「えっと、俺は何故平塚先生に呼び出されたのでしょう」
俺は目の前に座っている平塚先生を見ながら問う。
現在俺は平塚先生に呼び出され職員室にいる。
実のところ、俺はここに呼び出される前、すでに下校中だった。しかし、携帯電話に知らない番号から着信があり、恐る恐る出てみると平塚先生だったというわけだ。その内容が『すぐに職員室に来い』という一言だけだった。
そして、言われるがまま道を引き返し職員室までやってきたということだ。
てか、平塚先生に番号教えたの誰だよ。思い当たる人間は一人しかいないのだが……。どうせまた陽乃さんの仕業だろう。
「ふむ。先程までここに比企谷がいた」
どうやら先程までここには八幡がいたらしい。
八幡の奴また何かやったのか……。
「比企谷よ、弟の将来の夢は何か知ってるか?」
平塚先生は額に手を当てながら問う。
八幡の夢か、思い当たるものはある。いつも八幡が言ってるからな。
「専業主夫ですよね?綺麗な女性に養ってもらうって言ってましたね」
「知っていたのか」
「ええ、まあ。八幡がいつも言ってますし」
え?そんなことを聞く為にわざわざ電話までかけてきたの?どんだけ俺のこと好きなんだよ、この先生。俺は早く家に帰って小町の顔が見たいんだが……。
「その考えをどう思う?」
「最高の考えですね!最終的には俺もそうなりたいです!ああ、でも八幡や小町を養うためなら俺は働きますよ。そりゃもう死に物狂いで!」
八幡の考えには概ね賛成だ。働かなくてもいいしな。それに、俺は専業主夫に向いていると思う。料理も小町に任せているとはいえ人並み以上にできるし、洗濯や掃除もこなせる。
あれ?俺以上に専業主夫に向いてるやついねえんじゃね?
「兄弟揃ってヒモ志望とは……」
「いいじゃないですか、ヒモ。働く女性には大人気ですね!」
「キャリアウーマンを舐めるなよお前……」
「失礼しまーす……」
俺達がヒモだのなんだのと話をしていると職員室の扉が開き、肩までの茶髪とたわわな双丘を揺らす女子生徒が入ってきた。
「お、由比ヶ浜来たか」
「あ、平塚先生!来ました……よ。って、お兄さん……」
「よっ、久しぶり。ガハマちゃん」
「が、ガハマちゃんいうなし!あ、じゃなくて、言わないでください!」
そう言ってこちらへやってくるこの女子生徒を俺は知っている。
「ん?お前達知り合いだったのか。意外だな。まあ、一応紹介しておく。こいつは由比ヶ浜。お前の弟と同じクラスだ。それで、こいつが比企谷颯太。由比ヶ浜も知っているだろう比企谷八幡の兄だ」
そう、この子の名前は由比ヶ浜結衣。八幡と同じ二年生だ。去年の春、八幡の入学式の日、この子の飼い犬を助けるために道へ飛び出した八幡は一か月ほど入院しなければならない程の大けがを負った。思えば八幡のボッチ生活はここから始まっていたのだろう。何せ初めの一か月を棒に振ったようなもんだからな。一か月遅れで入った八幡に関係を形成できるわけがない。
その後、八幡は入院していて会っていないが、ガハマちゃんは菓子折りをもって家に来てくれた。
緊張した面持ちで頭を下げてくれたガハマちゃんを俺は怒ることができなかった。幸い八幡の命は助かったし、犬も無事だった。追い返される心配もあっただろうに、八幡のために家まで来てくれたことが嬉しかったのかもしれないな。
そんなこんなで最後には小町とも打ち解けていたみたいだし、事故のことはもう気にしていない。
それにしても、ガハマちゃんと八幡は一緒のクラスだったのか。知らなかった。
「それで?ガハマちゃんはどうしてここに?」
「ああ、えっと……」
「比企谷。これは乙女の相談だ。聡いお前ならどうするべきかわかるだろう?」
ああ、なるほどね。
おそらくガハマちゃんの相談事というのは色恋沙汰だろう。なら俺が聞くのは無粋か。
「じゃあ、外で待ってますね。終わったら呼んでください」
そういって俺は職員室の外へ出ていった。
「んー……」
