翌日、俺は自宅近くにある公園でめぐりを待っていた。
平塚先生の車で何度か通ったことがあるとはいえ、家への道が曖昧なめぐりを迎えに来たのだ。
ちなみに、今日ガハマちゃんと雪ノ下さんがうちでクリスマス会をする為に来ることも伝えてある。めぐりがそのことについて気にする様子はなかったし、むしろ楽しみにしていると言っていた為安心はしている。
母ちゃんと親父も妙に張り切っているようで、いつも昼過ぎまで寝ているくせに、今日に限っては俺よりも早く起きていた。この日の為に無理矢理半休を全休にしてしまうあたり本気度が違う。
そして待ち合わせ時間の十分前になった頃、白い暖かそうなコートを羽織っためぐりが公園にやってくる。
「あ、颯君!待ったかな?」
「いいや、俺も今来たとこだよ」
そう、これだよこれ!こういうベタな会話が俺はしたかったんだよ。夏のリベンジがかなってよかった。
「悪いな、いろいろ人が増えて」
「大丈夫だよー。雪ノ下さん達ともじっくり話してみたいと思ってたしね。お母さん達も無理して休みを取ってくれたんだし、ちゃんとお礼しないと」
「はは、別に気にしなくていいぞ」
少しの会話の後、俺達は家族やおそらくきているであろう雪ノ下さん達の待つ家へと向かって歩き始めた。
「ただいまー」
「お、お邪魔しまーす」
それから程なくして自宅へ到着した俺達は玄関の扉を開く。
「颯お兄ちゃんおかえり!めぐりお義姉さんもお久しぶりです!ささ、こちらへどうぞー!」
俺達を一番に迎えてくれたのは予想通り小町だった。小町はニコニコと嬉しそうな笑顔を浮かべながら俺達をリビングへと促す。
「みんなー、颯お兄ちゃんとめぐりさんが帰ってきましたよー」
「ただいまー」
「お、お邪魔します」
リビングへ入っためぐりは少し緊張しているようで、若干俺の後ろに隠れるようにしてリビング内にいる八幡達に挨拶をする。
「ども」
「あ、城廻せんぱーい!こんにちはー!」
「おはようございます」
まず俺達を迎えてくれたのは奉仕部の面々だ。
一時期は崩壊寸前までいった奉仕部内の関係も今ではその影を見せず、俺の大好きな奉仕部の姿がそこにあった。
しかし、今の奉仕部に不安が残るのは確かで、陽乃さんが見れば異を唱えるかもしれない。けれど、俺から何かを言うつもりはない。決断するのは彼等彼女等であり、決断する時を決めるのも彼等、彼女等なのだから。
「お、やっと来たか。めぐりちゃんだっけ、俺は颯太や八幡、小町の父親だ。よろしくな」
「同じく母親よ。まったく、かおりちゃんの時も思ったけど、うちの愚息にはもったいないくらいの可愛い子だね」
「あ、その、えっと!おぉ、お、お初にお目にかかります!颯太君とお付き合いさせていただいておりますっ!しし、城廻めぐりです!よろしくお願いします!」
奉仕部の面々に続いてこちらへ挨拶を返してきた親父達を見て、めぐりは慌てて挨拶と自己紹介をする。まあ、少々慌てすぎだとは思うが。
「めぐり、そんな緊張しなくてもいいよ。とりあえず俺の部屋行こうぜ。親父達とは昼飯の時に話せばいいしな」
「そうだな。俺達のことは気にせず二人の時間を大切にしろや」
「親父にしては気の利いたこと言うんだな」
親父の意外な言葉に八幡がからかうようなことを言う。
親父には申し訳ないが、俺も八幡と同じことを思ったよ。多分、めぐりに格好良い親父だってところを見せたかったんだろうな。
親父、大丈夫だぞ。めぐりはどんな親父でも笑って対応してくれるから……。
「うるせえ、馬鹿八幡。めぐりちゃんを逃したらもうこいつには希望がないかもしれないんだぞ。だって、こいつだからな!」
「うるせえのはおめぇだ親父!縁起でもねぇこと言うんじゃねぇよ!それに、俺は結構モテるんだぞ!なめんなよ!」
「颯君、そうなる可能性があるの……?」
「ないぞ」
やっべえ、親父の言葉につい反論してしまったが、その仕方がとんでもなく悪かった。
めぐりの寂しそうな言葉に条件反射で否定の言葉が出た俺を褒めてほしい。こういう時はきっぱりと否定した方が良いからな。まあ、後でフォローは必要だけど。
「ほら、馬鹿二人は放っておいて早く行きなさい。後で飲み物でも持っていくから」
「おう、わかった。めぐり、行くぞ」
「う、うん」
目が笑っていない母ちゃんに促され、俺の部屋へと向かう。
ありゃ、親父の奴母ちゃんにこっぴどく叱られるな。無事に昼飯を食べられるよう祈っておいてやろう。
