やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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比企谷颯太は胸の奥にモヤモヤを覚える。

 この前まで残暑だの何だのと耳にタコができるくらい言われていたのにもかかわらず、今現在はそんな面影など何処にもなく、雪の予報すら聞こえてくる。

 巷では完全にクリスマスモードに移行しており、浮足立った若者たちを見かけることも多くなった。

 そんな時期に俺はと言えば校舎裏のクソ寒い場所へと呼び出されている。

 「……あの、急に呼び出しちゃってすみません」

 寒さに震える俺の前には顔を赤くし、別の意味で体を震わせる後輩女子が立っていた。

 彼女の目は真剣で、これから彼女が行う行為の重要性を感じさせる。

 「……比企谷先輩、好きです!私と付き合ってください!」

 清々しい程のシンプルな告白だが、だからこそ彼女の真剣さが伝わってくる。この行為に及ぶまでにどれだけ自分の中で葛藤したのかが如実に表れている告白だ。

 彼女の容姿はどっちかというと可愛い系。守ってあげたくなるような小動物といった表現が正しいだろう。こんな子に告白されたのは非常に喜ばしいし、普通の男の子なら一発OKしてしまうだろう。

 だが、俺の答えは決まっている。

 そして、未だ目を固く閉じ俺の答えを待っている彼女に向けて口を開く。

 

 

 「はぁ……」

 「お疲れさん。モテ男はつらいな」

 あの後輩女子からの告白に答え、教室に戻ってきた俺は大きなため息を吐きながら机に突っ伏す。それを見た一が苦笑いを浮かべながら近づいてくる。

 「お前に言われたくない」

 「はは。それで?告白受けたの?」

 「断ったよ」

 「だろうね」

 結局、彼女の告白を受けることはしなかった。

 彼女と話したことは一度もないし、そんな子に興味を持つこともない為その時点で断ることは確定なのだが、今の俺には好きな女の子がいる。

 そんなわけで俺があの子の告白を受け、付き合う可能性はゼロだったわけだ。

 しかし……。

 「随分と気にしてるじゃないか。いつもの颯太ならもっと平気な顔してるじゃん」

 「失礼な……。まあ、たいして好きでもないのに告白してくるような子の告白を断るなら、今日よりは楽だよ。でも、彼女みたいな子の告白を断るのは幾ら俺でも罪悪感位わくよ」

 彼女の目は本気だった。あんな真剣な告白をされたら俺だって断るのに罪悪感がわく。それに昔のこともあるしな。

 「でも、最近呼び出し増えたよな」

 「一もそうなのか?」

 確かにこの時期になって告白を受ける回数が増えた気がする。

 「まあな。やっぱクリスマスが近いからだろうよ」

 「なるほど。だから男子も女子も必死なんだな。一はどうなんだ?双葉さんより魅力的な子はいないのか?」

 まあ、なかなかいないと思うけど……。いたら一の方からアタックしてると思うし。

 「可愛い子や綺麗な子はいるんだけどねー。姉ちゃん以上の子はいないかな」

 「だよな……」

 「クリスマスと言えばさ、颯太はクリスマスの予定なんかあんの?」

 「うーん……」

 クリスマスの予定か……。陽乃さん達にも聞かれたけど、今のところ本当に何もないんだよな。かおりに誘われているクリスマス会にも参加するか迷ってるし。

 陽乃さんから呼び出しがあるのかと思ったけど、この前言われなかった時点でその可能性は薄いだろうし。いや、勿論低いというだけで可能性がないわけではないが……。

 「めぐりん、誘わないのか?」

 「……い、いや、あいつにもいろいろあるだろうし」

 「颯太の誘いを断るめぐりんじゃないと思うけど?」

 一の言葉の後に続く沈黙の中、一はニヤニヤとやらしい笑顔を浮かべながらこちらを見つめている。

 こいつ……!

 「一、いつからわかってた」

 「颯太が風邪ひいて、戻ってきたころ位からだな」

 こいつ最初からじゃねえか!

