甘粕正彦が見た未来がISだった件   作:雨着

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おふざけな回って必要だと思うんですよ
※とある少女が登場しますが、またまた性格が変わっているかもしれません。ご注意ください


第九話 趣味

 四月も下旬に入った頃、聖はようやく平和な日常を取り戻した……などという展開は当然のことながら起きなかった。

 朝のトレーニングには毎日のように甘粕が連れ添う状態になっており、自分のペースで走らせてもらえないのは当たり前になっている。それでも続けるのは聖にもプライドがあるためだ。

 問題なのは未だ続いている奇妙な夢。

 セシリアとの試合の日の夜は見なかった夢だが、しかしその次の日からはまた同じような繰り返しが起きるようになった。しかし、以前と違う点があるとすれば日が昇っている間に襲ってくる眠気が然程気にならなくなってきたということだろう。夢の内容が薄れたのか、それとも聖が慣れたのか。どちらにしろ、体調管理はしっかりとしておかなければまた同じことの繰り返しだ。

 授業中に関してもよく織斑一夏が中心となって小さな騒動……つまりはセシリアと箒の言い合いが勃発する。今日も飛行訓練の際に織斑一夏をどちらが教えるかで揉めていた。千冬は大きなため息を吐き、甘粕に至っては不敵な笑みを浮かべていた。

 甘粕曰く「男を取り合う女というのは醜いと言われているが私はそうは思わない。自らが惚れた男を物にするために努力し、敵対し、そして勝ち取ろうとするその意思は尊重すべきものであり……」などと宣っていはいたが、要するに面白がっているわけだ。いや、甘粕風に言うならばその輝きに魅了されていたというべきか……。

 今は別に何もしないと思うが、そのうち何かやらかしそうだ。その場合、箒とセシリアにはお気の毒としか言えない状況になるのは丸分かりであったが、わざわざ修羅場に赴くほど聖はお人好しではないので何も言わない。

 そんなこんなで夕食時。

 

「というわけで、織斑君クラス代表決定おめでとう~!」

「「「おめでとう!!」」」

 

 食堂に響き渡るクラッカー音。乱射されるそれは激しい音と共に少量の煙と色付き紙テープが宙を舞った。壁には『織斑一夏クラス代表就任パーティー』と書かれてある手書きの紙が貼られてあった。つまりはそういうことである。

 ちなみにこんなことをすれば寮長である千冬の雷が落ちると思われるかもしれないが、既に許可はとってあるらしい。

 そもそも聖がこの場にいるのも半分は千冬に言われたからである。

 

『お前の性格上、出席したくないのは分かるがそれでもクラス代表選で戦った一人で、お前も一組の生徒だ。顔出しくらいはしておけ』

 

 ご尤もである。

 しかし聖は人見知りではあるが、母ほどではないと自覚はしている。というのも、彼女の母親はそれはもう人と関わるのが嫌いというか苦手というか、高校生活ではステルスモード全開で当時付き合っていた父以外との交流はほとんどなかったという。さらに驚くべきことに『あの人達』とちゃんとした顔合わせは父と付き合いだしてから四年後だったそうで……まぁその時にかなりいじられたという逸話がある。本人にそれを聞き出そうとすると物凄い形相で「二度と聞くな」と言われたのは聖の記憶に残っていた。

 一方本日主催の本人はというと。

 

「…………」

 

 何やらめでたくないと言わんばかりな表情を浮かべていた。自分は負けたのに何故、と考えるのは無理からぬことだろう。もし聖が同じ立場ならそう思う。

 周りを見てみると女子という女子がお喋りをそこら中でしている。この就任パーティーは一組のパーティー。しかしながらその数は明らかにひとクラスのそれを超えている。男子がクラス代表になったことで偵察に来たのか、はたまた面白そうだから混ざろうと思ったのか。どちらにしろ、これは多すぎる。

 

「人気者だな、一夏」

「……本当にそう思うか」

「……ふん」

 

 機嫌が悪そうにお茶を啜る箒。意中の男が女子に囲まれている、というのが気に食わないと見た。そして聖の隣にいる甘粕はやはり口元がにやけている。

 とそこに。

 

「はいはーい、新聞部二年、黛薫子でーす! 話題筆頭の新入生、世界でただ一人ISを動かせる男、織斑一夏君にと・く・べ・つ・インタビューをしに来ましたぁ!!」

 

 元気よく現れた少女に一同が「おお!!」と唸る。

 

「では早速ですが、織斑君! クラス代表になった感想をどうぞ!!」

「え? えーっと……頑張ります?」

「っておい!! それだけかい!! っていうか、頑張りますはいいとして、何故疑問形!? いやぁ、もっとこう、なんていうか『俺に触ると火傷するぜ!!』とか『俺様の美技に酔いな』とか『俺に勝てるのは俺だけだ!』とか」