「悪いな、うちの親父が」
「ううん、面白そうなお父さんで安心した」
「それならよかったよ」
俺の部屋へと移動した俺達は適当な位置に座り話をしていた。
部屋に入った直後は俺の部屋を珍しそうに見ていためぐりだったが、今はそれなりにくつろいでくれている。いずれ、めぐりにとってこの部屋が安心してくつろげる場所になってくれることを願うばかりだ。
めぐりの家にいるときのように他愛もない話に花を咲かせていると、部屋の扉をノックする音が響く。
「颯お兄ちゃーん、飲み物とお菓子持ってきたんだけどー」
「おー、小町か。入っていいぞー」
「りょーかいー。失礼しますよー」
扉を開けて部屋へ入ってきたのは、お盆にジュースの入ったコップと俺の好物であるチョコレートなどのお菓子類を乗せた小町だった。
「ありがとな、小町。親父はどうなった?」
「あはは、お母さんにこっぴどく叱られてたよ。お兄ちゃんも巻き添え食らって何で俺までって愚痴ってた」
俺の予想通りに事は運んだようで何故か俺は安心感を覚えた。ガハマちゃん達の前でそこまで出来たってことは、母ちゃんもあの二人のことを少なくとも悪く思っていないことが分かったから。
「ごめんなさい、めぐりお義姉さん。うちのお父さんが」
「ううん、いいんだよ。颯君にも謝ってもらったけど別に気にしてないよ。それに、お父さんやお母さん、颯君や小町ちゃん、比企谷君がお互いを大切に思ってるのはなんとなくわかるし。良い関係だと思ったよ」
めぐりの言葉を聞いた小町は口を開けたまま呆然とした後、ぱぁっと顔をほころばせるとめぐりの手を握る。
「めぐりお義姉さん!これからも、颯お兄ちゃんと比企谷家をよろしくお願いします!」
「ふぇ?う、うん、任せて!」
めぐり、あんまり意味も分かっていないのに頷くのは君の悪い癖だよ?まあ、そんなところも好きだけれども。
それからなんだかんだ昼まで居座った小町と話をしていると、昼飯の用意が出来たとのお達しがあり、俺達は再びリビングへ降りていった。
「おー、こりゃすげえ」
リビングで俺達を待っていたのは、テーブルに所狭しと並んだクリスマスにぴったりの料理だった。台所の方にはおそらく雪ノ下さん特製のケーキも置いてある。
「雪乃ちゃんと結衣ちゃんも手伝ってくれたのよ」
「え、ガハマちゃんも?」
母ちゃんの言葉に思わず俺は固まってしまう。俺が思い出したのはいつの日か八幡が食べていた木炭クッキーだ。不安になってきたぞ。
「あー!お兄さん失礼なこと考えた!」
「え、そ、そんなことないよー」
嘘だけど。
「大丈夫よ。私とお母様がしっかり見張っていたから。でなければ、台所に由比ヶ浜さんを立たせるわけないでしょ?」
「ゆきのんもひどい!」
まあ、雪ノ下さんがそこまで言うのであれば大丈夫だとは思うが、雪ノ下さんにそこまでさせるって……本当に料理できないんだなぁ。
「もー、颯君?女の子がせっかく作ってくれた料理に失礼でしょ?変な事考えないのっ」
「めぐり、君は彼女の料理の腕を知らないから言えるんだ。八幡、あの時のことを教えてやれ」
「……そう、あれは木炭よりも木炭してたクッキーという名の木炭だった」
「正真正銘クッキーだよ!」
八幡の迫真の演技にガハマちゃんは可愛く怒る。
それにしても、俺は実際に食わなかったからわからないけど、今現在思い出し震えをしている八幡を見る限り、相当のものだったんだろうなぁ……。
「もー!いいから食べてみてよ!」
「うし、じゃあ食べるか」
親父の言葉で全員が席に着き、各々料理を口に運ぶ。
「あ、うめぇ」
一瞬の間の後、俺の口からはそんな言葉が出てきた。
「うん、美味しいよ」
「美味しいですっ!雪乃さん、結衣さん!」
「……そだな」
他の面々の評価も上々のようだ。
俺が口にしたのは近くの皿にのっていたから揚げ。カリッとした衣の感触が楽しく、後から溢れてくる肉汁が旨味を口内に溢れさせる。から揚げとしては満点に近い美味さだ。
「よし!美味いとわかれば食うに限る!おっしゃぁ!」
「颯君、行儀よく食べないとだめだよ?」
「どんどんたべましょー!」
次々に料理へ手を伸ばしていく俺達をガハマちゃんを嬉しそうに眺め、雪ノ下さんも少しだけ嬉しそうに表情を緩めていた。
食事が終了し、八幡達は場所を移し戸塚君達と合流するらしく家を出ていった。その集まりには小町もついていったらしく、今現在家に残っているのは俺とめぐり、俺の両親だけだ。
