで来た。しかしそれら戦ってきた夢の数々、無価値であったわけではなく、劣っていると見下すなどいったいどうして出来ようか」

 

「そして勝者の義務とは貫くこと……涙を笑顔に変えんがため、男は大志を抱くのだ」

 

「貴様の渇望はそれら全てを無に還す。だから俺は貴様を否定する。その上で教えてやる」

 

 内に秘めた光熱を解き放たんと刃を二振り、引き抜いた。

 視線の篭る決意の火は、強く尊く眩しく熱く――――

 

「貴様を殺すのが俺の役目だということを」

 

 威風堂々と言い放った瞬間、クリストファーの体から発生する光。それらは眼前にいるラインハルトが見せる輝きに劣っていなかった。

 黄金の獣と黄金の英雄。

 今、二つの黄金が牙を向け、そして。

 

「来るがいい。勝つのは私だ!」

「抜かせ。勝つのは俺だ」

 

 瞬間、黄金の爆発が世界を巻き込んだ。

 そして。

 そして。

 そして……。

 

 *

 

『K.O.』

 

 テレビ画面にデカデカと表示される赤文字をまじまじと見ながら更識簪はコントローラーを落とした。

 

「そんな……私の獣殿が負けるなんて……」

 

 それは落胆というより驚きというべき声音だった。

 当然だろうと聖も思う。

『神座万象シリーズ』。そのコンテンツの一つである格ゲーは既に世界中に知れ渡っており、超が付くほどの有名なゲーム。

 簪が使っていたキャラクター……ラインハルト・ハイドリヒという男はその中でも強い能力を持っていた。扱いはそこそこ難しいがしかしとあるシュピ虫さんの言葉を借りれば「そこはそれェ、慣れととでも言いましょうかァ」的なことである。そして簪はどう見てもラインハルトを使いこなしていた。流石は彼の爪牙の一人というべきか。っというか何を言っているんだ、私は……。

 ちなみに。

 甘粕が使っていたクリストファー・ヴァルゼライドは神座万象シリーズには登場しないのだが、製作元が同じ作品の超有名なキャラクターということで少し前にコラボという形で参戦したのだが……あまりにも違和感が無さすぎて今では間違えて神座万象シリーズキャラとして扱われることもしばしばあるという。

 などと聖が訳のわからない電波を拾っている間にも簪は口を開く。

 

「私はハイドリヒ卿を扱うに足る人間では無かったというの……? 愛が足りなかったと……厳然な実力差とはこういうものなの……?」

「いいや、そんなことはない」

 

 簪の言葉を甘粕は否定する。

 

「お前の実力は本物だ。その熱、その愛、その輝き。偽物などと言わせはせんよ。コントローラーを持ち画面に向かっていたお前は生き生きとしていたぞ。その光景に私は思わず見蕩れてしまった程だ」

「でも……」

「ああ確かに今回は私が勝利した。そしてお前は負けた。それは事実だ。だが、それが即ち貴様の情熱が劣っているという証明になるわけではあるまい? 何度か負ければそれで全てが意味をなさなくなる。誰だそんなことを決めたのは。勝ち続ける努力は素晴らしい。だが負けて後悔し、それを次に活かすのもまた素晴らしいことだと私は思う」

「真琴……」

「ゲーム如きで? 所詮お遊び? くだらん。そんな理由を並べてへらへらと笑う連中が多くいる。だが、そういった連中に限って何かに没頭し続けるということができんのだ。だが、お前は違う。ゲームであってもアニメであってもお前はそれに対して愛がある。熱がある。それを好きなことに誇りを持っている。そんなお前に私は心底期待しているぞ」

 

 だから、と言って甘粕は続ける。

 

「私は信じている。お前がいつか、私を超えることを。そしてその時が来るまで私もお前の壁であり続けると約束しよう」

 

 嘘偽りの無い言葉に簪は驚きと戸惑いを隠せずにいた。

 今まで自分にこんなことを言ってくれる人間はいなかった。馬鹿にされるか、苦笑されるか、認めてもらえないか。

 簪の姉は優秀だ。ISを自分で作ってしまう程に。

 だからいつも比べられる。表立ってはないが、しかしそれでも分かるものは分かるのだ。それが嫌で簪もまた自分一人でISを作っている。それが単なる対抗心や劣等感から来ていると問われれば頷くほかないだろう。そしてそれから逃げるように簪はアニメやゲームに没頭した。

