「えへへー。颯君、そうくーん」
「はいはい、颯君ですよー」
あの告白から十分程経ち、俺もめぐりも大分落ち着きを取り戻したのは良かったのだが、泣き止んだめぐりの甘え攻撃に俺氏内心で悶絶中です。
俺の胸に収まり、スリスリと顔を押し付けてくるめぐりは小町並みに可愛く、俺の理性はゴリゴリと削られていく。
こりゃ、本格的にまずい。
そう思った時、俺はコートに入れておいた物の存在を思い出す。
「そうだめぐり、ちょっと目を閉じてくれるか?」
「え?うん。わかった」
一瞬疑問に思った顔をするが、めぐりは考える暇もなく目を閉じる。その警戒心のなさに少しだけ心配を覚えるが、俺を信頼してくれていると思っておこう。
めぐりが目を閉じたのを確認すると、俺はコートの中から小さな箱を取り出し、その中身をめぐりの首へと持っていく。
思えば、今現在めぐりが着けている髪留めをプレゼントした時もこう言った気がする。芸がないと言われば仕方ないが、そこはまあ許してもらおう。
「いいぞ」
「うん。……わぁ!」
めぐりは目を閉じている間に感じていたであろう首の違和感を確かめると、驚きと嬉しさの混じったような明るい声を出した。
俺がめぐりの首に着けたのは、雪の結晶が花のように見えるネックレスだ。商品名は確かスノーフラワーだった気がする。あまり装飾品などを身に着けることのないめぐりだが、元が良いからか良く似合っていると思う。
「クリスマスプレゼント。気に入ってくれたか?」
「うん!すっごく可愛いよ!嬉しいなぁ……」
めぐりの幸せそうな顔を見れたしひとまず安心だ。
「じゃあ、今度は私の番ね。颯君、目を閉じてくれる?」
「ん?ああ、わかった」
めぐりに言われた通り目を閉じると、めぐりの手が俺の首付近でごそごそしているのを感じる。おぉ?なんか首に巻かれたぞ!あったけえ!これってもしかして!
「よしっ!颯君、もう目を開けてもいいよー」
「おう!うぉぉ!やっぱりマフラーか!」
俺が目を開けると、首に巻かれていたものはやはりマフラーだった。コートに並ぶこの時期の必需品だ。
「えへへー。お母さんに教えてもらって、自分で編んだんだよー。結構時間掛かっちゃって、出来上がったのは昨日なんだけどね」
「めぐり……めぐりぃ!」
「えぇ!?そんな、泣かなくても!」
手編みのマフラーだと恥ずかしそうに教えてくれるめぐりを見た瞬間、俺の中で嬉しさと愛しさが爆発し、めぐりを思わず抱きしめ再び涙を流してしまった。
手編みのマフラーなんて重いなんて考える奴がいるかもしれないが、俺にとってみれば最高のご褒美だ。めぐりが俺の為を思って一から編んでくれたものを重いだなんて思えるはずがない。
「ありがとな。本当に嬉しいよ」
「喜んでくれて私もうれしいよー。だから、涙拭いて、笑顔見せて?」
「……あぁ!」
「うん。やっぱり、颯君は笑顔が一番だよ」
そういって優しく微笑んでくれるめぐりの顔を見ると、俺の心が満たされていくのを感じた。八幡や小町と過ごしている時とは少し違うが、その本質は同じ。本物……いや、『特別』と過ごす時間は俺にとってかけがえのないものだと自覚することが出来た。
「なあ、めぐり」
「どうしたの?」
「明日、どこか行かないか?二人でさ」
「デートだね」
「ハッキリ言わないで!恥ずかしいぞ!」
「颯君の恥ずかしがるポイントがわからないよ……。いつもは、『ふっ、そうだな』とか言うのに」
「今は別なのー!」
確かにいつもの俺ならばそう言ったかもしれないが、今は状況が状況だしそんな余裕ない。案外俺だって初心なのだ。
「それで、行くのか?行かないのか?行ってくれなきゃ泣いちゃうぞ!」
「もー、どこの坊なの?そうだなー。じゃあ、行きたいところがあるんだけど」
めぐりは少しだけ考えるしぐさを見せると、思いついたように手を叩く。
「おう、どこ行きたい?」
「颯君のおうち」
しかし、めぐりの口から出たのは想像もしなかった答えだった。
「俺の家?」
「そうだよー。私って颯君の家にお邪魔したことないでしょ?だからさ、この機会に行ってみたいんだけど。だめかな?」
