やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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よそ見は計画的に。

 ある日の朝、憂鬱な朝をスタートさせるべく朝食を食べていると、小町がジャムを塗ったトーストを片手にファッション雑誌を見ていた。

 確かヘブンティーンとかいう雑誌だった気がする。女子中学生の間で最もキテいる雑誌らしく、読んでいないほうがおかしいらしい。クラスの女子が読んでいるのを何度か見かけたこともある。

 頭の悪そうな言葉を羅列している雑誌に八幡は苦い顔をしているが、小町はうんうんと頷いている。

 小町ちゃん?共感するのはいいけど、パンのクズをぽろぽろ落とすのはやめようね?はしたないわよ。

 「おい、時間」

 時計を一瞥した八幡が小町の肘を突く。

 時刻は七時四十五分。そろそろやばい時間だ。着替えすら済ませていない小町ならば尚更だ。

 「やば!」

 時計を確認すると思い出したように雑誌を閉じ立ち上がる。

 俺は、ジャムってる?やら自動小銃やら我が弟妹のコントを聞きながら野菜ジュースを飲みほした。ちなみに俺は紫派だ。

 「兄貴も遅れるぞ」

 「へいへい」

 小町の生着替えを横目にコーヒーに砂糖と牛乳を入れながら八幡が俺にも忠告してくる。

 そういえば、最近小町はよく牛乳を飲むようになったな。あれか、乳の強化週間。八幡がそう言っていたような気がする。

 「……」

 俺は小町のちょっとばかり膨らみのある壁を見ながら、心の中で頑張れ小町!と思うのだった。

 「人生は苦いから、コーヒーくらいは甘くていい……」

 そんな八幡の独り言を聞き流しながら。

 

 

 「れっつごー!」

 「おーう!」

 「元気だな二人とも……」

 準備を終えた俺達は学校へと向かう。

 いつも通り小町は八幡の後ろだ。

 「よーし!今日は小町が乗ってるからね!お兄ちゃん事故らないように気を付けてよね!」

 「俺一人の時ならいいのかよ……」

 「やだなー妹の愛だよ!お兄ちゃんが心配なんだよ!」

 「お兄ちゃんも心配だぞ!八幡!」

 「まじで小町を乗せてるときは気を付けてね。まじで」

 ガチトーンでまじでと二回言った八幡はイラついた表情を見せながらも、ペダルをこぎ始めた。

 しれっとスルーされたのはもう慣れっこだもんね!寂しくなんかないやい!

 しかし、八幡のことを心配しているのは本当だ。

 八幡は去年の入学式に事故に遭っている。もちろんガハマちゃんのことだ。それ以来というもの、八幡を一人で登校させることはなくなった。

 今では三人で登校しているがこれは数か月前からであり、もともとは俺と八幡が一緒に登校していたところに小町が加わったのだ。

 「……あのワンちゃんの飼い主さんうちにお礼に来たよ。お菓子貰ったー。美味しかった」

 「俺それ食べてないんだけど?」

 八幡が小町を見た後に俺へと視線を向ける。

 いやん。そんな熱い視線を送られたら冷や汗出ちゃうわんっ!もう、出てるけどな。

 「同じ学校だって言ってたし、お礼にも行くって言ってたよ?」

 小町の言葉を聞いた八幡が慌ててブレーキをかける。その反動で小町の顔が八幡の背中へと埋まってしまった。

 あらあら痛そう。

 「なんでそういうことを言わないかね……。名前は?」

 「お菓子の人?」

 「それは名前じゃねえよ……」

 「忘れちった!」

 そういった小町は学校が目前にあることを確認すると自転車から飛び降りて校門へと向かっていった。

 八幡は呆れたように溜息を吐いている。

 「うわーん!お兄ちゃん!」

 鞄を忘れた小町を見ながら。

 またですかい。

 

 

 穏やかな太陽の光が差し込む教室ではいつものように授業が行われている。

 受験生特有の張りつめた雰囲気は未だ片鱗を見せてはおらず、後ろの席の男子生徒は小さく寝息を立てていたりする。

 隣のめぐりは流石生徒会長というべきか、真剣に黒板の板書を眺めている。その姿を眺めるのが授業中の定番となっている。ふむふむと頷きながら授業を受けているめぐりを見ているのは飽きない。時々俺の視線に気づいて笑いかけてくれるのも颯太的にポイント高い。

 まあ、あまりめぐりに迷惑をかけるのも悪いし、ふと校庭に目を向けてみる。

 ちょっと窓側の大山君?あなた大きくてよく見えないわよ?縮め!縦にも横にも!

