やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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そして比企谷八幡は動き出す理由を与えられる。

 愛しの弟妹が仲直りを果たしたその後、俺と小町で八幡を挟み事の顛末を聞いた。

 修学旅行中に受けた依頼のこと、それに対して八幡がとった解決法、そして今起こっている生徒会選挙のこと、そのすべてを八幡は話してくれた。

 生徒会選挙のことについては風邪を引いていた時にいろいろ起こってしまったようで、どんな状況になっていたのか、どんな話をしたのかは初めて聞いた。ガハマちゃんまで選挙に立候補するというのは初耳だが。

 長年連れ添った俺や小町ならば八幡らしいなと笑うことが出来るだろう。しかし、他の者達が必ずしもそうとは限らない。どうしても理解ができない者もいるだろうし、八幡の行動を肯定できる者も少ないだろう。

 俺が今思った気持ちは小町が代弁してくれたし俺から言うことはない。流石小町。

 「……もし小町がお兄ちゃんの妹じゃなかったら、お兄ちゃんは小町に一歩も近づかなかったと思うよ。颯お兄ちゃんにもね。でしょ?颯お兄ちゃん」

 「そだなー」

 悲しいことに小町の言う通りだと思う。

 傍から見れば俺はリア充だしな。おそらく八幡の方から話す事を拒否するだろうから、俺の内面を知ることもない。俺という人間を八幡は知ろうとしないだろう。

 まあ、俺はどんどん八幡に絡んでいくと思うけどね。こんな興味を誘う人間、他にはいないし。

 「でもまあ、八幡が弟であるのは事実だし、小町が妹なのも事実。変わりようはないし、事実は覆らない。俺は生まれた時から八幡と小町を見てきたんだ。いろんなことをしてきたし、いろんなものを見てきた。その過程を踏んだうえで、俺はお前達を愛してる。お前達の兄貴で本当によかったと思ってるよ」

 「そだね。小町はお兄ちゃんがお兄ちゃんじゃなかったら絶対近づかないと思うけど、十五年一緒に居れば愛着も湧くってもんですよ」

 小町の言う通りだ。十五年。そう、十五年という年月を共に過ごしてきたのだ、愛着くらい湧く。でも小町ちゃん?最初の言葉は八幡が傷付いちゃうと思うなー。

 「まあ、俺は八幡とは十七年の付き合いだがな」

 「……そうだな。十五年、十七年も一緒に居ればな」

 八幡も小町の言葉には納得がいったようだ。

 「小町の友達の為になんとかなんないかな……」

 そして少しの問答の後、小町は八幡の肩に頭の乗せ、真面目なトーンでねだる。

 「俺からも頼むよ。俺も奉仕部が好きだし、あの子達を本当に妹みたいに思ってる。それに、俺はお前達三人がいるあの部屋が好きなんだよ。兄貴のお願いを聞くのも弟の役目だろ?」

 「……そうだな。兄貴と妹のお願いは聞かないといけないよな」

 じっくりと考え、八幡は答えを出した。動き出す理由を見つけた八幡は明日にでも動き始めるだろう。ならば、俺は助けを請われた時、いつでも動けるようにしておこう。弟の頼みなら断れないしな。

 その後、俺達はリビングで別れ、自分の部屋に戻っていった。

 

 

 「颯君おはよー!」

 「おっす。おはよう、めぐり」

 翌日、席についてボーっと黒板を眺めていると、横からめぐりが顔を出す。

 「あれ?颯君、なんか元気になった?」

 「よくわかったな」

 本当にこの子エスパーなの?俺の顔を一目見て、一言挨拶を交わしただけで俺の精神状態までわかるとか、エスパーとしか言いようがないぞ。

 「えへへ……。颯君のことだもん。表情を見ればわかるよ。私の大好きな笑顔で挨拶してくれたし、声もなんとなく元気な気がしたから」

 「……」

 これ、惚れないほうがおかしいだろ。俺がちょろいわけじゃないよね?

