やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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人には誰しも苦しむ時期がある。

 雪ノ下家での一件の翌日、昨日のことがまるでなかったかのように俺とめぐりはごく普通に学校生活を送っていた。

 とはいえ、もう少し、本当にもう少しすれば俺達三年生は自由登校となり学校に来なくても良くなる。センター試験を控えているならまだしも、指定校推薦で早々に内定を決めている俺達は逆に迷惑になる為、先生からもよほどのことがない限り来てくれるなとも言われている。

 まあ、来なくてもいいのに来るもの好きはいないと思うけどね。

 ……いや、知り合いに一人いましたわ。流石に毎日とはいかなくても週に一回は必ず来てた魔王さんがいましたわ。

 とまあ、そんなこんなで内定を決めた生徒にはなんとも緩い空気が流れていた。

 「ねー颯君」

 「なんだー?」

 そんな日の休み時間、隣の席に座るめぐりが緩い空気そのままに話しかけてくる。

 その緩い雰囲気とほんわかとした笑顔と声に思わず脱力してしまったぜ。恐るべしめぐりん。

 「なんか結構前から噂になってるんだけど、雪ノ下さんって葉山君と付き合ってるの?」

 「……」

 なんなの!緩い雰囲気でめっちゃ重要なことぶっこんできやがったよ!いや、絶対ありえないとは思うけど、あまりにも緩すぎませんかね!

 「めぐり……。泣かされたくなければ雪ノ下さんの前でその話しちゃだめだぞ」

 「んー?えっと、わかった」

 めぐりは首を傾げているがわかったと納得した様子を見せる。

 しかし、校内ではそんな噂が広がってるのか……。なぜそんな噂が出たのかは知らないけど、いろんな意味で有名な二人だし広まるのは必然だったのかもしれないな。

 「そういえば颯君。明日二年生向けに進路相談会があるんだけど、それに参加してほしいって平塚先生が言ってたよ」

 「あー、そういえば去年もこの時期にあったな。……もしかして」

 「うん。去年と同じように卒業生代表としてはるさんと双葉さんも参加予定だよ」

 「やっぱりかぁ……」

 我が総武高校では、毎年この時期に二年生向けの進路相談会を実施している。うちは校風の自由さからはあまり想像できないが、地元ではなかなかに有名な進学校であるため進学に向けてこの時期から意識している子は多い。

 その為、早めにこのような行事を行っているのだ。

 そして、その場には相談役として先生のほかに卒業生や既に内定を決めた三年生も同席している。去年はその場に卒業生代表として陽乃さんと双葉さんが招かれた。

 どちらも高レベルの大学に通っているし、総武校黄金期を作り上げた人物であるし相談役としては申し分ないだろう。先生たちも随分と頼りにしていたようだし。

 「もー、二人とも忙しいのに時間を作ってきてくれるんだよ?そんな嫌そうな声出さないの」

 「うっ……すまん」

 確かに自分で調整すれば比較的時間のある大学生とはいえ双葉さんは県外に住んでいる身だ。陽乃さんもなんだかんだ言って忙しいとは思うし、それを考えれば本当にありがたいと思う。

 「それに、今回は人手があまり足りないから奉仕部にも応援を頼むんだって」

 「よし、参加するぞ」

 「本当に颯君はぶれないなぁ」

 八幡のいるところに颯太あり!お兄ちゃんはいつまでも弟のことを見守りたいのだよ。むふん。

 こうして俺は進路相談会に参加することになった。

 

 

 最近は毎日のようにしているめぐりとの放課後デートを終え、めぐりを自宅へと送り届け自分も帰宅する。これで大体部活を終えた八幡の帰宅時間と同じくらいになる。

 小町にはもっと遅く帰ってきても良いんだよ?と言われているが、めぐりにも早く帰ってあげてと言われている為いつもこの時間だ。

 うむうむ、二人の仲は良好みたいで安心だ。

 「ただいまー」

 玄関の扉を開けると八幡と小町の靴が確認できた。二人とも帰ってるみたいだな。

 小町は本命である総武高校の受験に向けて最後の追い込みに入っており、机に向かう時間が前よりも圧倒的に増えた。わからないところを俺に聞きに来ることも増えたし、その真剣さに感化され俺はこれまでよりも細かく解説したりした。

 その為、あまり邪魔をしないよう小さめな声で帰宅の挨拶をした為、返事が帰ってくることはない。

 「ん?」

 リビングへとゆっくり足を向けると聞き慣れた声での会話が聞こえてくる。

 リビング内で行われている二人の会話から小町にかかっている負担の大きさを俺は改めて実感した。

 『落ちたらどうしよう』とつぶやく小町の目には疲れと焦り、そして不安の色が見えた。

 しかし、その不安を隣に座る弟は優しく、自分なりのやり方で解きほぐしていく。

 八幡だって小町と同じように受験を経験している。今の小町程ではなくともそれなりに苦しい思いはしていただろう。俺だってそうだ。

 でも、そんな時力をくれたのは八幡や小町だった。

 八幡も同じように小町を支え、いまいち格好のつかない……それでいて俺達兄妹にとっては胸にくる言葉で笑いかけた。

 小町は頭に乗せられた手を振りほどき、先程とは打って変わったすっきりとした笑みで八幡へ感謝の言葉を投げかけ扉へ向かってくる。

 「あ、颯お兄ちゃん」

 「おう、ただいま」

 「うん、おかえり」

 リビングから出てきた小町が俺を見つけ声をかけてくれる。

 「小町、ちょいちょい」

 「んー?」

 俺は小町をこちらに呼び寄せ、優しく抱き寄せる。

 「颯お兄ちゃんどうしたの?」

 「ん?いつも頑張ってる妹に感謝の気持ちをね」

 「大袈裟だなぁ」

 そう言って小町はぎゅっと背中に回した手を締める。

 感の良い小町のことだ、俺がここにいる時点で先程の話を聞かれたことに気付いているはず。ならこの抱擁に込めた気持ちもわかっているはずだ。……わかってくれてるといいなー。不安だ!