 なんとか大山君の間から校庭を見てみると男子生徒が準備運動をしていた。今現在はまとまって行動しているが、そのうち選択した種目によって分かれていくだろう。

 特徴的な金髪をした葉山君や、比企谷家伝統のアホ毛を揺らす八幡の姿があることからおそらく二年生だろう。八幡から聞いた話によると、今回はサッカーとテニスから選択するらしい。圧倒的にテニスの方が多かったらしいが。

 先生の話に耳を傾けながら校庭を眺めていると、男子生徒が二つのグループに分かれて散らばっていった。

 葉山君は取り巻き連中と騒がしくテニスコートへと向かい、八幡は太った男の子と話していた。なんだか動きがうるさい子だが、もしかするとあの子が材木座君かもしれない。少し言葉を交わすと八幡もテニスコートへと向かっていった。

 あ、材木座君はサッカーなんだ。ボッチなのに。

 そして、体育教師の厚木の指示を受けたテニス選択の生徒達はコート内に広がっていった。騒がしくスライスだのなんだのと叫んでいる金髪の男の子が良く目立つ。もちろん悪い意味で。ここまで声が聞こえてますよ?

 八幡は厚木に上手く取り入ったのか一人で壁打ちをしていた。

 俺は八幡らしいなと思いながら一人壁打ちをしている八幡を眺めていた。

 やばいな、あの一人で黙々と壁打ちをする八幡が可愛すぎる。少しミスって球を取りに行く姿も可愛い。いかんな、顔がニヤけてきた。

 「おい、比企谷。私の授業はそんなに笑顔を浮かべるほど面白いか」

 その言葉にだらしなくニヤけた表情のまま固まってしまう。

 やべぇ、窓から顔が動かせねぇ!大山君こっち見ないで!なんか恥ずかしいから!

 「比企谷?なぜ私の顔をみない?ほら、こっちを向け」

 「あれですよ、今日寝違えて正面向けないんですよ」

 「さっきまで城廻の方を見ていたのを私が気づいていないとでも?」

 うそーん!ばれてたの!?いかん、汗が止まんねぇ!てか大山!ニヤニヤしてんじゃねえよ!今度、お前が授業中に早弁してたことばらしてやるからな!

 「比企谷。こちらを向けと言っている」

 「ういっす」

 声を低くした平塚先生の言葉に反射的に正面を向いてしまう。

 こええよ!なんだよさっきの低い声!今ので向かなかったら確実に拳食らってたな。

 「やっと目が合ったね」

 こんなにときめかないこの言葉を聞いたのは初めてだ。むしろ恐怖しか生まれないよ!

 「ひ、平塚先生は今日もお綺麗ですね」

 「そんなお世辞を聞きたいわけじゃない。……はぁ。何を見ていた?」

 「弟です」

 「……はぁ」

 平塚先生は俺の言葉に溜息を吐き額に手を当てた。

 「城廻。生徒会の仕事はまだ山ほどあるよな?」

 汚ねえ!この人めぐりを味方につけようとしてやがる!めぐり!ここはそんなにありませんって答えるんだ!俺はめぐりを信じてるぞ!

 「……はい!山ほど!」

 俺の願いむなしくめぐりはこれでもかという程良い笑顔で答えた。

 「そうか。ならば比企谷。今日の放課後、お前には生徒会への奉仕活動を命じる。城廻。こいつを好きに使ってくれ」

 「了解でーす!」

 くそ!黒めぐりんがここで発揮されるとは!今日だけは恨むぞめぐり!俺の放課後はお前によって奪われたんだからな!

 こうなったらとことんよそ見を!

 「次はないぞ、比企谷」

 「ういっす」

 アハハ!逆らえるわけないじゃないですかー!

 

 

 「めぐり。一生恨むぞ」

 「颯君が悪いんだよー。よそ見なんてするから」

 昼休憩、俺は早速めぐりの元へと向かった。もちろん文句を言ってやるためだ。

 「それに、たまには生徒会の手伝いもしてもらいたいし」

 「そんなの生徒会役員でできるだろ」

 「できるけど人手は欲しいの!それに約束忘れたの?」

 「別に忘れてはないけど……」

 めぐりが生徒会長に就任する際、俺とめぐりは一つの約束をした。

 「颯君、なるべく手伝うって言ってくれたよね?あれは嘘だったの?」

 そう、俺はめぐりの仕事をできる限り手伝うと約束したのだ。

 もともとめぐりに生徒会長になることを勧めたのは俺だった。しかし、めぐりはなかなか承諾してくれなかった。そこで先程の約束をしたのだ。

 まあ、それだけでめぐりが決心したわけではなく、陽乃さんの後押しもあってこそなのだが、めぐりの生徒会長就任を一歩近づけることができただろう。 

 「嘘じゃないけどよ……」

 「だったらたまには手伝ってよ!いいでしょ?」

 「……わかったよ」

 まあ、約束は約束だしな。小町にメールしとこ。

 「ありがとう。颯君大好き」

 「はいはい、俺もだよ」

 馬鹿め、耳を赤くするくらいなら言うなっての。


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