そういえばめぐりの言う通り、めぐりは俺の家に来たことがない。一は何度か来たことあるし、陽乃さんには押しかけられたりしてたし、双葉さんも一関係で来たことがある。平塚先生にはちょくちょく家まで送ってもらっていたし、確かにめぐりだけが俺の家に来たことがないな。
「別にいいけど、でもいいのか?せっかくのクリスマスに俺の家で」
「いいんだよ。颯君といられればぶっちゃけどこでもいいし、せっかく彼女さんになれたんだから行ってみたいな」
そこまで言うのであれば断る理由もないか。ちょうど明日は八幡や小町もいるだろうし。いや、八幡は夜まで帰ってこないかもな。ガハマちゃん達とクリスマス会でもやるだろうし。
「わかった。ほんじゃあ、明日の十時くらいでいいか?どうせなら昼飯も食ってけよ」
「いいの?迷惑じゃないかな?」
「大丈夫大丈夫。多分、大歓迎されるから」
主に小町ちゃんに。
「そっか、じゃあお邪魔しよっかな」
「ああ、どんとこい。今日はもう遅いし、送っていくよ」
「うん、ありがとね」
そういうと、俺達はどちらからでもなく手をつなぎ、めぐりの家へと向かった行った。
「たでーまー」
「あ、颯お兄ちゃんおかえりー」
「おかえり」
「んみゃー」
「あら、おかえり。遅かったね」
「おう、やっと帰ってきたか」
なんだなんだ、今日はやけにお出迎えが多いな。八幡や小町、カマクラは勿論、母ちゃんや親父までいる。いや、いても普通なんだけどね。
「親父と母ちゃん、今日は早いんだな」
「まあね。こういう時くらい早帰りしてもバチは当たらないでしょ」
「そうだそうだ。ちなみに明日は昼からにしてもらっているから、良く寝れる」
そう言って母ちゃんたちは気にするななんて言っているが、この早帰りするのでも相当苦労したんだろうな。まあ、それも母ちゃん達の優しさか。
「兄貴、早くチキン食わねえとなくなるぞ」
「おぉぉい!待てよ!聞いてないぜボーイ!」
「早い者勝ちは世の常だぜ、ブラザー」
「おぉぉ!セチガラァイデスネェィ!」
「馬鹿やってないで着替えてきなさい」
「ういっす」
母ちゃんに兄弟芸を止められると、俺はチキンの為に大急ぎで着替えへと向かった。
「ふぅ、なんとか五本は食えたか」
「いや、食いすぎだろ。あの速度でチキン食べる奴初めて見たぞ」
「それでいて綺麗に食べるんだからすごいよね」
あの後、既に他の家族は食べ始めていたチキンにたどり着き、陽乃さんの元で修行……いや、勝手に身についてしまった早く、綺麗に食べる方法を実践し、五本のチキンを食べることに成功した。
ちゃんと味わってますよ?カリッとしていて美味かったです。
「あ、母ちゃん親父、明日彼女来るから」
「……は?」
「……い?」
俺の言葉を聞いた母ちゃんと親父は食後のケーキに手をつけようとしたところで固まってしまう。食わないの?俺が食べちゃうよ?
「彼女って、あんた。ほんとに?」
「まさか、こんなに早く決めてくるとは……」
「ほんとだよ。八幡と小町は知ってるやつだぞ。八幡、こま……」
八幡と小町に確認するために目を向けると、そこには母ちゃんや親父と同じように固まっている二人がいた。だから、ケーキ食べちゃうわよ?
「あ、もしもし、課長?明日、半休だって言ってたんですけど、全休にしてもらえますか?どうしても外せない用事が出来たので。それじゃ」
「あ、部長?明日全休にするんで。それじゃ」
「あの、お二人さん?」
すごい剣幕と怖い声音で電話してたのが見えた気がするのですが、気のせいでしょうか?電話先の上司さんがすっごく怯えてたような気もしたんですけど……。
「明日全休にしてもらったから」
「俺も」
「母ちゃん、明日クリスマス会とやらを部活仲間でするんだが、ここでしていいか?」
「いいわよ」
「ついに、めぐりお義姉さんが本当に……」
「ねえ、あれ?」
俺、明日どうなるの?めぐり、すまん。
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