「そういえばめぐりちゃん、めぐりちゃんは颯太のどこを好きになったんだ?」
「ふぇぇ!?どこ、ですか?」
唐突な親父の質問にめぐりは驚きながらもゆっくり答えていく。
「優しいところや、いつも私をまもってくれるところ、格好良いところ、声、頼りがいのある背中、私を優しく撫でてくれる大きな手……全部です」
めぐりから愛を囁かれることは付き合って一日経つまでのわずかな時間に何度もあった。でも、相手が思っている自分の好きなところを聞くのは思ったよりも恥ずかしく、同時に嬉しい気持ちが溢れてくる。
「ははは、困ったな。これはからかう事もできん」
「からかうのはやめなさいっていったでしょうが。……めぐりちゃん」
「はい……」
親父と母ちゃんの暖かな目に我を取り戻しためぐりは顔を赤くしながら母ちゃんの声に応える。
「颯太はどうしようもないバカよ?普段は完璧気取ってるくせに大事なところで悩んだりする。そんな似非完璧超人よ?それでもいいの?」
声を大にして否定できないのが複雑ではあるが、流石に似非完璧超人は酷いのではないでしょうか、お母様。いやまあ、自分が悪いんですけどね?
「……私は颯君を完璧超人だなんて会った時から思ってませんよ。確かに勉強はできるし、運動も得意で家事全般も難無くこなしますけど、物事が上手く行かなくて泣いちゃうときもあるし、誰かに助けを求めちゃったりします。でも、そういう颯君だからこそ誰かを守ることが出来るんだと思うんです。そんな弱いところも颯君なんです。私は颯君の全てが好きです。だから、お母さんが言われたようなことを気にすることはないですよ」
めぐりは俺の弱い部分も肯定し、好きだと言ってくれた。
俺自身、めぐりには自分の弱い部分を曝け出しても良いと思っている。しかし、それがめぐりにとって迷惑ではないかとほんの一瞬だけよぎることがある。こういうことを考えていること自体が俺の弱さだというのだろう。
それでも、めぐりはそれも俺の一部だと言って包み込んでくれる。
それがたまらなく嬉しく、俺の胸の奥底から熱いものがこみ上げてきた。
「ふふ、颯太。今度こそ離しちゃだめよ?」
「ははは、冗談じゃない。めぐりが離れていったら俺泣いちゃうぞ?」
「めぐりちゃんも、そこまで言うならこいつのこと離しちゃだめよ?」
「それこそ、私が泣いちゃいます」
母ちゃんの問いかけに答えた俺達は自然と笑顔を浮かべ、ふと目に入った親父と母ちゃんも優しい笑顔を浮かべてこっちを見ていた。
「今日はありがとね、颯君」
「いや、こっちもいろいろと迷惑かけた」
辺りが暗くなってきたころ、俺はめぐりを家まで送っていた。
「ううん、楽しかったよ」
「そうか。それならよかった」
「……えへへ、颯君っ」
めぐりは甘えた声を出しながら俺の腕に抱き着いてくる。その声と仕草はとても幸せそうで、見ているこちらまで表情が緩んでしまう。
「あったかいな」
「うん、あったかい」
ポケットの中であたためておいた手をお互いに握り、そのあたたかさを確かめる。俺よりも小さな手を握ると、めぐりも仕返しとばかりに握り返してくる。
「来年のクリスマスはめぐりの家だな。お母さん達には今日寂しい思いをさせただろうし」
「そうだねー。お母さん達も喜ぶと思うよー」
本当であればめぐりとクリスマスを過ごしたかったであろうお母さん達には、それとは別に埋め合わせをしなくちゃいけないかもな。
「……颯君」
「ん?」
「好き」
「俺もだよ」
「そーじゃなくて」
「んー?」
めぐりは不満そうに唇を尖らせながら、何かを訴えかけるような目で俺を見る。
「……もう。ちゃんと好きって言って?そっちの方が嬉しいから」
「……んんっ!」
俺は咳払いで照れを飛ばすと、できるだけめぐりの心に届くようにゆっくり、ハッキリとその言葉を告げる。
「好きだよ、めぐり」
その言葉を聞いためぐりはとびっきり嬉しそうな顔を浮かべる。そして、その表情を更に引き立たせるかのように空には白い雪がちらちらと降り始めた。
サンタさん、来年のプレゼントの予約していいか?
「来年も、この笑顔を……」
どうもりょうさんでございます!毎回更新遅れてしまって申し訳ございません!なんとか生きておりますので、これからもよろしくお願いします!
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