 「めぐり」

 「んー?どうしたの?」

 「ありがとな」

 「……どういたしましてっ!」

 そんな笑顔を見せられたらもっと惚れちゃうだろっ!バカ!こりゃ、いかんな。

 

 

 放課後、俺はとある教室でとある人物を待っていた。

 「おー?」

 その人物を待っていると、ポケットに入れた携帯が震える。

 「もしもーし」

 『あ、颯お兄ちゃん?』

 「おー、どした、小町」

 電話の主は小町だった。

 『えっとね。さっきお兄ちゃんから電話があって、打ち合わせ?をするから飯はいらないって。それで、小町もいろいろ頑張らないといけないかなって思って、沙希さんと戸塚さんに声をかけて押しかけようと思ってるんだ。颯お兄ちゃんも来ない?』

 小町も頼んだ手前、自分も何かしたかったのだろう。その心がけは素晴らしいが、今日は先客が入ってるし断らさせてもらおう。

 「悪い。今日はちょっと予定があってな。飯は俺もいらないから食って帰りな」

 『そっか……。わかった!じゃあ、気を付けてね!』

 「小町もな」

 そこで電話は切れ、俺は携帯をポケットに戻す。

 すると、教室の扉が開き、今回俺が呼び出した人物が顔をのぞかせる。

 「いらっしゃい、一色ちゃん」

 「比企谷先輩、なんですかー?こんなところに呼び出して。は!もしかして告白しようとしてます!?結構顔は好みですし、格好良くて優しいのでありかなーとは思いますけど、ある人に悪いのでお断りします。ごめんなさい」

 この子は何を言っているのだろうか。ちょっと颯太君頭が回りません。早口すぎて半分以上聞き流しちゃったよ。

 「えっと、まあ座りなよ」

 「スルーされるのは、それはそれで不愉快ですけど失礼します」

 可愛い顔を歪めた一色ちゃんは文句を言いながらも用意した椅子に座る。

 「それで比企谷先輩、この部屋ってなんなんですか?わたし来たことないですけど」

 「そだねー。一般の生徒がここに入ることは殆どないだろうし、知ってる人は少ないかもね。ここは、生徒会倉庫。文字通り、生徒会の備品とか、いろんなものをまとめた記録や、会議の議事録なんかがしまわれているところだよ」

 そう、今回俺が一色ちゃんを呼び出したのは生徒会倉庫。それを証明するように棚には備品や、生徒会記録なんてものが所狭しと置かれている。

 「倉庫ってことはわかりました。それで、なんでわたしをここに呼んだんですかー?」

 「うん。ちょっと見てもらいたいものがあってね。これなんだけど」

 そう言って俺が一色ちゃんに手渡したのは第五十七期生徒会記録と書かれたものだ。

 「これは俺が一年の頃の生徒会記録だよ」

 「はぁ……。なんか、写真がいっぱいですね」

 「そうだね。生徒会記録っていうのは、俺達が卒業時に貰う卒業アルバムと同じようなものでね、その一年に起こったことなんかを写真でまとめたものなんだ。そんで、そこに写ってるのが当時の生徒会長」