 「ちなみにこの抱擁にはな……」

 「いいよ、言わなくて。そんな不安にならなくてもわかってるから。ほんとにうちのお兄ちゃん達は格好付かないなー。……ありがと」

 「……おう」

 いやうん、わかってるなら良いんだよ。本当に良い子に育ってくれてお兄ちゃん嬉しいです。

 「じゃ、小町は勉強してくるから」

 「おう!頑張れよ!」

 そう言って俺の腕の中から出ていった小町は忙しなく階段を上っていった。

 

 

 「ただいま、八幡」

 「おう、帰ってたのか」

 小町を見送りリビングに入ると八幡がいつものように迎えてくれる。

 「ああ、しっかり八幡の格好良いところ見させてもらったよ」

 「……別に格好良くねぇし」

 んー!照れてる八幡可愛い!まあでも、格好良いと思ってるのは確かだ。本当に誇らしいと思う。

 「あ、そういえば今日めぐりに聞いたんだけど雪ノ下さんって葉山君と付き合ってるの?」

 「……兄貴、わかってるなら聞くなよ」

 「いや、一応ね」

 そうそう、一応。

 「この前、一色が聞いて泣かされかけたよ」

 「あー、うん……わかった」

 一色ちゃん憐れなり!まさか本人に聞く子がいたとは。

 「あ、雪ノ下さんといえば!明日の進路相談会、奉仕部が手伝いに来るんだって?」

 「まあな。平塚先生に聞いたのか?」

 「いや、めぐりから聞いた。実は俺とめぐりも相談役として参加することになっててな。その関係で」

 「なるほどな。まあ、学年一位と元生徒会長なら相談役として申し分ないか」

 八幡は俺の説明に納得したような顔で頷く。

 「まあ、進路先で言えばもっと上のランクの子がいると思うんだけどね。国際教養科には留学する子だっているし」

 「やっぱいるのか、留学」

 「んー、毎年いるわけじゃないけどね」

 我が総武高校には国際教養科という偏差値がすこしばかり高いクラスが存在するため、そういった希望進路を持っている子も少ないが存在する。

 まあ、双葉さんや陽乃さんのように留学できるくらいの学力と言語能力があったとしても、そこに踏み切らない子が多いのも確かだが。

 「進路と言えば兄貴、葉山の文理選択知ってるか?」

 「いや、俺が知るわけないじゃん」

 「だよな」

 なんだよ!そんなのわかりきったことなのに知らねえのかよ……みたいな顔するなよ!

 「葉山と親交のある陽乃さんと仲良いだろ?だから何か聞いてると思ってな」

 「んー、知らんなぁ。ていうか、陽乃さんから葉山君のことを聞いたことがない。それこそ昔から知ってるというのもめぐりや他の人に聞いたくらいだ」

 「そうか……」

 「奉仕部への依頼?」

 「よくわかったな」

 「まあね」

 やっぱりか。

 葉山君はおそらく文理選択を誰かに知られることを拒んでいる。だけどそれをどうしても知りたい人物がいる……。それでいて奉仕部の存在を知っている子。

 「金髪ロールちゃんか」

 「三浦な」

 「ああ、そうそう」

 確かそんな子だった気がする。

 「どうしても知りたい、曖昧でもいいから調べてくれって涙流しながら頼んできたよ」

 「ふむ、八幡は力になりたいと思ったんだね?」

 「……まあな」

 八幡がそう思う程、金髪……いや、三浦さんの涙は綺麗だったのだろう。いまいち想像はできないけど八幡が決めたのならそれでいい。

 「なんか頼みたいことがあったら言ってくれ。力になる」

 「いいのか?三浦のことあまり好きじゃないみたいだが」

 「好きじゃなくても興味は湧いてきたよ。八幡が力になりたいと思う程の涙を流す彼女に」

 「そうか。じゃあその時は頼む」

 「任せなさい」

 俺の出番が回ってくるかはわからない。本当に八幡の周りには人が増えたなぁ。俺が出なくてもちゃんと八幡を助けてくれる、支えてくれる人がいる。これ程嬉しいことはない。

 まあ、お兄ちゃんとしては少し嫉妬しちゃうけどね。




どうもりょうさんでございます!
今回も更新間隔が開いてしまい申し訳ないです。ほぼ月一ペースで申し訳ないと思っております。
なんとか完結までは行こうと思っておりますのでどうかお付き合いください!



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ツイッターもやっております!是非絡んでやってください!仕事終わりや投稿後にお疲れ!と声をかけていただくと懐くと思われます。引き続き絵なども募集してます!

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