 「俺ってそんなにわかりやすいか?」

 「さあね。でも、俺にはわかったよ。これでも颯太とは親友のつもりだぜ?舐めてもらっちゃ困る」

 「親友怖いな。隠し事できねえじゃねぇか」

 いや、割とガチで。

 「親友に隠し事するのか?寂しいこと言うじゃないか」

 「親友とはいえ、隠し事位する」

 「そりゃ、確かにそうだな。まあでも、わかっちまうもんは仕方ないよ。それを言いふらすつもりもないし、今回のことに限っては精一杯応援する」

 本当に一には敵わないと思う。てか、俺が敵わない人間多すぎない?俺ってどんだけ窮屈な世界で生きてるんだよ。幸せだけど。

 「まあ、何、ありがと」

 「ああ、親友だからな」

 普通、親友だからってここまで良くしてくれる奴も少ないと思うけどな。

 

 

 「さみぃ」

 「だな。昼休みとはいえ外に出るのは間違いだ」

 「散歩しようって言ったのは一だぞ」

 「……てへっ!」

 きめぇ。まあ、こんな仕草も女子から見れば可愛いものらしい。ただし、一みたいなイケメン限定で。俺は全然そんなこと思わないけど。むしろむかつく。

 そんなこんなで、俺と一は昼飯後の空いた時間を使って校舎内や校庭などを散歩していた。散歩を楽しめるような気温ではないけど。ちなみにめぐりは用事があるとかでここにはいない。

 「まあまあ、ほら、あそこにも物好きな連中がいるぞ」

 「お、ほんとだ」

 一が指差した先には男子と女子が人目を避けるように立っていた。

 ……片方には見覚えがあるが。

 「あ、あれ?そ、颯太?」

 「なんだよ」

 二人の方、いや正しくは女子の方を見ていた一が慌てたように俺の名前を呼ぶ。

 そんなに慌てなくてもわかってるっての。

 「いやでも、あれって」

 「別に珍しくもないだろ、告白なんて」

 そう、目線の先で行われているのはおそらく告白。男子の顔を見ればそれは一目瞭然だった。しかし、一が慌てている理由はそこになかった。

 「さて、人の告白じろじろと見るのも悪いだろ。行くぞ」

 「あ、おい!颯太!」

 大きな声出すんじゃねぇよ。気づかれるだろうが。

 俺と一は二人に気づかれないように足早にその場を後にした。

 珍しいことなんかじゃない。そう、ごく普通にあり得ることなのだ。……めぐりが告白されるなんてことは。

 

 

 「……それでね!高橋先生がさ!」

 その日の放課後、俺はいつもと同じようにめぐりと下校していた。

 あの後、めぐりは昼休み終了の予鈴と同時に教室へと帰ってきた。その時のめぐりに大きな変化はなく、いつもと同じだった。

 一は相変わらず俺の方をチラチラ見ていたが、何も変わったこともなく放課後を迎えた。

 めぐりが告白をされたのはこれが初めてではない。何度か相談をされこともある。

 優しい性格に優れた容姿、学業優秀で元生徒会長。考えてみればめぐりは超ハイスペックであり、モテない理由がないのだ。

 これまでなら相談を受けても楽にアドバイスをすることが出来ただろう。しかし、今の俺にはおそらくそれができない。

 今もめぐりがどんな返事をしたのか、結果はどうなったのかが気になって仕方がないのだ。こんな状態で相談なんてされたらどうなるかわかったもんじゃないからな。

 とはいえ気になるものは気になる。どうしたもんか……。

 「んー?颯君どうかした?」

 「ん?いや、何でもないぞ」

 「そう?なんか悩んでるみたいだったから。なんかあったら言ってね!」

 そんなめぐりの笑顔を見た瞬間、俺の胸の奥にあるものがぎゅっと締め付けられる感覚がする。

 あー、こりゃいかんな。我慢できないわ。

 「めぐり、今日、告白されただろ」

 「え?えっと……。うん……」

 なるべく優しく。きつくならないよう最大限の注意を払い、俺はその先を聞いた。

 「なんて答えたんだ?」

 一瞬の沈黙。そのはずなのに俺には数十秒にも感じられた間の後、めぐりはゆっくりと顔を上げ、ニッコリと微笑みながら口を開く。

 「ごめんなさいって言ったよ。あの人と話したこともなかったからね」

 めぐりのその言葉を聞いた瞬間、胸付近でモヤモヤしていたものが一気に飛んでいくような爽快感を感じる。

 「そっか。ならいいんだ。うん」

 いや、何がいいんだよ。顔熱いぞこの野郎。

 「えへへ、嫉妬?」

 「違うわい!バカなこと言ってんじゃねぇぜお嬢さん!」

 まあその通りなんですけどね。

 「ふーんだ。私だって颯君が告白されてるの知ってるんだからね!」

 「俺は全部断ってるからいいんだよ!あーもういいだろ!帰るぞ!」

 「あ、ちょっと待ってよ!颯君ってば!」

 待ってられっかよ!

 俺はめぐりのぎりぎり追いつける速度で道を走っていった。




どうも、暑い日が続いておりますが、みなさんお身体など壊されておりませんでしょうか?お久しぶりです、りょうさんです!
更新間隔が結構あいてしまいましたが、自分生きてますよ。
これからも頑張りますのでよろしくお願いします!
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