 俺は一ページ目に写る女子生徒の顔写真を指さす。

 「可愛い人ですねー」

 「そうだね。名前を一二三双葉。一二三一のお姉さんだよ」

 「一二三先輩のお姉さん!?凄い美形家族なんですね」

 「俺も思うよ」

 あそこの家、お母さんやお父さんまで美形だからな。まあ、あの親からあの二人が生まれてきたのだったら納得ができるけどね。

 「それで、話を戻すよ。まあ、ひとまず記録を一通り眺めてみてよ」

 「は、はぁ」

 一色ちゃんは困惑した様子を隠すことはせず、訝し気な顔で記録を眺めていく。

 「……なんか、凄いですね」

 「だろ?」

 あの頃の総武高と言えば、双葉さんと陽乃さんがまだ在籍していた時代であり、総武高の黄金時代とも呼ばれていた時期だ。

 二人が先頭に立ち学校を引っ張っていく。それに誰もが疑問なくついていき、結果大成功する。そんな凄まじい時代だったのだ。

 「なんか、殆どの写真に会長さんと綺麗な先輩、そして比企谷先輩と城廻先輩が写ってるんですけど」

 「そう。俺はそこに写っている生徒会でもないのに、生徒会室に入り浸っていた先輩に毎日のように振り回されてたからね。めぐりも同じ。もう、二人とも半ば生徒会みたいな感じだったよ。だから、必然的に写真にも多く写ってる」

 生徒会主体の活動には殆ど駆り出されたからな。半ばというか完全に生徒会だったよ。

 「それ見て気づくことない?」

 「えっと……」

 一色ちゃんは考えるように一から記録を見返す。

 「……笑顔になってる」

 「ビンゴ」

 俺が気付いてほしかったのはそこだ。

 記録の始めの方に写っている俺はまるで八幡のような腐った目をしている。しかし、ページをめくるたびにその顔はみるみる変わっていき、最後の方では完全なる笑顔で写真に写っている。

 「一色ちゃん。生徒会っていうのは、学校に変化をもたらしたり、その現状を維持させたりする。そして、自分を変えることのできる場所でもあるんだ」

 「……っ!」

 自分を変えるという言葉に一色ちゃんはピクリと反応する。

 「そ、それがどうしたんですか?わたしに生徒会長をやれっていってるんですか?嫌ですよ?」

 「別にそうじゃない。ただ、そういう場所でもあるんだっていうことを知っておいてほしかったんだ。俺はそれを経験したから」

 「……帰ります」

 「気を付けてね」

 一色ちゃんが教室から出ていくと、俺は椅子の背もたれに背中を預ける。

 一色ちゃんは悩みを抱えている。それは不思議なことじゃないし、誰だって悩みくらい持つ。だけど、なぜか放っておけなかった。それこそ、俺の過去の一端を見せるような真似をしてまで。

 「俺も、頑張らないとな……」

 小町も頑張っているみたいだし、八幡は更に頑張っているだろう。そう思うと脱力していた体に力が戻ってくる。

 「帰ろう!」

 「一緒にね」

 「うわあおうぅん!イツノメェニ!」

 「颯君、大げさすぎ……」

 いや、脱力から戻ってきたら目の前にめぐりがいた!なんて事が起こればこうなってしまってもおかしくないと思うのだよ。

 「なぜここに?」

 「一色さんを呼んだのは私だよ?そろそろ終わったかなーって思って迎えに来たの」

 「……はぁ、ドンピシャだよ。帰るか」

 こいつに俺は全て見透かされてるのかと疑ってしまうよ。

 「うん!うちでご飯食べてく?」

 「お邪魔するよ」

 「りょうかーい!」

 俺は笑顔で敬礼するめぐりを見て笑みを浮かべると、開いていた記録を眺め、笑みを深くした後たたみ、元あった場所へ戻した。

 「めぐり、ありがとな」

 「ふぇ?どうしたの、いきなり。今日は颯君にお礼言われてばっかりだね」

 「いや、なんでもないんだ」

 俺が最後に見た写真、そこには笑顔でピースサインを決めている俺と、その横で嬉しそうな笑みを浮かべるめぐりが写っていた。




どうもりょうさんでございます!
本編ではそろそろ八巻も大詰め!それが終わればクリスマスイベント!かおりが多く絡んでくると思われます。
しかし、まずは八巻です。次回以降も楽しみにしていただけると嬉しいです!


https://twitter.com/ngxpt280
ツイッターもやっております!是非絡んでやってください!リプ下されば喜びながら、満面の笑みでお返しします!だれか颯太とめぐりんの並び絵を描いてくれー!描いてくださった方には僕の愛情のこもった、颯太とめぐりんのいちゃらぶ番外編をあなただけに書いちゃいます。

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