「いや、何か後半変なものが混じっていたような気が……っていうか、そんなこと言われても困りますよ。自分、不器用ですから」

「おお、何という前時代的な台詞……まぁ、そこらへんは適当に捏造するとして」

「捏造!? 今この人捏造って言わなかった!?」

「セシリアちゃんからも何かコメントもらおうか」

「ってスルー!? スルーするの!?」

「そうですわね……わたくし、こういったコメントはあまり好きではありませんが……」

「そしてセシリアも何事も無く進めるな!!」

 

 織斑一夏の怒涛のツッコミにしかして誰も聞く耳を持たない。

 

「コホン、ではまず、どうしてわたくしがクラス代表を辞退したかというと、それはつまり……」

「ああ、ゴメン。長そうだからいいや。写真だけ頂戴」

「さ、最後まで申し上げておりませんのに!!」

「大丈夫。大丈夫。そこから辺は上手く捏造しておくから。ん~そうだなぁ……織斑君に惚れちゃったから、とかにしておこう。そうしよう」

 

 なっ!? と驚きの表情を浮かべるセシリア、織斑一夏、そして箒の三人。しかし、そんな彼らを他所に薫子は話を進めようとする。

 

「それじゃあえーっと、最後! 世良聖さんに話を聞きたいんだけど……」

「……あれ?」

 

 ふとそこで織斑一夏は気づく。

 先程までテーブルの隅に座っていた金髪少女の姿が無いことに。

 

「世良の奴、どこに行ったんだ……?」

 

 *

 

 敵前逃亡ではない。

 別に新聞記者とか面倒そうなものが来たから食堂から逃げたのではなく、ただ単に疲れたから部屋に戻っているだけだ。

 だからこれは断じて敵前逃亡ではない。

 ……などと誰かに向けているのかも分からない言い訳を心の中でつぶやき続けながら聖は歩いていた。

 

「まぁ、実際は逃げてきたんだけど」

 

 本音を口にしながらのその表情はどこか自嘲気味だった。

 母親よりはましとはいえ、やはり聖はどうにもああいう場所が苦手だ。見知った人たちならまだしも、ただのクラスメイトともなれば話は別。特に一組は問題児やら厄介児やらが勢ぞろいしているのだ。あのまま居続けたら確実にロクな目に合わないに違いない。

 

「けど、これからどうしよっか」

 

 逃げてきたはいいが、しかし何か目的があるわけでもない。

 ここは取り敢えず部屋にでも帰ろうかとしたその時。

 

「……音楽?」

 

 どこからか音楽が聞こえてきた。しかもその音楽は聖が良く知っているもの。小さい頃から叔母に聞かされたそれはしかして聖の心に根強く残っている。

 音が聞こえてくる方向へと足を運ばせるとそこにあったのはIS整備室。そこから漏れ出す音楽……いや、正確にいうのならばBGMか。それはやはり聖が聞き知っているものだった。

 ドアを開けるとBGMはさらに大きなり、確信へと変わる。

 そして。

 

『そしてこれも言わせてもらおう。貴様、いつまで死体を抱いている!』

 

 その声もやはり聖がよく知る者の声だった。

 

『失くしたものは戻らない。彼はそれを誰よりも知っているからこそ、刹那を愛したのではなかったのか』

 

『その煌きを、燃焼を、疾走したからこそ光と仰いだ。それはすなわち、未来を信じていたからに他ならん』

 

『邪神の理、おぞましい。自らそう弾劾し、器ではないと封じていたこの太極を、彼が憎悪の泥を纏ってまで展開したのは何のためだ』

 

『その先を願い、前を見ていたからだろう! この泥濘(ぞうお)の果てにも花は咲くと、信じていたからではないというのか!』

 

『それを貴様ら、そろいもそろって彼の憎意(あい)に甘えよって! それが貴様らの報恩か! これが貴様らの絆なのか!』

 

 

『笑わせるなよ甘ったれども! 真に愛するなら壊せ!』

 

 

『彼もそれを望んでいる。そしてこれは、我が君の遺命である!』

 

 黄金の獣に忠誠を貫き通した女の意思は聖の胸を打つものがある。

 簡潔に言えば。

 

「「やっぱり母刀自殿はかっこいい……」」

 

 声がシンクロしたかと思い、ふと声がした方へと視線を向けるとそこにいたのは眼鏡をかけた水色髪の少女。

 少女もまたこちらの存在に気づいて視線を合わせてくる。目を見開き、何やら見られてはいけないものを見られた、と言わんばかりな表情を浮かべていた。文句の一つ口にしたいのだろうが、しかし驚きのあまり何も言葉がでないのだろう。

 とりあえず聖は一言。

 

「……その……ごめん」

 

 

 

 