 そんな事情を甘粕真琴は知らないはずだ。もしかすれば彼女が本当のことを聞けば幻滅するかもしれない。失望するかもしれない。愛想が尽かされる可能性だって有りうる。

 それでも。

 それでもだ。

 自分のことをここまで真っ直ぐ見てくれたのは今まで誰もいなかった。

 またそのことが嬉しいと思う気持ちも初めてである。

 そして……いやだからこそだろうか。

 簪は小さな笑みを浮かべながら甘粕に対していう。

 

「ねぇ……お願いがあるんだけど、いいかな」

「何だ?」

「その……もう一度、私と勝負してくれる?」

 

 勇気を持った少女の言葉。そしてそんなことが大好きな魔王(ばか)がそれを断るわけもなく。

 

「ああ、いいだろう。そうでなくてはな。さぁ、お前の輝きを私に見せてくれ!」

 

 そういって再び画面に向かう二人。

 この瞬間、彼女らには奇妙な友情らしきものが芽生えたのかもしれない。簪にとって何かしらのきっかけを与えたのかもしれない。彼女が抱える問題がこれで解決するとは到底思えないが、それでも彼女に何かしらの変化を及ぼすことがあったのかもしれない。

 それはいい。それはいいことだと聖も思う。どれだけ問題児だろうと、他者に与える影響が大きいのが甘粕真琴という少女だ。それが良い方向へ行くか、それとも悪い方向へと行くのか。それは聖はおろか、甘粕自身にも分からないことが最大の欠点ではあるが。

 しかしこの場合それは置いておく。ここで聖が言いたいことはそんな小難しい話ではない。

 ただ彼女は一言物申したいだけなのだから。

 

「あんたら……いい加減にしなさいよっ、今何時だと思ってんの!!」

 

 ビシッと部屋の時計を指差す聖。それは既に夜の十一時を示していた。

 

「む? ヒジリよ。せっかくの再戦を邪魔するとは少し無粋ではないか?」

「同意。今から私と真琴は真剣勝負を再開するの。邪魔しないでほしい」

「いや、だからそんな真面目な顔で言われても何の説得力もないから!」

 

 別に聖はゲームやアニメを馬鹿にはしてない。いや、むしろそれらに影響されて成長したと言っても過言ではないだろう。

 だが、だ。それでも限度というものがある。ゲームのやりすぎ、アニメの観すぎ。それらはある種の達人への道なのかもしれないが、しかしやはり実生活においては適度な活動が一番のはずだ。

 そもそも簪が部屋にやってきてからの四時間。その間ずっとゲームをやり続けていることから察しても彼女達がやりすぎな状態であることは明白だ。

 いや、簪と会って話をしている内に流れで部屋へ連れ込んだ聖にも責任があるが……。

 などと思っていると甘粕が再びその口を開いた。

 

「確かに、お前の言いたいことは分かる。ゲームをやりすぎる、というのは確かに傍目からしてみれば不健康極まりない行為だ。健全とは到底言い難いのだろう。しかし」

「しかし?」

「それを差し引いても尚、私は彼女と戦いたいのだよ。彼女が私に死力を尽くすその姿、その輝き。見てみたいと思ってしまうのだ。ああ、これは私の勝手だ。お前にとってみれば迷惑この上ないことだというのは容易に理解できる。故に、だ」

「故に?」

「お前が私の行為に不満があるというのならその力をもって私を退けるしかないだろうな。とは言え、ここで殴り合い、というのは些かどうかと私は思う。いや、その展開は結構な割合で私好みなのは確かだが」

「いや、頼まれたってそんなのゴメンよ」

「だろうな。だからこそ私は別の提案をしてみたいと考える。具体的には」

「具体的には?」

 

 反復する聖の問いに甘粕はコントローラーを見せながら答えた。

 

「我々にゲームをやめて欲しかったら、お前が我々にゲームで勝てばいいという話だ」

「うるさい黙れこの馬鹿」

 

 どこまで言っても我を通す甘粕によって聖に日常は今日も崩れていくのであった。

 

 *

 

 一年二組に転校生がやってきた。

 昼休みの時間帯はその話題で持ちきりだった。

 

「転校生か……こんな時期になんて珍しいんじゃないのか?」

 

 何気ない疑問を口にしたのは女子生徒に囲まれている織斑一夏であった。無論、その中には篠ノ乃箒やセシリアの姿もある。何やら自分以外の女子が彼の周りにいるのが気に食わないのか、少し拗ねているように見えるのは聖の見間違いではないだろう。

 そして当然のことながらその女子連中の中に聖は含まれていない。ただ無駄に大きい会話が聞こえてくるだけである。

 