俺は職員室前の壁に寄りかかり、少し考え事をしていた。
八幡の奴、事故の時に少しでもガハマちゃんの顔を見たはずなんだがなぁ。それでも覚えてないのは流石だな。
まあ、何を躊躇っているのか、話しかけないガハマちゃんもガハマちゃんだけどな。
「あら?比企谷君」
「ん?あ、鶴見先生。ども」
俺の前に立っている女性は家庭科の鶴見先生だ。
「こんにちは。あなたも呼び出されたのね。さっき、弟君もいたのよ?」
「平塚先生から聞きましたよ。なんで呼び出されたかは知りませんけど」
そういえば聞いてなかったな。なんで八幡は呼び出されたのだろうか。
「今日、調理実習があったんだけど、弟君さぼったのよ」
「あぁ……」
あいつは何をしてるんだ……。まあ、おおよそ班で作るのが嫌だったんだろうな。あいつ、班行動とか大っ嫌いだもんな。
「それで、レポートを書いてくれたんだんだけど。その内容がちょっとね」
「あはは……」
想像できる。要所に皮肉を混ぜ込んだ文章が容易に想像できる。
まあ、そんな皮肉をつい混ぜちゃう八幡をとても可愛く思える俺も少しおかしいのかもしれないな。いや、おかしくないな。普通だ。
「とても頭が良いのはわかるんだけどね……。あなたとは違うベクトルの」
「そういうところがいいんですよ。八幡を見ていると全く飽きないですし。何より可愛いですし」
「本当に弟君が好きなのね。これからも仲良くね。それじゃ」
「どもっす」
鶴見先生は軽く手を振りながら職員室へと入っていった。
鶴見先生、俺が好きなのは八幡と小町ですぜ!そこんとこお間違いなく!え?どうでもいい?そんなことねえべよ!
「あ、お兄さん」
「お、終わったかい?ガハマちゃん」
鶴見先生が入っていって少し経った頃、ガハマちゃんが職員室から出てきた。
「はい!あ、平塚先生が入って来いって言ってました!それじゃあ私は行くところがあるので!」
「おー。気をつけてなー」
元気に走っていくガハマちゃんを見送りながら、俺は職員室へ再び入っていく。
「あ、廊下は走るなよー」
転んだら痛いもんな。膝なんか打ったら悶絶もんだし。
そして、気を取り直してもう一度職員室に入る。
「邪魔するでー、邪魔するんなら帰ってー、はいよー」
「何一人でお約束で帰ろうとしてる」
「勢いで帰れるかと思って」
「いいから、こっちへ来い」
「ういっす」
どうやら、平塚先生にお約束は効かなかったみたいだ。
あれ?あのお約束って結局帰ってないじゃん。なんだよ、期待させやがって。
「ここに弟が呼び出された理由は聞いたようだな」
「はい、調理実習をさぼったとか」
「そうだ。それでな、このことを一応お前にも伝えておこうと思ってな」
「はぁ……」
「うむ」
え?終わり?伝えてどうするの?もしかしてそれだけの為に呼び出したの?
「あの、平塚先生?終わりですか?」
「ああ、かえっていいぞ。なんかイライラしたから呼んだだけだし。べ、別にお前に会いたかったからとかじゃないんだからな!」
ああ、この三十路独身教師が……。
「うがあぁ!誰もあんたのツンデレなんか求めとらんわぁ!俺の時間を返せ!うわああ!」
「な、なんだ!別にいいだろ!どうせ暇だったくせにー!少しくらい私に付き合ってくれたっていいじゃないか!」
「あんたは小学生かー!」
その日の職員室には俺の叫び声が響いたとさ。
あ、教頭からみっちり怒られたぜ。平塚先生と一緒にな。ざまあ!って俺も怒られてちゃ同じだよな……。
あぁ、小町……。今日は遅くなりそうだぜぇ……。
「あれ?八幡お腹痛いの?」
「あ、ああ、うん。気にしないでくれ。……うう、木炭」
その日の夜、八幡がお腹を押さえながらトイレに駆け込む姿を何度も目にする俺だった。
何があったんだ?明日、雪ノ下さんに聞いてみよっと!
どうもりょうさんです!
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