 更識簪。それが彼女の名前だった。

 一年四組の所属であり、日本の代表候補生である専用機持ち。

 整備室にいたのは自分のISの整備をしていたからであり、その合間に自分が好きなアニメを見ていたらしい。そしてその休憩中に聖が入ってきてしまった。

 それが今までの経緯である。

 

「……、」

「……、」

 

 気まずい。

 これはかなり気まずい。

 自分がアニメを一人で見ていてそれを全くしらない赤の他人に見られてしまった。その恥ずかしさは聖にも充分に分かる。が、だからと言って聖が何を言えばいいのかが分からないのも事実だ。

 とりあえず、ベタな質問をすることにした。

 

「……神座万象シリーズ好きなの?」

 

 問いを投げかける聖から数メートル離れた場所で簪はコクリと頷いた。

 

「……あなたも好きなの?」

「好きというか、まぁ昔から見てるものだから……見さされたっていった方がいいのか。叔母とかその知り合いが大の神座万象シリーズのファンでね。姪っ子の私に色々吹き込んでくれたおかげでいらないことばっかり知ってるわよ。あとゲームも持ってるし」

「本当?」

「こんなことで嘘ついてどうするのよ」

 

 聖の言葉をまじまじと聞きながら簪は問い返してくる。

 

「質問。神座万象シリーズ第二弾『Dies Irae』に出てくるメルクリウス。その別称を知っているだけ答えて」

「知っているだけって……えーっと、水銀の蛇、カール・エルンスト・クラフトにカリオストロ、あとサンジェルマン、だっけ? それくらいしか知らないわよ」

「じゃあ次の質問。神座万象シリーズの座の理を一から答えて」

「理って……二元論、堕天奈落、天道悲想天、永劫回帰、輪廻転生、大欲界天狗道、天照坐皇大御神……だったはず」

「最後の質問。何でもいいから詠唱して」

「いや、何その無茶ぶりは!! 何でもいいからって……」

「詠唱して」

 

 抵抗は無意味である。

 じっと聖を見つめるその視線は真剣そのもの。それを無碍にするのは今の聖にはできなかった。

 仕方なく、彼女は自分が唯一言えるであろう詠唱を口にする。

 

「えーっと……うみははばひろく、むげんに……」

「ダメ。そんなの全く詠唱じゃあない。もっと気持ちを込めて」

 

 瞬間、ムカッときた聖はしかして逆にやる気が起きた。

 いいだろう。ならばそこまでいうのなら、見せてやる。昔から『あの人達』に仕込まれた自分をなめるな! 

 などと思いつつ彼女は一番いいずらく、そして演技が重要な台詞を告げる。

 

 

「『アセトアミノフェン アルガトロバン

  アレビアチン エビリファイ

  クラビット クラリシッド グルコバイ』」

 

「『ザイロリック ジェイゾロフト セフゾン

  テオドール テガフール テグレトール』」

 

「『デパス デパケン トレドミン

  ニューロタン ノルバスク』」

 

「『レンドルミン リピトール

  リウマトレック エリテマトーデス』」

 

「『ファルマナント ヘパタイティス

  パルマナリー ファイブロシス

  オートイミューン ディズィーズ』」

 

「『アクワイアド インミューノー デフィシエンスィー

  シンドローム』」

 

 

「『――太・極――』」

 

 

「『マリグナント チューマー アポトーシスッ!!』」

 

 ………。

 ……………。

 ……………………。

 言い切った。やりきった。それはいい。一言も噛まずに間違えることなく詠唱を口にできたのは素晴らしい。晴れ晴れとした気持ち。ああ、そうだとも、私は今、生きている!!

 ……などという言い訳は無論、通じずあるのはただの恥ずかしさだけ。

 赤面しながらその場に蹲る聖に対して、簪は拍手を送った。

 

「凄い……あの『宿儺』の台詞を一文字も間違わずに言えるなんて……」

「あのさ。拍手はやめてもらえる? 滅茶苦茶恥ずかしいから」

 

 目を輝かせる簪に聖は注意するものの恐らく聞いていない。

 何やらごそごそとしているかと思えばどこからかスケッチブックとマジックペンを取り出した。

 

「じゃあ次はベイ中尉の創造を……」

「断固拒否よ」

 

 速攻で断わったのは何も間違っていないのだと聖は強く思った。




簪ちゃんは本来ヒーロー物が好きな少女なんですけど、神座万象シリーズ好きでも問題ないと私は言いたい!

更新速度が遅れてしまい、申し訳ありません。けど、亀更新って言っているので問題は……あっ、はい。ありますよね。すみません。
しかし、実際のところ更新が遅れるのは度々あると思います。何分、リアルでも色々とやることが多いので……。

それでは次回までおさらばです!
さて、『あやかしびと』をプレイするか(オイコラ

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