「まぁそうだよねー。でも、何だか事情があって入学するのが遅れたってだけで別に転校してきたってわけでもないんだけど」

「そっかぁ……」

「しかもその子、国家代表候補生って噂もあるのよ」

「代表候補生? それってセリシアみたいな?」

「そうですわね……しかし、一体どこの国の方なんでしょうか?」

「確か中国、とか言ってたような……」

 

 その瞬間、聖の隣にいた甘粕が「ほう」と口を開いた。

 何やら知っているらしいその態度が気になったせいか、聖は珍しく彼女に質問した。

 

「……どうかしたの?」

「ん? いや何。先日それらしき少女と会ったことを思い出したのだ」

「会った?」

「ああ。道を尋ねられてな。その時に言っていたよ。自分は中国から来た代表候補生だ、とな」

 

 瞬間、なるほどと納得する聖。つまりは顔見知りということか。

 それにしても代表候補生となるとやはりセシリア位の強さを持っているのだろうか、と思案する。だとするのならその転校生が二組のクラス代表になることも有りうる話だ。

 ならば織斑一夏からしてみれば要注意人物である可能性も高い……が、あの唐変木がそんなことを気にするタイプとは到底思えなかった。これは聖の単なる一方的な見解だが、彼は出たとこ勝負を得意としているところがあるように思えた。そんな彼がクラスの代表として闘うであろう相手の偵察に趣いたり、調べたりするなど手の込んだことをするとは考えづらい。

 しかしだからと言ってそれを指摘してやるつもりは無かった。それは彼が自分で考え導き出さなければならないことだ。それが代表、クラスの長として闘う者の責任というやつだろう。

 そしてその彼が言った一言は。

 

「どんな奴だろう? 強いのかな?」

 

 …………。

 何とも能天気な言葉に聖はもう何も言う事は無かった。

 

「でも、今のところ専用機持ちがいるのはうちを入れて一組と四組だけだから。何とかなるって」

「そうそう。それに織斑君には頑張ってもらわないとねぇ。主に食券的な意味で」

「そうだよ織斑君。君にはクラス皆の想いを背負ってもらうからね。主に食券的な意味で」

「責任重大だね、織斑君。主に食券的な意味で」

 

 そして彼を応援しようとするそこの女子ども。お前らの頭には食券のことしかないのか。いや、そりゃ学食デザートの半年タダ券は嬉しいことだけど。是非とも手に入れてもらいたいものだけど。

 

(とはいえ……何だかんだであいつもすっかり溶け込んでるわね)

 

 女子だらけの場所でああも何の不自然もなく会話できている彼にはある種の才能があるのかもしれない。いや、唐変木だからこそやれる技なのだろうか。そこのところは……あまり追求しない方がいいだろう。

 女に世の中の男への意識を変えさせる……などと大仰なことは無論できていない。今この状況が良い方向へ向かっているのか、あるいは悪い方向へと向かっているのか。それすら分かっていないのだ。いや、そもそも本人にその気が全くないのが最大の問題というべきか。

 一体、彼がこれから先、どんな事件や出来事に巻き込まれていくのか、聖には分からない。

 分からないが、だ。

 それはきっと彼個人ではなく、周りを巻き込む形となるのは目に見えていた。

 

「――――――専用機持ちが一組と四組しかないって情報は古いわよ」

 

 聞き覚えのない声がしたのは教室の入り口だった。突然の出来事でそこに多くの視線が集まる。そしてまた聖もそちらへと目を向けるとそこにはやはり見覚えのない長い茶髪をツインテールにした少女が不敵な笑みを浮かべて立っていた。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

 その言葉には一切の嫌味はなかった。彼女の言葉にはどこか信念というか、熱意のようなものを感じたのは聖の気のせい、というわけではないだろう。恐らくは彼女が噂の転校生なのだろうが……そこでふと織斑一夏の様子がおかしいことに気づく聖。何やら驚いたと言わんばかりな表情を浮かべていた。

 

「鈴……お前、鈴か?」

 

 その言葉に彼女はありったけの自信を持って答えた。

 

「ええ、そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ!」

 

 こうして歯車は進んでいく。全てを巻き込み、どこまでも進んでいく。




甘粕がヴァルゼライドが大好きなのは公式設定である。
……という冗談はさておき、更新が遅れてしまい申し訳ありません。
前書きに書いたゲームやりすぎも原因なのですが、真面目な話リアルでの事情が重なるに重なってしまして。ええ、ホントにすみません。
しかし、前回にも申し上げたように更新がガチで遅れることがこれからも多くなります。それでも続けていきたいと思いますので、何卒、何卒よろしくお願いします!

それではまた次回に!

PS
何故だろうか……鈴ちゃんが登場するのがいつも最後ら辺、しかもちょっとしか出れないのは。

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